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車 両 の 更 新 は 悲 し む べ き 事 な の か ?
−東海道線113系引退の反応について考える−
TAKA 2006年03月12日
本年3月18日のダイヤ改正で、遂に東海道線の113系も引退・転用される事になり、高崎・宇都宮・湘南新宿ラインに既に導入されている20m4ドア最新型のE231系が導入されます。
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「
2006年3月ダイヤ改正について
(JR東日本プレスリリース)」
「
湘南カラーJR113系、ラストラン
(asahi.com)」
「
湘南電車:ダイヤ改正で引退 「共に生きた時代誇り」今夏定年の運転士、鉄道人生重ね
(毎日新聞)」
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元々は戦後中距離電車の元祖として、東海道線に80系が導入され、その時に今までのチョコレート一色の車両塗装色を、オレンジ・緑塗り分けの所謂湘南色を導入した事が「湘南電車」登場の発端です。
昔から湘南地域は風光明媚で環境も良い事から、戦前から湘南地域から東京へ通う人が居たほどで(その最たる人が吉田茂元首相で、外相官邸もしくは大磯の別邸から執務に通っていた)横須賀線と並び高所得者の通勤の需要が有った地域に、東京への電車通勤を可能にする湘南電車が登場したと言う事に、中距離電車と言う技術的革新・デザインの素晴らしさと並んで、世間に大きな印象を与え、その影響が上記の新聞記事に見えるような世間に反響を与えたと言えます。
私も昨日(3月11日土曜日)仕事の用事で池袋〜戸塚〜東京と利用した際、偶々4編成しか居ない113系を行きに戸塚駅で目撃し、帰りは戸塚〜東京間で利用しました。その際湘南色113系引退と言う事で、鉄道マニアも多数押しかけていました。
(左:今回引退する東海道線113系(戸塚駅) 右:東海道線113系を代替するE231系(戸塚))
今回はその時及び色々な所で聞く「113系引退」についての話で、感じたことを簡単にコメントしたいと思います。
☆ 新型電車導入は良い事ではないのか?
東海道線の
113系車両
は登場から既にかなりの年式が経過した車両で、一般的概念から考えれば既に老朽化が進んでいるのは誰が見ても明らかです。(只より経年の進んでいる車両の置き換え用に一部は房総地区へ転出する)
113系は国鉄時代に作られた車両であるので、高速性能は一緒に東海道線で運用されている211系・E231系と比べて明らかに劣りますし(113系が戸塚〜横浜間の丘陵区間上り坂を走ると80〜90km/hが限界で可哀想な位である)、省エネと言う点でも旧型車両であるので大幅に劣ります。加えて乗り心地・内装の点でも、113系の動力車に乗ると「安眠の妨げ」と言いたくなるほどのモーター音(騒音)がしますし、車内の内装もE231系などの新型に比べると明らかに劣ります。
(左:113系の内装(東海道線東京駅) 右:E231系の内装(湘南新宿ライン))
この様な車両ですから、利用者の視点から見ると「引退してくれて良かった」と言うのが偽らざる心境であると思います。私も湘南新宿ライン・東海道線は仕事でよく利用しますが、113系が来ると「五月蝿いし・暗い感じの車両(特にアコモ改善前の車両)」と言うイメージが有り、良い感じはしません。「移動中に静かに寝たい」「移動中に静かに仕事したい」と思う時に113系が来ると、仕方なく付随車で静かなグリーン車へグリーン料金を払って脱出する位です。私的にも113系が引退してくれれば、一人で居る時に座れるのならばグリーン車に脱出する必要がなくなります。その点からも113系引退は大歓迎です。
この考えは個人の感覚に伴う差は有れども、利用者にはある程度共有されている感じであると思います。利用者の視点で考えれば113系が運行されている現状が変るE231系更新は「新しい物は良い事だ」と言う事になると思います。
又新型更新は鉄道会社にとっても良い話です。確かに113系は減価償却の終わった車両で償却費が掛からない分鉄道会社にメリットをもたらしてくれそうな車両ですが、現実的には保守面での手間の掛かり方、エネルギー使用の無駄等から、全体から見ると車両更新をした方がメリットが多くなります。ましてや100km/hがやっとの113系が淘汰されれば、東海道線全体の速度向上も可能になるでしょう。そうすれば保有車両数も減らせてよりメリットは多くなります。(速度向上は利用者へのメリットも多い)
この様に新型車両導入は東海道線に関係するステークスホルダー(利害関係者)に取りメリットの有る話で、歓迎されて然るべき話であると言える筈です。
☆ しかし世の中には「郷愁」と言う側面でしか物事を語らない人が居る?
しかしこの様なメリットの多い新型車両導入に関して「郷愁」と言う側面でしか物事を語らない人もこの世の中には居ます。其れは一部のマスコミや鉄道マニアです。
最初に2つのマスコミの報道を取り上げましたが、どちらも「新型車両で快適になる」と言う視点より、「オレンジと深緑の湘南電車が無くなる(厳密にはラインカラーで残る)」と言う視点での取り上げ方が主体となっています。この様な報道の取り上げ方は確かに話題性は有るでしょう。しかし社会的に見れば「新型車両更新」によるメリットは上述の通りです。その点を取り上げつつ「郷愁」を語るのであればバランスが取れていますが、「郷愁」の側面だけを取り上げるのは片手落ちです。公の側面が強い報道機関であるのならば、世間受けするような取り上げ方だけをするのではなく、もっと公平な見方をするべきでしょう。
それに鉄道マニアも同じ様な考え方が散見されます。確かにE231系は大量に量産されており、今や東京圏では全く珍しくない車両であり、趣味的側面から見れば面白くない車両かもしれません。それに鉄道ファンの心理として「無くなる車両を記録する」と言う行動は致し方ないと言えます。
しかし鉄道車両とて機械であり、何時かは無くなる物であるのは当たり前の事であります。今の状況では113系が引退転用される事は「まさかこんな日が・・・」と言う事でなく至極当然の事であるのです。その様な視点も無く只単純に「郷愁」だけで物事を語るのは、極めて視野が狭いとしか言い様が有りません。
鉄道ファンとして「郷愁」の気持ちを重んじるのは良いのですが、(実際私も仕事での利用時でも引退する113系を見かければカメラを向けるのだから・・・)「郷愁」だけでは物事は見れませんし語れません世の中の常識と現実と事実を冷静に見ることが必要です。幾ら鉄道ファンでもその点を良く考えてから活動すべきでしょう。
これらのマスコミ・鉄道マニアの視点はどちらも「郷愁の側面」と言う片面からしか物事を見ていないといえるでしょう。これは残念ながら好ましい事でないと言えます。
☆ 物事を見るには「社会全体」を意識して見なければならないのでは?
この様に今回113系引退に関して私の感じた事を書いてみましたが、一部のマスコミ・一部の鉄道マニアに不足している事は、「社会全体の便益を意識した物の見方」ではないでしょうか?
鉄道は公共交通としての社会の公器であると同時に、鉄道会社が利潤を追求する対象と言う存在です。当然社会の公器である以上そのステークスホルダーの利害を考えて語らないと社会に通用する発言をする事は出来ません。
その視点で考えれば今回の113系引退に関して言えば「今までご苦労様でした」と言う感想になるでしょうし、E231系導入は「待望の新車導入」と言う事になる筈です。其れが社会一般の常識から見た考え方であると言えます。だから113系湘南電車(公表現するのが適当かは疑問だが)引退は、次のステップへの発展の1段階であり、113系の今までの労への感謝の気持ちは有れども、悲しいと言う気持ちは生じてきません。
少なくとも113系引退に関して、引退を記念する113系のヘッドマーク入りの写真を掲げて「まさかこんな日が・・・」と言うコメントが出てくる筈が有りません。これでは利用者の視点に立って見ても「待望の新車導入」である筈のE231系導入を否定する事であると同時に、「ボロボロになっても113系を使い続ける事が当然」と言う意思表示になります。これは「社会全体を視野に入れた見解」とも言えませんし「利用者の視点に立った見解」と言う事も出来ません。
私とてこの様なHPを作って論陣を張っているのですから、「鉄道マニアでしょう?」と世間に言われれば「NO」と言う事は出来ません。只「社会全体を視野に入れた物の見方」が出来ない鉄道マニアと一緒にされたくは有りません。世の中にその様な鉄道マニアが存在するのは残念ながら事実です。
本来の鉄道マニアとは「鉄道の役割を考えながら、鉄道のあるべき姿を考える」と言う姿であると思います。社会の存在と鉄道の発展が有ってこそ成立する鉄道マニアなのです。その事を十二分に考えながら活動しなければならないと、今回の113系引退に関しての色々な動きを見て考えさせられました。
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