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日本の大手民鉄は再び「大再編時代」を迎えるのか?

-村上ファンドによる阪神電鉄株の買収問題の落とし所と阪急HDによる阪神電鉄株買取の噂から大手民鉄の再編を推察する-



TAKA  2006年04月15日






この電車も「マルーンカラー」になるのか?  (阪神電鉄車両による山陽直通特急東須磨行き@阪神三宮駅)


 皆さん今晩はTAKAです。昨年から色々な所で世間を騒がせていた村上ファンドによる阪神電鉄株の買収問題ですが、遂に問題の根本的解決へ向けての大きな動きの噂が出てきました。
  <阪急HD>村上ファンド保有の阪神株、買い取り検討  (4月14日 毎日新聞)
 昨年9月に発生したM&Aコンサルティング(以下一部で「村上ファンド」と略す)による阪神電鉄株買収問題ですが、私も問題発生時に「 交通総合フォーラム 」で「 企業買収時代の鉄道経営について考える 」「 「虚業」は「実業」に勝利するのか? 」と言う一文を書き、村上ファンドによる阪神電鉄株の買収問題に関して検討していました。
 しかし今の動きは単なる「投資ファンドによる阪神電鉄株買収問題」に留まらない、現在の大手民鉄15社体制を「再編成」と言う形で根本から揺るがすような根本的側面での解決を超える新たな体制構築を図ると言っても過言ではない事が発生しています。その事について今回は考えてみたいと思います。

 ・参考サイト 「 阪神電鉄HP 」「 M&AコンサルティングHP
 ・阪神の経営関係資料 「 事業報告書 」「 株価・企業情報


 ☆ 結局村上ファンドは「グリーンメーラー」だった?

 既にこの問題は発生してから半年を越える長い期間が経過していますが、その間に株式に関しては保有割合が 9月27日の26.67% から 2月1日で44.49% に増加していますが、それ以外の変化は?となるとM&Aコンサルティングは「阪神経営陣と緊密協力し企業価値の向上に努める」と言っている物の、株価こそ買収の影響で倍近くに伸びた物の、 阪神・M&Aコンサルティング経営者による協議 が実際に行われても、目に見えた成果は何も出てきませんでした。
 その中で実際問題として村上ファンドは「保有株の時価は約2000億円規模・村上ファンドの取得資金は約1230億円に達し、含み益は約650億円にのぼる。(上記毎日新聞より引用)」と言う価値を既に保有しています。投資家への高利回りを保証する事で資金を集める投資ファンド(村上ファンド)としては、この数字を早く固定化し投資収益として現実化させたい考えていると思います。
 その様な「早く利益を出したい」と言う本心があるからこそ「 阪神株、50%増なら売却も 村上氏が講演会で表明 (2月4日共同通信)」と言う話が出てくるのでしょう。経営に興味が無いからこそ経営の支配権50%に固執することが無いと言えます。  「経営に興味が無い」「利益を早く固定させたい」と言う事は、簡単に言えば「阪神電鉄株を売りたい」と言う事です。その手法として色々な方法が考えられますが、「村上氏と阪神社長が会談 保有株の扱いで意見交換か(3月8日共同通信)」と言う行動から考えて「 グリーンメーラー 」を行っている可能性が有ります。又実際の手法は別にして村上ファンドは阪神電鉄に株を買い取らせる事で今回の問題の解決を図ろうとしている可能性が高いと言えます。


 ☆ 村上ファンドが退場した後「45.73%の阪神電鉄株」をどうするかが焦点になる

 この様に「村上ファンドは阪神株を売り抜ける」と言う事がある程度既定の事実となってくると、問題はその株を何処に当てはめるか?と言う事になって来ます。
 阪神が「グリーンメール」を呑むにしても、村上ファンドが第三者に売却するにしても、最終的に此れだけの株を市場で売却することも現実的では有りませんし、そうなると阪神電鉄・村上ファンドの両社(もしくはどちらか片方)が主導権を握り、誰か阪神株に興味を持つ第三者に売却する(当て嵌める)必要が出てきます。
 実際新聞等の報道の隅々にその様な動きが出てきています。その動きが上述の「  <阪急HD>村上ファンド保有の阪神株、買い取り検討  (4月14日 毎日新聞)」と言う報道や、1ヵ月半も動きが無いので何処まで動いているか不明ですが「 京阪に阪神株購入を打診 阪神、大和証SMBC (2月22日共同通信)」と言う様な動きに出てきていると言えます。
 多分阪神電鉄的には、阪神電鉄株を梃子に2月22日共同通信報道の一番最後に出ている「阪神電鉄は関西の大手私鉄で相互に株式を持ち合うことで、敵対的な株式買い占めに備える構想に発展させることを狙う。」と言う関西民鉄各社相互株持合構想を狙っている可能性が高いと言えます。阪神が経営の自主権を確保するにはこの株を分散させる事が必要ですし、実際鉄鋼業界で 新日鉄・住金・神鋼3社で発表された株持合・企業間提携から発展させた企業防衛策 が現実化していますが、其れを「 スルッとKANSAI 」で企業間協力が進んでいる関西民鉄各社に当てはめようと考えるのは、有る意味普通と言えます。
 しかし関西大手民鉄は阪神以外にも「阪急・近鉄・京阪・南海」と合計5社がありますし、阪急⇔阪神・阪急⇔京阪は路線が競合していますし、阪急・近鉄はバブル崩壊による不良資産の処理がやっと終わった状況で有利子負債の金額も比較的多く、関西5社では鉄道事業・全事業共に営業利益は上がっているが売上が減少している(鉄道利用者も減少)厳しい状況です。( 大手民鉄16社 平成17年3月期 決算概況及び鉄軌道輸送実績 :(財)日本民営鉄道協会)この様な状況では「関西民鉄各社間での株持ち合い構想」はなかなか厳しいものがあると言えます。

 その様な買収防衛の為の持ち合いも厳しい状況の中で、関連性の有る関西民鉄の各社の中で何処かが阪神株を持つ事で、この問題を解決させる動きが出たのでは無いかと推察します。その動きの象徴が上記の「京阪・阪急の阪神株買取り」と言う動きだと思います。
 実際には阪急による阪神へのTOBと言う話も、 阪急・阪神両社が否定 をしましたし、京阪の話も上記報道の後は動きが出ていません。しかし村上ファンドが宙ぶらりんで保有している「45.73%の阪神電鉄株」と言う現実は消えませんし、此れを何処に当てはめるかは重大な問題であると言えます。
 しかし何故この様な話が出てくるのでしょうか?此れには「45.73%の阪神電鉄株を梃子に関西大手民鉄の再編成が必要では?」と言う事を株式市場の深層が望んでいるのではないか?と言う事が有ると言えます。一般的にいえば、火の無い所に煙は立ちません。阪神に対して阪急と言う組み合わせには驚いても、大手民鉄15社体制の再編成自体は株式市場は有る程度織り込んでいると考えられます。


 ☆日本の大手民鉄は再び「大統合時代」を迎えるのか?

 この様に「村上ファンドによる阪神株買収問題」は、既に大手民鉄15社に対して「再編の波を浴びせかけた」と言う意味では、既に極めて大きな波及効果を及ぼしていると言えます。
 日本経済はバブル崩壊後の「失われた10年」の間に、本業自体が弱体化した企業やバブルでバランスシートが痛んだりした様な企業体力が弱体化した企業に対し退場や吸収と言う形の淘汰が進んだり、企業体力の優れた企業間でも強者連合の統合が行われると言う形で、再編成が激しく進んでいます。
 その点では民鉄業界は「業界の再編成」と言う意味では大きく遅れています。バブル経済の崩壊と地下の下落以降、大きくバランスシートを崩した民鉄企業は、グループ経営を再建する為に企業グループ内の再編を中心としたグループ再編を行っています。その中ではグループ企業の売却(東急観光・JAS等)やグループ内不採算事業の撤退(近鉄球団売却・大日本土木の会社更生法申請等)等のグループ再編を行っていますが、根幹である鉄道事業に関しては、大手民鉄15社では「個々の不採算路線撤退」等は行われても「会社間の枠組みを崩す再編」は行われていません。そういう意味では民鉄業界は「再編が進んでいない」と言う事が出来ます。
 その様な再編に関しては無風の業界に投げ込まれた爆弾が2つ有ります。一つは此処で既に述べている「村上ファンドによる阪神電鉄株買収、45.73%保有」であり、もう一つは「コクドの名義株問題が発端の西武鉄道グループの経営危機・持ち株会社再編成とそれによる 投資ファンド(サーベラス・日興プリンシパル)の資本増強 」です。これにより大手民鉄15社の中で「阪神⇒45.73%・西武⇒45.52%」と言う2社が、国内外の投資ファンドに過半数に迫る株を持たれる事になります。これは大きな爆弾になります。
 投資ファンドの行動は、何をきれいごとを言ってもその基本は「安く投資して高く売り抜ける」と言う一点に有ります。いくら企業再建が上手く言っていても「自分が売らなければならない都合」「高く買う相手が出てきた」場合、「市場で売却」「上場したら売却」等と親切には言わずにあっと言う間に売却してしまいます。その良い例が「 セブン&IHDとミレニアムリテイリングの経営統合 の裏に潜む、 野村プリンシパル・ファイナンスの500億出資 の売却希望と、ミレニアムリテイリングの(自分で統合と言う名の資本受入先を選ぶと言う意味で)自己防衛的なセブン&IHDとの統合」と言う事例があります。つまり「投資ファンドに株を握られたら余程気を付けないと勝手に何処かに売られてしまう」と言う事です。
 そういう意味では土地等優良資産を多く持ちながら、やる気になれば2000億〜数千億で買う事が出来る阪神・西武の存在は正しく「民鉄業界再編の台風の目」と言う事に成りえると思います。
 
 前回民鉄業界(大手民鉄15社)に再編の嵐が吹き荒れたのは、昭和初期〜昭和20年代前半の「戦時統合に名目を借りた再編⇒終戦後の戦時統合(一部)解体・再編」です。これにより今の大手民鉄15社の原型は作られています。今回の阪神・西部の株問題は、有る意味それ以来の「大手民鉄再編」時代の到来とも言えます。
 前回の再編では地域独占型の「東京急行電鉄(いわゆる大東急)」や「近畿日本鉄道(近鉄+南海)」「京阪神急行電鉄(阪急+京阪)」が登場し戦後解体されましたが、今回の株問題もこの様な「地域独占型大民鉄」を造る契機になる可能性を秘めています。
実際問題今回噂の「阪急による阪神買収」が成功して、阪急HD傘下に阪急電鉄と阪神電鉄がぶら下がる体制が出来た場合、阪急HDは阪急・阪神だけでなく、阪急電鉄が27.7%の株を持つ神戸電鉄と阪神電鉄が17.3%の株を持つ山陽電鉄(どちらも筆頭株主)に対しても大きな影響力を発揮する事になります。そうなると阪急HD傘下に大阪以西の関西私鉄が大統合される可能性も十二分に出てきます。そうなると昔の京阪神急行電鉄以上の(阪神・兵庫県内に影響力を及ぼす)地域独占鉄道グループが登場することになります。
 こうなると他の民鉄各社でも刺激を受けて「鉄道会社の持株会社化」が進み、これと「投資ファンド保有株」を梃子にして民鉄グループの再編成が一気に進む可能性は十二分にありえます。
 大手民鉄間の資本・人間関係は上記の例だけでは有りません。他にも小田急電鉄→相模鉄道(7.5%)・京成電鉄→新京成電鉄(34.1%)と言う関係はどちらも左の会社が筆頭株主ですし役員も派遣しています。加えて例えば東武⇔東急では、資本関係こそ無い物の、直通運転等で業務上のつながりが深い上にどちらも社長が相手の会社の取締役に就任しているなど、極めて深い関係を持っています。加えてこの様な強い繋がりが無くても地域の大手民鉄会社同士で業務や子会社同士で提携などで業務上の関係を持っている場合は多く存在すると言えます。この様な様々な関係が大手民鉄の持株会社化に起因する、大手民鉄各社間での再編劇に発展する可能性も秘めています。
 今やどの様な再編劇が飛び出しても驚けない状況であると言えます。例えば乗り入れ先の親密企業同士の再編(東武+東急・京成+京急)や地域内での独占や相乗効果の望める企業同士の再編(小田急+相鉄+東急・阪急+阪神+神鉄+山陽)と言うパターンの再編がある可能性も有ります。
 しかし一番可能性の高いのは、やはり上記の様に資本の関係や過半数に迫る浮動株の存在が軸になると考えるのが一般的でしょう。そうなるとやはり大手民鉄の再編のキーポイントは「阪神⇒45.73%・西武⇒45.52%の投資ファンド保有株に何処が手を出すか?」と言う点にあると言えます。今後のこの両社の株の行方からは目を離せないと思います。





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