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新 幹 線 の 駅 は 本 当 に 要 ら な い の か ?

−滋賀県知事選の結果と東海道新幹線「(仮称)南びわこ駅」建設について−



TAKA  2006年07月03日




東海道新幹線700系と300系(東京駅)



※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 現在東海道新幹線では滋賀県内に「 (仮称)南びわこ駅 」がに工事着手されています。
 元々滋賀県は県内を東海道新幹線が貫いている物の県都大津が新幹線停車駅の中で大都会である京都と近接しているのに加え県内に大都市が少ない為、東の端である米原に北陸連絡拠点としての乗換駅米原駅が有る他は新幹線の駅はなく、米原〜京都間68.1kmは東海道新幹線で一番駅間距離が長い区間になっていました。
 その様な事もあり、地元栗東町では東海道新幹線5年後の昭和44年から新駅の運動を行っており、滋賀県でも「 鉄道プロジェクト 」の中で「 琵琶湖環状線構想(北陸本線直流化事業) 」と並ぶプロジェクトとして位置付けられています。

 しかし滋賀県内では「巨額の費用(地元負担約240億円)を掛ける新駅は要らない」と言う反対運動が有る事も事実であり、「 新幹線栗東新駅建設の是非を問う「住民投票条例」制定を求める直接請求 」が行われたり、「朝日新聞社は24、25の両日に実施した情勢調査に合わせ、新幹線新駅やダム建設問題などの争点に対する考えや、選挙への関心度などについて聞く世論調査を実施」「新幹線駅「南びわこ駅」(仮称)への賛否を尋ねたところ、「反対」が65%と「賛成」の19%を大きく上回った。」( 6月27日毎日新聞 )と言う様に反対の動きも出ています。
 その様な動きの中7月2日に行われた滋賀県知事選挙では「 栗東新駅建設は凍結 」と言うスタンスの 嘉田由紀子氏が現職に3万票以上の差をつけて当選 しました。実際嘉田新知事は知事選挙当選後マスコミに「今年度の新駅建設予算の執行を停止する意向」( 7月3日朝日放送 )を示しています。
 地域の要望として「新幹線の駅建設」と言う要望は色々な所(例:東海道新幹線では「 相模新駅 」「 静岡空港駅 」等)に有りますが、実際新幹線新駅着工となると運営者との調整等もありなかなか難しい事であります。しかし新幹線の駅が出来れば地域に取り非常に便利であるので、新幹線では強い地元の要望で今まで幾つもの「地元請願の新駅建設の要望→新駅建設」が行われていますが、今回滋賀県では初めて地元の新幹線新駅建設反対が具体的な形となり「新幹線新駅地元請願→工事協定書締結→工事着工→工事凍結」と言う事になりました。
 今回は知事選挙の結果、極めて異例な「新幹線新駅建設凍結」と言う状況になろうとしている「(仮称)南びわこ駅」を巡る状況について考えて見たいと思います。


 ☆ 建設費が高い?意外に大規模な「(仮称)南びわこ駅」建設

 今回異例の「新幹線新駅建設反対」が起きた「(仮称)南びわこ駅」建設工事ですが、確かに240億円の建設費と言う巨額の予算を計画しており、地元の請願駅(今の東海道線幹線は全車両同一最高速度だからこの区間に待避駅は要らない)ですからその大部分を地元自治体が負担しなければなりません。
 確かに今地方自治体の財政状況は何処の自治体も苦しい状況で有る事は間違いなく、滋賀県も「県債発行残高9,000億円」と言う状況ですから決して余裕の有る経済状況では有りません。その点巨額の費用が掛かる公共事業に県民の中から反対が起きるのは有る意味必然で有るとも言えます。
 実際「(仮称)南びわこ駅」駅は仮線を建設しなければならない構造(盛土構造だからと説明している)の為( 新駅整備計画概要 )、「仮線建設の分費用は増加する」と説明しています。実際仮線が無い三河安城と建設費を比べても、「(駅舎建設費)南びわこ154億:三河安城137億」となっています。実際山陽新幹線厚狭駅が約88億円・本庄早稲田駅が約115億円と言うより安い例も有りますが、駅構造・工法等が違うのでこれが一概に「高いか?安いか?変わらないか?」と言う判断は難しいですが、仮線建設分だけ確実に足が出ている事は事実です。( 南びわこ駅建設に関するQ&A :参考)
 但しこの費用は「滋賀県116.97億円・栗東市100.94億円・草津市5.38億円・甲賀市2.5億円・守山市3.77億円・湖南市3億円・野洲市2.69億円」と言う負担割合であり、実際の県の負担は総工費の半分以下になりますし、これを単年度ではなく複数年度に亘り出費するのですから幾ら滋賀県の財政状況が厳しくても捻出の余地は有るでしょう。新駅関連の支出規模は 滋賀県の一般会計予算5,107.7億円・投資的経費約930億円 と比べてもそんなに大きく有りません。それに滋賀県は既に基金を約40億円積んでいる(5月27日朝日新聞「 是か非か、三者三様 」)とのことですから、財源的には「有る程度手当ては出来ている」と言う事が出来るでしょう。
 ですから「意外に高い建設費」で有る事は間違いないですが、他の駅と比較してだけの「建設費の高い・安い」だけで判断するのは危険だと思います。財源は有るのですから「高い・安い」では無く、「投資の効果が得られるか」で判断するべき、つまり「新駅建設は本当にメリットが有るのか?」で判断すべきであると言えます。


 ☆ 新幹線駅がなくても不便でない?滋賀県湖東地域の現状

 上記の様に「新幹線新駅建設」の基準は「投資に見合うメリット・利便性向上が有るか?」と言う点で計るべきですが、果たして「(仮称)南びわこ駅」はそれだけのメリットを地域に与えるのでしょうか?其処に疑問の声も有るのは事実です。
 実際滋賀県は静岡県と並ぶ「東海道新幹線通過県」であり、その存在ほどのメリットを地域にもたらしてこなかったと言えます。事実滋賀県内の駅は東の外れの米原だけであり県都大津に新幹線の駅が無いのですから「新幹線に無視されてきた」と思われても致し方ないと言えます。
 しかしそれでもこの地域は極端に不便に思ってこなかったと言えます。それは「新快速」の存在です。東海道新幹線並行のJR西日本東海道本線を走る「新快速」は大阪・京都方面から大津・草津・近江八幡・彦根・米原と滋賀県湖東地域を貫いて走り、高速で本数も多く利便性の高い列車です。事実草津基点で大阪⇔草津毎時3本48分・京都⇔草津毎時3本23分・草津⇔米原毎時2本42分(それぞれ駅探で検索)で結ぶ為利便性は高く、この地域からの新幹線利用は京都・米原まで短時間でアクセスできるので不便を感じず、大阪までも1時間以内ですから新幹線は不要であり新幹線移動が必要なのは対名古屋(東海道本線だと2回乗換約2時間掛かる。只車移動も便利)及び対東京だけ(山陽新幹線は新快速利用新大阪乗換が便利)と言う状況です。  ですから「新幹線駅」にこそ恵まれなかった地域ですが、新快速のアーバンネットワークが地域と新幹線駅を有機的に結びつけ、同時に平行の名神高速(この地域には瀬田西・瀬田東・栗東・竜王・八日市の5つのICが有る)に依るマイカー利用が新幹線の地域間需要を侵食してきていて「新幹線の便利さに疎い」地域になっていると言えます。
 この様な状況が他の地域では「熱望」する新幹線の新駅建設に対し、冷めた感情で「無駄遣いだ」と言う地域住民の意見を生み出す大本で有ると思います。本当にこの地域の住民は新幹線新駅を必要としていないのかもしれません。


 ☆ しかし本当に新幹線新駅は要らないのか?

 しかし本当に東海道新幹線「(仮称)南びわこ駅」は要らないのでしょうか?それは「今の地域が便利・不便」と言う「ミクロの視点」ではなく「マクロの視点」で見れば明らかで有ると言えます。私は新幹線新駅は必要で有ると考えます。
 地域の発展の側面で考えれば、新幹線新駅がもたらす効果は非常に大きいと言えます。草津等の湖東地域から対大阪で見れば新快速で1時間未満・関空までも昼間京都乗換はるか使用で約1時間40分と言う今の在来線アクセス+京都乗換で東京まで約3時間と言うアクセス環境は決して不便ではありません。
 けれども企業等の誘致を今後行う事を考えると、「地域に東海道新幹線の駅が有る」と言う意味は非常に大きいと言えます。大体の企業は中心を東京においている以上、対東京のアクセスで「東京から新幹線で○時間で新幹線駅から○○分」と言うのは企業誘致のアピール上大きなメリットとなります。その効果を無視する事は出来ません。
 その様に「企業誘致のツール」として「(仮称)南びわこ駅」を考えると、その投資効果は大きいと言えます。逆に言えば幾ら頑張っても手に入れられない地域も有る「新幹線駅」を240億円で手に入れられると考えると、「投資効果で考えると安い」と言う結論が出ても可笑しく有りません。滋賀県は新駅設置による経済波及効果は、「新駅開業10年後の単年度で、経済波及効果は約3,770億円、県・市町村税収入は約113億円」( 南びわこ駅建設に関するQ&A :参考)と試算している事から見ても、この試算の正誤は別にして投資に見合うかなりの効果は有るものと考えられます。
 今回の知事選で当選した嘉田新知事は「破産寸前の県財政を次の諸施策により立て直します。(1〜5.略)6.積極的企業誘致(7.略)」(2006年6月30日朝日新聞「 知事候補者アンケート(上)/嘉田由紀子氏 」)と発言していますが、その企業誘致に対しての地位間競争に対する重要なツールとして東海道新幹線「(仮称)南びわこ駅」は重要なのではないでしょうか?
 只単純な「公共事業の無駄遣い」と言う側面ではなく、もっとマクロ的視点にたっての判断も必要なのではないでしょうか?「財政再建・無駄使いの防止」は結構な事ですが、新幹線新駅より無駄な物はたくさん有るのでは無いでしょうか?その点を良く考えるべきで有ると思います。


 ☆ 今回の滋賀県知事選挙が示した物は?

 今回滋賀県知事選挙では「(仮称)南びわこ駅」建設の是非と言う「普通なら争点にならない」と言える「地域全体が望む」筈の公共事業が争点になり、選挙の結果で前代未聞の「工事協定締結・工事着工後の新駅建設工事凍結」と言う事態が現実化しました。
 今の地方自治体の首長選挙は日本で数少ない「直接選挙」であり、民意が選挙結果に直接反映される形の選挙で有ると言えます。その点今回の選挙では『「(仮称)南びわこ駅」は要らない』と言う滋賀県民の民意が選挙の結果に反映されたと言う事が出来ます。その点は民主主義の国家で有る以上決して無視できる物ではありません。
 しかし世の中の事象は「白か黒か」と割り切れる物ばかりでは有りません。その点から言えば上記で検証したとおり「(仮称)南びわこ駅」建設事業もただ単純に「無駄遣いの公共事業の象徴」と捉え県民に「白か黒か」と問うべき事象では無いと言えます。「(仮称)南びわこ駅」建設問題には「他と比べて高い建設費」「今は比較的不便をしていないから要らない」と言う問題の側面と「新駅建設に伴う経済効果」と言うメリットの側面が共存していると言えます。その様な複雑な要素が絡み合う物を「白か黒か」と単純化して民意を問うのは如何な物かと言えます。

 本来政治とは「民意を吸収して国民の望む政治」をすると同時に「高所に立ち大局を見つめ国家百年の大計」を練る事が必要な分野で有ると言えます。その分野で「只近視眼的に物を見つめ民意に媚を売る政治」をすると言う事は、未来に対して禍根を残す事になりかねません。少なくとも真に国を憂う人々はこの前の衆議院選挙の郵政問題と自民党の圧勝にその危険性を感じたと思います。
 今回の滋賀県知事選挙でもこの「民主主義の欠陥」とも言える状況が再び現出された可能性が高いと言えます。これは決して良い事では有りません。それに確かに「新幹線新駅凍結」を主張した嘉田候補・(落選した)辻候補に合わせて約287千票の投票がありましたが、同時に「新幹線新駅推進」の現職にも約185千票の投票がありました。加えて建設反対派2候補への得票約287千票のすべてが建設反対と言う訳では有りません。投票率が44.94%であり明確に反対を表明したのは 有権者の44.94% の約6割に過ぎなく、現実に有権者の44.94%の約4割の人々は「(仮称)南びわこ駅」建設に賛成の候補に投票して賛成の意思表示をした事と、この選挙結果の先には投票に行かなかった約55%の「滋賀県民の声なき声」が有る事も忘れてはなりません。
 確かに「新幹線新駅建設凍結」を主張して当選した以上「公約を守り」「民意に応える」と言う為にも嘉田新知事が「予算執行凍結」と言う行動に出る事は正しい事で有ると言えます。それに関しては否定しません。
 しかし同時にこの事業はJR東海と工事協定を結び工事着工をして要る為、此処で止めた場合JR東海が態度硬化して事業が完全にストップする可能性があり、加えて協定破棄でJR東海から損害賠償請求される可能性が有るのも又事実です。もし本当に必要と認識され再度「(仮称)南びわこ駅建設」を動かそうとしても「(仮称)南びわこ駅」だけでなく滋賀県内全域で新幹線新駅建設協議が出来なくなる状況は容易に想像できます。
 損害賠償請求をされて其れが裁判所等で公的に認められる事になれば、その賠償費用はそれこそ「ドブに捨てる金」になります。滋賀県民の皆さんは其処まで考えて今回の知事選挙で「新幹線新駅建設凍結」知事候補を選んだのでしょうか?其処までの「覚悟」が有れば如何なる結果も受け入れられるでしょうから良いのですが、果たして其処までの覚悟が有ったのか私は疑問に思います。
 今回の選挙の結果と嘉田新知事の「決断」が将来の滋賀県に大きな禍根を残すのではないか?私は大いに心配です。





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