このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





何 故 行 政 は 「 姑 息 な 迂 回 手 段 」 を 使 う の か ?

-新幹線南びわ湖駅建設問題と栗東・新幹線新駅訴訟を考える-



TAKA  2006年10月02日




新幹線南びわ湖駅建設工事予定地を走る東海道新幹線


 7月の滋賀県知事選挙の結果で、東海道新幹線南びわ湖駅建設に関して「建設凍結」を訴えた嘉田知事が当選して以来、私もこの問題に非常に興味を持ち自分のサイト「 TAKAの交通論の部屋 」でも積極的に追いかけてきました。
 知事選以来紆余曲折のあった事業ですが、今回知事選の結果並みに衝撃の走ることが発生しました。東海道新幹線新駅を巡り、『栗東市の住民が国松正一市長を相手に、43億円の起債差し止めを求めた訴訟』の結果です。( 9/26毎日新聞 『』部分引用)結果的に『すでに借り入れしている金額を除き、差し止めを命じる原告側の全面勝訴』と言う結果が出ました。
 南びわ湖駅建設工事をめぐる一連の流れの中で、今回の地裁判決は7月の知事選結果と並ぶターニングポイントになる雰囲気になってきました。今回は未だ裁判所HPに判決全文が出ていない状況で判決内容は報道で伝えられているだけの状況ですが、報道されている判決内容を踏まえ今回の新幹線建設問題の今後進むべき方向を検討してみたいと思います。

* * * * * * * * * * * * * * *


 ☆ 栗東・新幹線新駅訴訟判決の骨子

 9月25日に行われた裁判について、今回の判決事由として『同市が起債理由に挙げた仮線と交差する市道拡幅工事について「新幹線線路と道路が交差する過去の工事で仮線工法が採用されたことはなく、仮線工法は他の高架橋や地下道と比較して巨額で経済的合理性を欠く」と指摘。その上で「仮線工事は駅舎建設のためには必要だが、市道拡幅工事にとっては必要とは言えない」と判断し、「仮線工事の費用を起債で負担することは、地方債の発行目的を制限した地方財政法の趣旨に違反する」』と言う事で違法と結論づけた。(9/26 日刊県民福井 『』部分引用)との事です。
 つまり今回の裁判は「道路建設」に名を借りた新幹線仮線建設費用負担の栗東市の起債は、 地方財政法 第五条(地方債の制限)の五(学校その他の文教施設、保育所その他の厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾その他の土木施設等の公共施設又は公用施設の建設事業費及び公共用若しくは公用に供する土地又はその代替地としてあらかじめ取得する土地の購入費の財源とする場合)の規定の該当しない、寄って今回の起債は地方財政法に違反する起債であると位置づけたと言えます。

 栗東市と相談を受けた滋賀県の判断は「どちらも「土木施設等の公共施設又は公用施設の建設」に当たるだろうから、道路目的の起債をその道路の移設も含まれる新幹線仮線建設に転用しても問題ないだろう」と考えて今回の起債を進めたのでしょうが、傍目から見て真面目に地方財政法を読めば「この起債が地方財政法第五条に該当するかと考えれば無理がある」と言うのは誰が見ても判るような気がします。
 まして南びわ湖駅は請願駅であり「 地方財政再建促進特別措置法 第二十四条の地方自治体が国もしくは国に準じる公社、独立行政法人等に負担金等を支払うことを原則禁止の具体的法人名にJR各社が入っていない事による請願駅設置の為の寄付の正当性」と、「昭和62年3月3日付の自治導第十七号の、[地方公共団体の国鉄に対する寄付金原則禁止の趣旨は、JRにも継承される][新駅はあくまでJR各社の施設であって、JR線利用者のサービスの向上に資するものである。][新駅設置の費用をJR各社が全く負担しないことは適当でない]と言う趣旨から裏返って、実質的に請願駅の費用負担は「地方自治体のJRへの寄付行為」になり、請願駅設置の為に地方自治体がJRに建設費を寄付する行為自体は違法行為ではないが、請願駅建設の為の建設費の寄付行為を行う為に地方債を起債する行為は地方財政法第五条に抵触すると言う事であると考えます。(参考資料: 隷属からの脱却 請願駅の問題点


 ☆ 何故こんな「姑息な迂回手段」をしたのだろうか?

 では滋賀県と栗東市は何故こんな「姑息な迂回手段」をしたのでしょうか?此処に官僚的な発想が見え隠れすると感じるのは私だけでしょうか?
 少なくとも現在の段階で栗東市は 平成16年度の一般会計歳入が約248億円の規模 で、周辺の基盤整備への先行投資として約177億円という費用を注ぎ込んでおり、加えて新駅建設費負担金100.94億円の内16年度末の「 東海道新幹線びわ湖栗東駅等建設基金 」が約35億円積んであるだけで他の費用手立てが出来ていない状況では、新幹線新駅建設の為に負担割合の約3分の1に当たる約40億円の基金を積んでいる滋賀県や数億円程度の負担金で済む周辺自治体に対して、栗東市が財源的に厳しい状況に追い込まれている事は間違いありません。
 その財政的に一番弱い栗東市には基金を取り崩さずに新駅を建設する費用を捻出する方法は「地方債の起債」しか方法が無かったと言えます。しかしまともに考えれば「請願駅建設費用という名の寄付金名目の起債」はできる内容ではないと言う追い込まれた内容で「如何財源を手当てしようか?」と思い悩んで滋賀県に相談に行ったことは容易に想像できます。
 この様な状況の中で滋賀県は「地方財政法第四条の四 一」の規定で積立金を取り崩すより、今後の事を考えて「今は基金を温存して起債で対応した方が良い。それには上手く道路整備を絡ませて地方財政法第五条の制約を回避しよう」と言う発想の元で、栗東市から地方財政法第五条の三の規定に基づく地方債の協議を受けその中でこの様な知恵をつけ両義を了承したものと推察します。

 少なくとも基金を取り崩していれば、今回の起債での調達金額約43億円の内大部分は調達できた筈です。しかし正攻法がある段階で正攻法であるこの方法を使わずにいきなり裏技を使ったと言う点に、これを示唆した滋賀県庁の役人に「役人の姑息さ」を感じます。
滋賀県庁の役人が過去にこの様な裏技的な姑息な手段を使った事があるから、今回も「困れる子羊」状態であった栗東市に「悪魔の囁き」をしたのでしょう。しかし本来であれば「正攻法で万策尽きた段階」で裏業を使うべきです。しかし滋賀県と栗東市は基金が取り崩される事で「財源が著しく不足する場合」である事を表面に出し、反対派に突付かれる事を恐れてこの様な「姑息な手段」を取ったのではないかと推察します。
 その様な「安易な発想」「姑息な手段」が逆に反対派に突付かれて訴訟となり、最終的に本来の「円滑な事業推進」と言う点とかけ離れた、今回の起債差し止め判決と言う「大きな汚点」になってしまったと言う事が出来ます。

 ☆ ではどのような方法を取ればいいのだろうか?−第三セクターを使った整備案−

 ではどのような手法を取ればいいのでしょうか?少なくとも滋賀県知事選挙結果による滋賀県の凍結表明に続いて今回栗東市の「新駅整備事業費の道路事業に誤魔化した起債」が破綻した以上、既存のスキームで新駅建設費用を賄う事は極めて難しくなりました。少なくともスキームの再構築が必要である状況になりました。
 その中でどの様に新駅建設費用を捻出するか?と言う問題が現実として出てきますが、此処で「自治体(特に栗東市)は起債に頼って財源を確保せざる得ない」「その中で投下した財源をなるべく回収するスキーム」と言う条件の中で新駅建設のスキームを考えざる得ないのですが、その方策として「第三セクターを利用したスキーム」を考えたいと思います。

 国と自治体の補助を受けた民間の鉄道施設の改良事業、特に「 幹線鉄道等活性化事業・鉄道駅総合改善事業 」で第三セクターを使い、「国・地方自治体の補助金の受け皿を第三セクターにして補助金不足分は出資金・借入金で賄い鉄道事業者から施設使用料を取る事で借入金の返済に当たる」と言うスキームを利用して行っていますが(具体的例として「西武東長崎駅整備事業の東長崎駅整備(株)」や「阪神春日野道駅整備事業の神戸高速鉄道」等が有る)、これを新幹線南びわこ駅建設工事のスキームに応用すると言うのが私の考え方です。
 具体的には前にも述べた話ですが、新幹線栗東新駅建設工事の運営主体を新規設立の第三セクター会社に変更し、建設予定費の地元負担分+滋賀県負担分の約240億円の費用を請願駅建設の「寄付金」から、新駅建設第三セクター会社への「出資金」に切り替えて、その自治体からの240億円の出資金を元に新幹線南びわこ駅建設工事を進めると言う案です。
 この第三セクター利用案のミソは「出資金調達に合法的に起債を使う事で財源手当が可能」であると言う点と「出資の配当で起債分が戻ってくる可能性がある(寄付は戻らない)」と言う点の2点で有ります。
 出資金の調達先に関しては、各自治体の財政状況等が有りますので、此処の自治体の状況に応じて此処の自治体が検討する事になりますが、最大の負担が必要になる栗東市に関しては「基金取り崩し+起債」で対応する事にします。この起債は地方財政法で地方債起債の目的を規定した「 地方財政法 第五条 二」の「出資金及び貸付金の財源とする場合」に該当すると考え、今回の訴訟の「起債取り消し」とは異なり明確に地方財政法に書かれている「出資」行為なので合法的に対応できると考えます。(最悪滋賀県が新駅建設費用負担から離脱しても、栗東市が「万難を排して推進」と考えるのなら滋賀県・総務省が認めれば滋賀県負担分を栗東市が肩代わりして推進する事も可能)
 又第二のミソは「投入した資金が帰ってくる可能性」です。第三セクターを使用したスキームを関係各社が認めその内容で進んだ場合、栗東新駅の施設の保有者は第三セクターになります。所有権を持っているのが第三セクターですからJR東海に対して「受益分の使用料負担」を求める事も可能になるでしょう。又この受益者負担は南びわこ駅利用者に求める事も可能です。鉄道駅建設で利用者に受益者負担を求める前例があるとは私は知りませんが(路線の場合は割増運賃という前例はある)、飛行場における「飛行場利用料」の様な「鉄道駅利用料」を取る事は可能であると考えます(但し未だ法律的裏付までは考えていないが・・・)。

 前にも「駅使用料」の試算はしましたが、具体的には現在の需要予測である「開業時の1日当たりの利用客7,480人/日」が誤差20%の範囲で当たると仮定して最悪パターンを考えると1日の利用客=7,480人/日*80%=5,984人になります。この利用客から1回300円の使用料を取るとして(これ位なら負担でも逸走しないだろう)5,984人*300円*365日=655,248,000円の利用料収入になります。これだけの利用料が取れた場合建設費出資金に関しては単純計算で見ると約37年で完全に償還できる事になります。地方債の金利を考えていませんが金利さえ自治体負担と考えれば、今回の起債は37年間で全額帰ってくる事になります。
 少なくとも現在の「寄付による請願駅設置」と言う行為は、「費用対効果」で見る限り「波及効果」で回収できる物では有りますが、今回の第三セクター案は「第三セクターが徴収する使用料」で直接的建設費が回収できた上で、波及効果は其のまま受け入れる事ができると言う「一度食べて二度美味しい」と言う案です。まして財源手当ての問題も解消できると言う案です。少なくとも一考の余地は有るのではないでしょうか?


* * * * * * * * * * * * * * *

 東海道新幹線南びわこ駅建設は今までも繰り返し述べてきたとおり「費用対効果が高く万難を排し推進する事が地域の為になる事業」であると私は信じます。
 しかし現実は7月の滋賀県知事選挙の凍結・中止派知事当選による事業の迷走に加えて、今回の起債をめぐる訴訟の敗北により極めて大きなダメージを受け、今や推進の動きは風前の灯と言う状況になってしまったと言えます。今の推進派の状況は「ミッドウエーで敗北しガタルカナルでも負けてしまった帝国海軍」と言う状況であると言えます。
 現状の推進派は「二つのターニングポイント」で敗北し完全に劣勢と言う状況です。先ず訴訟に関しては「 高裁へ控訴 」と言う方策で当座の対応は出来ますが、問題は「新駅建設問題最後の天王山」である「 15日告示の栗東市長選挙 」です。推進派の最後の牙城とも言える栗東市長選挙で負けてしまったら新駅推進派は「ミッドウエー・ソロモンに続いてマリアナでも負けて息の根を止められた帝国海軍」ではないですが、正しく全滅状態になってしまいます。
 けれども今のままで行った場合、その「最悪の事態」が現実化する可能性も有るといえます。これだけドミノ倒し状態になってきた場合、この栗東市長選挙でドミノ倒しを食い止められるかは非常に難しい状況であるとも言う事が出来ます。
 この様な状況であるからこそ、「起債訴訟」を控訴すると同時に早急に南びわこ駅建設工事の費用負担スキームの組み直しをしなければなりません。正当な費用負担を市民に納得させられて「此処で新駅を作った方が将来の地域の為になる」と言う事を示す事が出来なければ、正しく「推進派市長の敗北」と言う事態になる事は容易に想像できます。その様になってしまったら新幹線南びわこ駅建設は正しく御仕舞いです。
 その中で私の示した「第三セクター活用スキーム」は一つの方策に過ぎません。プロの人たちが考えればもっと合理的で良い案が出来るかもしれません。栗東市長選挙告示まであと2週間と言う極めて限られた時間しか有りませんが、この限られた時間で新たな「市民を説得できるプラン」を作り出すことが出来るか?の一点に、新幹線南びわこ駅建設の命運は掛かっていると言えます。



※「 TAKAの交通論の部屋 」トップページへ戻る





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください