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道 路 は 一 体 誰 の 物 か ?

−東京マラソンと交通規制−



TAKA  2007年02月18日



東京マラソンを走るランナー達@曙橋


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 陸上の長距離種目でも長距離を走る種目であるマラソン・駅伝・競歩等は、その種目の特殊性から良く道路に一部規制をかけた上で道路を用いて競技が行われています。
 其れは東京でも例外ではなく、今まで東京では毎年「 東京国際マラソン 」「 東京国際女子マラソン 」が第一京浜等の幹線道路に交通規制を掛けて行われていますし、正月の風物詩と言える「箱根駅伝」も都内の幹線道路複数に規制を掛けて行われています。
 この様に見れば「道路に規制を掛けてのマラソン大会・駅伝競技会」は珍しい物では有りませんが、今回東京で今までで最大規模の道路規制を掛けた上で3万人参加の巨大マラソン大会が行われます。それが2月18日開催の「 東京マラソン 」です。

 私自身は運動自体、自分で行うのは大嫌いですし殆ど見る事もしません。ですから「東京マラソン」と言われても何も興味が湧かず、日曜日は休日と考えていたので「交通規制は関係ない」と思っていましたが、急遽日曜日午前中に新宿富久町と新御徒町で仕事の打ち合わせが入り、そこで「東京マラソン」の交通規制が引っかかる事になり重大な影響を受ける事が明らかになりました。
 加えて交通総合フォーラムでエルアルコン様が「 「東京マラソン」の交通規制を考える 」と言う文を書かれていたので、折角なので様子を見ながら移動してみようと思い、朝早く出て仕事をこなしながら東京マラソンの交通規制の様子を靖国通り富久町〜曙橋間と浅草で様子を見てみることにしました。


 ☆ 午前9:00〜9:30 靖国通り(新宿区富久町〜曙橋) 

 今回良く調べてみると、最初の現場の富久町の現場は、車では一方通行の関係上靖国通りからしかは入れない場所に有る事が分かり、車で資材を搬入しないと何も仕事が出来ない「非常事態」に陥る事になってしまい急遽集合を早め7時に集合場所を出て8時前に靖国通りをとおり富久町現場に入ることにしました。
 警官・ガードマン・ボランティアが道路封鎖の準備をしている靖国通りを走り現場に到着し、作業の打ち合わせ・準備を進めた上用件が終わったので後は任せて次の新御徒町に移動しようと道路に出ると・・・。既に写真に有るように裏通りまで靖国通りへ車が入らない様にガードマンを配置して規制を掛けています。


  
左:現場前の小道路まで交通規制@富久町  右:通行規制を掛けられた靖国通り@富久町交差点

  
左:雨で疎らな沿道の観客@曙橋  右:雨の中を疾走する先頭ランナー@曙橋

 靖国通りへ出ると既に交通規制が掛けられて、靖国通りは完全通行止めになっています。その為この区間を走る都営バス白61系統も運休していて、この地域から新御徒町へいたる大江戸線の最寄り駅牛込柳町駅へのアクセス手段が徒歩しかなくなっています。仕方なく曙橋へ向けて雨の中トボトボと歩き出す事にしました。
 靖国通り沿いは完全に規制で封鎖されていて、未だスタートの時間前なのに歩行者の横断も横断しようとする人を警官が阻止して厚生年金会館前・成女学園前にある歩道橋へ数百m迂回する様に誘導されます。この様に歩行者の横断すら完全否定されるかなり厳格な規制が惹かれていますが、スタートすらしていない時間ですから歩行者の横断ぐらい柔軟な対応が必要では無いかと感じます。
 歩いて約15分強で曙橋に着くと疎らですが沿道に観客が集まっています。雨の中を歩かされたのですっかり冷えてしまい喫茶店で飲み物を飲んで一服着いていると先にスタートした車椅子マラソンの人たちが通過して行きます。「そろそろランナーが来るだろう」と思い外に出ると先導車が通過した後トップランナーが走ってきます。トップランナーの写真を取った後牛込柳町駅へ向かう為に外苑東通り歩道橋に上がると下をランナーが走っていきました。流石にスタート直後なので未だ差は付いていないようです。

  
左:交通規制で迂回させられる車@曙橋  右:靖国通り交通規制で唯一開放された南北交通路の外苑東通り

 曙橋周辺でもかなり厳しい交通規制がひかれていますが、其れほどの混乱は見られませんでした。東新宿方面から来た車は靖国通りに入れず若田方面に迂回させられていましたが、車の量が少ない事も有り混乱・渋滞は此処では見れませんでした。
 加えて曙橋には靖国通りを立体交差で越える数少ない南北交通の外苑東通りが走っています。しかし外苑東通りは何時も曙橋〜新目白通り間の片側1車線区間が有るために数少ない南北交通路と言う事も有り何時も混雑している道路です。
 今回も立体交差を生かして迂回路として開放されていて「この道路に通過交通が集中するだろう」と思いタクシーを待ちながら観察していましたが、拍子抜けするぐらい閑散としていて普通の日曜日より空いている位の感じでした。事前のアピールで自動車利用が控えられた効果なのか?雨による効果なのか?疑問ですが、どちらにしろ自動車通行量の減少のおかげで混雑・渋滞等の混乱は曙橋周辺では見られませんでした。


 ☆ 午前11:00頃 浅草雷門前

 曙橋で観察をした後、大江戸線で牛込柳町から新御徒町に移動した後、新御徒町で現場を見て打合せをした後今日の仕事は朝早く出た御蔭で早く終わったので、新御徒町から少し足を伸ばして折り返し点で観光地と言う事も有り人出が多いと予想される浅草雷門を覗いて見る事にしました。
 このときはかなり激しく雨が降っていたので、新御徒町からタクシーで取りあえず近づける所まで移動する事にしました。タクシ−に乗りワザと「銀座線浅草駅まで」と言うと運転手さんが、「今日はマラソンでね〜銀座線浅草駅は車で近づけないよ」と道路規制図を見ながら言いました。此方は分かっているので「行ける所までで良いよ」と言い国際通りで降ろして貰う事にしました。流石にタクシーの運転手さんは詳しい規制地図が配られているようです。只その詳しい規制の一般ドライバーへ配布はされていないのは問題だと思います。新聞への折込チラシとしてでも配れば規制の知名度は上がったと言えます。
 そういう訳でタクシーは国際通りで降りましたが、「浅草の繁華街」と言える国際通りも車の通行量は少なく、車だけではなく歩行者も少ない感じです。「雨」と言う天候が影響しているのかもしれませんが、人出が少ないのは天候が原因か?マラソンと知って人が避けたのか?良く分析する必要が有ると言えます。「マラソンに起因して人が避けた」のならマラソンの経済効果はマイナスと言う事になり成りかねません。

  
左:東京マラソン対応の交通規制  右:迂回路の国際通りの状況

  
左:浅草雷門前の見学客  右:地下鉄浅草駅前の歩道の雑踏

 国際通りから雷門の前を通り銀座線浅草駅を徒歩で目指す事にします。雷門はマラソンの折り返し点だけ有り雷門に繋がる道路は国際通り以東が完全に閉鎖されている状況で、実質的に浅草の内部へは車で入れなくなっています。
 雷門を目指してアーケードを歩くと雷門に近づくにつれて段々人出が増えてきます。途中の 葵丸進 で御土産兼晩御飯用にてんぷらを買い雷門前に達すると流石にマラソンコースに沿ってかなりの人だかりが出来ています。
 此処で「少しマラソンでも見よう」と思ったのですが、マラソンコース沿いに見学客が既に陣取っておりとても見える所まで近づく事はできません。なので残念ながら見学は諦めて家路に着く事にしました。帰宅のために銀座線浅草駅を目指しアーケード街を東に向いますが、この雷門〜銀座線浅草駅間のアーケード内は見学客と両方向に向う通過の歩行者が重なり合い激しい混雑で、警察官等が「通過の人は立ち止まらないで下さい」と拡声器を使い誘導しています。此処の車道は片側2車線ですが車道は「マラソンランナー専用」になっており、アーケードで雨よけも出来ることも有り見学客と歩行者が重なり合う状況になっています。此処が今回の私が見た東京マラソンの中で「唯一の混雑場所」でした。


 ☆ 公共交通(地下鉄)の利用状況は?

 この東京マラソンですが、走る範囲が東京都心全域と言う事・自動車系交通が大幅な制約を受ける事に加えて「コースの大部分が地下鉄の上」と言う事もあり、見学者や関係者の移動には地下鉄利用が非常に便利になっています。
 実際スタートの都庁前から飯田橋方面・浅草方面(蔵前)or浜松町方面(大門浜松町)に移動して2回見学するのなら大江戸線利用が、靖国通りに沿って移動なら都営新宿線が、浅草〜品川方面で南北に移動しながら見るのなら都営浅草線が浅草〜銀座間移動なら東京メトロ銀座線が便利で有ると言えます。
 (※余談だが、今回の東京マラソンは公式スポンサーに「東京メトロ」が入っていますが、マラソンコースの美味しい所は都営地下鉄が占めています。東京メトロの路線上を走るのは銀座線中央通りの上を通る位です。公式スポンサーをさておいて主催者の関係団体と言える都営地下鉄が美味しい所を占めるのは如何な物かと思うのですが・・・)
 今回偶々私の移動区間と公共交通を使っての移動ルートが上手く重なったので、私が利用した部分部分ですが公共交通の状況も合わせて見てみることにしました。

  
左:大江戸線車内@9:00頃牛込柳町  右:銀座線車内@11:30頃上野

 今回地下鉄の様子を見たのは大江戸線牛込柳町〜新御徒町間と銀座線浅草〜上野間でしたが、どちらも「日曜日」と言う基準で見ると「チョット混んでいるかな」とは思いますが、私の乗った車両はそんなに「混んでいる」とは言えない状況で有ったと言えます。
 元々空いている大江戸線北側の区間は、何時もより運んでいるな?と感じましたが比較的観光客利用の多い浅草線浅草〜上野間は普段と変わらない?位の状況で有ると言えます。只車内で明らかに「東京マラソン関係者」と分かるボランティアやメディア関係者の姿も見ましたし、観客と思われるグッズを持った人も多く見かけたので、「公共交通を利用して複数個所で観戦」と言う人も意外に多かったのかもしれません。

 ☆ 果たして道路は誰の物か?〜公共交通と自動車・歩行者通行を締め出してのマラソン大会は正しいのか?〜

 この様に「雨」の影響も有ったのか?観客も思ったより少なく私が見た範囲では大きな混乱も無く実施されたと言える東京マラソンですが、「都心を実質数時間以上道路封鎖した上でのマラソン大会」と言うのは果たして正しい事なのでしょうか?
 少なくとも私の見た限り&(原稿を書いている段階で)話を聞く限りは、大きな混乱は無かったとの事なので、少なくとも「交通規制」と言う点では東京マラソンは成功で有ったと言えます。正直言えば「2月の雨の日曜日」と言う事も有ったのでしょうが、渋滞・混雑・混乱無く道路規制が出来たことに関しては他への応用と言う点からも成功事例と言う事ができるでしょう。
 しかし問題は「社会の公器」である都道・国道を長時間に渡り封鎖し、バス等の地域の足と言える公共交通も止めて、歩行者の横断も厳格に禁止し歩道橋や地下鉄駅に誘導して地域を分断し、地域や都民に多大な負担を掛けて「3万人のマラソンランナー」と言う少数の人の為に公道を使い公共性の低いイベントを開催する事が正しいのか?と言う根本に関する問題が有ります。

  
左:バスの来ない花園町バス停  右:バス休止の案内

 正直私自身が「東京マラソンの為に車は使えずバスが運休でタクシーも来ないので雨の中歩かされてびしょ濡れになった」と言う犠牲を払っている為に、極めて辛口の評価になっているという点は現実問題として有りますが、私が見た限り「通過前まで誘導の上横断歩行者を通す」と言う様な「柔軟な対応」と言う事は行われず、完全に「都民の犠牲の上に行われたマラソン大会」と言う事は非常に問題が有ると言えます。
 道路自体は公共性の極めて高い「社会の公器」です。その道路で何かをする場合、例えば公共性の高い工事であれども実際に道路使用許可を得るのに「夜間・休日でないとNO」と言う例は多々有ります。其れこそ「全面封鎖」となったら簡単には許可は下りません。幾らその工事の公共性が高くても「道路通行の公共性はそれ以上」と言う事が根底に有るからこそ、その様な道路使用許可の制約を甘んじて受け入れています。
 確かにエルアルコン様が言われる様に「イベントとして見ても、健康的であり、無碍に否定することはそれこそ野暮」であるのは確かにその通りですし、今のところの報道では比較的好意的な報道に終始していますし、石原都政の目玉としての「オリンピック招致」と言う名分が有るので一概に反対をする事は憚れる状況です。しかも「大幅な混乱無く成功」した以上尚更で有ると言えます。
 しかし未だ観客数等の発表は無いですが、見た感じ比較的観客数が少なかったのも、都心の人・車の流動が少なかったのも、「最高気温が2月最低でしかも雨」と言う悪天候の影響が大きかった事は間違い有りません。これが気温は一桁でも晴天の場合観客も多かったでしょうし、地域内・地域間での徒歩等の人の移動や都心へ買い物等で動いた人も多かったのではないか?と思います。2回目以降もし晴天にぶつかった場合、今回のように混乱無く上手く成功するかは正直言って疑問で有ると思います。

 今回は初回と言う事も有り未だ「様子見」とか「歓迎ムード」と言う側面が強いと言えますが、今回の成功が将来に渡る成功の保証にならない事は間違いありません。特に交通を封鎖する事での弊害は今回は大きく問題になっては居ませんが、将来に関してもずっと引きずる問題・課題で有ると言えます。今回の大会では「公共性の高い道路を長時間塞いでマラソン大会を開く事」に対して未だに社会で合意が成立しているとは残念ながら思いえません。
 この様なマラソン大会は「競技会」と言うよりかは「イベント」と言う側面が強いもので有る事は間違い有りません。先頭集団こそ「マラソン」に相応しい走りで有るとは言えますが、それ以外は仮装で走っていたりしており「マラソン大会」と言うよりは「巨大ジョギング会」や「早足仮装行列」と言う方が正しいのかもしれません。その様な大会を開く必要が有るのか?文化的意義だけでなく「経済的効果」や「経済的損失」等の経済的側面や「道路の封鎖」による地域分断や公共交通断絶等のデメリットを総合的に考え、今後の第二回の東京マラソンに向けて検討しなければならないとも居ます。





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