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東京の地下鉄を一元化する必要性は有るのか?
−猪瀬直樹都副知事の「都営地下鉄と東京メトロの一元化論」について考える−
TAKA 2007年11月07日
日本には地下鉄が有る都市は沢山有ります。「東京・大阪・名古屋・横浜・札幌・仙台・京都・神戸・福岡」日本にはこの9都市に地下鉄が有りますが、この中で東京・神戸の二都市だけが公営事業者でない事業者が運営する地下鉄(東京メトロ・神戸高速鉄道)が有り、公営事業者とそれ以外の事業者の路線が並立している珍しい都市であるといえます。
実際地下鉄の建設に関してはキロ当たり150〜300億円という莫大な建設費がかかる事業で、しかも「都市交通の根幹」という公共生の高い事業という事も有り、基本的には公営事業者のより地下鉄事業は営まれています。実際複数事業者が並立している東京・神戸に関しても、公営事業者以外の事業者が国と東京都が出資者の営団地下鉄と神戸市が旗振り役で出来た神戸市が筆頭株主の第三セクター神戸高速鉄道という状況では、実質的に「日本の地下鉄はすべてが公営事業者で行われている」といっても過言では有りません。
まして地下鉄建設の場合、
地下高速鉄道整備事業費補助
という名目で公営事業者・準公営事業者(営団・第三セクター)に対して「資本費補助として補助対象建設費の70%を国と地方公共団体が1/2ずつ補助」されるという「手厚い補助」が有る為に、極めて高い建設費と相まって「公営事業者で補助を貰わなければ成立しない」という状況になっています。
その様な状況に今風穴が空いています。それは東京で「国53.4%・都46.6%」が株を持っている帝都高速度交通営団が2004年4月1日に東京メトロ株式会社に特殊会社化され、将来は株式売却・民営化を目指す趣旨が
東京地下鉄株式会社法
附則第二条で示されており、しかも07年10月には「2009年の東京メトロ株上場時」には国の持分の全部売却を検討しているとの報道が流され、「日本唯一といえる民営都市地下鉄会社」が現実になろうとしています。
しかしその「日本唯一といえる民営都市地下鉄会社」東京メトロの先行きに一つの暗雲が漂い始めました。東京メトロの前進の帝都高速度交通営団時代から繰り返されている「営団地下鉄と都営地下鉄の一元化問題」に、石原東京都知事の肝いりで副知事に就任した猪瀬直樹氏が発言をするようになりました。(発言内容は下記参考資料を参照下さい)
猪瀬直樹氏は小泉内閣時の「道路公団民営化」問題で道路関係四公団民営化推進委員会委員として、良い悪いは別にして道路公団民営化に関して旗振り役を勤めた人物であり、特殊法人の廃止・民営化や地方分権改革などをライフワークとしてきた人です。その人が此の頃「
地下鉄は旧営団地下鉄が東京メトロになったけど、都民から見れば都営地下鉄と一元化していくべき。とりあえずは乗り換えの部分の二度払いを安くするところから始まっているけれど、もう少し一元化できるはずだし、同じ会社にしてもいい。
」(10/10・11 建設ニュース: 【東京】猪瀬直樹都副知事に聞く )という趣旨の発言を色々な所でする様になりました。
この問題東京に地下鉄が出来た時から有る問題で「古くて新しい問題」ですが、東京の都市交通に取って非常に重要な問題であるといえます。果たして東京メトロと都営地下鉄は本当に一元化するのが好ましいのでしょうか?今回は「古くて新しい」この問題にいて考えてみたいと思います。
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「参考資料」
nikkei BPnet 連載・コラム
猪瀬直樹の「眼からウロコ」
(第四回)
都営地下鉄と東京メトロの一体化・24時間運行を考える
(第十四回)
都営地下鉄と東京メトロの一元化を改めて考える
「参考文献」
・営団地下鉄五十年史(平成3年7月発行)
・鉄道ピクトリアル 95年7月増刊号帝都高速度交通営団 01年7月増刊号東京都営地下鉄 05年3月増刊号東京地下鉄
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(1)過去の東京メトロ(営団地下鉄)と東京都の「地下鉄一元化」をめぐる歴史
日本で最初に地下鉄の出来た都市は東京です。言うまでも無く日本の最初の地下鉄は昭和2年に早川徳次氏が設立した東京地下鉄道が開業させた浅草〜上野間でしたが、日本で最初に開業した地下鉄は純民間企業である東京地下鉄道が造ったのです。つまり東京の地下鉄の起源は「民間事業者による努力」により造られたのです。
実際明治〜昭和期に関して、特に東京・大阪・名古屋等の大都市では「都市公共交通は公営で有るべきだ」という「
市営モンロー主義
」が主流となっており、明治〜昭和期にかけて路面電車・バスを中心とした都心部の公共交通で民営事業者が運営していた物を自治体が買い上げて市営にしています。実際東京でも明治44年に企業合同により設立された東京鉄道が東京市に買収され市営化が実現しています。(この時買収費用に外債を募集しその外債が昭和14年3月時点で6996万円有った。この買収にかなりの費用がかかった事は間違いない)
しかし路面電車に関しては市営化を行った東京市ですが、地下鉄に関しては「資金難」がネックとなり明治36年に高速鉄道網7路線・大正9年同改定・大正14年に東京都市計画高速度交通機関路線網の制定を行っていますが実現させる事が出来ず、最終的にその計画の一部の実現を早川徳次氏の東京地下鉄道に委ねる事になります。実際東京市の財政状況はかなり苦しかった様で早川徳次氏の東京地下鉄道が後藤新平東京市長に新株引き受けを懇願していますが「財政上の余裕がない」と断っています。加えて東京都市計画高速度交通機関路線網で計画された5路線の内東京地下鉄道が工事を進めた1路線を除く4路線の免許を東京市が取得しますが、財政状況上工事に着手できず最終的に昭和3年東京高速鉄道に「将来東京地下鉄道と合併する・東京市が買収を提案した場合は何時でも応じる」と言う前提付で東京市の免許(65.7km中約40km残りは帝都高速度交通営団に30万円出昭和16年に譲渡)が東京高速鉄道に譲渡されます。
つまりこの段階で一度は「条件付で東京の地下鉄は民営で行う」事を容認します。此れが将来東京市・都が「地下鉄の一元化」を主張するたびに足枷になります。その後東京地下鉄道・東京高速鉄道は早川徳次氏と五島慶太氏の抗争を経て合併し、その後
陸上交通事業調整法
に基づく交通統合により帝都高速度交通営団法に基づく帝都高速度交通営団が国・東京市・民鉄各社出資の特殊法人という形で設立されます。これにより東京の地下鉄は設立期から発展期に入って行きます。
帝都高速度交通営団設立後直ぐに始まった太平洋戦争戦中・戦後の混乱期を経て、今度は戦後になると東京都は又「地下鉄の都営化」を目指して懲りずに動き出す事になります。実際昭和21年にGHQが戦時統制機関の解散を命令した時に(これ営団地下鉄が戦争遂行目的の物ではないという事で解散は免れる)東京都が「交通調整の見直しの一環として地下鉄の都営化、その第一段階としての営団運営の地下鉄道の都への移管」を主張し、都議会で意見書を決議しGHQ軍政部に陳情し都選出の国会議員による「営団廃止法案の議会への提出」間で図ろうとします。しかし最終的に運輸省の設置した「地下鉄問題協議会」で運輸大臣が都営化に反対し、この時の営団地下鉄都営化は挫折します。
その後昭和20年代半ばになると今度は山の手線外周部で止められていた民鉄各社が路線と都心に伸ばす為に都心への地下鉄建設の免許を出願してきます。その中で調整及び都市交通の見直しの為に都市交通審議会を設置しますが此処でも議論百出になり昭和31年2月には又東京都が独自の地下高速鉄道3路線50.6kmの計画を立て特許を出願します。この都市交通審議会では最終的に昭和31年8月に第一次答申を纏め、此処で「地下鉄と郊外私鉄・国鉄との相互直通」「地下高速鉄道建設は整備主体は営団を主とするが早期整備の為資金調達面で競合しない複数の経営主体とする事もやむを得ない」という今の東京の地下鉄網の根幹を決める答申がなされ、此れにより東京都が参入する事も「やむを得ない」と消極的に認められる事となり、その後「1号線(浅草線)は東京都が建設・2号線(日比谷線)は営団が建設」という事が決まり、営団から免許の譲渡を受けた上東京都が正式に地下鉄に参入する事になります。
都市交通審議会一号答申で地下鉄参入の道が開かれた東京都ですが、その後も事有るごとに「地下鉄一元化」を主張します。実際に昭和58年に出来た臨時行政改革推進審議会(行革審)で営団地下鉄に関して議論を行い、その審議中に東京都から「営団への国鉄出資分の引受けによる経営一元化」を表明しますが、個別法人に対する意見具申で「特殊会社改組後の出来るだけ早い完全民営化」「一元化論は適当で無く都営地下鉄の合理化努力を見て検討すべき」と否定され、最終的には「利用者利便の向上を図るため、都営地下鉄との間で総合的な情報案内の実施、乗り継ぎの円滑化等のサービスの一体化を推進する」という「サービスの一体化」のみが示され、ここでも「都営地下鉄への一元化」は否定された事になります。
この様に東京都は何度も「都営地下鉄への一元化」を主張してきますが、ことごとく却下されてきています。それはやはり最初の経緯が大きく影響して居るのは間違い有りません。実際都営地下鉄一元化への「最大のチャンス」と言えた昭和21年の地下鉄問題協議会設立時の議論で運輸大臣が都営案に反対の説明の中で「都の免許権が長期にわたって放置され、その一部を会社に譲渡せざるを得なかった過去の事情もあること」と明言しているように、戦前の時代に地下鉄網建設の為に免許を持ちながら民間企業が地下鉄路線を作りながら何も出来ずに東京高速鉄道に譲渡したのが大きなマイナスになっていたのです。その用な過去の経緯も有りしかも新規参入の都営地下鉄は経営状況が悪く営団よりサービスも悪く運賃も高い状況で有り、「内容やサービスの悪い方への一元化は好ましくない」と誰もが考えるようになり都営地下鉄への一元化は見送られてきたのです。
その様に見ると今回の猪瀬副知事の「都営地下鉄と東京メトロの一元化」という話は、「誰が運営主体になるのか?」という問題が有るにしても(今までは「都営地下鉄主体」が明言されていたが、今回はそれが明言されて居ない)それ以外の「東京の地下鉄を一元化する」という事に関しては、大正時代から繰り返されてきた議論(というか東京都の願望)が蒸し返されたに過ぎません。そう言う意味では繰り返されてきた「歴史」なのです。
(2)猪瀬副知事主張の「都営地下鉄と東京メトロの一元化」論の基本的な考え方は?
では上記の様な歴史を辿って東京に地下鉄が出来てからずっと繰り返されてきている「東京の地下鉄一元化」という議論であり、今回猪瀬副知事が提言を行ったのは「一体何回目になる事やら?」という状況なのですが、果たして猪瀬副知事の提言は果たしてどんな「東京都営地下鉄と東京メトロの一元化構想」なのでしょうか?先ずは猪瀬副知事の考えをnikkei BPnetの「猪瀬直樹の「眼からウロコ」」での発言をを基に分析してみたいと思います。
nikkei BPnetの猪瀬直樹の「眼からウロコ」では2回「一元化構想」について述べて居ますが、特に第十四回の「都営地下鉄と東京メトロの一元化を改めて考える」ではかなり突っ込んで書いています。先ずはこの中から猪瀬副知事の考え方を抜粋してまとめて見ましょう。
(猪瀬副知事の「一元化論」への基本的な考え方)
●2006年度に都営地下鉄が初の経常黒字を計上した。そもそも都営地下鉄は1960年開業の後発で東京メトロに比べると都心中心部を走る路線がすくなく郊外に向かう路線が多い。2000年12月の大江戸線全線開通によって、都心中心部に初めて食い込んだ。この大江戸線の好調が黒字の大きな要因。
●都営地下鉄には1兆837億円の借金がある。これは2006年度の営業収益1244億円の8.7倍。東京メトロの2006年度現在の借金は7875億円。これは2006年度の営業収益3307億円の2.4倍にすぎない。東京メトロの路線の多くは建築年代が古いため、償却済みの資産の割合も高い。また1日あたりの平均輸送人員が100万人を超える路線を5つも抱えており収益性が高い。東京メトロは超優良会社で黒字になるのはあたり前
●地下鉄のインフラは、国と東京都がつくってきたと言っても過言ではない。その税金を投入して築きあげてきた資産を、民営化の名の下に東京メトロが独り占めするのは「持ち逃げ」と一緒だ。営団地下鉄の民営化は、都営地下鉄との一元化と同時に実現するべきだった。現在の東京メトロの持ち株比率は国53.4%:東京都が46.6%。これを背景に、東京都がステークホルダーとして、都営地下鉄と営団地下鉄の合併の主導権を握るべきだった。
●都営地下鉄と東京メトロを一元化させた場合に生まれる、消費者の具体的なメリットがある。東京メトロの初乗り料金は160円であり、東京メトロ同士を乗り継いだ場合も距離が増えた分だけ払えばいいが、都営線に乗り換えると都営線の初乗り料金170円が新たにかかる。乗り継ぎの合計料金から70円は割り引かれるが二重払いしている。これを解消できる。加えて都営地下鉄は運賃の上昇率が高い。初乗りの金額は東京メトロ160円:都営地下鉄170円で10円しか違わないが、10キロ圏の料金は東京メトロは190円:都営地下鉄では260円と差が広がる。収益率の低い都営地下鉄は、ドル箱路線を多く抱える東京メトロに比べて、料金設定を高めにしているが、一元化すればこれも解消できる。
●今後、東京都は国と戦うことになるだろう。東京メトロと都営地下鉄が合併しないとニーズに応えられない。それを実現するためにも一定の株式は保有しつづける。東京都が持っている株式を売るか売らないかは、こちらに決める自由がある。一元化のために、筆頭株主という立場をできるだけ有効に使う。
※nikkei BPnetの猪瀬直樹の「眼からウロコ」(第十四回)
都営地下鉄と東京メトロの一元化を改めて考える
より要約抜粋。
この様に見ると猪瀬副知事の考え方は、確かに「利用者の視点」という視点と「国が上場時に株を売却すればとが筆頭株主になる。この「株の力」を利用して一元化を図る」という手法に関しては、確かに「今流行の手法」であり「今の時代に受ける考え方」で有るといえます。その点から見れば状況が違う事も有りますが、今までの「一元化論」とはチョット違う考え方で有るといえます。
しかし基本的な点では、1960年に都営地下鉄が出来る事が事実上決定してから時々発生する「東京メトロと都営地下鉄の一元化」の議論の理論の根本で有る、「一元化による東京メトロと都営地下鉄間に有る収益力の差の是正」「一元化による別事業主体の存在による二重運賃体系の是正」という一元化に関する議論の基本ロジックは、今回の猪瀬副知事の発言でも残念ながら全く変わって居ません。
要は東京都営地下鉄(及びその母体の東京都)にしてみれば、「基本的に赤字体質でお荷物の東京都営地下鉄は何とかしたい」→「しかし都心部の公共交通の主導権は東京都が握っていたい」→「東京メトロが民営化・上場される時に筆頭株主の国が全株を放出する」→「それにより自動的に東京都が筆頭株主になる」→「これはチャンスだ。東京メトロと都営地下鉄を一元化させてしまおう」→「そうすれば都内全地下鉄の支配権は握れるし、お荷物の都営地下鉄が収益を都にもたらす存在になる」という流れで、今回の一元化論は出てきたと考えて多分間違いないでしょう。基本的に猪瀬副知事の一元化論は、過去の一元化論の基本ロジックを基に「現代風にアレンジした」物に過ぎないといえます。
(3)猪瀬副知事主張の「都営地下鉄と東京メトロの一元化」は本当に正しいのか?
ではこの様な「使い古された一元化論」ともいえる猪瀬副知事の「都営地下鉄と東京メトロの一元化」は本当に正しいのでしょうか?必要なのでしょうか?私はNOで有るといえます。
確かに今回の一元化論を打ち出した「時期」だけで考えれば、今までの一元化論・都営化論勃発の時期を考えると、今回の「国のメトロ株放出による都の筆頭株主化」というのは、戦後すぐに「GHQによる各営団解体」が打ち出された時に都有化を狙ったのと同じ位、「優位に立った時期」という点で良いタイミングで有る事は間違い有りません。その様な「時期」という視点で見れば今回の議論は期に適っているといえます。
今回の一元化論の要は「国が株を売れば都がメトロの筆頭株主になる」という点です。しかし先ず根本論として、確かに石原都知事・猪瀬副知事がいっている「東京都が持っている株式を売るか売らないかは、こちらに決める自由がある。」という考え方、確かに一理あるように聞こえますが、必ずしもそうでは有りません。
東京メトロの会社の内容を規定した「
東京地下鉄株式会社法
」の附則第二条には「国及び附則第十一条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法(平成十三年法律第五十八号)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする。」と書かれています。ここでいう「附則第十一条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体」とは附則第十一条で「営団が出資によって取得する会社の株式は、会社の成立の時に、政府及び営団に出資している地方公共団体に、営団への出資の金額の営団の出資の総額に対する割合に応じて、無償譲渡されるものとする。」という事から営団に出資していた自治体という事になり、営団に出資していた自治体は東京都しか有りません。ですから東京都はこの東京地下鉄株式会社法附則第二条の縛りを受ける事になります。
この条文には「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と明記されている以上。国及び東京都は速やかに特殊会社根拠法である東京地下鉄株式会社法の廃止(要は上場による一般会社化)を目指さなければなりませんし、その為の必要な措置として株式売却を速やかに行わなければなりません。
ましてもう片方でしかも上位の当事者である国が「2009年の東京メトロ株上場時には持分の全部売却を検討」している以上、法の趣旨から鑑みて見れば、この時に東京都が必要な措置として「保有する株式の売却をしなければならない」というのは否定できない事実で有るといえます。此処から考えれば石原都知事・猪瀬副知事のいう様な「株式を売るか売らないかは、こちらに決める自由がある。」というのは東京地下鉄株式会社法に違反している事は明白です。
要は東京地下鉄株式会社法附則第二条が有る中で、「国が上場時に全株売却する」と表明した段階で猪瀬副知事の考える「東京メトロの保有株を梃子にして東京メトロ・都営地下鉄の一元化を図る」という戦略は破綻する事になりますし、東京地下鉄株式会社法に違反する事になります。この事から先ず「猪瀬副知事の発言・考え方は正しくない」といえます。
まして一元化論の理由の一つである「東京メトロと都営地下鉄の借金量の差・収益力の差」という点では、確かに東京メトロの方が優秀で、
開業以来47年今年始めて黒字に転じた都営地下鉄
に比べてその収益力は際立っているといえます。しかしその収益力の差は確かに「路線の差」も有るのは否定しませんが、その努力は主に「経営努力の差」で有るといえます。
確かに今では東京の都心の西への移動に起因してメトロの路線の筋・直通先が優位になり、それで東京メトロと都営地下鉄の収益力に差が出来たともいえます。けれども当初の東京メトロと都営地下鉄の路線分担決定に際して、メトロの2号線(日比谷線)建設に対して、長い間の東京の都市軸浅草〜上野〜神田〜日本橋〜銀座〜新橋という銀座線ルート&都電1系統ルートに準並行の1号線を割り振られた事を考えると、必ずしもあの時点では冷遇されていた訳ではないといえます。路線網で収益力に差が出たのは事実ですが、それは「後からの言い訳」ともいえるでしょう。
加えてコスト要因の建設費負担では昭和35年の都営地下鉄の浅草線押上〜浅草橋間開業後、都営地下鉄は4路線109kmを建設したのに対し、東京メトロは6路線+丸の内線新宿〜荻窪間・中野坂上〜方南町間計155.5kmを建設しています。その点では東京メトロの方が長い路線を建設しており、その建設費総額は当然東京メトロの方が都営地下鉄より大きくなります。地下鉄建設に与えられた補助である「
地下高速鉄道整備事業費補助
」は東京メトロと都営地下鉄で差が有った訳では有りません。その状況で建設費を償還して東京都の借金残高1兆837億円に対して、借金を7875億円まで減らしたのは東京メトロの経営努力といえるでしょう。
その様な状況下で、自分の経営努力を棚に上げて猪瀬副知事の言う「営団地下鉄は大して借金もない。多額の借金を抱える都営地下鉄を抱き合わせで民営化するべきだったのだ。」等という事を実施するという事は、今までの都営地下鉄に対する経営の失敗を全部東京メトロに押し付けて東京メトロの収益力で(実質的に都の借金である)都営地下鉄の建設費を償還させるという、極めて虫の良い事を認める事になります。この様な事が正しいでしょうか?許せるでしょうか?
私は『NO』であると声を大にして言いたいです!。この様な考えで収益力が弱くて借金の多い都営地下鉄を東京メトロと合併させて救うという事は、今都交通局が行っている合理化のための経営改善計画「
新チャレンジ2007
」の努力を否定する事になります。この考え方は「百害有って一利無し」ですし、極めて安直な考え方であるといえます。
(4)では如何すれば都民・国民の利益に適う「東京の地下鉄」を構築する事が出来るのか?
では今後の東京の地下鉄交通はどのような方向に導けばいいのでしょうか?それに関しては猪瀬副知事が問題として取り上げている「メトロと都営二重に存在する運賃体系」の問題を何とかしなければなりません。
確かに運営主体毎に運賃を設置している現状では東京メトロ⇔都営地下鉄で別事業者間で乗り換えれば二重に初乗り運賃が掛かります。此処に70円の割引制度が有るといえども、確かに猪瀬副知事がいうように「利用者は、改札を通るたびに負担を強いられる」という状況が存在しているのは事実です。
しかしこの制度、唯一絶対の解決法が「経営の一元化」にという訳では有りません。別に今の経営形態のままで解決する方法は有ります。それこそ「
共通運賃制度
」です。一般的に共通運賃制度は「
都市内の公共交通機関を、運行会社に関係なく、全て共通の料金制度で運営する制度
」で、ドイツ・オランダなどの欧州各国では既に実用化されている制度です。
本来ならばこれだけ地下鉄各線と民鉄・JRが直通運転している状況ですから、東京圏全体での「共通運賃制度」を考えても良い時期なのかもしれませんが、流石に其処まで三段跳びで飛び越す事は出来ないでしょう。そうなると先ず第一歩で「東京メトロ⇔都営地下鉄間で共通運賃を始める」という方策が一番現実的です。そうすれば「運賃体系が別々で地下鉄間で乗り換えても運営主体が違うと2回初乗り料金が取られる」という矛盾が解消され、猪瀬副知事のいう「経営主体一元化」を行わなくても「運賃の一元化」を行う事が出来ます。
しかも今は東京圏の各事業者間でSuica・PASMOと言うICカードの決済システムという各社間での情報を交換する基盤が有り、加えて地下鉄の全駅には自動改札が有りある程度確実に「利用者がどの様な経路を利用したか?」を把握できるインフラ基盤が存在します。このインフラ基盤を利用すれば「事業者の決意」さえあれば「共通運賃制度」は決して難しく有りません。確かに東京ではJR・2つの地下鉄・複数の大手民鉄等、経営状況の異なる多数の事業者が存在しているために共通運賃制度の土俵に多数の会社を載せる事は一筋縄では行かないでしょうか、その「共通運賃制度」の魁として東京メトロと都営地下鉄がPASMO&Suicaシステムに載り、後からJR・大手民鉄も参入できる様な共通運賃制度を導入するのであれば、「地下鉄一元化」による経営主体一元化による運賃統一より大きな効果が有るといえます。
折角「利用者の為」と言う大義名分を掲げるのであれば、この辺りまで大きな「志」を掲げるべきでしょう。そうでないと「都営地下鉄救済の為の地下鉄一元化」という姑息な一元化にしか見えなくなってしまいます。
又都営地下鉄の経営問題に関して、収益力の高い東京メトロと合併すればその収益力で都営地下鉄の債務を返済する事が出来て、東京都の財務を毀損する事無く1兆円を越える借金を返済する事が出来ます。明治44年の東京鉄道買収時以来の東京市・東京都の交通事業は「借金返済の歴史」といえます。東京鉄道買収による路面電車市有化時は巨額の外債で資金を調達しており、それが後々まで足枷となった前科が有ります。その点から「メトロとの合併による借金返済」は都民から見ると「都財政からのスピンオフ」という点で魅力的です。
しかしこれでは「都営地下鉄の抱える根本問題」を解消する事は出来ません。要は都営地下鉄は収益力が劣っていて生産性が悪いという現実は、都主導による収益力の高い東京メトロとの合併でメトロの収益力の中に隠されてしまいます。これでは折角黒字体質になり少しずつでも借金を返せるようになった東京都交通局の努力を無駄にする事になりかねません。そう考えると「無駄をなくす」為にも今の段階で合併する事は「トータルでの社会の効率性」という側面から見て避けるべきであるといえます。少なくとも当分の間は今の態勢を続けて「黒字が恒常化するような都営地下鉄の体制」を作り上げる事が非常に重要で有るといえます。
ですから都営地下鉄の経営に関しては、「無策」といわれるかもしれませんが、現状が「良い方向に向いている」以上現在の状況で「今の方向からずれない」様に遠巻きに監視すべきといえます。それが都営地下鉄に対する最上の方策といえます。
けれども確かに猪瀬副知事のいう様に「東京都が東京メトロに一定の影響力・発言力を保持する」事は必要であるといえます。
実際一定の発言力・影響力を維持する事が出来れば、上記の「共通運賃制度」実現に対しても、影響力を行使できる可能性が有ります。これは推測ですが、高等戦術として今回の「一元化議論」の最終的落とし所を「共通運賃制度」に見据えて、敢えてハードルの高い一元化について議論を巻き起こしているのである「可能性」も否定できません。その様な「確信犯」で有れば「一元化議論を引き起こす」という手法は否定はしませんし、その為に「東京メトロに睨みを聞かせる為に一定数の株を保有し続ける」というので有れば、東京地下鉄株式会社法附則第二条の趣旨に反して東京メトロ株を保有する意味は有ります。
その様に基本的には「東京メトロと都営地下鉄の一元化」は今の段階で必ずしも必要な物では有りません。別に一元化をしなくても猪瀬副知事のいう「一元化の恩恵」の大部分を都民にもたらす事は可能であるといえます。一元化しなくても同じ恩恵をもたらせるのであれば、東京メトロ上場時に国・都の株を市場に放出し売却益を一般財源や都営地下鉄の借金繰上げ返済に投じた方が全体のメリットは大きいといえます。
ですから東京の都市交通の根幹を支える一つである東京メトロに関して、東京都は「ある一定数の株を保有」する事で「共通運賃制度」等の都民のメリットになる都営地下鉄と東京メトロの協力関係構築に影響力を与えつつ、それ以上の株は売却し売却益(数百億円規模になるのか?)は都営地下鉄債務の繰上げ返済に投じて都営地下鉄の経営に恩恵を与えるという「二正面作戦」で行う事が、今の段階で考えられる「都民に最大のメリットを与えられるシナリオ」であると思います。
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この様に、今回猪瀬副知事の議論を基にして、東京メトロと都営地下鉄の「一元化問題」を取り上げ私なりに分析してみましたが、必ずしも「一元化」は必要ないという事が出来ます。
確かに昔から「運営主体の二元化」による運賃の弊害等々の問題点は指摘されてきました。しかし今まで「70円の乗り継ぎ割り引き」等の一定の問題緩和措置は講じられてきましたが、根本の部分で意識しての問題解決を図る動きは、「掛け声」では存在しても「動き」は殆どありませんでした。だから今まで「定期的周期」で「一元化議論」が起きてきたのです。
しかし今や合併等による一元化を行わなくても、今まであった「二元運営による弊害」は解消できる目処は立ちつつあるといえます。その最大の功労者はパスネット・PASMO等の「共通カード」による運賃の擬似一元化で有るといえます。此の頃では自動改札に「タッチでピッと1秒」という動作で簡単に運賃が払え、しかもPASMOオートチャージを持って居ると「運賃を払った」認識が無い状態で改札を通る事が出来ます。これは実際には今までと同じ運賃を払ってはいますが、感覚的には「幾ら運賃を払ったのか分からない」状況になってしまい、必然的に(地上を走って居ると会社を認識しても)地下鉄であると「こっちがメトロであっちが都営」という区別は付きづらくなっています。
又一部分では東京メトロと都営地下鉄による協業も行われています。
東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線白金高輪〜目黒間
では「一つの線路を東京地下鉄が第一種鉄道事業者、東京都交通局が第二種鉄道事業者として共用」して、運賃も「目黒駅〜白金高輪駅〜麻布十番駅以遠→東京メトロの定める運賃による。目黒駅〜白金高輪駅〜三田駅以遠→都営地下鉄の定める運賃による。目黒駅〜白金高輪駅相互間の場合→東京メトロ・都営地下鉄のうち利用者に有利な扱いをする特定区間、現行ではより低額な東京メトロの運賃を適用。」という特殊な形態で運行されています。これは無駄なく路線を上手くシェアした好例で有り、「別に一元化しなくても上手く協調関係が組める例」であるといえます。
この様に見れば東京メトロと都営地下鉄の現業間でのハードルは確実に下がってきており、それは利用者も「恩恵」として感じている点といえます。この様な状況で本当に「地下鉄一元化」は必要なのでしょうか?私は改めて「NO」で有ると思います。今や済し崩し的に擬似一元化が東京メトロ・都営地下鉄だけで無く乗り入れ先各社との間でも進んでいて、昭和の時代に行われていた「一元化議論」は今や段々意味を成さない状況になりつつ有ります。ですから今では「強引な一元化」よりかは「共通運賃制度時実現等の利用者により恩恵の大きい現実的な対応」の方が意味が有るといえます。
ですから都政の実質的NO2である猪瀬副知事には、「目立つワンフレーズポリティックス」といえる「地下鉄一元化」よりかも、より利用者の視点に立った政策で現実的な「共通運賃制度」等の実現等に力を注いで頂いた方が都民の為になるといえます。今や「パフォーマンス政治」は不要で「生活に根付いた政治」が必要な時代なのです。ですから猪瀬副知事にはその様な視点から「東京の都市交通」について考えていただく事が、本当の意味で「都民のためになる政治」ではないかと考えますが如何でしょうか?
※「
TAKAの交通論の部屋
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