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「駅ナカ店舗」は利用者の利便性向上にどの様に寄与するのか!?
−ecute立川の開業で面目を一新した立川駅を見る−
TAKA 2007年12月21日
※「参考サイト」 ・
JR東日本ステーションリテイリング HP
・
ecute立川 HP
・
JR東日本中期経営計画「ニューフロンティア21」「ステーションルネッサンス」
※「参考文献」 ・ecute物語 著者:鎌田由美子+社員一同
今色々な所で「駅ナカ」がブームで、色々な形態・規模で色々な所で展開されて居ますが、その成功の象徴とも言えるのが、JR東日本の子会社「JR東日本ステーションリテイリング」が首都圏近郊のJR駅で展開している、「ecute」でしょう。
過去に弊サイト「
TAKAの交通論の部屋
」でも「
JR東日本の「駅ナカビジネス」を見る
」などで取りあげて居ます。この様な「駅ナカに店舗を作る」という事自体はJR東日本社内だけで見ても、色々な所で色々な形態・規模で行われているのですが、その規模・統一的なセンス等で考えると、やはり「ecute」ブランドでJR東日本ステーションリテイリングが行っている駅ナカビジネス事業がレベル的には「頭一つ」飛び指しているといえます。
その「ecute」に関しては、当初から「大宮・品川・立川の3駅で整備する」という事がアナウンスされていましたが、今回その「ecute3部作の3作目」といえるecute立川が10月5日にオープンしました。立川駅自体は「私が(何故か)一番利用するJR駅」であり、その様な利用頻度の多い駅に便利な駅ナカ店舗が出来たという事自体非常に注目する事ですし、ルミネ・グランデュオという2つのJR系商業施設が駅の南北に並立している中での「第三の商業施設」がどのような形になるか?今回注目しつつ興味半分で見てみる事にしました。
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☆ 大宮・品川に続く「第三のecute」ecute立川の概要
立川は立川基地跡地開発を核として近年開発が進み、今や「多摩地区の核都市」といえる規模まで発展した都市です。実際駅前にはJR系のルミネ・グランデュオという駅ビルが南北に有り、加えて伊勢丹・高島屋という大型百貨店の店舗が、再開発に伴い北口に大型新店舗に改装して展開しており、その他にもビックカメラ等の専門大店や幾つかの地元系商業施設があるなど、多摩地区有数の商業集積を持って居ます。
又立川の街の中核に位置する立川駅は鉄道駅として見ても、JR中央線・青梅線・南武線に加えて多摩年モノレールが乗入れており、東京を東西に貫く大動脈であるJR中央線の中でも、乗降人数で見て東京・新宿と言った都心拠点駅には及ばないものの、「大駅」といえる規模・路線ネットワーク・乗降人数の駅です。
JR中央線主要駅の1日平均乗降人数
※上記資料は、JR東日本HP内
「2006年度 乗車人員ベスト100
」より抜粋引用して作成しています。尚中央・緩行線停車駅で快速線が止まらない駅は除外して居ます。駅名 新宿 東京 立川 吉祥寺 中野 神田 御茶ノ水 国分寺 四ツ谷 三鷹 荻窪 八王子 武蔵境 武蔵小金井 国立 高円寺 阿佐ヶ谷 乗降人数 757,013 382,242 152,974 140,155 115,176 106,834 105,954 104,866 90,063 87,037 84,436 81,403 60,200 55,225 54,979 48,463 44,566
この様に街の集積・駅の規模としても、多摩地区の中で「頭一つ飛び出した」立川駅ですが、その様な多摩地区の基幹駅と言う事も有り、国鉄・JR東日本も駅の改善・商業施設の建設に関して力を入れており、1982年の橋上駅舎化・ルミネ開業、1999年のグランデュオの開業など、国鉄・JR東日本は商業施設を中心に施設建設を進めており、そのJR系の商業集積は都心の大駅に匹敵するレベルで特筆すべき物が有ります。
しかし駅施設自体は基本的に橋上駅舎化時点から、大元の部分では変化が無く今まで来ています。その為その後の立川自体の発展に加えて、多摩都市モノレール開業による立川駅の利用客増加に伴い、ラッシュ時には駅施設のキャパシティを越える利用客が集まる事となり、駅内のボトルネック部分を中心に激しい混雑が常態化していました。その様な中で今回駅ナカにecuteを整備するのに合わせて、駅施設自体の改良工事も行われる事になりました。
左:元から有ったJR立川駅東改札口 中:今回開業したecute立川(駅ソト部分) 右:ecute立川開業に合わせて整備された西改札&びゅうプラザ
そのecute立川開業に伴う立川駅改良工事の概要は、自由通路と西側連絡誇線橋間のスペースに人工地盤を作り、人工地盤+西側連絡誇線橋に駅ソト・駅ナカ両方を併せ持ったecuteの施設を造ると同時に、西側連絡誇線橋を拡幅しエスカレーターを整備して、乗り換え客が利用しやすくすると同時に、西側連絡誇線橋から自由通路へ出れる西改札口を新設した事です。
今回整備されたecute立川は面積4,100㎡で、JR東日本がecuteを中心に進めてきた駅ナカ開発事業「ステーションルネッサンス」において行われた
店舗開発事業
で上野(5,100㎡)・大宮(駅ビル部を含め4,900㎡)に匹敵する規模の駅ナカ開発で、(駅ビル部を除く)単独での開発面積で見ると、今まで「大規模駅ナカ開発」と言われてきた「大宮・品川・西船橋」等と比べてみると、格段に大きい「最大規模の駅ナカ開発」になって居ます。
しかも今回のecute立川の開発は、今までのecuteの開発事例の様に駅ナカ部分だけでなく駅ソト迄含めて総合的に開発をしているのが特徴です。西側跨線橋に面した本当の駅ナカ部分には、飲食・本屋・菓子・惣菜などの店が入ると同時に、駅自由通路からアクセスできる「半分駅ソト」の部分には、食料品関係の物販店に加えて衣料品関係の物販店なども出店しており、確かに吹抜けを巧妙に用いて駅ナカ店舗と駅ソト店舗の一体感は作り出していますが、実際は駅ナカ店舗というよりかは駅ビルに近い店舗構成になっています。加えてecuteの中に保育園・歯医者・英会話スクールを作ると同時に、2期工事でホテルの建設もする等、物販だけでないサービス関係にも配慮した新しい形の駅ナカ店舗になっています。
左:ecute立川内部(駅ナカ部分) 右:ecute立川に合わせて整備されたエスカレーター
☆ 駅ナカ店舗開発の最大のメリットは旅客利用の設備が整備された事
この様なecute立川による駅ナカ店舗開発ですが、JR東日本の「ステーションルネッサンス」の中では、すでにいくつも先例のある駅ナカ開発であり、今の段階では「目新しい」とはいえない物となってしまいました。
しかし私にとっては、ecute立川は実質的に「初めての頻繁に利用する駅での駅ナカ開発」といえる物です。その意味では非常に身近な例といえる今回の駅ナカ開発で、駅ナカ開発が私たち利用者にどの様なメリットをもたらすのかが、改めて見えてきました。
今回のecute立川とその付帯する駅施設改良で、私が利用者として一番恩恵を受けた事は、実をいうと「駅ナカ店舗が充実した」という事ではありません。一番恩恵を受けたのは「駅施設改良の効果」です。
立川駅自体はルミネ開業時の1982年に今の橋上駅舎と自由通路が完成していますが、それ以降立川の発展・多摩都市モノレール開業などの変化が有れども、橋上駅舎・自由通路には何も手を入れられて居ません。実質的に立川駅周辺唯一の南北歩行移動経路である自由通路こそ十分な幅員があるため混雑すれど不自由を感じる事はありませんが、駅構内はコンコース・改札の広さは十分でも、各ホームとコンコースを結ぶ昇降経路はエレベーター1基+上り下りエスカレーター各1基+階段2箇所しか無く、しかも西側の跨線橋は乗換専用の連絡通路で、出入りの経路が東側に偏っているために、特に中央線ホームではホームに降りてから駅を出るまでに時間が掛かっていました。
その状況を今回のecute立川開業に伴う、西改札口の設置と西側連絡通路との接続が解消してくれたのです。実際私も良く経験しましたが、朝中央線下り列車の前寄りに乗ると電車を降りてから階段・エスカレーターを昇る前に次の列車が到着すし、前の列車の降車客が捌ける前に次の列車の降車客が押し寄せて大混雑という事を多々経験しました。しかしecute立川開業に伴う駅施設改良が、その様な昇降施設のアンバランスを解消して駅ホームの混雑緩和とスムーズな流動の確保に貢献したのです。
左:既存の東エスカレーター(下り)&エレベーター 中:既存の東エスカレーター(昇り) 右:今回新設の西エスカレーター
しかし今までは確かに移動に不便な立川駅の駅設備でしたが、今色々な所で行われている「
交通バリアフリー法
」による補助を貰っての整備は立川駅では出来ません。なぜなら立川駅は交通バリアフリー法で移動円滑化が必要な「1日当たりの平均的な利用者数が5,000人以上である鉄道駅及び軌道停留場」ではありますが、「高低差5メートル以上の鉄道駅及び軌道停留場に設置することを始めとした段差の解消」の為の設備としてのエレベーター・エスカレーターはすでに整備されており、公的補助を貰っての整備は「交通バリアフリー法」を用いては不可能になっています。
他に補助を貰っての整備の手法は、
交通結節点改善事業
等が有るといえますが、これが立川駅の整備に有用な事業手法であるか?と考えると些かの疑問が有ります。そうなると公的手段を用いての改善は難しい物になってくるといえます。
では如何すれば立川駅の駅設備を整備する事が出来るのか?公的補助が難しければJR東日本の単独事業と言う事になります。しかし単独事業という事になれば、単純に駅設備だけを整備するという事は有る意味勿体無い事になります。その様な事も有り駅施設整備に収益事業である駅ナカ店舗整備を絡ませる事で、収益を上げる店舗施設整備と利用者の利便性向上に繋がる駅施説整備を同時に図り、収益性と顧客の利便性を両方同時に向上させる事に上手く成功しています。
この様な「駅ナカ店舗整備と駅施設整備」を同時に行う例は、JR東日本の駅では良く有る例です。実際ecute立川だけでなくecute大宮を始め西船橋・大船・三鷹等の各駅の駅ナカ整備でも正しくこの様な例に該当します。私の場合立川は良く利用する駅ですから、当然の事ですがこの様な駅施設の改善は大きな恩恵を受ける事になります。ですから私の実体験から「ecute立川整備の最大の効果は駅設備整備」という事になるのです。
本来は駅ナカ店舗整備がメインで有り駅施設整備は有る意味メインの目的ではありませんが、それでもサブの目的であっても、もたらしたメリットは非常に大きな物が有ります。今回自分自身で立川駅を利用してその事を改めて感じさせられました。
☆ 「駅ナカ活性化」の第二のメリットは「都市内を動く人に新しい購買選択を与えた事」では?
駅ナカ開発のメリットに関して、上記で「旅客設備が完備された事」と書きましたが、確かに駅の日常利用者としては「駅の混雑が空いた」という事が一番好感の持てる事です。しかし駅ナカ店舗の本来の目的である「駅店舗の整備」に関してもJR東日本が整備した中で最大級の駅ナカ店舗ecute立川は利用者にメリットをもたらして居ます。
それはやはり「駅ナカで店舗を利用する選択肢が増えた事」に尽きるでしょう。実際の所ecute立川の中で駅ソトの部分に関して入っているテナントは駅ナカ店舗としてみれば確かに斬新な店舗も集まって居ますが、立川駅周辺のJR系のルミネ・グランデュオや伊勢丹・高島屋に入っているテナントと、特に衣料品・雑貨に関しては差別化されて居る様には残念ながら感じられません。その点で見ればecute立川の「衣料品・雑貨」テナントに関してはその存在について、大多数の駅利用者に取ってはメリットが有る物では無いのでは?と私は感じました。
しかしecute立川の2階の駅ナカ・駅ソトに有る飲食・食料品関係の店舗に関しては、忙しく駅を利用する人達に取っては大きなメリットの有る店舗です。「人の行き来の多い」という点で究極のターミナル型店舗ともいえる駅ナカ店舗の特性を生かして、大宮・品川等のecuteでも整備されている飲食・食料品関係の店舗が、自由通路と同一レベルの2階の駅ナカ(西側乗換通路部分)・駅ソト部分に整備されて居ます。特に軽食系の飲食店・菓子・スイーツ系の食料品店に関しては駅利用者が直接アクセス可能な2階フロアが広くないという制約が有る状況の中で、それなりに満足が行くレベルで整備されて居ます。
左:ecute立川のお奨めグルメ店舗 かにチャーハンの店&雲呑好 中:「かにチャーハンの店」のかに玉チャーハン 右:「雲呑好」の海老ワンタン(四川風味)
その様な飲食店・食料品店が駅ナカに存在するという事は、駅利用者にしてみれば「選択肢」が増えて大きなプラスになります。実際今まで昼で時間が無い時に立川駅を通過していた時は、致し方なく「奥多摩そば(立ち食い蕎麦)のおでん蕎麦」を食べるしか無かったのですが、ecute立川が出来てから駅ナカの「かにチャーハンの店」と「雲呑好」が駅での昼食の選択に加わりました。(「かにチャーハンの店」は行列が出来ている時が有るが・・・)
これだけ店が出来ただけでも「大きな選択肢の増加」で有るといえますが、その他に飲食系の物販店が数多く出来た事も、私的には非常に助かります。立川の顧客を訪問する時に今までは手土産を買う事に駅ソトの経路を外れた百貨店や駅ビルに立ち寄り購入していましたが、ecute内に数多くの菓子系の食料品店が出来た事で手軽に駅ナカで買う事が出来ます。実際拠点性の高い立川ですから私の様な需要も多いでしょうし、家に帰る人達の「お土産需要」も期待出来ます。その点からもecute立川2階の飲食・食料品駅ナカ店舗は、立川駅の利用客のニーズを上手く掴んでいるとも言えるでしょう。
この様に駅ナカに利用者のニーズに上手く合った店舗を造るという事は、「都市内を動く人に新しい購買選択を与えた事」になります。今までであれば、移動する事で精一杯で立ち食い蕎麦やコンビニで売っている手土産用の煎餅で誤魔化していた需要が、駅ナカにそのニーズに上手く合う店舗を造れた事で、上手く具現化されてその受け皿が出来たという事は大きな意味が有ると同時に、JR東日本にも「収益」という点で大きなメリットをもたらしたといえます。これが正しく駅ナカ店舗の「第二のメリット」といえるでしょう。
☆ 「駅ナカ」という収益事業は如何に旅客への利便性向上に寄与するのか?
この様にecute立川に代表される駅ナカ店舗は、駅利用客に取り色々な形で大きなメリットをもたらすといえます。確かに駅ナカに店が出来れば一般的に見ても「駅利用者が簡単に買い物が出来る」という点でメリットが有るのは明らかです。しかし今回見たようにメリットはそれだけでは有りません。特に立川では駅ナカ店舗が出来たが故に、今まで整備されては居た物の不足をしていた駅のエスカレーター・改札口当の整備が推進され、非常に便利な駅になりました。この効果は無視できる物では有りません。
基本的に「駅の旅客流動の改善」に関して、「新たな改札口を整備する」事や「新たなエスカレーターを設置する」という事に関しては、決して軽視すべき物で無い事は明らかですが、同時に直接収益を生む投資ではないので、民営企業たる事業者にしてみれば「必要であるのは分かっているが二の足を踏む」投資になる可能性が高いといえます。そうすると残念ながらなかなか整備は進みません。
その中で収益を生む「ecute」という駅ナカ店舗を造る事で、それに関連させて収益を生みづらい旅客関連設備投資に対しても、「駅ナカ整備対策」として踏み切る事が出来るようになった事は、非常に大きな意味が有るといえます。実際利用者にとっては駅で物を買うニーズが有る人には駅ナカ店舗はメリットが有るものでしたが、駅を通過するだけの人に取ってはメリットを感じられないものでした。それが駅ナカに伴う旅客施設整備により、駅利用者誰もが間接的であれども駅ナカを作る事のメリットを受ける事が出来たといえます。この「駅ナカと旅客設備の一体整備」の意味は大きい物が有るといえます。
この様な例を考えれば、交通事業において旅客サービス関係の間接的設備への投資を行う場合に、「上手く間接の収益事業と旅客サービス関連設備投資を組み合わせて整備資金を捻出する」という考え方が、如何に有用で有るか?という事が分かったと思います。
実際に色々な場面で「公的セクターの補助に頼らず旅客サービス関連設備へ投資する」という事に非常な困難を感じる事に直面します。この困難はJRや大手民鉄規模に成ればそんなに感じないでしょうが、交通事業者の規模が小さくなると現実問題として浮上する事になります。なぜなら企業規模が小さくなればなるほど収益力も比例的に小さくなる事が多く、収益力が小さくなれば資金力も小さくなるからです。収益力・資金力が小さくなれば直接収益を生む効果が低い旅客関連サービス投資へ資金を投入する余力が乏しくなります。その結果サービスが低下して顧客満足度が低下する負のスパイラルは現実として存在します。
その時に「旅客サービス改善投資と収益事業を上手く絡ませて上げる事」が、事業者に取り「投資の回収への担保」をもたらす事になり、その結果「店を作る事での駅の拠点性の向上」という利便性の向上に加えて、旅客サービス関連設備も作る事での利便性向上も果たす事になります。これを上手く考えて行えば、旅客への複合的な利便性向上を図る事が出来ます。
これからの時代、確かの利用者への利便性向上による顧客満足度向上を図り、公共交通への魅力を増す事が、公共交通へ人を引き付ける為には必要な事で有るといえます。しかし同時に今の日本では公共交通の担い手の大部分が民営企業である事から、収益性に関しても十二分の配慮と努力を図らなければなりません。その中で如何に「利用者の利便性・満足度向上の為の投資」という支出と「利益の向上の為の収益」という収入を、如何にして両立させて行くか?という問題に対して、一つの答えを出しているのではないか?と感じさせられました。日本の交通事業者は不動産業・流通業等に副業を広げているのが特色ですが、その「副業のメリット」を如何に本業と反映させるか?上手く副業と本業をコラボレートして行くか?その問題に対してecute立川は一つの答えを出しているのでは?と今回改めて感じさせられました。
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