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「 柔 軟 な 発 想 に よ る 対 策 」 の 重 要 性 を 考 え る

−国土交通省の「駅構内通路を利用した「開かずの踏切」対策に関する実証実験」が示すもの−



TAKA  2007年02月07日




開かずの踏切対策実証実験@都立家政



 ☆ ま え が き

 「開かずの踏切」は都会に住む人々に取って悩みの一つです。踏切の有る大通りでは必ずといって良いほど渋滞しますし、歩行者も待たされて余計な時間を浪費します。この様な「時間の浪費」だけならいざ知らず、この時間の浪費に我慢できず無理やり踏切を渡り、踏切での自動車と電車の衝突事故や、閉まって居る踏切を渡り事故に合い命を落とす人の報道も毎年の様に聞きます。この様な事からも「開かずの踏切」の社会的損失は極めて大きい物が有ります。
 此れは偏に平面交差で有りながら「踏切では鉄道が絶対優先」というルールが有るからです。このルールは明治時代から有るルールですが、しかし「電車が踏切で停まり人や車を通す」という事が現実的で無いために、今でも「踏切では人と車が待つもの」という事がルールとして通って居り、その改善の為に鉄道の「連続立体交差事業」等が行われて居ますが、道路特定財源などが投入されていても高額の費用が掛かる事業で有り、残念ながら未だに多数の踏切が残って居るのが現実です。
 そのような状況にありますが、2月4日のTV東京のワールドビジネスサテライトで面白い試みが行われて居る事が報道されていました。国土交通省が西武新宿線で行っている「 駅構内通路を利用した「開かずの踏切」対策に関する実証実験 」です。番組の最後でさりげなく報道されていましたが、期間限定の実証実験ですが「ナカナカ面白い試みだな」と思い、自宅から近い事も有りどの様な事が行われて居るのだろうと、現地を訪問し見学してみる事にしました。


 ☆ 都立家政駅での「駅構内通路を利用した「開かずの踏切」対策に関する実証実験」

 2月4日から始まった都立家政駅での「駅構内通路を利用した「開かずの踏切」対策に関する実証実験」ですが、家から近い場所で行われていた事も有り早速実験開始後の2月6日の朝8時頃現地を訪問して見ました。
 仕事の途中のため、家を車で出て都立家政駅北口近くの有料駐車場に車を止めて、駅に向かうと駅の入口と駅脇の都立家政1号踏切にお揃いのジャンパーを着た人達が立っています。実験の関係者のようですが、如何も「街のオジサンやオバサン」といった感じです。どうも運営に関しては地元のボランティアが主体となって行って居るようです。早速回りを見てみると踏切の両側に実験を知らせる看板を持った人が2人立って居ました。駅舎を覗いてみると北・南の駅舎の改札口に通行券とアンケートを配布・改修する人達が2〜3人ずつ立っています。

  
左:実験中の都立家政駅南口駅舎の様子  右:実験中の都立家政駅北口の様子

 取り合えず実験の様子を10分位南口で見ていましたが、踏切が閉まり待ち人が立つと看板を持った人がチラシを渡し「構内通路を使ってください」と誘導しています。
 只踏切を待つ人が少ないのと意外に早く踏切が空くのが早い事と踏切の通行客のメインが自転車利用者と言う要因が絡んで、実験に参加する人は殆ど居ません。見ていた10分間に1人実験に参加した人がいましたが、参加した人より後から空いた踏切を渡った私の方が早く北口に着いてしまいました。現実としてこの状況では実験に参加する人はそんなに多くないと思います。2月4日のTV東京のワールドビジネスサテライトでは「初日の参加者数は9名」と報道しましたが、現場の状況と実験の周知が進んでいない事からこの状況は「仕方ない」と感じました。
 私は北口へ移動した後、入場券を買い一度構内へ入ってみました。そうすると駅構内の連絡階段の所には看板を持ったガードマンが立っています。駅構内に関して安全を考えてボランティアではなくガードマンが対応して居るようです。しかし都立家政駅は未だに構内通路の階段には未だにエスカレーター・エレベーターは有りません。その事が構内通路を利用してもらう場合の足枷になる可能性は多いに有ると感じました。
 初日ではなく3日目に見にいったので「中だるみ」的な物が有るのかもしれませんが、運営のメインがボランティアになっていた事も有り、全般的に「今イチ洗練されて居ないな」とは感じました。人を上手く誘導する感じでもなく、目的意識が強く実験をして居る感じでもなく、町内会のイベントの延長見たいな雰囲気がしていました。しかし実験の内容自体はその様な運営状況でも、ガードマンを除けば掛かる費用は殆ど無い(ガードマン人件費以外に一番掛かりそうな経費はボランティアのジャンパー代?)事から見て、今回の実験での利用率は低くても目の付け所は良いしコストは安いから上手くやれば費用対効果は高いなと感じました。


 ☆ 低コストで出来る事からする事の重要性とは?

 今回都立家政駅で行われた「実証実験」は、東京23区内の市街地の中を走る西武新宿線にある駅近接の開かずの踏切を如何するのか?という問題の中で、隣接する駅構内に有る地下通路を活用して、「既存の施設の有効活用」による問題の解決を目指した試みで有るといえます。今や東京では駅構内には殆どの駅で立体交差の構内通路が整備されていて、しかも交通バリアフリー法により乗降人数5千人以上の駅ではエレベーター・エスカレーター等の施設が整備されるようになって居るために、これらの施設を有効活用すれば上下移動の負担を軽減して鉄道線を簡単に横断する事が出来ます。今回の施策は其処に目を付けての実証実験で有ったと想像出来ますが、面白い試みであろうと思いました。
 実際の問題として「開かずの踏切」は、インフラとインフラの平面交差で発生する問題ですから、その解消の為にはインフラの改善を図る事が抜本的滑一番有効な施策で有る事は間違い有りません。実際開かずの踏切問題解消については「 踏切道改良促進法 」に基いて、抜本的解決策として今道路特定財源問題で話題になる事が有る「連続立体交差事業」が行われて、他にも速効対策として歩道橋の設置・踏切内歩道の改良・踏切制御システムの高度化( 賢い踏切の導入 )等が行われているのに加えて、 道路交通環境改善促進事業駅・まち一体改善事業 による駅での自由通路等の整備による鉄道・道路交差の整備等、鉄道・道路の関係だけでなく街づくり等を絡めて、色々な方策を用いて開かずの踏み切り対策が行われて居ます。

  
左:連続立体交差事業が進むJR中央線  右:「駅・まち一体改善事業」で北口・(バリアフリー施設付)自由通路が整備された西武新宿線 下井草駅

 これらの事業は、確かに効果が有ります。
 しかし問題なのは「多額の費用」と「長期間の工期」が掛かる事です。実際上記写真の JR中央線(三鷹駅〜立川駅間)連続立体交差事業 では、事業延長約13.1キロメートル(三鷹駅〜立川駅間・内高架化工事施工区間は約9km)に対し事業費約1,710億円で事業期間平成7年度〜平成22年度(15年間)という費用・期間が掛かります。又鉄道駅総合改善事業(駅・まち一体改善事業)で駅の改良工事を行い自由通路を造った 下井草駅橋上駅舎化工事および南北を結ぶ自由通路、バリアフリー設備の設置工事 では事業期間平成16年度〜18年度の3年間で総事業費が9.8億円という費用・期間が掛かっています。
 確かに連続立体交差事業は抜本的解決策ですが、此れだけの期間と費用が掛かるのでは簡単には実施出来るものでは有りません。又歩道橋の設置や踏切内歩道の改良や踏切制御システムの高度化や駅・まち一体改善事業等の事業は連続立体交差化工事に比べて、費用等は安いものの其れなりの期間と費用が掛かりますし、それに対しての効果は限定的です。其処から考えると「費用対効果」という点ではどっちも似たり寄ったりという事が出来ます。
 けれども問題は「開かずの踏切問題は待ってはくれない」という点です。踏切による渋滞・経済的損失・事故等は今現在も発生している物で有り待ってはくれません。その解消のために十年以上の時間が掛かる上に数百億円以上の費用が掛かる連続立体交差化事業の実現を待つのも現実的では有りませんし、今の苦しい国・自治体の財政状況から考えると、多数の連続立体交差化事業を行う事も現実的では有りません。又駅の自由通路を造る事も連続立体交差化事業を行う事に比べて短期間で安く出来ても数年の期間と十億円を越える費用が掛かり、これ又多数行う事は厳しい事業です。
 その中で今回の「駅構内通路を利用した「開かずの踏切」対策に関する実証実験」は、駅構内通路を使えば線路を横断出来る駅構造で有る場合、駅・まち一体改善事業による駅舎改善+自由通路建設に近い効果を期待出来ます。しかも都立家政の場合階段利用の為負担が大きいですが、バリアフリー設備が整って居る駅であれば、駅整備でバリアフリー機能付自由通路を造るのに近い効果が、今直ぐ追加費用殆どゼロで実現出来ます。そこから極めて「費用対効果の大きい事業」で有るといえます。
 確かに見た限りでは今のままでは「実験は失敗」の可能性も有ると思います。しかし視点を変えて「低い費用で効果を求める」という視点から考えると、今回の実証実験は、発想としては極めて有望で有るといえます。日本と言う国(及び自治体)の財政事情が厳しい事から考えても、此れからは効率良い事業に向けて「知恵を絞る」事が肝要です。その点からも今回の実証実験の「柔軟な発想」は大切にすべきで有ると思います。


 ☆ あ と が き

 今回西武線の都立家政駅で行われた実証実験を見学してきましたが、この光景を見て私の一つの経験を思い出しました。
 それは私の小学・中学時代の事ですが、私の家は駅前に有ったのですが、通学時は駅の脇の踏切を渡らなければなりませんでした。その踏切を9年間渡って通学したのですが、その踏切は今の連続立体交差・複々線が完成する前の西武池袋線でしかも退避駅の手前なので普通の後ろに閊えた優等がノロノロ走る状況で、典型的「開かずの踏切」でした。その為登校に下校の倍近く時間が掛かる状況でした。
 実際は指定通学路を外れて遠回りをすると歩道橋も有ったのですが、遠回りを避ける為に如何したか?というと・・・駅員さんと仲良くなって朝だけ駅構内を通して貰っていました。実際私以外の人も行っていたみたいなので、駅員さんもしくは駅自体の判断で「朝は駅構内を通してあげよう」という事が「暗黙の了解」として有ったのかもしれません。その為どれだけ通学が楽だったか・・・と考えると、今でもその駅員さんに感謝しなければなりません。

 この様な経験を他の場所でも行っていた人も居るかもしれません。しかし・・・良く考えてみると、私が25年以上前の子供の時に行っていた事は、国土交通省が今実証実験を行って居る事の先取りでは有りませんか!その様に見れば私はその時から「先進的な子供」だったのかもしれません。
 その様な冗談はさて置いて、この事例から見ると今回の実証実験の考え方は「何故今まで出てこなかったんだろう」と思わざる得ません。生活の知恵的な視点で考えると昔の子供でも考え着いた事です。そう見ると今までの「開かずの踏切対策」ではその様な「生活の知恵的な視点で見る事」「今有る事を利用して簡単に出来る事」を考える事が欠けていたのではないか?と感じさせられました。
 私の経験と今回の実証実験を見て考えると、特にその発想に欠けて居たのは「開かずの踏切の原因者」である鉄道事業者では無いでしょうか?実際鉄道事業者は駅の中に駅利用者専用の立体交差の構内通路を持って居ます。しかも都会の駅には駅員が居ますから管理をするのは容易です。その環境で「開かずの踏切の原因者」として社会貢献の一環として「踏切が空かない時には駅構内を通って下さい」という事が出来なかったのでしょうか?キセル等が怖くて出来なかったのかもしれませんが、其処は創意工夫で対策が出来たはずです。局所的ですが「駅or駅員判断での柔軟な対応」で実際に行われていたのですから、それが広がっていれば又変わっていたのでは?と今回の実証実験をみて感じさせられました。
 この様な事から、実際に物事の対策を考えるのに必要な物は、真の意味での「利用者の視点」と「柔軟な発想」であり、それが色々な効果をもたらす物だという事を、今回の受賞実験と過去の自身の経験を照らし合わせてみて、改めて感じさせられました。




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