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日 本 初 の 「 空 港 間 連 絡 鉄 道 」 は 成 功 す る の か ?

- 「成田〜羽田間空港連絡鉄道検討へ」の報道を受けて -


TAKA  2008年08月11日


二代目スカイライナーの悲願羽田空港乗り入れが実現?




 ☆ ま え が き

 東京在住者である私に取り、東京の国際線空港で有る成田空港へは、現在では東京各地から多数のリムジンバスが、日暮里・上野からは京成スカイライナーが、池袋・新宿・横浜・東京からはJR東日本の成田エクスプレスが頻発運行されており、都心からは1時間少々〜1時間半程度のアクセス時間で行く事が出来、東京23区北西部に住む私の場合、ドア〜飛行場で2時間程度で移動出来る為、(ビジネス需要で無く旅行需要の為も有るのだろうが・・・)決して不便は感じません。
 又国内線のメイン空港で有る羽田空港へのアクセスは、山手線の駅で有る浜松町から東京モノレール・品川から京浜急行線が羽田空港まで約20分程度で結んで居る為、都心からは掛かっても1時間程度で、住宅地の私の自宅からも1時間半程度でアクセスする事が出来ます。
 その様に見れば、東京⇔羽田・成田両空港へのアクセスは、現状において「(特に成田は)便利とは言えない物の不便ではない」という状況です。この感想は東京(都内)在住者の大部分は比較的近い物が有るのでは?と感じます。しかも2010年には「成田新高速鉄道整備事業」が完成して新ルートが出来る事で、日暮里〜成田空港間が(最速)36分で結ばれます。そうなれば空港アクセスはもっと便利になります。

 しかし・・・。東京在住で有る私の場合、国内線は羽田・国際線は成田の住み分けの中で、国内・国外への目的地への飛行機の発着飛行場毎に、その飛行場までのアクセスを考えれば良いですが、地方の方々は特に国際線を利用する場合そう簡単には行きません。
 日本で一番国際線が発着して居る空港で有る成田空港には、日本の国内線は8都市(札幌・仙台・小松・中部・大阪・広島・福岡・沖縄)に就航して居ますが、各空港毎に見れば1日数便と言うのが実体で地方から成田空港へのアクセスは決して便利では有りません。
 その様な状況の中で、東京⇔成田・羽田空港アクセスの改善に関しては2010年度の成田新高速鉄道の開業で一段落します。その中で次のプロジェクトとして話が出てきたのが「成田⇔羽田」の空港間アクセスの改善です。果たして「成田⇔羽田」間の空港間連絡アクセス改善は何をもたらすのでしょうか?


 ☆ 「成田〜羽田間空港連絡鉄道」の概要は?

 「成田〜羽田間空港連絡鉄道」に関しては、今回時事通信の報道で表面化した物ですが、その前からも神奈川県の松沢成文知事がマニュフェストで「 羽田・成田リニア新線の整備 」を提唱するなど、近年動きとしては存在していた物です。
 元々松沢神奈川県知事の構想では、「リニアモーターカーで成田〜羽田間を結ぶ」構想でしたが、国交省の検討内容では、流石に「全線新線」となる「リニアモーターカー構想」から、2010年度開業の成田新高速鉄道を活用して、それに加えて都営浅草線の改良を行い、京浜急行線を活用して成田〜羽田間を結ぶ構想になっています。

成田−羽田連絡鉄道、検討へ=65分程度に、10年度にも着手−国交省 (8月10日: 時事通信
「 記 事 の 要 旨 」
・成田、羽田両空港を短時間で結ぶ鉄道の整備に向け、2009年度に本格的な検討に着手する方針を固めた。
・10年度に開業する成田新高速鉄道活用・既存路線改良で、両空港間のアクセスにかかる時間を短縮する。同年度の事業着手を視野に入れて09年度予算概算要求に関係経費を盛り込む。
・検討しているのは、日暮里−成田間を36分で結ぶ成田新高速鉄道、都営浅草、京急線をつなぐルート。都営線内に専用の追い越し施設を整備して、既存路線も改良しアクセス時間を65分程度に短縮。

 こう見ると内容自体は、既に事業が実現して施工が進んで居る「 成田新高速鉄道 」に都心区間として、都営浅草線の改良を加えた物です。又都営浅草線の改良も「専用待避線を整備する」との事ですが、都営浅草線における待避線整備に関しては、過去に「 都営浅草線東京駅接着 」として検討された内容の「東京駅接着を除いて実現した」形になっています。
 まあ今回の国土交通省のプランは、元々「首都圏の空港アクセス緊急改善対策・都市再生プロジェクト」での浅草線東京駅接着を基にして、目的を「東京駅〜成田・羽田空港へのアクセス改善」から、成田〜羽田の空港間連絡鉄道へ変化させただけと言えます。
 有る意味、松沢神奈川県知事の「リニアモーターカー構想」に比べると、「手堅く纏めてあっと驚く計画ではない」と言えます。実際このルート上で行われる改良事業の内、京成押上線連続立体交差( 押上〜八広間四つ木〜青砥間 )・ 京急蒲田連続立体交差 ・成田新高速鉄道は既に事業かされており、目新しい事業は「都営浅草線内待避線新設」だけであり、アピール度は高い物の実際的には費用対効果的にも現実的で、穿った見方をすれば「話題性を狙ったアドバルーン?」という見方も出来るのでは?と思います。


 ☆ 果たして「成田〜羽田間空港連絡鉄道」は本当に実現するのか?

 しかしこの「成田〜羽田間空港連絡鉄道」は簡単に実現するのでしょうか?
 実際、このプロジェクトは前述のように「大部分を既存のプロジェクトを継接ぎしたプロジェクト」に過ぎません。新規事業が「浅草線内での待避線新設(蔵前駅の2面3線化)」だけの状況では、予算的には「極めて実現性が高い」プロジェクトです。しかも元々「都営浅草線東京駅接着等の事業化」では、成田B案ルート(成田新高速鉄道)開業に対応する対策として『 追い抜き施設を先行整備し、優等列車が浅草線に乗り入れる案 』を検討していた事から考えても、既に当初から有る程度想定されていた案だと言えます。それが今このタイミングで浮上して来たのでしょう。そう言う意味では実現性は極めて高いと言えます。

 けれども、本当に成田〜羽田空港間を『65分程度』で結ぶ事は出来るのでしょうか?  新聞記事では「65分程度に短縮」と言って居ますし、実際今回の「成田〜羽田間空港連絡鉄道」構想の基礎として有る「都営浅草線東京駅接着」構想では「東京〜成田間を最短(概ね40分)で連絡」「東京〜羽田空港間を最短(概ね25分)で直結」と書かれて居ます。この所用時間45分+20分=65分ですから、65分で成田〜羽田間を結ぶという数字は此処から出てきたのでは?と推測は出来ます。
 しかしながら問題は「本当に65分で結べるのか?」という事です。実際の所現在は直通列車は有りませんが、成田〜羽田間は京成の特急⇔快速乗換で約2時間掛かって居ます。又青砥〜羽田空港間が京成快速→都営・京急エアポート快特で45分掛かって居る事と成田新高速で日暮里〜成田空港間が約36分(此処から青砥〜日暮里間の現行の特急の所要時間約9分を引くと青砥〜成田空港間は約25分)、合計は約70分という事になり、浅草線内の待避線新設による待避効果を考えれば、成田〜羽田間65分と言うのは強ち不可能ではありません。

 只問題は、本当に全部の列車が65分で運転出来るのか?という点です。京成押上線・都営新宿線・京急本線内は、昼間でもかなり本数が多く必ずしも高速運転に適して居る状況では有りません。しかも都営浅草線は地下でホームドアが無いので現状以上の高速通過運転はかなり難しいです。又幾ら改良が終わっても京急蒲田・京成青砥〜高砂という複数の路線が交差し多数の列車が通過するジャンクションがネックになる可能性もあります。
 又ライバルはリムジンバスです。リムジンバスは成田空港〜羽田空港間を「約75分・3,000円・(8時〜19時は)2本〜5本/時」という頻度で結んで居ます。実際成田〜羽田間空港連絡鉄道は65分で結べばリムジンバスに対して競争力を保てます。しかし65分運転は「最速の所要時間」「しかも成田新高速線内で160km/h運転可能な新型スカイライナー並みの車両で運転」という前提条件の下で達成可能な物です。その様な「幾つかの前提条件」をクリアして始めて現在運行のリムジンバスより有利な運行が出来るのです。その様な「トップ条件で無ければ競争出来ない」状況下で、成田〜羽田間空港連絡鉄道は「木に竹を繋いだインフラ」でリムジンバスと戦う必要が有ります。
 果たしてこんな「かなり頑張らないと勝てない」状況下で成田〜羽田間空港連絡鉄道は上手くいくのでしょうか?
 実際の所新規事業が「浅草線内での待避線新設(蔵前駅改良)」だけであり、既に事業化されて居るプロジェクトが大部分で新規投資費用が少ない事からもリスクは非常に低いと言えます。加えて多分担保として「浅草線の改良は都心〜成田空港アクセスで役に立つ」と言う物を確保して居ますから、リスク的には極めて低リスクでしょう。その低リスクで上手くいけば「成田〜羽田間を65分で結ぶ事が出来る」「東京での国内線〜国際線の乗換が約2時間半程度(空港内での所要時間等含めて)で出来るようになる」という大きな果実を得る事が出来る可能性があります。そう見ると実現するまでに「未だ障害は有る」と感じますが、少なくとも実現性が高いプランで効果も期待出来るプランで有るといえるでしょう。


 ☆ あとがきに替えて 〜「成田〜羽田間空港連絡鉄道」が急浮上した真意とは?〜

 しかし、良く見てみれば成田新高速鉄道プロジェクト(成田B案ルート)と都営浅草線東京駅接着事業が大元となり生まれた、「成田〜羽田間空港連絡鉄道」プロジェクトですが、不思議に思うのは「何故今突然の様に出てきたのだろうか?」という点です。
 何故国土交通省は「成田〜羽田間空港連絡鉄道」プロジェクトを打ち上げなければなら無かったのか?。実際は「成田〜羽田間空港連絡鉄道」が「 成田空港と羽田空港の人流面の有機的連携に関する調査委員会 」の結論という事になるのだと思います。
 しかし正式に委員会の結論が出る前に「国土交通省が自分で考え出した」的に今回の「成田〜羽田間空港連絡鉄道」プロジェクトが飛び出して来た様な印象を感じます。では何故今回国土交通省はこの様な「アドバルーン」的に「成田〜羽田間空港連絡鉄道」構想を出したのか?を考えて見たいと思います。

 先ず一つ目は「羽田空港国際化」と「成田空港の活用」という国内的な問題が根底に有るのでは?と思います。
 国土交通省は原則論として「羽田は国内線中心で、新ターミナルは造るが国際化は限定的」「成田はあくまで東京の玄関口として国際線をメインにする」という姿勢を堅持したいと考えて居ます。しかし羽田⇔成田の間は距離的にも遠いため「羽田=国内線・近距離国際線:成田=国際線」と役割分担した中で「首都東京の空港として一体的に運営する」には、現状では無理が有ります。しかも日本の首都での国内線⇔国際線の連携が悪い弊害は東京ではく地方に影響をもたらします。
 その対策として、「羽田と成田の擬似一体的運用」を行うための連絡手段が「成田〜羽田間空港連絡鉄道」では無いでしょうか?上手くプロジェクトを実現化させて「国内線〜国際線の乗換が約2時間半程度」で行えるようになれば、同一空港内で乗換可能な中部国際・関空には利便性は劣りますが、国内線・国際線の運行本数の絶対的多さをメリットにして、地方から海外に出る客を羽田空港〜成田空港に引き付ける事が出来ます。しかも国土交通省の考える「成田=6時〜23時・羽田22時〜7時というリレー形式による擬似24時間化」構想に対しても、空港間の連絡手段を確保する点で「成田〜羽田間空港連絡鉄道」は有効といえます。
 そのようにして「成田〜羽田間空港連絡鉄道」で「羽田と成田の擬似一体的運用」が出来れば、首都圏の空港問題に関して「成田死守」姿勢の千葉県も文句は言いませんし、「成田は利便性が低いから羽田国際化推進」という東京都・神奈川県を牽制する事も出来ます。又一体運用のツールとして「成田〜羽田間空港連絡鉄道」が有れば、一体運用への抵抗感も減るでしょう。そうすれば、羽田・成田を巡る国内的問題は一定の方向性が示せます。それを国土交通省は狙って居るのかな?と私は感じます。

 二つ目の問題は、「東洋経済7月26日号:特集エアポート&エアライン」でも取り上げられている問題で、日本の地方空港に積極的に路線開設を進めて居る「ソウル仁川」「上海浦東」という、隣接の2巨大ハブ空港への対策という点です。
 日本の地方は、元々発着枠に制約があり国際線接続の国内線を多数運行出来ない成田空港の制約と、対東京線は本数が多いが羽田⇔成田アクセスが不便で東京での乗換が不便と言う現実が有る為、東京経由の海外移動が不便なのが日本の地方の実状でした。
 その「東京の2空港を乗換ハブとして使いづらい」状況に対して、新設空港の関空・中部の両空港を国内線⇔国際線の乗換空港として使おうという動きも有りましたが、国際線は「成田中心で関空・中部は少ない」現状から、必ずしもその動きも上手くいって居ませんでした。
 その間隙を着いて地方空港に路線を延ばしたのが、ソウル仁川・上海浦東という「日本の周辺の海外巨大ハブ空港」です。実際「日本の空港と結んで居る路線数」で見ると、日本のハブ空港は「関空→20・中部→22・成田→8」に対して「ソウル仁川→25・上海浦東→17」と日本の大空港並みにソウル仁川・上海浦東は日本の地方空港に路線を引いています。特に関西以西の中国・九州ではその傾向は顕著で、「海外へのハブ空港は成田・関空・中部で無くソウル仁川・上海浦東」という地域が多数出て居るのが実状です。
 その様なソウル仁川・上海浦東に目が行ってしまい、「日本の国際空港パッシング」という地方の状況への対応策が、成田だけでもパッシングを阻止する「成田〜羽田間空港連絡鉄道」の存在という事になります。
 成田自体は国際線の発着本数では、未だ何とかソウル仁川・上海浦東と競争出来る状況です。又地方空港からソウル仁川・上海浦東への運行本数は「週数日運行〜1日5便程度」という頻度ですが、地方空港〜羽田空港の運行頻度は「1日1便〜多数運行」という様に大きな差が有ります。上手く羽田と成田が結ばれれば、地方空港〜海外移動需要獲得競争で、この差をアドバンテージにする事が出来て、堅い国内需要を取り込んで成田の国際ハブ空港としての需要の裏付けを強化する事が出来ます。

 この様な問題が有ったからこそ、「とにかく何か対策を」という国土交通省の気持ちとなり、(私も含めて)何も知らなかった人達にして見ると「唐突な感じを受ける」今回の「成田〜羽田間空港連絡鉄道」構想の表面化になったのだと思います。
 まあ良く見てみれば「既存プロジェクトの寄せ集め」で造られた「成田〜羽田間空港連絡鉄道」ですが、確かに目立ち華が有るプロジェクトです。この様なプロジェクトをアドバルーンとして揚げた国土交通省は、成田・羽田空港問題について「次の一策」を用意しているのでは?と思います。果たしてソウル仁川・上海浦東に負けつつ有る日本の空港の拠点性を回復させる次の方策は何を打ち出すのでしょうか?




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