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2010年7月 京成電鉄の「社運を賭けた乾坤一擲の大勝負」は成功するのか?

- 概要が明らかになった京成成田空港線「成田スカイアクセス線」がもたらす物とは? -


TAKA  2009年12月21日


京成電鉄の「乾坤一擲の大勝負」の切り札 新型スカイライナー




 (1) ま え が き

 今年8月の民主党政権誕生に伴い民主党の前原誠司衆議院議員が国土交通大臣に就任して以来、日本の交通政策の中で数多く話題になって居る物が「空港政策」です。前原国交相が就任以来の短い間に空港政策で「羽田空港ハブ化論」や「関西三空港問題」など、色々な話が前原国交相の口から出てきて世間の話題になって居ます。
 その「前原国交相」が盛り上げた話題に出てきた空港の一つが成田空港です。確かに成田空港は「遠い・運用に制約がる」等々の理由から、過去に置いては色々な事が言われて来ました。しかし前原国交相が「羽田空港ハブ化論」を打ち上げた今の時期こそ、成田空港に取っては「大きく変身の時期」で有ると言う事が出来ます。

 成田空港では、今年の10月に「 B滑走路の2500mへの延伸 」が実現し滑走路延伸とそれに付帯する改修工事の結果として2010年3月には発着枠が20万回/年から22万回/年へと1割増強されます。同時に今年の10月からは運行開始から19年が経過したJR東日本の成田エクスプレス(以下N'EXと略す)の車両が更新され、それらの真打として2010年7月には「 成田新高速鉄道整備事業 」が完成して、東京と成田空港の間が大きく縮まる事になります。
 その「成田空港アクセス改善」に重要な効果をもたらす真打となるであろう「成田新高速」ですが、「来年夏前には開業予定」と言われて居る中で、既に土木工事もほぼ完成し着々と建築・設備工事も進み、駅名等が発表され準備は着々と進んで居ました。
 開業に向けて着々と準備が進む「成田新高速鉄道」ですが、開業予定時期である2010年夏まであと半年チョットになった先日に京成電鉄から「ルート愛称・運賃認可申請・運行の概要」について発表が有りました。今回は、その発表された内容を踏まえて「成田スカイアクセス」がどんな形になるのか?考えて見たいと思います。

「参考サイト」
  京成電鉄HP  ・ 新型スカイライナーデザイン発表プレスリリース (京成電鉄HP)  京成電鉄 新型スカイライナーwebサイト
 ・「京成プレスリリース」より  京成電鉄成田空港線の運賃認可申請について   「成田新高速鉄道」は平成22年7月の開業を目指します。   成田新高速鉄道ルート愛称名を「成田スカイアクセス」に決定しました。


 (2) 今回明らかになった「京成成田空港線(成田スカイアクセス)」の概要

 現在、成田スカイアクセスに関しては建設が着々と進み、新規建設区間に関しては「土木工事がほぼ完成、建築・設備・軌道工事が佳境」の状態ですし、既存線区間は空港第二ビルの関してはホーム供用開始・日暮里駅は下りホーム切替完了の状態まで進み、工事に関しては完成に向けて着々と進んで居ます。
 多分この感じで工事が進めば、今年度で大体の工事が終わり来年度早々(5月のGW明け位)には全線で試運転が開始されるのでは?と言う感じだと思います。此処まで来れば民鉄初の160km/h運転の試運転で躓きが無ければ、予定通り来年7月には間違い無く開業出来るでしょう。

 
左・右:2010年7月開業に向けて着々と工事が進む成田新高速(10月17日撮影)

 又今回の京成の一連のプレスリリースで、京成成田空港線の運転について、多少の概要は明らかになって居ます。
 元々アピールされていた「空港まで36分」も実現する事が明らかになりましたし、路線の愛称も「成田スカイアクセス」と公表されましたし、北総線の高運賃問題が有った為注目を集めていた「運賃問題」に関しても成田スカイアクセスに関しては上限運賃認可の申請金額が明らかになり、大体の運行概要は明らかになって来ました。
 今回のプレスリリースで明らかになった「成田スカイアクセスの運行概要」は下記の通りです。

「今回のプレスリリースで明らかになった成田スカイアクセスの概要」
 ☆京成電鉄が新たに運行する「成田空港線」(京成高砂〜成田空港間51.4km)の愛称名を公募で「成田スカイアクセス」に決定
 ☆京成上野〜成田空港間を新型スカイライナーは44分で結ぶ。(日暮里〜空港第二ビル間は36分)
 ☆京成上野〜成田空港間の成田スカイアクセス経由の運賃は1200円で新型スカイライナー特急料金はプラス1200円
 ※在来線経由スカイライナーは1920円、在来線普通運賃は1000円、リムジンバスは3000円、JR普通運賃は1280円、NEX普通車は2940円
 ☆(成田スカイアクセス)開業後は、新型スカイライナー及び主要駅に停車する特急列車を、ピーク時に1時間あたりそれぞれ最大3本運行する
 ☆上記以外にも、日中についてもスカイライナーを増発、特急列車も1時間に1〜2本運行予定
 ☆京成本線においても、1時間に最大3本の特急列車を引き続き運行し、(合計で)1時間に最大9本の成田空港行き列車を運行

 未だ開業予定の2010年7月まで半年以上有るため、運行ダイヤに関しても「本数の概要」しか分からない状態で、実際「何処行きが何時に何本走る」という事も分かりませんし、都営浅草線ルートにもどれ位の列車が入るのか?と言うのも残念ながら分かりません。
 又運賃は明らかになった物の、在来線経由の運賃がどうなるか?未だ不明のため、実際問題「京成高砂以西〜空港第二ビル・成田空港間」が二重運賃に成るため、「徴収方法を含めて二重運賃問題に如何対応するか?」も明らかでは有りません。
 まあこれらに関しては、開業まで未だ半年以上有る時期であり、それは京成のダイヤ改正自体が(乗り入れ先が多いから)「現在最終調整中」位の状態で有り、来年5月GW明け位にならないとハッキリはしないでしょう。又運賃問題に関しても、この先明らかになってくると思います。
 今回は、開業まで未だ半年以上有る段階なので情報が限定的ですが、この限定的な内容を踏まえて成田スカイアクセスについてチョット考えて見たいと思います。


 (3) 京成電鉄が迷いながら?勝負を掛けた「運賃と運行本数」は吉と出るか?凶とでるか?

 今回発表された発表を見ての第一印象は「京成も随分勝負して来たな!!」と感じました。特に「勝負を掛けてきた」と言えるのは「運賃設定」だと感じました。
 今回申請された成田スカイアクセス線の運賃と特急料金ですが、日暮里〜空港第二ビル間を36分に縮めて「N'EX・リムジンバスにも競争力を持った」所要時間になった事を考えると此れは随分安いと言えるでしょう。運賃に関しては、成田スカイアクセス経由でもピーク時に1時間に最大3本の特急列車(それ以外は1〜2本)が運行され、スカイアクセス経由の列車ですから今までの在来特急より所要時間が短縮されると思いますが、在来線に対して2割UPで抑えてしかもJRより安く設定して来ました。

「成田スカイアクセス開業後の各交通機関の運賃・所要時間」
交通機関経路・区間運賃・料金(運賃+特急料金)所要時間(最速列車発駅〜成田空港駅)
京成スカイライナー(スカイアクセス経由)京成上野〜成田空港2,400円44分(第二ビルまで41分)
京成スカイライナー(在来線経由)京成上野〜成田空港1,920円59分(第二ビルまで56分)
JR東日本 N'EX東京〜成田空港2,940円(普通指定席)53分(第二ビルまで50分)
リムジンバス東京駅〜成田空港3,000円約80分

 所用時間では成田スカイアクセス経由では、特急も60分程度で今のスカイライナー+α程度の時間で結ぶでしょう。そうなると在来特急と旧型スカイライナーではアコモディーションが違うといえども、スカイアクセス経由在来特急と在来線経由のスカイライナーの所用時間を考えると、スカイアクセス経由の運賃を1割程度上げても良かったかな?と感じました。
 又新型スカイライナー料金も1,200円ですから現行のスカイライナー料金に比べると280円値上げですが、アコモディーションが向上した上に約15分の所要時間短縮を果たす事を考えると、これももう1割〜1割5分程度上げても良かったかな?と思います。多分運賃1,300円+スカイライナー料金1,500円でも価格競争力は十分有ったのでは?と私は思います。
 其処には京成の「スカイアクセス開業で所要時間で優位に立つのだから、価格設定も勝負してアクセス輸送のシェアを大きく上げよう」という京成の「戦略的勝負」の考えが有るのでしょう。果たしてこの価格設定がどれだけの集客効果が有るのか?非常に注目です。

 次に運行頻度ですが、未だ「正式な運行ダイヤ」が発表されて居らず、大体の運行本数しか明らかになって居ません。
 その限定された中で考えると、先ずスカイアクセス線の一般特急が多分40分毎になると予想できますが其れがチョット少ないのかな?と感じます。京成が空港輸送で支持されて居たのは「低価格でそれなりの頻度が有る在来特急」の存在だと思います。そこで多分京成は「新ルートと在来ルートの一般特急の配分」で悩んで、空港以外の輸送の比重も大きい在来線特急を現状維持して、スカイアクセス経由の特急を40分毎(毎時1〜2本)にして輸送力を合わせたのかな?と感じました。只此処の消極策が第一のウイークポイントになるかもしれません。
 それに対して、在来線のスカイライナー・特急も今に近い頻度が確保されます。一般特急は沿線輸送や沿線〜空港への輸送も有るので此れは良いかな?と思いますが、在来線経由スカイライナーが現状維持は新型スカイライナーが純増される事を考えるとチョット多すぎる気がします。此処に「浅草線乗りいれ」等の隠し玉が有るのかな?とは邪推してしまいます。
 これらを全体的に見ると、スカイアクセス・在来線をあわせて見てこれが全部上野・日暮里発着で有るあらばチョット「供給過剰」と言う感じがします。確かに成田スカイアクセスは所要時間では圧倒的に優位に立ちます。又戦略的価格設定で価格競争力も有ります。そういう意味では成田スカイアクセスに「新型スカイライナー3本/時+在来特急1〜2本/時」の輸送力は在来特急でチョット輸送力不足の不安が有る上で、在来線経由のスカイライナーの現状維持は輸送力過剰の感じがあります。しかもスカイアクセスと在来線で価格差が少ないので、現状が維持される在来線のスカイライナー+特急は輸送力過剰で「空気輸送」になる可能性が有ります。
 この辺りには、利用者にどのような選択がされるのか?と言う「京成の迷い」が有るような気がします。此処がコスト的に「足を引っ張り早期にダイヤ調整を迫られる可能性」が有るかも?と考えてしまいます。果たして如何なるでしょうか?


 (4) 2010年 劇的に変化する「成田空港アクセス」は京成に何をもたらすのか?

 この様に見ると、京成は「成田スカイアクセス開業」に合わせて、価格設定面では「一気に勝負に出た」側面が有ると同時に、ダイヤ設定面では旅客が如何動くか?について「チョット迷いが有るな」という側面が未だに並存して居るというのが分かります。
 成田スカイアクセスは所要時間が圧倒的で有る上に「在来京成本線の運賃に+αでNEX・リムジンより3割近く安い」運賃設定から、成田空港アクセスの公共交通モードではライバルのリムジンバス・NEXに大きなダメージを与え乗客を奪う事が出来ると思います。  しかし、噂によれば京成の目的は其処だけで無く「東京からの乗用車利用客の転移」を「短い所要時間・戦略的な価格設定・優れた定時性」を武器に図りたいと考えて居るとも聞きます。この価格設定を考えればそれも「夢の話では無い」と言えます。

 けれども京成電鉄は今回チョット「勝負しすぎかな?」とは感じました。この運賃と所用時間なら成田スカイアクセスは間違い無く成功するでしょう。けれども京成の場合現実問題「成田スカイアクセスに一番乗客が移って来るのは京成の在来線」と言う可能性が高く、全体で乗客の純増が期待出来ても増収面のプラスと原価面でのマイナスを合わせると「京成全体の純増分と成田スカイアクセスの運賃増分で投資負担と北総・成田空港高速鉄道アクセスへの線路使用料が賄えるのか?」という点でリスクを抱え少々不安な側面は有ります。
 その辺りは、京成も当然「需要予測」と「どの様に客は動くのか?」を綿密に計算した結果として運賃と輸送力を設定して居るのでしょうから、私が心配しても「素人が心配して如何なる?」という事も有るでしょう。しかしダイヤを見る限り京成電鉄には未だに「迷い」が有る気もします。其れが如何転ぶか?で京成の経営に取って「大きなリスク要因」になる可能性も今の段階では否定で来ません。
 その京成のリスクに関しての最大の要因は「スカイアクセス線の運賃価格設定」に有ると思います。京成は「乾坤一擲の大勝負」と思い、戦略的に「競争力の有る運賃」を設定し勝負を挑んだのは良く分かりますが、それでもこの運賃は「ダンピングしすぎかな?」という気はします。これが「如何転ぶか?」が京成の今後の経営に影響を与えるかも知れません。

 私個人的には成田スカイアクセスの運賃設定については、一部で指摘の有る「高砂以西〜空港第二ビル・成田空港間の二重運賃を如何確実に徴収するか?」と言う問題も絡めて、「どちらの路線の運賃も1,200円に設定+新型スカイライナー料金1,200円〜1,500円」位の強気の設定して在来線経由の本数を減らして、利便性でスカイアクセス経由に誘導する手を打っても良かったと思いますし、逆に「運賃1,000円で両ルートも同じ・新型スカイライナー料金は1,500円〜1,800円」と言う設定でスカイアクセス線経由の在来特急の利便性を下げながら新型スカイライナーに誘導して「スカイアクセス線の料金は新型スカイライナー料金で料金で徴収する」と言う設定にしてしても良かったと考えます。
 京成としては「所用時間に競争力が有るのは当然分かって居る。運賃での最初のインパクトで他交通機関から乗客を奪い全体の乗客増で勝負して収入増を目指す」という気持ちなのでしょうし、其れは絶対的な数値では多分成功するでしょう。しかし運賃に関しては「2ルートの運賃を如何適正確実に徴収するか?」「投資・コストに比例する収入を如何確保するか?」という問題も考えないといけないと思います。そこで取り零しが有ると、後々響いて来るのでは?と危惧します。
 しかし、その様なリスクが有る中で価格破壊で勝負に出ると言う事は、「価格ダンピング分減収<乗客増に寄る増収分」という形にならないと京成電鉄のの経営的には「収入の最大化のチャンスを逃した」と言う事になりますし、「成田スカイアクセスは成功しても在来線が苦しんで結局プラスマイナスで収入増のチャンスを逃す」危険も否定出来ないのかな?ですし、結局「投資と原価負担に倒れる」可能性も否定出来ないのでは?と危惧しています。
 2010年7月の京成の「期待の星」と言える成田スカイアクセスの開業ですが、果たして京成電鉄が戦略的価格設定と両ルートに重点を置いた二股掛けのダイヤ設定で挑む「乾坤一擲の大勝負」が果たして吉と出るのか?凶と出るのか?来年7月の成田スカイアクセス開業とその後の動向が楽しみに成りました。




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