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神 戸 周 辺 バ ス め ぐ り

−鉄道に匹敵する能力を発揮するバスを見学して−



TAKA  2006年04月05日




海から見た本四・淡路高速バスの大動脈「明石海峡大橋」


 ※本文は「 交通総合フォーラム 」「 TAKAの交通論の部屋 」のシェアコンテンツです。

 3月の25日・26日の土曜日・日曜日で仕事が一段落したので、 交通総合フォーラム でご一緒させて頂いている エル・アルコン様KAZ様 を訪ねて、神戸・姫路を訪問してみることにしました。
 私自身神戸は小学生時代に1回訪問していますが、姫路は訪問したことなく、関西も15年近く行った事ないので、殆ど「関西素人」状況だったので、エル・アルコン様及びKAZ様にプランを立てていただき、神戸・姫路の交通を中心とした見所を訪問してきました。

「 訪 問 経 路 」見 学 内 容
新開地0926-(有馬線普通)-0950谷上0956-(北神急行)-1006新神戸-北野の異人館街を見ながら三宮へ神戸電鉄・北神急行見学
三宮1026-(市バス急64系統)-1050日の峰2丁目-徒歩・昼食-桂木3丁目1213-(市バス急64系)-1243三宮新神戸トンネルを通る64系統見学
三の宮1300-(神姫バス恵比須快速線)-1354恵比須駅-恵比須1359-(神鉄準急)-1402三木神姫バス恵比須快速・神鉄粟生線見学
三木1438-(三木鉄道)-1451厄神1453-(加古川線)-1505加古川1508-(新快速)-1521明石三木鉄道見学
明石港1540-(高速船)-1555岩屋海より明石海峡大橋見学
岩屋1600-(淡路交通バス縦貫線)-1620頃東浦-東浦BT1700-(高速バス)-1715高速舞子BS本四高速バス関係見学
舞子駅1736-(山陽バス53系統)-1755頃学が丘1815-(山陽バス高速垂水線)-1855三宮山陽バス高速垂水線見学


 今回は上記の訪問先の中でも、バス輸送に関してなかなか他所では見れない物で特に興味深い所で有った「新神戸トンネル&阪神高速北神戸線を武器に神戸電鉄に競争を挑む市バス&神姫バス」「日本最大のバス街道(明石海峡大橋)と東浦バスターミナル(以下東浦BTと略す)&高速舞子バスストップ(以下高速舞子BSと略す)」の2点について、見た感じと感想を書きたいと思います。


 ☆新神戸トンネル&阪神高速北神戸線を武器に神戸電鉄に競争を挑む市バス&神姫バス

 先ずは神戸市郊外の裏六甲地区ですが、この地区では準大手民鉄の神戸電鉄が、神姫バスの運営する都市高速バスと神戸市交通局が運営している郊外バスとガチンコ勝負しています。
 裏六甲地区は神戸市街地とは六甲山系で隔てられ、市街に行くには六甲山系を超えなければならないと言う不便な地域ですが、埋め立てで土地を捻出する事で発展するほど土地に余裕のない神戸市街地のベットタウン&大都市大阪のベットタウンとして発展しており、裏六甲地区の大部分を占める 神戸市北区の人口は226,398人西区押部谷地区の人口は32,400人 に達するほどです。
 今回の訪問では神戸・大阪のベットタウンの神戸北区・西区押部谷地域を訪問する主要交通手段を、神戸電鉄・市バス・神姫バスどれも利用しているので、3つの交通手段について検討を加え神戸電鉄・市バス・神姫バスを比較したいと思います。

 ・六甲山系を縦断する鉄道に乗る(新開地→谷上→新神戸)


( 神戸電鉄三田行き普通(谷上駅) )


 先ずは鉄道で六甲山系を縦断します。神戸市街から裏六甲へ六甲山系を縦断する鉄道は2本、有馬川沿いを50‰の勾配で超える神戸電鉄(以下神鉄と略す)とそのバイパスとしてトンネルで谷上〜新神戸間を結ぶ北神急行(以下北神と略す)です。
 「 神戸電鉄グループHP 」「 神戸電鉄(鉄道)HP 」「 北神急行電鉄HP
 最初は新開地から神鉄に乗り谷上を目指します。元々新開地は神戸電鉄ターミナルの湊川から他鉄道接続の為に神戸高速鉄道に乗り入れて延長した区間です。そのおかげで新開地で阪急・阪神・山陽と乗換が出来ますが、今になると競争力の強い市街地三宮へのアクセスにしても阪神間のメインルートJRへの乗換にしても新開地乗換で遠回りな分不利な状況とも言えます。
 それでもかなり利用は有るようで、9:18に三田から着いた快速は神鉄標準の4両編成で、ほぼ満員の状況で新開地のホームに人が溢れるほどです。我々は26分発の普通三田行きに乗り谷上を目指します。普通三田行きは10〜15名/両程度の乗車率で土曜日朝の下りと言う点で考えればこの程度かも知れません。
 乗った列車は湊川で地上に出た後、右に左に曲がりながら急勾配を登り六甲山系越えに挑みます。粘着運転で50‰と言う勾配は仕事でよく箱根登山に乗るので、「登山電車の急勾配・急曲線に比べれば」と言う側面も有りますが、「普通の通勤鉄道」である神鉄の急勾配・急曲線もかなりショッキングです。50‰勾配+急曲線では40km/h程度の速度でしか運転できないのは、安全性の側面からも致し方ないでしょう。
 長田周辺の住宅地を越えて、ダム工事付け替え路線の菊水山トンネルを越えると、車庫等の運転関係機能も有る神鉄の拠点で粟生線との分岐駅の鈴蘭台です。鈴蘭台は神鉄が開業当初の「小部分譲地」として開発を始めて以来住宅開発が進んでいる所で、裏六甲で一番古い住宅街と言える場所です。此処で先発の粟生線普通列車と接続し、数名/両の乗継客を受けます。
 鈴蘭台を出ると急勾配で左に曲がる単線の粟生線と別れ、複線の有馬線は住宅地の中を北鈴蘭台・山の街と進んでいきますが、相変わらずの勾配と曲線です。鈴蘭台〜山の街間は谷上以南の有馬線の中で利用客の多い地域です。只その利用客の多い区間の駅でも、山の街の駅には未だ構内踏切が残る等、東京の準大手民鉄と比べても駅施設のレベルは落ちると感じます。
 暫くすると北神と乗換駅である谷上に到着します。谷上では昼間等は下り列車が上り線に転線して北神と対面接続します。軌間と車両限界が違う為に直通運転できない(するとしたら巨額の投資が必要)神鉄〜北神間の乗換抵抗を減らす為に、最低限の投資で最大の効果を狙った「苦肉の策」でしょう。谷上では乗換の降車が有ると同時に其れを大幅に超える乗車があり立ち客が出る程になります。此処で我々も降車して北神に乗り換えることにします。

 神鉄を降りると向いに北神の車両が待っています。只実際は北神の車両では無く乗り入れ先の神戸市交通局の車両です。列車に乗る前にホームで乗換の状況を観察しますが、其処に丁度新開地行き上り列車が入ってきます。上り列車からはかなりの乗客が乗り換えます。乗換客で一時期ホームが賑やかになりますが、やはり対面乗換の効果は大きくスムーズに乗換がされます。
 乗換状況を見た後、北神に乗り2回目の六甲山系縦断に入ります。列車の中は座席がほぼ満員の状況です。神鉄の4両編成を受けての6両編成の車内ですから、混雑度的には丁度良い感じです。基本的に谷上での接続は「神鉄4両*4本/時:北神6両*4本/時」ですから、輸送力的には丁度良い接続状況です。只土曜日の午前中と言う事を考えるとそれなりの利用客が有ると言えます。
 北神=トンネル会社と言われるだけあり、谷上をでると直ぐにトンネルに入りずっと地下を進みます。北神は約7kmのトンネルが大部分の会社で中間駅も有りませんから、利用客の全員が六甲山系越えに350円の普通運賃(もしくは其れに対応の定期料金)を支払います。その点では全線山岳トンネルと言う極めて重い資本費負担さえクリアすれば、和寒様が「 長い長いトンネルの先に〜北神急行 」で述べられている様に、極めて効率の良い鉄道になるでしょう。その点では資本費負担が軽くなるスキームが出来ているので、其れを受けて将来運賃負担を軽減する事ができれば、谷上が裏六甲地区のバスのハブ拠点になる可能性も有るかもしれません。
 今回私達は新神戸で降りましたが、その時にKAZ様が「神鉄から地下鉄で三宮まで出た場合は神鉄・北神・地下鉄3社の運賃が必要になり割高になる」と御指摘されたのですが、確かにバスと言う強い競争相手が居る場合は大きなハンデになります。此処が北神の最大の弱点かも知れません。
 列車はトンネルの中を淡々と進みます。所要時間は約9分ですが、ずっとトンネルの中なので、それ以上の時間が掛かる気がします。やっとの事で新神戸に着いて列車を下車しましたが、新神戸では降車客より乗車客の方が圧倒的に多い状況です。流石神戸の副都心で新幹線接続の駅と言う事なのでしょう。只新神戸の利用客の多さを見て、逆に人口22万の北区地域から北神経由で流れ込んでくる利用者がそんなに多くない事を改めて感じさせられました。


 ・六甲山系を縦断するバス路線に乗る(市バス急64系統 三宮→日の峰2丁目・桂木3丁目→三宮)



( 神戸市バス64系統(三ノ宮駅) )

 神鉄・北神に乗車した後、今度は「新神戸トンネル」を通り神戸の中心三宮と北区のベットタウン地域を結ぶバス路線「神戸市交通局急64系統 三宮〜神戸北町線」に乗車します。
 「 神戸市交通局 市バスHP 」「 神戸市交通局 市バス系統図 」「 神戸市交通局 市バス車両
 北神を降りた新神戸から異人館街を通り三宮の駅に降りてきます。三宮での64系統のバス乗り場はポートライナー下と駅前と地下鉄駅前の3箇所有りますが、今回は始発のポートライナー下のバス停から乗車します。( 三宮駅周辺のバス乗り場 )バス乗り場に行くと既にバスが待っています。神戸北町行きは昼間は大体10分毎位の頻度で走っています。
 市バスは三宮の3箇所のバス停でこまめに客を拾います。三宮に「統一されたバスターミナルが無い」と言うマイナスが要因にしろ、折り返し場所を確保しつつ始発着席希望の客と中心街での乗車客を分ける停留所設定は功を奏しています。
 三宮周辺を出た後、生田川沿いに出て新神戸トンネルへの入口に入ります。新神戸駅のバス停は高速のバスストップ(以下BSと略す)の様な形で有り、此処からもそれなりに客が乗り座席が半分ぐらい埋まる程度で新神戸トンネルを超えます。土曜日の午前中下りの利用率と言う点で考えればそこそこの利用率が有るとは言えるでしょう。
 約7kmの新神戸トンネルを7〜8分で通過すると其処はもう箕谷です。神鉄とは比較にならないほどあっと言う間の六甲山系越えです。箕谷ではパーク&ライド(以下P&Rと略す)用の規模の大きい駐車場(200〜300位は駐車可能?)が有ります。此処のバス停は殆どP&R専用のバス停で、下りのバスでは殆ど降車が有りませんでしたが、上り利用時には10名近い人が乗ってきました。周りは駐車場以外何もないところなので、P&Rが機能していると言う事だと思います。
 箕谷駅前で客を拾いバスは住宅街に入っていきます。神戸市街〜箕谷間は直通運行ですが、住宅街に入ると客が居そうな所をこまめに廻って行きます。今回はショッピング街の有る日の峰2丁目で下車して、ショッピング街で食事の上住宅街を一バス停分歩き桂木3丁目で三宮行きのバスに乗り三宮へ戻ります。
 桂木3丁目で 上り時刻表 を見るとビックリ、朝は箕谷駅前・日の峰2丁目両方を通過する「超直行バス」と箕谷駅前だけを通過する「直行バス」だけが運転されています。本来は箕谷駅前で神鉄に流れても良い新開地方面に向う客ですら、市バスに囲い込まれて市街地に運ばれてしまいます。又人口の居る住宅地の割りに朝のバス本数が少ないと思っていると、KAZ様から「朝はダイヤ上は1本だが実際は複数台のバスが続行運転している。又64系統には「流星号」の様な輸送力が多いバスが使われている」旨ご教示を頂きました。やはり神神戸トンネルで定時制と速達性が担保されている直通バス路線への需要は極めて旺盛のようです。
 帰りのバスも住宅地でこまめに客を拾いチラホラ立ち客が出る位で箕谷に達すると10名近い人が乗ってきてかなりの立ち客が出て、新神戸トンネルを越えます。最後は新神戸〜三宮間で渋滞に巻き込まれましたが、それでも市バスの方が神鉄・北神に比べ競争力があるのは明白です。市バス64系統のように此れだけ条件が揃えば鉄道に勝てる競争力を発揮できる事を改めて感じました。


 ・神鉄とガチンコ勝負するバス路線に乗る(神姫バス 恵比須快速線 三宮→恵比須駅前)

 
   
(左:神姫バス三宮バスターミナル(別の時間に撮影) 右:神姫バス恵比須快速車内(三宮発車直後))


 「 神姫バスHP
 神戸市バス64系統を三宮で降りた後、神姫バスの恵比須快速線に乗るために、神姫バスの三宮ターミナルに向います。神姫バスの三宮ターミナルは市バス64系統の三宮のバス停より道路を挟んで大阪寄りのJR線の高架下にあり、高架柱の間にバスを入れています。この辺の高架は昭和初期に造られ震災にも生き残った物で、柱と柱の間隔が狭くバスが入ると人一人通れるスペースしか残りません。この狭小スペースに近郊線の三田特急・西脇急行・恵比須快速に加えて一部の本四高速バスなどの神姫系三宮発着の高速バスが発着しており、スペース的には厳しい状況です。
 ターミナルに着くと時間も無かったので他のバスを待つ人を尻目に早速切符を買います。そうすると電光掲示板&放送でバスの案内が流れ高架下バス乗り場の前後に縦列駐車しているバスの間をすり抜けて恵比寿快速のバスに乗り込みます。恵比須快速には高速バス仕様の車両が使用されており近距離路線である事を考えると極めて快適性は高いです。そう言う事も有るのか13:00発の恵比須快速は三宮時点で20名程度の乗車です。土曜日昼過ぎの郊外行き下りと言う点から見れば上々の乗車率でしょう。
 恵比須快速も三宮のターミナルを出ると、国道2号線からお約束の新神戸トンネルに入ります。只新神戸駅前には停車しません。新神戸は新幹線への接続駅なのですから止めても良いのではないか?と思います。
 恵比寿快速は箕谷で新神戸トンネルを出た後、一般道には下りずそのまま阪神高速北神戸線に入ります。北神戸線は箕谷を通り裏六甲を東西に結んでいる高速道路です。北神戸線の存在で新神戸トンネルの市街地接続のメリットが北区の裏六甲の一部だけでなく西区・三田市方面にも及ぼされていて、それが「三田特急・恵比須快速」と言う形で神鉄粟生線・三田線を確実に侵食しています。
 阪神高速北神戸線を藍那ICで降りた後は、途中神戸市が埋立用の土砂採取に使用した土地の跡地を再造成した神戸複合産業団地に寄りますが、その後は神鉄粟生線と平行しながらずっと県道22号線を進みます。途中神鉄粟生線を狙い打つように木幡・栄・押部谷・緑ヶ丘と粟生線駅前のバス停に止まっていきます。実際これらのバス停でも数名の降車客が有りました。鉄道の輸送量から考えると実際の影響は軽微かも知れませんが、近郊地域で「バスが鉄道を狙い打つ」と言う事自体が今まで無かった事ですから、神姫バスの行動は野心的ともいえるでしょう。
 緑ヶ丘駅前のロータリーに停車した後は、緑ヶ丘・自由が丘・あかねヶ丘と言った神鉄粟生線の緑ヶ丘・志染各駅の北側に広がっている住宅地に、フィーダーバス路線も顔負けのレベルで停車していきます。これらの地域は比較的成熟した住宅地が広がっていますが、恵比須快速の狙いはこの地域の住民獲得に有るようで実際三宮で乗った乗客の半数以上はこの住宅街で降りていきますし、エル・アルコン様に伺った話では「朝は恵比須快速も続行便が出る」との事ですし、土曜日19時頃神姫三宮ターミナルで見た恵比須快速(前の三宮ターミナルの写真を取った時)もかなり乗車していました。住宅地と都心ターミナルをダイレクトに結ぶ近郊高速バスの威力をまざまざと見せ付けられたと言えるでしょう。

 
   
(左:恵比須駅に到着した神姫バス恵比須快速 右:神鉄粟生線恵比須駅に入線する1000系車両)


 私達は終点の恵比須駅まで乗りましたが、終点まで乗車したのは私達を除いて2名でした。恵比須駅自体は緑ヶ丘等と比べても開けている駅では有りません。ある意味恵比須快速の終点としての意味が見出せません。多分単純に「バスの折り返しのスペースがある(駅前広場は整備されている)」「三木に乗りれると自社の西脇急行線とバッティングする」と言うだけの理由でしょう。此処で三木に向かう為に神鉄粟生線に乗り換えました。神鉄粟生線は昼間時15分間隔と言うかなりのレベルで運転していますが、インフラ自体は「木電柱・木枕木・痩せて赤茶けたバラスト」と言うローカル線レベルで、加えて神鉄名物の「急勾配・急曲線」が有りますのでなかなか速度向上も難しいでしょうし、要所が単線で交換駅も限られていますから増発も困難でしょう。

 実際恵比須快速は恵比須〜三宮間約1時間・670円で有るのに対し、神鉄粟生線は恵比須〜新開地間で46分・680円、恵比須〜阪神三宮間で約1時間・720円(乗換1回)です。(駅前探検倶楽部調べ)まして此れで恵比須快速は住宅地に中を走ってくれますから路線沿線ではフィーダーのバス料金が要りません。此れでは神鉄と恵比須快速の競争力の差は歴然です。ましてバス最大の弱点である定時性に関しても阪神高速北神戸線&新神戸トンネル通行である程度カバーできます。加えて「未だに非冷房車すら存在する神鉄」VS「高速仕様のバスで快適シートで定員乗車で運行の恵比須快速」ではサービスのレベルも違います。此れでは神鉄に勝算が乏しいのは誰が見ても明らかでしょう。其処まで恵比須快速が強力であると同時に神鉄のレベルが高くないと言う事を示しています。
 同時に今回計5回の「六甲山系越え」を行う中で、3回新神戸トンネルをバスで通過しましたが、市バス64系統・恵比須快速と言った「三宮〜裏六甲住宅地直通バス」で神鉄を追い込むほどの競争力を持つ原動力が、新神戸トンネル(及び阪神高速北神戸線)と言う優れた道路インフラで有ると言う事実を改めて認識させられました。「優れた道路インフラがバスに鉄道に対し互角の競争力をもたらす」と言う事を裏六甲の交通事情は示していると言えます。


 ☆日本最大の高速バス街道(明石海峡大橋)と魅力的なバス拠点の東浦バスターミナル&高速舞子バスストップ

 裏六甲地域のバス交通見学の後に訪問したのが、連絡線で海から明石海峡大橋を見た後、本四・淡路の高速バスの一大拠点である淡路島の東浦バスターミナル・高速舞子バスストップを訪問しました。
 明石海峡大橋及び神戸・淡路・鳴門自動車道を通って本四・淡路を結ぶ高速バスのネットワークは、今や「日本最大のバス街道」と言っても過言ではなく、 神戸・舞子発着の便だけで110往復以上 有りますし、大阪・京都発着の便や夜行バスを入れたらそれ以上の本数があると言う驚くべき状況です。(参考: 阪神国道事務所・明石海峡大橋関連バス路線一覧
 関東でも高速バスの本数が多い場所はあたくさんあります。関東で見ても中央道・常磐道・アクアライン高速バスは本数も多い高速バス路線であると言えます。しかし本四・淡路高速バスは、本数・利用状況・運用の革新性等他の高速バス路線と比べても「頭一つ飛び出している」状況に有ります。その象徴が「大型パーク&バスライド拠点」である東浦バスターミナルと「高速バスと鉄道の結節拠点」である舞子バスストップです。他にも色々見所がある中で今回はこの2箇所に焦点を絞り訪問記を書きたいと思います。

 ・淡路島最大級のパーク&バスライド拠点「東浦バスターミナル」

 先ずは明石海峡大橋を見ながら高速艇で淡路島にたどり着いた岩屋港から、淡路交通の縦貫バスで、淡路島内でもIC至近で大型のパーク&バスライド拠点である、東浦BTに向います。

   
(左:東浦バスターミナル  右:東浦バスターミナル駐車場)

  東浦BT道の駅東浦ターミナルパーク と併設しており、バスターミナルだけでなく観光情報センター・物産館・ガーデニングセンター・陶芸館・ビーチまで各種施設を併設しており、加えて360台収容の駐車場でパーク&バスライドを行うと同時に、タクシーと島内路線バスと高速バスの接続拠点まで兼ねる「一大バスターミナル」とも言える施設です。
 バスターミナルの周りにはバス発着の屋根・風除け付きのブースが4つ有り、バスターミナル内にはトイレ・休憩所の他に高速バスのチケット販売所とみどりの窓口があり、各種バスの案内もできる様になっています。この様にバスターミナルには、お客さんがバス乗車の為に必要な一通りの施設が整っています。
 今回岩屋港から縦貫バスで東浦BTについて、此処でターミナルを見学した後高速舞子に戻る為に、東浦BTから高速バスに乗り、高速舞子BSを目指します。

   
(左:東浦バスターミナルの舞子行き高速バス乗り場  右:高速バス車内)

 先ずはバスターミナル内の券売所で高速舞子行きの高速バスの乗車券を買います。その後外のバス発着のブースでバスが来るのを待ちますが、私達以外にもバスを待っている人が数人居ますし、バスのブースにはバス待ちようのベンチが一部2列で並んでいます。一部のバスでは補助席まで使用やそれでも乗車できない例があると聞きます。これらの状況を見ると東浦BTからの高速バス需要はかなり有ると推察できます。それだけの利用が有るまる要因は、インフラとして駐車場が有りバス同士の接続が出来て道の駅としての各種施設があると言うバスターミナル自体が持つ拠点性も大きいと思います。
 同時に此れだけのインフラが有る事に加えて、日本有数のバスの本数や舞子BSに代表される高速バスの利便性の高さと言う、利用者に対しての高速バスの利用のしやすさも大きな影響を与えていると言えるでしょう。加えて淡路島内のパーク&バスライド拠点に車を置いてバスを利用する動機に、「本四・淡路高速バス⇔舞子BS乗換⇔JR神戸線利用」と言うルートの成立でバスの定時性が車に対して比較にならない程高くなっている事と、東浦BT⇔高速舞子BS間600円のバス料金に対し 垂水IC⇔東浦ICで普通車2,500円 と言う高い高速料金が、乗用車利用を抑制しパーク&バスライドの有効活用に一般利用客を誘導していると言えます。
 上記で見た様に東浦BTではパーク&バスライドで意識して造ったインフラと、料金・車の定時制の低さ等の自然に出来た障壁が上手く噛みあって絶妙のパーク&バスライドシステムが出来ていると言えます。他ではなかなか真似出来る物ではないと言えますが、パーク&バスライドの一つの例として参考になる例であると思います。

 ・極めて理想的なバスと鉄道の結節拠点「高速舞子バスストップ」
 
 東浦BTを見学した後、もう一つの目的地「 高速舞子BS 」に向います。東浦BTからの移動手段は当然高速バスになります。此処で新神戸行きの高速バスに乗りますが既に前の停留所でかなりの乗車が有り私達を積んで東浦BTを出る段階で既に見た目で空席がチラホラと言うレベルの40名〜45名程度は堅く乗っている感じです。土曜日夕方の上り便ですから日帰りの観光客が多いのかもしれませんが、この利用客の多さには驚くばかりです。
 乗客を乗せて東浦BTを出たバスは、一般道をチョット走って東浦ICから神戸・淡路・鳴門自動車道に入ります。この高速道路は小高い山の天辺に近い東斜面を走るので、車窓から大阪湾の抜群の展望を楽しめます。車窓も素晴しいですが車窓から見える対向車線のバスの多さにも驚かされます。少なくとも数分に一回はすれ違う位走っています。
 観光用の観覧車建設中の淡路SAに止まり、乗客を乗せると明石海峡大橋です。流石世界最大のつり橋だけあり、行きの高速船からの展望も素晴しかったですが、上の道路からの見る展望も又素晴らしい物です。改めて「此れだけの海を越える長大橋を造る日本の技術力は素晴らしい物だ」と感じさせられました。

   
(左:高速舞子BS上り到着ホーム(出発ホームから撮影)  右:高速舞子BS待合所外観(下から望む))

 明石海峡大橋に感激している間にバスは橋を渡り終わり直ぐに減速を始めます。「あれ?」と思うと放送が流れ高速舞子BSに到着する事を案内します。バスの中では私達を始め複数の人が降車の準備を始めます。
 最終的に高速舞子BSでは10名近い人が降車しました。バス乗客の4分の1に当たる人達です。此れを多いと見るか?少ないと見るか?難しい所ですが、東京人の私の感覚としては「高速バスを高速道路上のバス停で降りるのは何か変」と言う感覚があるので、驚くべき状況です。ましてこの人達の大部分は舞子が目的地でなく此処で鉄道に乗り換えて目的地に向う人が大部分でしょう。そう考えるとこの降車客の数には驚くと同時に納得する物です。
 私達もとりあえず下の待合所に降りてみます。待合所は自動車道の床板を屋根代わりに使い下から鉄骨を櫓の様に立てた「仮設と思しき構造物」(あれだけ海の傍に普通鋼材で大型鋼構造物を作るのは、簡単に出来るが勇気の居る話。(亜鉛メッキ等であれば別だが)速いスピードで腐食が進行するのは間違いない。其処から考えれば塗装等の維持コストが馬鹿にならない。だから恒久的な施設と言うより失敗したら直ぐ撤去できるという意味での仮設物として造った可能性が高い)ですが、店等は無い物のトイレ・ベンチ等必要最低限の物は揃っている感じです。(でも冷暖房が無さそうだったのは、いかにも拙いかな?と思う)又此処は明石海峡大橋の橋台に近い部分に有りかなりの高さです。その為ホーム⇔待合室・待合室⇔地上間のエレベーターと待合室⇔地上間のエスカレーターが整備されています。正しく「チョット大型で設備の整った高速BS」と言う感じでしょう。
 
   
(左・右:高速舞子BS下り出発ホーム乗車状況)

 上り降車ホーム・待合室を一通り見たので、今度は下り側の乗車ホームを見る為に、反対側の乗車ホームに向います。
 降車ホームで降りた時に向かいの乗車ホームを見て「随分賑やかだな」と思って見て居ましたが、実際に乗車ホームに行くとビックリです。乗車ホームには2箇所のバス停があり四国方面・淡路方面に分かれていますが、ホームには2人の誘導員が出ていますし、壁のベンチを中心にかなりの人がバスを待っています。
 何本かバスの発着を見て居ましたが、舞子から徳島・高松行きに乗車が有ると言うのには驚きましたし、舞子から阿波池田行き10名や阿南・生見行き5名と言う乗客が有るのには驚きました。もっと驚くのは淡路島路線の利用率です。今回舞子BSを見ていたのは土曜日17時台でしたが、津名・洲本行きが積み残しを出して発車し東浦経由淡路夢舞台行きも神戸発の便に積み残しが出て、その上30分後の舞子始発便も始発で補助椅子まで使っても積み残しが出るほどの利用率でした。
 正直言って高速バスで「補助椅子使用・積み残し」と言う状況は衝撃的な状況でした。私が驚いているとエル・アルコン様が「今では四国行き高速バスでも「舞子停車」が当然になって案内されている」と教えて頂きましたが、正しくその言葉が裏付けられる内容でした。確かに居る間に舞子を通過して先を急ぐ高速バスも有りましたが、舞子停車便に比べ心持ち乗客が少ない感じがしました。

 高速舞子BSの使われ方は正しく「衝撃的」とも言える使われ方で有ったと思います。此れがこの先で市街地の渋滞が予想される神戸行き上り便であれば、「此処で降車して定時性の高い電車に乗り換えよう」と言う使い方も想像出来ますし、東京でも「常磐道高速バスの上りのみ綾瀬駅停車」や「東名高速バス上り便を江田バス停で降りて田園都市線に乗り換える」等の動きが存在するので、舞子での客の流れも同じ発想だと考えれば納得行きます。
 しかし高速舞子BSの場合、渋滞に対する定時性が高いと推察される下り便の高速舞子BSからの利用が多いという点が非常に驚く事であると思います。先ず間違いなく舞子利用客の大部分がJR・山陽電鉄からの乗換客で有る事は間違い有りません。しかし東側には大阪・神戸とバスの本四・淡路方面の高速バス発着ターミナルが存在しますし、(舞子利用客に西側からの利用客も居るのは当然推測できるが)バス便が西側の無い明石・姫路方面から此れだけの需要を集めるのは困難でしょう。本当に1回しか見たこと無い私には、この舞子BSの(特に下りの)利用者の多さの要因を思いつく事は出来ませんでした。
 只褒めるべきはこの規模の高速舞子BSを造った事その物に有ります。高速舞子BSは「明石大橋のルートが舞子駅の上を通った」と言うチャンスに「高速バスと鉄道の結節点となる高速道BSを造ろう」と言う発想の基に造られた施設であると推察します。しかし凄いのは「仮設と思しき構造物」で有ろうと普通のBSと比べ物にならないレベルの施設(待合室・バリアフリーの昇降施設・複数のバス停が置ける規模のホーム)を造った事に有ります。正直言って今の高速舞子BSの繁盛振りを正確に読んでこの規模の施設を作ったとは思えません。(今にして考えれば多少手狭とも感じる)その様に未だ実に成るか分からず成功の前例が無い状況で、此れだけの規模の施設を作った英断にこそ拍手を送りたいと思います。
 やはりこの様な高速バスの活用・発展にとり肝心なのは「優れたインフラ」が有る事です。本四・淡路高速バスが此れだけ発展して、淡路・四国に人々の生活に密着したバス路線が出来て、淡路・四国の人々の利便性が格段に向上したのは、「鳴門海峡大橋 明石海峡大橋 神戸・淡路・鳴門自動車道」と言うマクロのインフラと、高速バスの利便性を高める「高速舞子BS・東浦BT」に代表される(橋・高速と比較して)ミクロなインフラの整備が功を奏していると言う事は間違いないと言えます。今回の訪問ではその事を改めて感じさせられました。


 ☆(結論に変えて)交通機関の能力を生かすも殺すもインフラ次第?

 今回機会を得てエル・アルコン様・KAZ様のご案内の下神戸周辺を訪問して、神戸周辺のバス・鉄道等の交通機関を見ることが出来ましたが、特にかなり衝撃的なほど進歩したバス交通の形態を見る事が出来て非常に勉強になったと思っています。
 その進歩したバス交通と言う形態の象徴が、今回取り上げさせて頂いた「鉄道を完全に侵食しつつ有る新神戸トンネルを通る市バスと神姫バス」「明石海峡大橋と神戸・淡路・鳴門自動車道を通る本四・淡路高速バスと東浦BT・高速舞子BS」であると感じました。
 では神戸で何故この様にバスが進歩したのでしょうか?それは「バスの力を行かせる優れたインフラ」が存在するからだと思います。その「バスを行かせるインフラ」が「新神戸トンネル」であり、「明石海峡大橋及び神戸・淡路・鳴門自動車道と東浦BT・高速舞子BS」であると思います。

 神戸市バス64系統にしても神姫バス恵比須快速にしても善戦しているのは、「神戸市郊外のニュータウンの客をこまめに拾い都心の三宮へ運ぶ」と言うコンセプトに加えて、市バス64系統は箕谷のパーク&ライドが当たり、恵比須快速はその快適性が支持されている事により、かなりの数の利用客を惹き付けています。しかしその人気の根本は新神戸トンネル(恵比須快速の場合は加えて阪神高速北神戸線)と言う優れたインフラで、50‰の勾配で六甲山系越えに苦戦している神戸電鉄に対して所要時間で対抗出来る環境が出来た事が成功のポイントであると言えます。
 普通鉄道とバスで比較をすると、余程の優位点が無いと所要時間では鉄道の方が優位です。この神戸の例の場合、神鉄の六甲山越えのインフラが劣っているのに対し、有料道路である新神戸トンネルのインフラが極めて優れているのは今まで述べて来た通りです。この道路インフラの優位点が正しく市バス・神姫バスが神鉄に一撃を与えるだけの影響を与えたと言えます。それだけ新神戸トンネルのインフラが素晴しいレベルにあると言えます。

 又本四・淡路高速バスが成功しているのも、淡路島内・四国ではこまめに集客しながら、神戸・淡路・鳴門自動車道+明石海峡大橋で一気に高速で大都会に運び、しかもフィーダーの集客区間では東浦BTに代表されるようなパーク&バスライドや拠点ターミナルの整備等で利用客の利便性を考慮したインフラを作り、幹の本州地区では高速バスが神戸・大阪へ直行すると同時に、絶好の鉄道との結節ポイントである舞子に本線上のバスストップとしては極めて規模の大きい高速舞子BSを作る事で、上手く鉄道とバスの間で補完関係を作り上げ極めて利便性の高いバスを基幹とした輸送システムを構築しています。

 一般的概念で言えば、バスと鉄道の関係はその特性及び輸送力・速度の点からの能力差に起因して、バスは鉄道のフィーダー輸送に従事し鉄道はバスが運んできた客を集め幹線的な輸送を行うと言うのが一般的なスタイルです。実際バス1両の定員は50〜60名程度ですし、鉄道の通勤車両の定員は1両でその2〜2.5倍有りますし鉄道ではその車両を複数連結して運転するのが一般的です。又バス1両に対し運転手1名必要なのに対し、鉄道は1編成に運転手・車掌2名で済みます。生産性の側面で考えたら細かいフィーダー輸送はバスで良いが、大規模な幹線輸送は鉄道が相応しい事になります。その事はバス・鉄道の個々の適性から考えて有る意味当然と言えます。
 しかしその関係はあくまで一般的なものであり、必ずしも全てに当てはまる訳ではありません。バスがその能力以上の働きをする場合があります。その好例が今回取り上げた「裏六甲のバス路線」であり「本四・淡路を結ぶ高速バス」であると言えます。どちらの「鉄道を侵食するバス輸送」「鉄道に匹敵するバス輸送」も一般的概念のバス輸送の能力以上の力を発揮していると言えます。
 この様な「バスが持つ能力以上の能力を発揮する」と言う事例は、一様にその裏付として「優れたインフラ」が存在しています。つまりこれらの事例では「バスは優れたインフラの手助けを借りて能力以上の力を発揮」していると言う事が共通事項として存在しています。基本的に能力はフィーダー輸送が適当なバスがその能力を100%ではなく120%発揮するのは、その裏付として優れたインフラが必要である、つまりは「その能力を生かすも殺すもインフラ次第」と言う事であると思います。
 その点から考えて裏六甲⇔神戸市街地のバス路線は「既存の優れたインフラを使い、バスが鉄道に競争を挑み利便性を向上させ成果を挙げた好例」と言う事が出来ますし、本四・淡路高速バスは「高速道路・長大橋のインフラ最大限に生かし、同時にバスの能力を発揮させるインフラを整備する事で、バスの能力を120%発揮して輸送を実現させた好例」であると思います。
 その様な好調なバス路線と其れを支える優れたインフラの相関関係を見ることが出来「(バスを含む)交通機関の能力を生かすも殺すもインフラ次第」と言う事を肌で感じられた事が、今回の最大の収穫で有ったと思います。





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