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− 新界西部の新興ニュータウンを行く香港軽鉄(LRT)試乗記 −



TAKA  2008年02月24日



 (試乗日・区間)1月2日AM (751系統)屯門總站→友愛・(505系統)三聖總站→兆康・(751系統)兆康→天水囲


 香港滞在初日は、ホテルの前を走るトラムを利用しながら香港島の北側を行ったり来たりしていましたが、香港最終日の1月2日の午前中は、香港島のトラムとは相対するともいえる、新界西部の屯門ニュータウン地区の地域の足として引かれている、香港軽鉄(以下LRTと略す)を訪問してみることにしました。
 香港のLRTに関しては、 交通総合フォーラム でお世話になっている とも様 からも、一見の価値はあると伺っていたので、ホテルのチェックアウト・空港への出発までの時間的余裕のある午前中に、LRTを訪問してみるました。

 このLRTは香港の後背地といえる新界地区の西部「屯門〜元朗」地域のニュータウンの地域内の足として1988年に開業したLRTで、2006年に香港地下鉄と(経営権委譲という名の)実質的合併を果たした九広鉄路が運営しており、開業当初は香港市街地を結ぶバス・フェリーのフィーダーとして、2003年以降はLRT経営母体の九広鉄路が屯門ニュータウン⇔九龍地区の交通手段として開業させた 九広西鉄 のフィーダー路線として機能している路線です。
 私の感覚からすると「郊外のニュータウンの交通にLRT」というのは、「ちょっと違うな〜」と感じますし、都市に敷設された路面電車が主流の日本の状況から比較してみると、やはり「異端」の感じがします。その様な「異端」とも取れるLRTとはどのような物なのか?今回は興味半分で見に行きました。

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 香港の中心部から、MTR線・西鉄線を乗り継いでLRT訪問の起点駅に選んだ屯門駅に着いたのは9:30頃でした。各種制限時間と香港島内に戻る時間を考えると11:00には西鉄線に乗って出なければなりません。ということはLRT見学に割ける時間は約1時間半、この時点で路線のネットワークから考えるとかなり限られた範囲しか見れなくなりました。
 西鉄線を終点の屯門駅で降りて乗り換え先のLRTのホームを探すと・・・なんと改札を出てすぐ先にLRTの屯門總站があります。西鉄線のホームが3階で改札口・コンコースが2階に有り同じ2階にLRTの駅があります。相対式ホームなので向いのホームに行くにはもう一度上下移動をしなければなりませんが、最初かLRTと西鉄線の乗換えを考慮した駅構造です。これはどちらも九広鉄路有限公司という同一会社が作ったからここまで考慮したのでしょう。乗り換えターミナルとして見てこの施設は合格でしょう。

  
左:西鉄線の屯門駅と隣接の軽鉄屯門總站  右:軽鉄屯門總站に停車中の軽鉄

  
左:屯門のニュータウン地区を行く軽鉄  右:軽鉄の乗降風景

 暫く屯門總站でLRTの発着風景を見ていると、単行・2両連結のLRVが2〜3分間隔で発着し色々な方向へ向い出発していきます。かなりの頻度で運行されているということは利便性の点で大きなプラスですが、その頻度で利用客が多いということは、それだけ利用者に支持されているという事なのでしょう。
 又屯門總站から東方向を見てみると立派な高架で道路を跨いでいると同時に、平面交差のジャンクションが見えます。ポイントの曲線はかなり厳しく単行の車両が車体を捩じらせながらポイントを通過していきます。利便性を考え西鉄線屯門駅に接着する為に高架という立派なインフラを作りながら、立体交差のようなより高額なインフラに関してはLRTの利点を生かして平面交差でうまく捌くというのは、利便性をメインに優先順位を考えメリハリを着けたインフラ構築であるといえます。
 とりあえず屯門總站で数列車見送りながら状況を見た後、単行の751系統友愛行き列車に乗り屯門から近い折り返し駅である友愛を目指すことにしました。

  
左:方向別のホームになっている市中心Town Centre駅  右:ニュータウン内の小ぢんまりとした折返し場 友愛駅

  
左:ビルの中のターミナル三聖總站  右:三聖總站のホーム

 友愛行きのLRTの屯門總站の次の駅は市中心Town Centre駅です。この駅には道路を挟んでバスターミナルも併設しており、名実ともに市の中心駅のようです。その為立派な歩道橋付で方向別のホームがある立派な駅になっています。市中心という事も有り乗降も多く、隣の屯門總站から一駅だけの利用客も居る感じでした。その利用形態からもLRTは地域の住民の「ゲタ電」的な使われ方がされているようです。
 市中心Town Centre駅を出た後暫く本線を走り、いきなりポイントを渡ったかと思うとニュータウン内の併用軌道に入り団地の間を走り三愛駅に到着します。とりあえず降りるとこの支線はループ線になっており友愛駅の先で又本線の逆方向に入れる様になっています(このLRTは運転室が一方にしかない為折返し駅には必ずループ線がある)。友愛駅は「地元の住民専用の駅」という感じで、長閑ではありますが住民らしき人を中心にそれなりに利用があり、近くの学校の学生も利用していました。
 このLRTには此処以外にも「ニュータウンに入り込んだ住民専用の路線・駅」が複数あります。この様なきめ細かいネットワークを組める事からも、最初からしっかりした計画を立てて建設をすれば、以外にニュータウンの地域内交通機関にLRTは適しているのかもしれません。
 友愛で降りた後、沿線を歩きながらターミナルである三聖總站を目指します。三聖總站は団地の人工地盤の下にLRTのターミナルと造った駅でバスのターミナルとも併設しています。ターミナルといってもショッピングセンターや商店街がある市街地という感じではなく、公共交通機関の乗換え拠点(所謂トランジットセンター)的なターミナルなのでしょうが、この様な公共交通機関の拠点がニュータウン内に幾つも造られているという事は、当初のニュータウン計画の時点からLRTを含めた公共交通が計画的に造られていた証なのかもしれません。その点は日本のニュータウン計画と大きく違う感じがします。

  
左:ショッピング街に併設し利用しやすい軽鉄駅  右:ニュータウンの至る所に駅が有る

  
左:3方向にホームの有る西鉄線との乗り換え駅 兆康  右:平面交差に立体交差を交えた複雑な配線@兆康

 今度は三聖總站からLRTに乗り西鉄線の兆康を目指します。この505系統は三聖總站から屯門總站を経由し、団地内を経由する山景北・南という北行きの505系統だけが走る路線を通り、西鉄線の兆康を目指す路線です。その為一度西鉄線と接続する屯門で乗客が入れ替わった後、兆康に向けて徐々に乗客が増えて行く団地から西鉄線のフィーダー路線的な利用が多い路線です。
 この505系統だけでは有りませんが、このLRTの特徴は「団地の中にまで踏み混んで路線を引いて居る」「電停とショッピングセンターなどの施設を隣接させ拠点性を高めて居る」点だと思います。団地内まで踏み込んだ路線網に関しては今回試乗した中で751系統の友愛・505系統の山景北や山景南などがその典型的例といえます。又団地内の駅ではLRTの駅の近くにショッピングセンターを作るなどして「LRTの電停に人が集まる仕掛け」を作り利用者の利便性を上げると同時に、電停に人を集める仕掛けが出来て居る点は特徴としてあげられるでしょう。
 その様な効果も有りかなりの乗客が乗った状態で、終点の兆康に着きます。此処は南・北・西から来た路線が交じり合うジャンクションで、その為ホームも三角形で出来ており、其処から階段を上り簡単に西鉄線兆項駅にアクセスできるようになっています。日本では「鉄道の駅前にバスターミナル」というのが一般的ですが、此処では「バスターミナルの変わりにLRT乗り場」となっていると感じました。

  
左:軽鉄と併走する西鉄線  右:ターミナル天水囲駅に停車中の天逸行き

 兆康は505系統の終点だったので、此処で西鉄線に乗り換えて帰る事も出来たのですが、時間に余裕が有ったのでもう少しLRTに乗る事にして、兆康で「次に来た西鉄線の駅へ行く列車」に乗る事にして偶々来た751系統天逸行きに途中の西鉄線乗り換え駅で有る天水囲駅まで乗る事にしました。
 兆康から元朗へ向かうLRT路線は幹線道路・西鉄線に沿って路線が引かれており、兆康より北側の地域では、ニュータウンが西鉄線駅を中心に点で広がって居るので、ニュータウン・西鉄線駅間を結ぶ路線と西鉄線駅とニュータウンを結ぶ路線(天水囲〜天逸)という、2つのパターンで路線が張られており、751系統は友愛〜屯門間・天水囲〜天逸間で西鉄線駅とニュータウンを結ぶパターンで、その間の屯門〜兆康〜天水囲間で西鉄線駅間同士を結ぶパターンで有りその二つが合わさった路線で有るといえます。
 751系統で乗った兆康〜天水囲間は、西鉄線の駅間を結ぶ区間なので、沿線の風景は今までのニュータウンから郊外的な風景に変わってきてLRTの走行速度もグンと上がります。けれども西鉄線の兆康〜天水囲間の駅間がかなり距離が空いて居るために、LRTにはこの間に5つの駅が有り多少の乗客の動きが有りました。その様な点からも上手く役割分担が出来て居るようです。
 今回は751系統の途中駅で有る天水囲で降車しましたが、天水囲駅は西鉄線の高架の下にLRTのホームが有り、「1階LRTホーム・2階西鉄線コンコース・3階西鉄線ホーム」という形になっていて、上下移動は有るが乗換はしやすい構造になっています。天水囲では私を含めて数人の人が降りましたがそれ以上の人が乗ってきました。やはり此処からの「団地内フィーダー路線」の方が利用率は多いのだなと感じて、LRT線試乗を終わらせる事にしました。

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 今回香港軽鉄(LRT)のほんの一部(乗った路線が8つの普通路線と4つの区間運行路線の内1つの路線の全部と1つの路線の一部)であり、時間の制約も有りとても「全部を見た」という事は出来ませんが、屯門ニュータウンを縦横無尽に引かれて居るといっても過言ではない香港軽鉄(LRT)のネットワークの一端を見る事は出来たのかな?とは思っています。
 此処のLRTは路面を走る区間は三愛周辺などだけで非常に少なく、地上を走るために道路との平面交差は有りながら殆どが専用軌道で有り、路面電車的なLRTとして見ると「イメージが異なる」事は間違い有りません。しかしニュータウンの住民に取り非常に利用し易い様にこのLRTは造られて居る事は、今回の訪問でも感じました。

 このLRTが走るのは1970年代から開発が進められたニュータウンで、今見ても非常に現代的な都市風景です。そのニュータウンの街中利用の公共交通手段として造られたのがこの軽鉄(LRT)ですが、現代的都市風景と同じように非常に現代的なLRTのシステムが、上手く構築されて居るなと今回試乗して見て改めて感じました。
 この様な現代的なLRTが出来たのは、ニュータウン開発当初から「中量交通機関の必要性」を考えて、総合的にニュータウン計画が組まれていたからで有ると思います。その中で当初はトラム運営会社の香港電車公司による「トラム」的な2階建ての路面電車の投入も考えられたと聞き及びますが、結局の所「都電荒川線」的な高床・専用軌道のLRTが選択され今のようなネットワークが築かれました。確かにLRTというよりかも「ニュータウンを走る都電荒川線」というのが、香港軽鉄(LRT)を評するに適当なのかもしれません。
 しかし香港のLRTは高床式LRTながら、バリアフリーでアクセス出来るホームや信用乗車&オクトパスカードや時間・行き先等が直ぐ分かる案内システムなど、現代的LRTとして遜色ないシステムが構築されており、非常に現代的かつ利便性の高いシステムが構築されて居ます。
 今回の訪問でその一端を見る事が出来、日本と違うニュータウン計画の考え方や、LRTのシステムの考え方を見て感じる事が出来ました。此れは非常に大きい事で有るといえます。しっかり計画され利用者の利便性を考えたシステムが構築される事によるメリットを、今回香港軽鉄(LRT)を見る事で改めて感じさせられました。





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