重慶モノレール
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください




重 慶 モ ノ レ ー ル 訪 問 記

-世界最大の市に導入された日本のモノレールが街を変えるか?-



TAKA  2006年01月12日



※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツです。


 ここ数年正月には友人と一緒に中国を訪問する事が恒例となっております。私も学生時代(もう10年以上前になるが)には「中国政治・経済論」がゼミの専攻であり、ここ数年落ち着いて正月を過ごせるような余裕も出てきたので、学生時代には果たせなかった「中国旅行」を行い、積極的に「上手く付き合う事が求められる隣国の大国である中国」を見ておこうと考えています。
 そういう訳で一昨年は上海・昨年は北京と天津に行ってきました。そういう訳で今年は「未だ行っていない直轄市」である、南西部の最大の都市重慶に旅行する事にしました。
 又趣味として交通関係に興味の有る私ですので、恒例の中国旅行の時に中国の交通機関について見学してレポートする事も行っています。一昨年の上海訪問時には丁度トランスラピットの開業した時だったので「 上海トランスラピットと中国の高速鉄道について交通総合フォーラム )」と言う一文を書き、昨年の北京・天津訪問時には利用した中国国鉄・北京地下鉄等について「 中国北京訪問記交通総合フォーラムTAKAの交通論の部屋 )」と言う一文を書いています。
 今年の重慶訪問は観光・食事付きの旅行で、自由時間は1日しかなかったのですが、その中で重慶市内に2005年6月に出来た「重慶軽軌(以下重慶モノレールと書く)」について、自由時間の1日の内2時間ほど使って全区間を試乗する事が出来たので、今年のレポートには「重慶モノレール」を取り上げたいと思います。
 (本当は長江・嘉陵江をわたるロープウエイが公共交通として有り非常に面白そうだったのですが、時間の都合行けませんでした)


 「1」重慶市の概要

 (重慶市概要のHP)「 重慶市 (中国情報局)」「 中国の地方概要・重慶市 (北京週報)」「 中国・重慶市 (中国丸ごと百貨辞典)」
 重慶市は人口3130万人・面積82400平方kmと言う巨大な都市で、単一市の人口で見れば世界最大の市です。元々四川省東部は「巴」と言う地域であり、重慶はその中心地として栄えてきました。又四川省(東部を含めて全体で)は昔「蜀」と及ばれており、漢の劉邦が左遷されてきた地であり、三国時代の劉備元徳・諸葛亮孔明が三国鼎立を目論見て、「蜀漢」を建国した地域であり、四方を山に囲まれている地域ですが決して遅れている地域ではありません。又昔から重慶は漢中を経由し長安に抜ける「蜀の桟道」と並ぶ外部への通行路「三峡」への玄関口として栄えた街です。
 三国時代以降は歴史の表舞台から消え、四川省の一地方都市という感じで長い歴史を経てきますが、日中戦争中に国民党が臨時首都を設けて戦争を戦い抜き、その時に重慶に沿海部から軍需産業を中心とした産業が移転してきて重工業の基盤が出来ました。その後中国共産党が米・ソとの対立を戦い抜く為に「三線建設」と言う名の下で四川省等に重工業地帯を建設した時に、その中心として重慶にも重工業が誘致され今の重工業都市としての基盤が築かれました。
 その後改革開放の時代になり、沿岸部が外資導入で栄えたのに対し、内陸部が古い設備の重工業や非効率な農業を抱え経済成長への起爆剤が無く苦しんでいた状況の中で、 三峡ダム 等の開発への対応をさせる為に1997年に四川省から独立し直轄市となり、1999年に提起された「 西部大開発 」政策の中で、その中核都市として現在猛烈な勢いで発展しています。


 「2」重慶モノレールの概要

 「 重慶軽軌交通(モノレール運行会社)HP (中国語です)」「 重慶モノレール概要 (国交省資料)」
 重慶モノレールは上記の「西部大開発」で2000年度に挙げられた「 10大プロジェクト 」で登場したプロジェクトです。
 元々重慶は長江と嘉陵江の合流点の丘陵の上に出来た町であり、長江と嘉陵江に挟まれた市街中心部(渝中区)は基本的に狭い面積の中に有り、道路も狭く坂も厳しく都市として移動し辛い都市で有ると言えます。(だから中国名物の自転車が少ない)
 その様な都市で、市域全体約3200万人・中心市街地300万人有るにも関わらず、公共交通機関はバス・タクシーが主体です。又重慶の中心地(渝中区)の長江と嘉陵江に挟まれた丘陵地帯は非常に岩盤が固く、地下構造物を建設するのは困難が伴います。(その為日中戦争時の臨時首都設置時代には、日本軍の空襲に耐え抜く為に多くの防空壕が作られた。素掘りに近い防空壕で日本軍の空襲に耐えた事からもその岩盤の強さは証明済みで有る。その後の三線建設時代にも多くの防空壕が掘られ、重慶中心地の地下は迷路状態とも言われている)その為に今まで大量輸送系公共交通機関が作られてきませんでした。
 只現実問題として、既にバス・タクシーだけでは捌き切れる都市規模を超えており、道路が狭い事・爆発的に自家用車が増えている事も有り、すでに重慶全域の道路が大渋滞状態になってしまっています。(その状況を河に挟まれ、ベットタウンの南岸・北岸に行くのに数少ない橋を渡らなければならない状況が渋滞に輪を掛けている。実際渝中区中心部から外部に抜ける幹線道路は6本しかない)「(参考) 重慶市周辺の道路・鉄道等交通機関 (IHCC)」
 
 その為「地下を掘る量が少なくて済み」「導入に伴う占有面積が少なくて済み」「勾配に強い」と言う条件を充たす大量輸送交通機関として、今回開業の2号に関しては線モノレール導入が決まったと聞いてます。
 又西部大開発10大プロジェクトの中で「重慶モノレール」には日本の円借款が270億円(第一期工事470億円の総工費の内約57%)投入されており、その事もあってか日本の跨座式モノレールが導入され、日立が技術供与した車両が導入されています。( 重慶市向けモノレール車両を長春軌道客車から受注 (日立ニュースリリース))
 又今回開通したのは重慶モノレール較新線(較場口〜新山村間)のうち、較場口〜動物園間(14駅)約13.5kmであり、空港等を結ぶ3号線に関してもモノレールでの着工が決まっています。( 重慶市の将来鉄道交通体系03年〜10年 (IHCC))(1号線に関しては地下鉄での建設の様である。只市街地の朝天問〜大坪間で道路には導入空間が無かったので、地下経路せざるえず、それならトンネル面積が増えるモノレールより普通の鉄道の方が好ましい)
 重慶モノレール2号線は乗ってみると分かりますが、正しく「モノレールでなければ出来なかった路線」であると言えます。西部の新興都市・住宅地と中心部の人民広場・解放碑周辺を結ぶのに、極めてアクロバットな経路を選択しています。
 このモノレールは「日本が中国の都市交通に具体的協力を行い成功した例」「地形的制約の厳しい都市にモノレールが好ましいと言う可能性を示した例」として特筆する事が出来ます。

 「3」重慶モノレールの試乗記

 今回の重慶旅行では私の泊まったホテル(JWマリオット重慶)が、モノレール較場口に近い所にあったのでモノレールを利用するには便利な所にあり、今回は1月1日に人民広場最寄の曾家岩〜較場口間を利用し、1月2日夕刻に較場口〜李子坦〜謝家湾〜動物園〜牛角沱〜較場口と約2時間掛けて利用しました。(駅名は基本は中国語ですが、一部日本の漢字に当て字をしています)

 ① 1月1日 曾家岩〜較場口間
 この日は、重慶市人民大会堂・長江博物館を見学後、車が先にホテルに帰っていたので、ガイドが「タクシーで帰りましょうか?」と言ったのですが、此処は目敏く「モノレールの駅が有るからモノレールで帰った方が早いのでは?」と上手く提案して、モノレールでホテルへ帰る事にしました。
 モノレールの曾家岩駅入口は長江博物館の脇にあり、共産党重慶市委員会・人民広場に面した所に有ります。只地下に入って行く入口になっており、モノレールのこの区間は嘉陵江沿いの川べりを走っている筈で、何故地下の入口に入って行くのか理解に苦しみます。エスカレーターで地下に降りると、壁に鋼鉄製の大きなドアがあります。「はて何か?」と思いましたが、較場口駅にも同じ様な扉があり、考えた所これは防空壕の出入り口かもしれません。地下鉄に防空壕と言う組み合わせ、外国では珍しい事ではありません。
 
 (1)モノレール曾家岩駅入口(上の建物は長江博物館)    (2)モノレール駅に有る防空壕入口と思しき扉
       

 (3)人民広場と曾家岩駅を結ぶ地下通路
 

 長大な地下通路を数分歩くといきなり前が開けて、モノレール曾家岩駅が現れます。この地下通路は嘉陵江沿いのモノレールと中心部の人民広場地区を結ぶ為に作られた様です。用意にモノレールを建設できる経路を通りつつ、中心市街地へのアクセスを確保する「苦肉の策」がこの通路なのかも知れません。
 モノレール曾家岩駅は斜面を上手く利用して駅舎が作られており、地下通路からそのまま駅舎・較場口行ホームへアクセスできます。只曾家岩駅が中心街の一つ人民広場の最寄り駅で有るのに、人出は写真のように少ないのは「利用率が低いのか?」と気になります。(人民広場はそれなりに賑やかだった)

 (4)モノレール曾家岩駅                  (5)モノレール曾家岩駅ホームと動物園行き車両
       

 駅舎に入ると自動改札が有る物の、自動券売機が無く有人券売所が有ります。又ホームには柵が有る物のホームドアは有りません。その代わりホームに駅員が常駐していて、柵に近づくとメガホンで注意をします。この辺りはいかにも中国的で、機械化できることを敢て人力を残す事でワークシェアリング的な方策を取り、繁栄をみんなに行き渡らせようと言う考え方が根底に有ると推察します。人件費が安く発展途上の国だから出来る事でしょう。日本人なら直ぐ全部を自動化して終おうとしますが、其処は「郷に入れば郷に従え」と言う事であると思います。(但しホームからモノレール桁の隙間の空間が見えて落ちそうなのは怖いが・・・)
 曾家岩駅から較場口行に乗ると、車内は立ち客が出るほどの乗客が居ます。メインの需要は西部住宅地と中心街解放碑(最寄駅は較場口)を結ぶ利用なのかもしれません。
 車両・車内とも日本のモノレールと変わりません。只車内はオールロングシートで、シートはプラスチックでスタンションポールが有るぐらいが差です。下手したら車両は大阪モノレール辺りと見間違えそうな車両です。
 
(6)モノレール較場口行車両                (7)モノレール車内(較場口行)
       

(8)モノレール較場口駅ホーム(降車ホーム)        (9)較場口駅コンコース
      

 モノレールは途中から地下に入ります。重慶の商業の中心地解放碑は渝中区の丘陵地帯の丘の上の中心にあります。その為「曾家岩〜人民広場」の様に長い地下道で結ぶと言う方策を取る訳に行かず、臨江門・較場口の2駅は嘉陵江沿岸から離れ地下になっています。
 終点の較場口駅まで結構の乗客が乗り通します。較場口駅を含む地下駅は流石にホームドアになっていますが、如何も車両ドアとホームドアの開くタイミングに差が有り日本人にはチョットまどろっこしい感じがします。較場口駅は引き上げ線での折り返しになっており降りた客は、先を争いあっと言う間にコンコースへ向います。(私は写真を取るために最後になったが、本当にあっと言う間だった)それなのに駅では自動改札で戸惑い人が屯しています。やはり重慶で初めての公共交通と言う事も有るのか、利用車は自動券売機・自動改札等の機械物には未だ慣れていないようです。

 1日の利用時に重慶在住者のガイドさんが、私が気付いた長江博物館の下に有る重慶軽鉄の曾家岩駅入口に気付かなかったので(私は必死に探していた側面も有るが・・・)「モノレールは利用したこと無いの?」と聞いてみたら「私の住んでいるのは(長江の向かいの)南岸区だから、バスがメインで都心部だけでモノレールは利用しない。それに西部地区はモノレールが出来て便利だが、南岸区に比べると高くて住めない」と言っていました。
 未だ部分開業だから広大な重慶市中心部全域に効果を広げることはかなり困難でしょう。しかしモノレール開業による変化、特に渋滞から開放されて定時性が確保できる交通機関と言うのは、極めて渋滞の激しい(今回結構悩まされた)重慶に取り待望の交通機関だったと言えます。その点でも重慶モノレールは、現状では成功だったと言えるでしょう。


 ② 1月2日 較場口〜李子坦〜謝家湾〜動物園〜牛角沱〜較場口間

 この日は午前中に日中戦争時代の名跡(紅岩村(中共党南方局跡)・周公館(周恩来の旧居)・蒋介石別邸跡)を見て周り、重慶の中心街の解放碑で食事とお土産を買ったので、夜の夕食・長江と嘉陵江のクルーズまではフリータイムにしようと言う事になり(半分強引に主張したが・・)、私は早速昨日乗りそこなったモノレールの残りの区間を乗る事にしました。
 
 (10)重慶の中心商業地「解放碑」
  

 ホテルからは較場口駅まで歩いて行きます。較場口駅には自動券売機も用意して有るので、自動券売機を利用します。一番遠い駅を押しますが、機械はウンともスンとも言いません。何と第二期工事区間の終点新山村まで入っていてその区間を押していたのです。駅の所に(乗車券の金額の)数字が無かったので冷静に見れば分かる物ですが、なれない海外旅行なのでその様なミスが出てきます。只現地の人たちも自動券売所より有人券売所を使うのは何故なんでしょうか?これはイマイチ分かりません。
 較場口〜動物園間で運賃は4元です。重慶では1人当たりの国民総生産4,853元・タクシーの初乗りが5元ですから、市民から見てモノレールの運賃は高くも無く安くも無くという感じでしょう。

 (11)較場口駅コンコース(乗車口)            (12)有人券売機(較場口駅)
      

 (13)自動券売機(較場口駅)               (14)較場口駅乗車ホーム
      

 駅は前述の様に乗降分離になっていますが、コンコースの改札から完全に分離されています。乗車ホームに下りると既に10人以上の人が乗車を待っています。ホームには発車案内が出ていますが、何と広告兼用の液晶モニターの発車案内は秒単位で表示しています。このタイプは2年前に上海でも見ました。中国の鉄道は時間にルーズと言うイメージが有りましたが、これは改めなければいけないかな?と感じました。

 (15)モノレール運転席                  (16)モノレール車内(較場口駅)
      

 モノレールが入ってきたので、全てが見渡しやすいように最前部に陣取ります。車内には写真のように座席の7割位が埋まる量で発車します。運転席を見るとごく普通のモノレールの運転席ですが、どうも自動運転はしていないようです。(少なくとも運転席で見ていた限りは自動運転に必須な「ボタンを押す操作」をしていたのが見れなかった)でも手動運転で何も補助が無い状況でホーム柵に合わせて止めているとしたら驚きです。多分私の気付かなかった所で自動運転に近い運転補助装置が採用されているのでしょう。

 モノレールに乗ったので、先ずは李子坦駅を目指します。何故この駅を目指すかと言うと、駅が極めて特徴的な構造になっているからです。その特徴的構造は前日の市内観光の時に見つけたのですが、見た時には「 姫路モノレールの大将軍駅モノレールのしおり )の拡大版である事に気付いたからです。この駅こそ「重慶にモノレール導入された理由」を示していると言えると感じ訪問して見ることにしました。

 (17)重慶モノレール李子坦駅と駅ビル       (18)駅ビルに入るモノレール
      

 (19)駅ビルに入るモノレール               (20)李子坦駅周辺のモノレール軌道
      

 (21)李子坦駅構内とモノレール
  
 鵝齢公園は嘉陵江沿いに有ります。丁度重慶市街地丘陵の崖が嘉陵江に落ち込む所で、紅岩村・重慶北駅・重慶大学方面に抜ける道が通っている幹線道路沿いに有ります。只土地が狭い事も有り現在は周囲に古い家が少々河沿いに有るだけで、駅周辺の人口は多く有りません。只道路の反対側は丘陵地自体が、鵝齢公園下の住宅地になっていて、その住宅地からの集客と観光地となっている鵝齢公園公園からの集客が期待できる駅です。
 この周辺でモノレールは崖っぷちの高い所を走っています。(写真20)その様な所で軌道の左右の高低差があるところに駅が出来ていますが、重慶モノレールはその高低差を利用し、駅の所に巨大な駅ビルを作り、その6階にモノレール李子坦駅を作っています。又このビルの6階のホームは鵝齢公園殻下りてくる道路と面しており、其処にも改札が出来ています。又この駅ビルはモノレール駅の下は事務所になっており、その上は住宅になっています。
 駅ビルの規模を見ても、下が事務所で駅の上が住宅と言う構造を見ても、複線のモノレールの駅がビルの中に入っている事を見ても、正しく「スーパー大将軍駅・大将軍駅の生まれ変わり」と言う感じがしました。しかし地上から6階までの移動が大変と言う事も有りますが、このモノレール駅とビルの組み合わせは「姫路モノレールの理想の実現」と言う意味でも非常に面白いと感じました。

 李子坦駅を取材した後は、モノレールで先に進む事にしました。李子坦駅からは嘉陵紅沿い崖をジリジリと昇っていき、最後はトンネルで丘陵を越えて大坪駅に出ます。ここから先は完全な重慶市街地のベットタウンで、オリンピック競技場などを見ながら進んでいきます。途中謝家湾駅で走行中のモノレールの写真を取りながら終点の動物園駅を目指します。

 (22)謝家湾駅に入るモノレール
 
 動物園駅は第一期工事の終着駅になっており、車庫線も有り運転上の拠点駅になっています。この駅でも折り返しは乗降分離式を採用していて、日本の資金が入っているからかもしれませんが、運転のやり方も日本式です。
 この動物園駅は今の段階での終点なので、取りあえず此処で一度降りて折り返します。この駅の周辺もかなりの新興住宅地で、周りには高層マンションが立ち並び、モノレールの下のメインストリートにはかなりの人出が出ています。
 
 (23)動物園駅から車庫線方面を見る            (24)動物園駅改札口
      

 (25)動物園駅周辺の町並み
 

 帰りのモノレールは立ち客が出る位の混雑です。夕方で有ることを考えると住宅地から買い物等に中心街に行く人たちが多いのかもしれません。只地下駅になる大坪駅では乗車より降車が上回り多少空いた感じです。此処で利用客は一段落ちるのかもしれません。
 その後モノレールはトンネルから嘉陵江沿いに降りて李子坦駅を過ぎ、次の目的地牛角沱駅に向います。しかしこの区間崖に沿って下っていきますが、この区間の勾配・曲線はかなり厳しいものが有ります。この区間の狭い土地と勾配・曲線をクリアする為に跨座式モノレールが採用されたと言っても過言ではないでしょう。
 
 (26)大坪駅手前の地下入口                (27)嘉陵江沿いの勾配・曲線区間
      

 牛角沱駅は嘉陵江大橋の脇にあります。この嘉陵江大橋とモノレールの交差地点は、今回の重慶モノレールで李子坦駅&駅ビルと並んで、その配置に驚いた場所です。この区間ではモノレールが嘉陵紅大橋の橋脚を微妙に避けながら通過します。

 (28)嘉陵江大橋を潜るモノレール             (29)牛角沱駅から嘉陵江大橋を見る
      

 本来嘉陵江大橋の方が先に出来ており、この様な場所にモノレール等を通す場合、既存構造物の上を高高架で通すのが一般的です。しかし重慶モノレールの場合は「橋の下を橋脚を避けながら通す」と言う方法を選びました。その為に上下線が並んで走る事が不可能で分離していますし、較場口→動物園方面に関しては曲線の速度制限(35km/h位で走り抜けた)まで掛かっています。
 逆に言えば日本的発想では「こんな所通すのか?」と言う所を重慶モノレールは通していますが、逆に言えばこの場所は跨座式モノレールで無ければ通過する所が困難なところです。又この場所を高高架で通していたら建設費が上がっていた可能性も有ります。正しく跨座式モノレールと中国的強引さの面目躍如と言った所でしょう。
 
 牛角沱駅の嘉陵江大橋通過ポイントを見た後、ホテルに集合の時間が近づいたので、牛角沱駅から較場口駅行きの列車に乗りホテルに戻ります。この嘉陵工沿いの区間は乗降が少なく、牛角沱駅から乗ったときにも立ち客が居る状況で、この状況は較場口駅までずっと続きました。この重慶モノレールの全線での利用率には驚くばかりです。重慶モノレール自体は現在4両編成ですが、ホームは6両まで用意済みです。もしこの様な利用率が今後続くのなら6分枚の運行本数の増発より、編成両数増加による輸送力増強がすぐ視野に入ってくると言えます。

 夕食後に朝天門(重慶港)から嘉陵江・長江クルーズに出港しましたが、その時に嘉陵江沿いにモノレールを見る事が出来ました。重慶の夜景は重慶観光の目玉の一つなので、モノレールも写真のようにライトアップされています。船から見ると非常に綺麗なイルミネーションですが、鉄道やモノレールが此処までライトアップするのは珍しい気がします。これも又「中国的」と言う事が出来ます。

 (30)嘉陵江クルーズから見た夜のモノレール        (31)嘉陵江クルーズから見た夜のモノレール
      


 「4」重慶モノレールの必要性と明らかにした物

 今回この様に機会に恵まれ、なかなか観光では行くことの無い重慶を訪問し、公共交通機関であるモノレールに乗ることが出来ました。重慶モノレールは重慶に登場した始めての軌道系大量輸送機関ですが、そのモノレールは前述の様に重慶に取り「最善の軌道系交通機関」であると同時に、大きな物をもたらしたと言えます。その点について結論に変えて考えて見たいと思います。

 ・重慶モノレールの必要性は?−重慶を公害と渋滞からすくう救世主−

 重慶モノレールの必要性は、「バスによる輸送力逼迫の打開」「道路交通の渋滞緩和」等今重慶の抱えている都市問題の解決の為に有ると言えます。それは十二分に効果を発揮していると言う事は間違いありません。それだけでも重慶モノレールがもたらした物は大きいと言う事が出来ます。(参考記事「 変わる庶民の暮らし走り出したモノレール 」人民中国)
 それ以上に重慶モノレールの究極の目的は「公害防止」に有ると言えます。
 重慶は盆地と言う地形・毛沢東時代の古い重工業工場・マイカーの急激な増加・それによる渋滞の発生等で、大気中には非常に多くの有害物質が放出されており、極めて酷い大気汚染・酸性雨被害等に見舞われています。(参考資料: 中国の環境問題と対策
 元々重慶を含む四川盆地は「蜀犬陽に吠える」(四川の犬は滅多に太陽を見ないので太陽が出ると太陽に向って吠える)と言う位霧の多い土地で、今回の重慶訪問の時も殆ど毎日曇・霧の状況でした。その様な天候の中で非常に感じたのは「重慶の空気の悪さ」です。昨年の北京も空気が悪く感じましたが、重慶はそれ以上です。私はマスクを必要とするまでは感じませんでしたが、空気の悪さに起因する鼻や喉の不快感を感じました。私がそんな大気汚染の進行を感じた以上、重慶の大気汚染がかなりのレベルまで進んでいると見て間違いないと言えます。
 しかし重慶市に関しても手を拱いている訳では有りません。今回は公共機関はモノレール・タクシーしか利用しませんでしたが、街中で見たバス全てや一部のタクシーにCNGを利用した車両が使われています。

 (32)重慶市内バスの「CNG」のマーク(全部のバスに有る) (33)重慶市内のタクシーに有る「CNG」のマーク
      

 重慶だけではなく日本でも大気汚染公害対策で、CNGのバスは使われています。しかし日本では重慶のように「バス全部がCNG」とまでは行っていません。その点重慶の方が公共交通機関の大気汚染対策は進んでいると言えます。
 元々重慶市の有る四川盆地は有力な天然ガス田が有ると同時に、今天然ガスの「 西気東送 」プロジェクトのパイプラインが重慶を経由する等、重慶は天然ガスが利用しやすい環境に有ると言えます。
 その様な環境が有るからバスやタクシーにCNGが利用されているのでしょうが、それを踏まえても、エネルギー問題以上にバスにCNGを利用する理由は「公害防止」に有る事は間違い有りません。しかしそれ以上に道路が狭く所得拡大で自家用車が爆発的に増えている重慶では( 重慶での自動車保有状況の参考資料 )、公害防止の根本的対策として車の総量の削減と、その促進の為の公共交通機関の整備が重要です。其処に正しく「重慶モノレール」の必要性が有ると言えます。重慶モノレールの必要性は「公害防止」に有ると言っても過言ではないと言えます。
 極めて悪化しつつある環境・パンクしつつある市内の道路等の状況から重慶をすくう為にも、重慶に大量輸送機関は必要であり、地形・用地等から一番適しているのは跨座式モノレールであると言うのが、結論になろうかと思います。

 ・重慶モノレールの明らかにした物は?−日中友好の明と暗が明らかに?−

 この様に重慶を「公害と渋滞」から救う救世主として登場した重慶モノレールですが、果たして我々日本から見てどのような意義が有るのでしょうか?今度は視点を変えて、日本の立場で考えてみたいと思います。
 元々重慶モノレール自体にも日本の円借款が約57%入って建設されています。( 重慶モノレール概要 )そういう点から見れば、日中合作のプロジェクトで有ると言えます。
 中国でのプロジェクトで円借款の導入自体は別に珍しい事では有りません。現在かなりのプロジェクトに円借款が導入されており、北京地下鉄・上海浦東空港等中国の交通プロジェクトで円借款導入自体が珍しい事では有りません。
 又昨今の靖国他色々な問題に起因する対立に起因し、日中間の対中円借款に関しては日本国内で「日本を攻撃可能な兵器の購入に大量の軍事費を費やしている中国に円借款は必要か?」と言う様な、現在行われている日中間の各種協力を否定する様な議論すら起こりつつあるのもまた事実です。
 常識的に見れば、「極めて近視眼的かつ自己中心的見方」である見方で有ると言えますが、もしそのプロジェクト自体に日中の両方に「Win・Win」の関係が無ければ、そのプロジェクト自体に日本が金を出す必要性が極めて減少し、「近視眼的かつ自己中心的」な見方の人たちを否定できなくなります。

 では重慶モノレールプロジェクトにはその「Win・Win」の関係が成立しているのでしょうか?私はYesと言う事が出来ます。なぜなら重慶モノレールが解消に貢献する重慶の公害が日本にもたらす影響の重さにその理由が有ります。
 前述の様に重慶の公害は極めて深刻な状況に有ります。特に日本の酸性雨の原因は中国の煤煙であると言われています。特に中国は大気汚染が酷いのと石炭が豊富に産出されるので暖房・発電に石炭が使われているため酸性物質の排出が多く、 世界の大気汚染ワーストテンに入る重慶を始めとした南西部の大気汚染の激しい地域では、雨が酸味をする と言われています。
 しかし大気汚染等の公害問題は中国国内だけで済めば良いのですが、この中国西南部の酸性雨・大気汚染物質は偏西風に乗って日本にも遣って来ます。つまり中国重慶の大気汚染は日本にとっても他人事では有りません。ですからこれを解消する事は日本にとっても当然メリットが有ることです。
 その中で重慶モノレールは、普通の公共交通がもたらす地域振興・利便性向上等のメリットの他に、上記の様に公害防止に大きな効果が期待できます。このことから考えれば、重慶モノレールは「中国→公共交通による公害防止・渋滞緩和」「日本→公害緩和による間接的な日本の環境の保護」と言うメリットをもたらし、直接間接の差が有れどもWin・Winの関係をもたらしています。これは「日中間の協力の明の側面」です。

 但しこのプロジェクトの問題は「半分以上日本が出資しているのに、ほとんどが中国製を使っている」と言う点です。システムこそ日本製の跨座式モノレールを採用していますが、跨座式モノレールの日本のメインメーカー日立製作所も一部の車両の受注と部品の受注だけしか出来ていません。( 当プロジェクトの元請は長春軌道客車で下請の日立(本来の技術保有者)の受注は電装品全部と2編成・残りの19編成は日立の技術供与で長春軌道客車が製造
 今まで中国は、「一部のみ輸入→ノックダウン生産に近いタイプで国内組立→それらの技術を使って国内生産」と言う形で、よく言えば「技術移転」悪く言えば「技術盗用」を行っているのは全世界が知っている話です。今回も正しく日立が同じパターンを歩まされています。57%の資金を融資した国のメーカーでしかも技術を持っている会社が下請と言うのは可笑しな話です。
 確かに進んでいる日本の技術を適度に移転してあげる事は中国の発展の為にも必要なことです。しかしそれにも限度が有ります。今回の形は明らかに可笑しな話です。日本の税金が使われている以上は「環境改善による日本への越境公害の防止」と言う間接的効果以上に、経済的な効果も主張しなければならないと思います。
 確かに日本は靖国問題・東シナ海ガス田問題・上海領事館員自殺問題で強気の発言をしていますが、その様な些細な事より今回の重慶モノレールにおける日立の待遇の様な、正当な権利が失われている経済的損失に関して言いなりにならず、権利を主張した方が余程正しいと思います。そうしないと日本の権利損失はどんどん大きくなると言えます。これは「日中間の協力の暗の側面」です


 この様に重慶モノレールは交通の側面だけでなく、今微妙な日中関係の明暗も浮き彫りにしていると言えます。しかし日中両国は隣国であり、その為に重慶で問題の「大気汚染・酸性雨公害」もそうですがお互いに影響を与え合っていると言えます。
 その様なマイナスの側面に対し、重慶のタクシーは全て日本のスズキが提携した「重慶長安」が作っているカルタスですし、いすゞも合弁でトラック工場を作っている等の深い経済的関係と言うプラスの側面も有ります。
 今や何を言い合っても、日中両国は経済的には、ミクロの問題は有れどもマクロ的には「欠かせないパートナー関係」です。今や「政冷経熱」と言われていますが、本来は政治的な側面でも助け合いながら生きていかなければなりません。
 それには色々な側面での協力が必要です。今までは経済的な協力が多かった物の、これからは環境面や人民の生活面での改善の協力も必要です。その様な多様な側面で日中両国がWin・Winの関係を築いて行く事が必要で有ることを、日中合作で作った重慶モノレールは示しているのかも知れません。





※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください