このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



 「4」中心市街地活性化策として主張される「路面電車再生プロジェクト」を考える


 既述の様に既存の中心市街地活性化策に完全に行き詰まり、衰退が止まらない地域である徹明町・柳ヶ瀬地域ですが、その地域で「中心市街地活性化」として今行われているプロジェクトが有ります。「 路面電車再生トラスト 」による エンジェル基金募集 と、それによる路面電車復活の動きです。
 先日の街歩きの時に、国道157号線を歩いていて下記写真のポスターを渡して居るおじさんが居ました。配っているポスターを見て目玉が飛び出さんばかりに驚きました。上記の「路面電車再生トラスト」によるエンジェル基金募集でした。


 (23)路面電車再生トラストの活動場所   (24)エンジェル基金募集のポスター
       


 ポスターに書いてある趣旨は「軌道のみ残っている路面電車にハイブリット電車を走らせて、揖斐線黒野・美濃町線関までを結ぶ」その為の基金として1口1万円の基金を募ると言うのが趣旨のようです。
 現在名鉄岐阜4線に関しては、写真に有るように架線のみ撤去されており、軌道はそのまま残存しております。車両のハイブリット路面電車自体はドイツに存在しておりますし、現在鉄道総研で「 架線レスバッテリートラム 」の研究が進んでおりますし、 ディーゼルの路面電車 は古くは札幌市に存在していましたし、アメリカにも 部分低床ディーゼルLRT は存在します。その点から考えれば素人的側面では実現可能な企画です。
 

 「果たして路面電車再生はそんなに簡単なのか?」

 単純に考えて、上記のトラストの活動場所に路面電車の駅の模型が置いて有りましたが、この様な安全島は過去に名鉄が設置を依頼しつつ出来なかった事でありました。軌道に関しては併用部分の軌道は老朽化が進んでおり名鉄営業時点から高速運転は不可能な状況でした。橋梁等インフラの老朽化も進んでおり、一部は危険な状況です。この様な点に金を掛けると莫大な金がかかる状況で如何にして再生するのか?と考えるだけで、途方も無く困難な計画で有る事がわかります。
 その上、今回の廃止で昭和42年12月22日岐阜市議会「名鉄市内線撤廃」決議がやっと達成された状況です。民意を反映した議会による決議が否定されない段階で、路面電車復活に公的支援を注ぎ込む事は矛盾した話ですし、公的補助が無いにしても今回の路面電車復活の行動は議会と民意に反した行動と言う事になります。
 その状況でこの様な募金活動と路面電車再生活動を行って良いのでしょうか?それだけでも可笑しな話です。路面電車再生を願うなら先ずは請願運動等で岐阜市議会に働きかけ「名鉄市内線撤廃決議」を撤回させ、その上で改めて路面電車復活の行動を行うべきです。それが物事の順番で有ると思います。
 以上の路面電車再生に関する問題点を百歩譲って解決できたとして、実際に「路面電車再生プロジェクト」が岐阜の町に何をもたらし、中心市街地活性化に寄与するのでしょうか?


 「果たして「路面電車再生」は事業として成立するのか?」

 今まで既存運営者の名鉄とて岐阜4線存続の為に、足りない点や間違った方策があったにしても、相応の努力してきた事は間違いない事実です。その中で大手民鉄運営と言う限界がありながら合理化を進めても、輸送人員・輸送密度の低下に歯止めが掛からず、年間13億円の赤字と言う状況で「人件費をゼロにしても赤字が消えない」と言う異常な状況でも経営を維持してきました。
 それは名鉄が内部補助で支えてきたから出来た話であり、普通の民間企業がこの路線を単独で運行していたら、とっくの昔に撤退か倒産しています。この鉄道は全員無給のボランティアが運営しても赤字持ち出しの状況です。それが名鉄岐阜市内線の実情です。
 (只色々な団体等が事業に名乗りを上げたり、 事業計画書 を作っているが・・・「 交通ビジネス研究会 」「 ライトレール岐阜 」(どうも名前が違うだけで、元は同じ団体のようだが・・・)果たしてハイブリット電車やDMV等最新の技術を導入と言っているが、未だ確立されていない技術を基に事業計画書を作っても意味が無いのでは?)
 

 確かに岐阜4線が存続すれば、徹明町・柳ヶ瀬地域の活性化の他に色々な効用が有るのは事実です。しかし今の利用率では「バス輸送が適している」と言うのが現実です。その状況で路面電車を再生し事業として行おうと言うのは、私が思うに残念ながら無謀以外の何者でも有りません。
 それこそ本当に共感できるのであれば、私とて鉄道を愛する気持ちも有りますので、エンジェル基金に一口ぐらいの寄付をしても構わないと思います。しかし今の状況では冷静に考えれば、残念ながらその1万円をドブに捨てるような物です。
 

 例えば1万円の募金を10万口(10億円)集めそれと同額の出資金を集め、その上名鉄が今の残存資産を無償で譲渡したとしても、20億円の出資金・基金では事業として成立させるに必要な投資資金は賄いきれないでしょう。
 先ず今のインフラ状況では安全な運行は担保で来ません。橋梁の架替え・信号や通信システムのオーバーホール等に億単位の金が掛かる事は間違いありません。それに高速化を行うのなら軌道のレベルアップが必要です。最低限専用軌道区間を名鉄の2級線(レール37kg/m・枕木37本/25m・道床厚200mm)のレベルに向上させ、その上消耗しているレールを全部交換するとして全区間36.6kmに1km当たり4000万円近い費用が掛かるでしょう。((内容も条件も)全く違うので、参考には一寸難が有るが 神戸市営地下鉄の198mレール更換・ロングレール化・その他工事で約1600万円掛かっている。 ロングレール化・その他工事を枕木更新・道床に変えたと単純考えて、その上昼間・地上・常時線閉と言う例より恵まれた環境を考え半額で出来るとしても、5倍にして1km当たりに直して4000万円になる)この工事を全区間に施工したとしたら、それだけで約15億円掛かります。
 それに車両購入費だって掛かります。名鉄は単車・連接合わせて21編成で運行していましたが、それと同じ数の編成を購入するとして、単純に1編成2億円としても42億円掛かります。(因みに 量産型momoでも1編成2億2千万円 かかる。特殊な機構の車両ならもっと掛かるだろう)又幾らバス車体を採用したDMV導入しても、量産が進まない限り ノンステップ・低公害バス並みの値段 での導入(2000〜2500万円)を図るのは難しいと思います。(今までの21編成をDMVで導入して、しかもノンステップ・低公害バス並みの値段で導入できると、一番楽観的に考えても4億2千万円掛かる。それに編成数減は速度向上と増発を相殺できたとしても殆ど困難である。それに速度向上には軌道強化の更なる投資が必要とイタチゴッコになる・・・。)
 少なくとも路面電車再生トラストが主張する所要時間で運転するとなると、上記の試算は大げさでも、最低限の安全性確保とDMV車両購入で10億円〜20億円と言う金額は、簡単かつ最低限の設備投資として必要なことは明らかです。これだけの金額を集めると言う事自体非常に困難で有ると思います。
 事業としての可能性を考えた時に、名鉄廃止直後の車両・電気設備が存置されていた時期ならば、未だ車両費を掛けず済んだ分可能性が有ったと言えます。今や車両はすべて無く、架線も撤去されている状況です。この状況からもう一度国交省に免許を申請しての運行再開となるので、今の最低限の復旧+(特に安全性に関わる部分の)インフラ状況の改善しないと免許が下りないでしょう。それらを考えれば、この路面電車再生事業は極めて困難であると言えます。


 加えて元々は名鉄は19億6千万円(内人件費9億7千万円・修繕費など9億9千万円)の支出で運営していた鉄道です。それで収入は6億7千万円しかなかったのです。もし公設民営方式が取れてインフラ・車両は全部自治体が整備してくれていて、募金・寄付を全部基金化できて、その上利用者増・運賃値上げで50%増の収入が確保できたと仮定しても、この鉄道の経営は極めて困難で有ると言えます。(名鉄より人件費を下げ要員を合理化して、自治体の資産レンタル料を格安に設定してもらい、収支均等程度だろう・・・)
 増発で積極策に打って出て増客増収を目指すと言うのは、増発等をすればその分経費が嵩むことを考えれば、非常に難しいと言えます。名鉄の15分・30分毎運転でも、郊外地域ではそれなりの頻度です。それでも輸送密度2000人程度と言う現実を先ず考えるべきでしょう。
 ましてや対名古屋輸送では揖斐線にはJR東海道線西岐阜・穂積両駅が間接競争相手と立ちふさがり、美濃町線には関に入っている高速バスが競争相手で、名鉄岐阜4線〜名鉄・JR岐阜経由〜名古屋と言う需要を吸い取っています。高い利便性で魅力の有る都市名古屋へ輸送するこれらの交通機関は大いなる競争相手です。旧名鉄岐阜4線を再生したとしても、対名古屋輸送でこれらの競争相手から乗客を奪うのは難しいですし、通過する岐阜の中心市街地徹明町・柳ヶ瀬が名古屋ほど魅力・求心力が有り、名古屋に流失している購買力を旧名鉄岐阜4線再生線とペアで奪えるかと言えば疑問です。この様な状況では幾ら増発等をしてもなかなか乗客増には結びつかないでしょう。
 収入を上げるには値上げか増客しかない、値上げは利用者逸走を招くし、増客には人口増か他の交通機関から利用者を奪うしかない、しかし人口増は望めないし、他の交通機関から乗客を奪うのは困難となると、潜在的需要の発掘しか有りませんが、此れも困難を極めるでしょう。これでは路面電車再生は八方塞と言えます。
 努力している方々が居る中で、何もしない人間がこういう発言をするのも気が引けますが敢て言いましょう。私は現状では「岐阜4線の路面電車再生」は慈善事業でなければ不可能だと思います。実現できても残念ながら破綻するだけと思います。


 「路面電車再生は中心市街地活性化に有効なのか?」

 此処にひとつの調査があります。国交省中部運輸局・岐阜市による「 鉄軌道、中心市街地活性化による公共交通を中心とした地域づくりに関する調査 」によると、確かに路面電車の有用性が謳われています。「鉄軌道沿線に多くの商業集積が見られる」と言う調査に加えて、アンケートでは「多くの人々が柳ヶ瀬までの買い物に路面電車を使用」「路面電車廃止で利用者の52%・沿線住民の44%が柳ヶ瀬の利用が低下する」と言う結果も出ています。これを見る限り確かに「路面電車は徹明町・柳ヶ瀬地域への買い物アクセスに重要」「中心市街地にとって路面電車には価値が有る」と言う事になります。
 現実は「路面電車が廃止されたから中心市街地衰退が加速した」と言う事はあっても、「路面電車廃止前から既に中心市街地衰退は進んでいた」と言う事実が有ります。路面電車廃止は中心市街地衰退の要因の一つであれど、全てではないのです。
 

 それは何故かといえば、同じ調査に原因が示されています。
 その原因として「岐阜の求心力が低下して名古屋との格差が増大」「大規模小売店舗の郊外進出が顕著」等の理由も示されていますが、最大の理由は「柳ヶ瀬で買い物をしない理由は「買いたい商品が少ない」「情報が少ない」「駐車場が少ない」の3点が多い」と言うところです。つまり「柳ヶ瀬には買いたい物が無い」と言う事になります。これでは幾ら路面電車をLRT化して沿線から客を引っ張ってきても全く意味が有りません。
 前に「 交通総合フォーラム 」で「 なぜLRTやトランジットモールによって地域は活性化するのか? (かまにし様)」「 LRTやトランジットモールは「ツール」に過ぎないのでは? (TAKA)」と言う議論をしていますが、正しく徹明町・柳ヶ瀬地域にも同じ事が当てはまると思います。
 要は「街や商店自体の魅力が上がらなければ、幾らLRT等のツールを用意しても町は活性化しない」と言う事です。今路面電車再生トラストが行おうとしているのは「ツールの整備」に過ぎなく、幾らツールを整備しても肝心な商店の魅力が向上して、人々が「買い物をしたい」と言う思いになる中心市街地にしなければ、徹明町・柳ヶ瀬地域は活性化されないのです。
 

 実際「3」で述べたように、徹明町・柳ヶ瀬地域の活性化はなかなか難しい状況です。この地域への特区創設による大規模小売店舗誘致も捗々しくないですし、商店もニーズに合わない店が多い状況で、真に有効な活性化の方策は未だに見出せていない状況です。
 この様な状況では、幾ら名鉄岐阜4線廃線跡をLRTとして再生しても、大きな意味はなさないと思います。その点から考えれば、徹明町・柳ヶ瀬地域には「路面電車再生プロジェクト」より先にやらなければならないことが有るといえます。


 ( 「5」 結論に変えて  に続く )





※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください