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☆中部国際空港のより一層の発展に必要な物は何か?
 

 最後に中部国際空港が今後の発展に必要な物は何でしょうか?やっと開業し経営が軌道に乗った状況では有りますが、今の段階で次の発展の方策を考える事は決して悪い事では有りません。と言うより企業たる物は永続的な成長戦略を抱かない限り、縮小均衡→衰退の道を歩み、経営に重大な障害を引き起こすことになります。
 決して「無謀なジャンプ」をする必要は無いですが、次の一手は考えるべきですし中部国際空港㈱等でも当然考えている事でしょう。この様な事を考えられるのは「経営好調な空港の特権」です。現状の経営困難打破に汲々としている関空では出来ない贅沢です。(しかし関空は1兆4200億円と言う巨額を投じての2期事業と言う自殺行為的贅沢を行っているが・・・。今更工事が進んでいるので「中止→ぺんぺん草を生えさせる」とも行かず有効利用策を考えなければいけないが、本当の所はこれは「金をドブに捨てるに近い」社会的犯罪である。)
 ですから中部国際空港㈱が持っている「次の発展戦略を練る」と言う特権を、私が少し拝借してここで「中部国際空港の発展の方向性」について、トヨタの発想に真似て「なるべく妄想を排除して収益重視」で考えて見たいと思います。

 ○中部国際空港に第二滑走路は必要か?

 先ず中部国際空港の次の一手と考えられているのは、中部経済連合会から出されている「 第二滑走路建設構想 」です。これは中部経済連合会が昨年9月に出した提言「 魅力と活力溢れる中部の実現〜空港・万博の成果を踏まえた中経連の活動〜 」で、インフラ強化の一番目の項目で「中部国際空港利用促進協議会」の活動活発化・旅客と貨物量の拡大に基づく第二滑走路の建設が提言されています。
 具体的内容は 読売新聞の報道内容 で図面が出ていますが、今の3500mの滑走路に完全に平行で沖合いを300m埋め立てて、4000mの平行滑走路を造ろうという構想です。
 確かに新聞記事に出ているように「就航本数は国際線355便/週・国内線約700便/週で、年間離発着回数は関空に迫る10万回に達する」状況であり「滑走路1本では、将来の大規模改修時に24時間空港の機能が損なわれる」と言う現状が有り、「関空でも10年以上掛かっている」「今から将来構想を準備するのも必要」と言うのも正しい事です。只この第二滑走路本当に必要なのでしょうか?
 この中経連の発言は「中経連の会長が豊田自動織機の名誉会長」で「中部国際空港㈱の社長がトヨタグループ出身」と言う事から、中経連の発言は中部国際空港㈱の基本的考えとリンクしている可能性は高いと言えます。中部国際空港㈱平野社長は 「1日の離発着が高いレベルになってくれば、ピーク時と全体との両方を見極めながら(将来構想を)考えたい」としながら「空港会社が第2滑走路の計画案や事業主体の枠組みを早急に検討する段階ではない」 と発言しています。
 実際中部国際空港㈱としては「今は足場を固めながら、将来も見据えたい」「空港会社は地道に経営を行い、中部財界が将来計画の方向性と支援体制を固める役割分担を明確にしたい」と言う考えが有るのでしょうが、「総事業費を安く抑えたのだから、2本目の建設にも生かしていきたい」と言う中経連の考えはちょっと違う気がします。

 この中経連提示の第二滑走路案には問題が有ると言えます。それは 関空第二滑走路建設の内容 と比較すれば明らかです。関空2期事業は 上物・下物含めて1兆4200億円 と中部国際空港建設の全事業費より費用がかかる大規模事業で、この事業が必要かどうかは別にして、関空はこの第二期事業が完成すれば、羽田や成田のような平行滑走路の間隔が離れる為に交互に離陸用・着陸用に分ける事が可能です。その為に大幅に離発着回数を増やす事が出来ます。
 それに対して中経連提示の第二滑走路案は、「埋め立ての幅が300m」と言う事はきわめて狭い間隔で平行しています。その為今の場所に建設すれば「非常時・メンテナンス時の代替え滑走路」としての機能は果たせますが、同時離発着が不可能なクローズドパラレルの滑走路になってしまいます。離発着回数は増やせる物の、羽田空港・成田空港・(二期事業完成後の)関空の様なオープンパラレルの平行滑走路ではない為、成田平行滑走路・関空二期事業の様に、平行滑走路完成による大幅な増加は望めないと言えます。
 確かに隣接地を埋め立てて滑走路を造る為、費用は安く済む筈です。しかしその滑走路の機能は限定的で有ると言えます。中部国際空港の場合は関空の「陸側に滑走路・海側にターミナル」の配置と逆の「海側に滑走路・陸側にターミナル」と言う配置の為、第二滑走路を増やす先は海側しかなく、滑走路の間隔をあけて完全に離発着分離をする平行滑走路建設はほぼ不可能です。(飛行機がターミナルから奥の滑走路に行くには手前の滑走路を横断する為。どうしても手前の滑走路が干渉してしまう。それに 平行滑走路をオープンパラレル可能な配置にするにはかなりの間隔(羽田のA・C滑走路間は1700m)開けなければならない。 これは今の中部国際空港のターミナル・滑走路配置では難しい。)これでは安く滑走路が出来ても、効果は限定的になってしまいます。
 これでは「安物買いの銭失い」になってしまうのではないでしょうか?コスト削減も重要ですが、「コスト削減」と「安物買いの銭失い」は表裏一体の物です。関空の場合「世界に誇れる物を、最高の物を造りたかった。当時はコストより大切な物があった」(関空初代社長竹内良夫氏コメント:日経ビジネス2003年5月5日号)といって過剰な物を造るのは問題ですが、「コスト第1でとにかく安いものを造る」だけでも使いづらく効果の低い物、つまり「安物買いの銭失い」が出来てしまいます。
 その視点から考えれば、中部国際空港に第二滑走路は少なくても「遠い将来への検討課題」で十分だと思います。今は足元を固めての堅実経営で良いと思います。中部国際空港は「安物買いの銭失い」を防いだ絶妙なコスト削減策が今の成功をもたらしたのです。その事から考えて「滑走路増設」と言う重大な設備投資に関しては慎重に考えるべきで有ると思います。


 ○中部国際空港は何を伸ばすべきか?

 では中部国際空港は何を伸ばしていけば良いのでしょうか?中長期的側面は別にして短期的側面で考えれば、「中部圏の好調な製造業」を背景に「1本の滑走路を有効活用」しつつ「24時間運用空港」のメリットを生かせる、(特に国際間の)航空貨物輸送に力を入れる事が成長に必要で有ると思います。
 中部国際空港は24時間空港で、貨物は夜間でも特に問題が無い(逆に到着便は夜間であれば翌朝一番配達が出来る)と言う事を考えれば、発着時間が利便性の良い時間に集中する旅客便拡充より、発着時間の制約が少ない貨物便拡充を目指すほうが、中部国際空港の経営から考えると効率的で有ると言えます。
 実際中部国際空港では、 名古屋空港時代に比べて貨物便も5便/週→40便/週に増加し、昨年上半期輸出実績取扱量が3.9倍に増えています。 又中部国際空港㈱発表の「 国際航空貨物取扱量 」でも特に積込の好調さが目だって居ます。只上半期輸出実績で3.9倍に増えたものの、それでも 福岡空港に劣っている量ですし、関空の約15%しかない状況 です。中部地区経済のポテンシャルを考えれば、かなりの航空貨物需要が関空・成田に逃げている事が考えられます。この中部国際空港の取りこぼし分だけを吸収しても、貨物部門のかなりの利用増になると言えます。
 只貨物関係の設備に不足が有るようで、設備投資として「 貨物地区国際エアライン上屋増築 」を計画しています。この様な設備増強がされて、JAL・ANAだけでなくアメリカ系の国際宅配大手FedEx・DHLが拠点を強化する事になれば、関東には無い24時間空港の利便性を生かし、より多くの航空貨物を集める事も可能になるでしょう。
 加えて今回名古屋地区で生産(三菱重工大江、富士重工半田、川崎重工岐阜・名古屋等)されている ボーイング787用の大型構造体も中部国際空港経由で輸出 される事が決まる等、大型特殊航空貨物の取り扱いも出来る様になります。そうすると中部国際空港では各種各様の航空貨物を扱えるようになり、貨物が旅客取り扱いと並ぶ大きなウエイトを占める収益源となり、旅客取り扱い・空港内でのテナント営業・航空貨物取り扱いと言う3本の収益源が出来ることになり、中部国際空港の収益もよりあがると予想できます。
 極めてオーソドックスな方策ですが、大きなインフラ・輸送設備を抱える交通産業では「設備の回転率を上げる事」が収益拡大の近道で王道です。今の段階でも十分に成功している中部国際空港ですから、今後敢て奇策を弄する必要は有りません。今後とも今までのコンセプトを生かしつつ王道を歩む事が必要で有ると思います。


 ○将来的には中部国際空港に「日本の航空産業のメッカ」を作ることはできないか?

 さて今後の方策として「貨物輸送の強化」を現実的方策として述べましたが、もう一つ少し長期的話ですが、その分未だ夢の有る話をします。中部国際空港の空港島・前島に航空産業のメッカを作る事はできないでしょうか?
 東海地域の産業といえば先ず「自動車産業」が思い浮かびますが、今航空産業が活発になってきています。戦前は「一式戦・隼」を造った中島飛行機太田工場の有った群馬県とならんで、東海地域は「零戦」を造った三菱航空機大江工場・「三式戦・飛燕」を造った川崎飛行機岐阜工場などが有り航空産業のメッカでした。
 その流れが現在も続いていて、名古屋周辺には 三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所 (小牧南工場・大江工場)、 川崎重工岐阜工場・名古屋工場富士重工半田工場 等の航空機工場が集中しています。
 その中で主に自衛隊向けの飛行機の製作やメンテナンス等を行っている三菱重工小牧南・川崎重工岐阜の各工場は、自衛隊等の既存の飛行場に面して有りますが、完成機を作っていないそれ以外の工場は海岸沿いの場所にあり、主にボーイング向けの旅客機航空機部品・一部構造材などを造っています。
 それらの部品が今回の787製作分担では空輸になったので、中部国際空港経由の輸出が決まった訳ですが、良く考えてみればこれらの輸出関連の工場が中部国際空港にあれば、工場〜船〜中部国際空港〜飛行機〜シアトルと言う輸出経路の中で、国内輸送の船の分がなくなります。それの方が効率的で有ると言えます。やはり効率性の点からは飛行機工場は飛行場の中が一番適当です。昔三菱重工大江工場で作った零戦を一度分解し牛車で各務原の飛行場まで運んで、それから戦場に送り出したという話が有りますが、今の三菱重工大江・川崎重工名古屋・富士重工半田の各工場は、「零戦を牛車で運ぶ」ほど酷くは有りませんが、輸送効率が低い事は間違いありません。ですからいっその事 中部国際空港内に愛知県企業庁が持っている臨空生産用地 に移転させては如何でしょうか?

 確かに今回三菱重工大江では787生産用に新規工場を作ったばかりですし、川崎重工名古屋第一工場は平成4年に出来たばかりの工場なので、廃止・移転は非常に難しいのは承知しています。只ボーイング・エアバス共に今後日本の航空産業との共同作業が増える事が予想され、その時の空輸の効率性を考えてセントレアへの移転を長期的側面から進めるのは悪い話ではないと思います。
 同時に中経連では、名古屋空港隣接地に「 宇宙航空研究開発機構の飛行研究施設の誘致 (中経連:魅力と活力溢れる中部 P7)」を謳っていますが、この実験施設を誘致するには市街地に隣接して制約を受けるであろう名古屋空港より、24時間空港である中部国際空港の方が、実験の環境として適していると言えます。
 宇宙航空研究開発機構では航空プログラムグループで「 国産小型旅客機開発研究 」を進めています。名古屋空港に誘致予定の施設はこの研究の中心施設になるでしょう。そしてこの小型旅客機が開発されれば製造も名古屋に有る3社の何処かの工場で行われる事になるでしょう。その場合研究施設と工場が隣接していれば便利ですし、広い空間が有る所の方が工場設置は行いやすいはずです。
 国産小型旅客機開発が成功した暁には、この事業に絡むであろう三菱・川崎・冨士の三重工会社の旅客機生産合弁工場を中部国際空港隣接臨空用地に造り、誘致した生産施設とあわせて日本の航空産業の中心地に育てる事が出来れば、中部経済発展のためにどれだけ役に立つでしょうか?
 10年・20年先をにらんだ壮大な構想になりますが、第1段階として「飛行研究施設の中部国際空港への誘致」・第二段階として「輸出型航空機産業の中部国際空港への誘致・集約」・第三段階として「国産小型旅客機生産工場の誘致」と言う三段階をへて、中部国際空港周辺に航空産業を集約させ「日本の航空産業のメッカ」を作り出すという構想は考えられないでしょうか?
 只これらの研究施設・工場は滑走路に面していないと意味が無いので、空港対岸部用地の有効活用にはならないですし、順調に開発が進んだ場合 遠からず空港島内の29haの臨空生産ゾーン だけでは用地が足りなくなり、新たな埋め立てを迫られる可能性が有ります。その様なリスクを考えても「空港隣接」「航空機産業が発展している名古屋」と言う特性を考えた、この様な長期的成長政策を考えても良いのではないでしょうか?
 今までビジネスになる航空機生産に成功しない日本で有るので、航空機部材生産・航空機生産が順調に行くというのは難しいかも知れませんし、その様な状況の航空機産業を成長の為に誘致するというのは、非常にリスクが高いかも知れません。只この航空機産業誘致が成功して、「臨空航空機生産ゾーン」が出来れば、中部国際空港だけでなく東海圏全体の成長・発展にも大きく寄与すると私は思います。皆さん如何でしょうか?



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