このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





セントレアは日本の空港を変えるのか?

-トヨタが造る空港は、空港と公共事業に何をもたらすのか?−



TAKA  2006年01月31日




(セントレア誘導路を移動するノースウエスト航空ボーイング747)




 去年2月に中部国際空港(セントレア)が開港しました。名古屋の中心部名鉄名古屋から名鉄特急で僅か28分で行ける、知多半島常滑沖に24時間運用可能な3500m滑走路1本を持った本格的空港であり、今まで名古屋の空港は官民共用の名古屋空港だけで、貨物便運行等に制約の有った名古屋空港に変わり中部国際空港が出来たことで、名古屋も関東・関西に次ぐ第三の産業集積地として恥ずかしくない玄関口を持つ事のなりました。
 「 中部国際空港(セントレア)概要 」「 中部国際空港概要(国土交通省航空局)
 名古屋を中心とする「中部・東海圏」は、トヨタを筆頭に自動車産業を中心とした世界有数の産業拠点であり、繁栄している地域であった事は周知の通りですが、海外への玄関口としての港湾は名古屋港を中心に整備が進んでいましたが、空港は市街地に有り運用時間に制限の有ると同時に自衛隊との官民共用の名古屋空港しかなく、特に貨物便需要に関して関空に逃げ出していたのが実情です。(2002年10月のアメリカ西海岸港湾ストで対米自動車部品供給が滞った時に、トヨタ等が航空貨物便をチャーターして輸送したが、その時には結構な本数が関空発に流れた)
 その様な状況の中で、名古屋悲願の国際万国博「愛・地球博」が開催されるのに合わせて開港した中部国際空港ですが、「名古屋悲願の空港」と言う以上に、関空の経営が失敗している中で半官半民の第三セクターに「世界のトヨタ」が社長を送り出し積極的に関与して作った空港です。
 今まで「コストダウン」と言う事に無頓着で縁の遠かったインフラ構築の世界で、「カイゼン」と言う世界共通語を生み出し、「乾いた雑巾を絞る」とまで言われたトヨタのコストダウンの方法が何処まで生かされているのかと言う点にも非常に興味が有ります。

 本来なら開港直後に一度訪問してみたいと思っていましたが機会が無く、今回年末恒例の中国旅行でセントレアを利用する機会が有ったので、初めて訪問し(東京在住なので国内線〜国際線乗換は出来なかったが)「ハブ空港として国内線・国際線一体化がどれだけ便利か」「トヨタが造る空港とは如何なる物か」と言う点に興味を感じながら、12月30日と1月3日の短時間でしたが訪問しました。
 
※今回の訪問記では、日経ビジネス2003年5月5日号「 トヨタが造る空港-カイゼンで1000億円安くなる- 」及び「鉄道ピクトリアル2005年1月特集号−名古屋鉄道−」を参考にしています。


 * * * * * * * * * * * *


 ☆ 中部国際空港訪問記

 今回の重慶旅行は(上海経由だが)日本〜重慶間の直通便がセントレア発しかなく、しかも友人が名古屋在住で有るので、必然的にセントレアを利用することになりました。(一昨年・去年は名古屋空港を利用)
 この旅行の出発・到着時間(30日14:35発・3日13:35着)の前後を利用して、出発日朝に名古屋でリニモ&GWバス、到着日夕方に岐阜市内訪問を行っているので、セントレア訪問は極めて駆け足の訪問になってしまいました。しかし私に取りセントレアは、今回の名古屋訪問ではリニモ&GWバスや岐阜と同じ位重要な訪問先だったので、可能な限り時間を割いてセントレアを見学する事にしました。

  ○セントレアへのアクセスを利用して

  ○中部国際空港を見学して


 * * * * * * * * * * * *


 この様に中部国際空港は「空港の器」を見ても、上海浦東空港程の巨大空港と言う規模ではないですし、滑走路1本の片肺空港であり、世界的に見れば中規模空港と言う事になるのでしょうが、それなりの規模である事を考えても、規模に比してコンパクトに纏まり使いやすく利便性の高い空港で、諸外国に誇れる空港で有ると思います。
 この素晴しい空港が出来たのも、偏に社長まで送り込んで旗を振った「トヨタの功績」が非常に大きいと言えます。トヨタが居なければ此処までの空港は出来上がらなかったでしょう。
 その事を踏まえ、以下において「トヨタと空港の関係」「トヨタが中部国際空港に何をもたらしたのか?」を中心に、中部国際空港について考えて見たいと思います。
 

  ☆何故トヨタは中部国際空港建設に深く関与したのか?

  ☆トヨタが中部国際空港で示した可能性は何か?
 
  ☆中部国際空港のより一層の発展に必要な物は何か?


 * * * * * * * * * * * *


 今回偶々セントレア訪問に恵まれ、今回のような訪問記を書く事が出来ましたが、改めて感じたことは「中部国際空港は日本で始めての空港建設の成功例」なのかもしれないということです。
 正直言って日本の戦後の飛行場建設は失敗の連続でした。羽田の容量限界に伴う新東京国際空港(成田空港)の建設も、成田闘争と言う極めて不幸な事を経て、未だに未完の空港のままです。又関西国際空港の建設も「 果たして関西三空港は並立できるのであろうか? 」で述べた様に、完全な供給過剰になり余剰設備+贅沢と言う重荷を抱えた関空は深刻な経営不振に悩まされています。
 その中で中部国際空港は(1)特段の反対運動も無く、(2)「名古屋空港のコミニューター空港化」で国際線・国内線の完全統合を果たし、(3)空港の容量強化で中部圏の旺盛な需要にも対応できるようになり、しかも(4)1730億円のコストダウンを果たし、(5)実質初年度から黒字を出す満点の状況を作り出すことが出来ました。これは成田・関西三空港には見られない、日本では数少ない「空港建設事業の成功例」であると言う事が出来ます。

 この様な成功の内、(1)〜(3)は行政が作ったスキームで成功が約束されていた内容です。しかし(4)(5)は中部国際空港㈱の経営の成功であり、それはトヨタを積極的に関与させ民間のノウハウを注ぎ込んだからこそできた成功例です。
 このことから考えて、「中部国際空港の成功要因」は正しく「トヨタを巻き込んで行った空港建設」に尽きると思います。正直言って生半可な民活では、関空の失敗の二の舞とまでは行かなくても、此処まで成功しなかったと思います。
 前に「 埼玉高速鉄道の経営に関する一考察 」と言う文で、「第三セクター経営に大切なのは”真の市民の公共性を考える事」であり「トータルのスキームを考え出すときに現実的に実需に基づき経営が成立する運営が可能で、その中で補助を最低限に出来るスキームを確立する事」と述べましたが、中部国際空港㈱は正しくこの「必要な事」が当てはまっている事業だと思います。
 「官の役割」「民の役割」を十分踏まえつつ、公共性の高い事業で民間のノウハウを活用して、最低限の税金で公共性を高める事業を行うという「第三セクターの模範例」が中部国際空港㈱には有ります。
 実際埼玉高速鉄道・多摩都市モノレール・千葉都市モノレールなど、公共性は有るものの、十分な補助スキームが考え出されずに、経営困難に直面し税金投入を迫られている交通系第三セクターは数多く存在します。
 その中で中部国際空港㈱が事業費の4割にのぼる無利子融資で潤沢な資金的補助を受けつつ、民間のノウハウを最大限に活用し、1730億円のコストダウンとテナント収入による増収を果たし、初年度からの黒字経営を達成したのは、素晴らしい物が有ると思います。
 この様な点から中部国際空港事業は、私たちに「空港事業もインフラ面の補助を受ければ事業として成り立つ」と言う事と「良好な官と民の役割分担」「第三セクターの有るべき姿」と言う空港事業・公共事業・民間活用の有るべき姿を示しているのではないかと感じます。その点からも、空港事業・公共事業・第三セクター経営に「トヨタのもたらした物」は非常に大きいという事が出来ます。





※「 TAKAの交通論の部屋 」トップページに戻る。





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください