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新東京国際空港(成田空港)改善に必要なのは「発着枠増便」と「成田新高速建設」か?



TAKA   2008年 01月 24日




 今回正月の旅行で利用した上海浦東・香港国際・新東京国際(成田)の3空港について、「空港比較シリーズ」として取り上げて、空港施設&空港アクセスについて比較しました。その中で空港・アクセス共に「使いづらい」という評価を下した新東京国際空港(成田空港)ですが、そのまま放り投げて置くわけには行きません。私も日本人で東京に住んで(ドメスティックな産業といえども)東京でビジネスをしている以上、東京が国際都市として衰退する事を座視したくはありません。
 では如何すれば良いでしょうか?

 現実として今の成田空港に劇的なインフラの改良をする余地は乏しいです。良くも悪くも2つのターミナルビルは形として出来上がっていますし、第一ターミナルビルは2006年に14年間掛けて行っていた改良工事が竣工したばかりです。又横風用のC滑走路の建設は「 成田空港問題シンポジウム・成田空港問題円卓会議 」での討議を踏まえた「 地域と共生する空港づくり大綱 」で「横風用滑走路として計画している部分は、現在の滑走路と平行滑走路をつなぐ地上通路として整備」「平行滑走路が完成した時点であらためて地域に提案し、その賛意を得て進めてまいります。」という内容が提示されて居る為、現実的に建設は「遠い将来の課題」というレベルの話です。
 ターミナルも横風滑走路も手を付ける事が難しい中で、空港で手を加えられるプロジェクトとなると、現在のB滑走路の暫定解消位しかありません。実際B滑走路については2005年に「 北伸案による2500m平行滑走路の整備 」が国交相より指示されて居ます。此れが空港施設に関してほぼ唯一の「目玉となる施設整備」です。この整備にで 平成18年度の発着回数約19万回 から、平行滑走路拡張時に空港会社が周辺自治体に説明したように約23万回まで発着回数を増やす事が出来ます。しかも空港会社は平行滑走路整備を引き金にして「 発着回数を30万回まで増やす意向 」を持って居ます。これで今も成田乗り入れを望みながら実現出来て居ない約40カ国に対して乗入をさせる事が出来ると同時に、既存運行路線も増便する事が出来ます。
 こうなると現在の「片肺飛行の飛行場」という状況を大幅に改善する事が出来ます。内陸空港ですから24時間運用は出来ないですから、今の運用時間の中で増発は此れから出来るB滑走路の延長による能力向上しかありません。それに「乗り入れ待ち」が有る現実からも、やはり成田の場合は「まず運行本数増加」を目指すのが正道といえるでしょう。「過去からの確執」や「騒音問題」などが絡まって居る為に、今合意を得ている約22万回/年から約30万回/年への発着本数増加について地域の合意を得るのが難しいかもしれません。しかしそれでも何とか空港会社に努力をして頂き「約30万回/年の発着本数確保」を目指して欲しいものです。それが今後の成田空港の発展の為に重要で有ると思います。

 さて成田空港の運行本数増加が行われるならば、必然的に「更なる空港アクセス改善」を考えざる得なく成ります。今の京成・JRによる運行形態・運行本数は91年の成田空港第一ターミナルビルへの乗り入れ開始以来殆ど変わってません。しかし空港利用は91年〜06年の間で空港旅客は約2417万人⇒約3534万人・発着回数は約121千回/年⇒約191千回/年という様に大幅に増えて居ます(参考資料: 成田国際空港の動き(年度別) )。将来発着回数が大幅に増えて300千回/年の発着回数が現実になると、空港旅客数も5000万人/年という数字も現実の物となってきます。そうなると今の鉄道系空港アクセスに関して能力不足になる可能性が有ります。
 しかも既存鉄道による鉄道アクセスのため、京成は「貧弱な軌道に貧弱なターミナル」という欠点を、JRも「総武本線の軌道の悪さ、千葉廻りの遠回り、単線の成田〜成田空港間」という欠点を持って居ます。その為今の路線に投資をすれば多少の改善は可能でしょうが、抜本的改善にはならない欠点があります。そこで出て来るのが、第三の空港アクセス鉄道である 成田高速鉄道アクセス㈱ による成田新高速鉄道整備事業(以下「成田新高速鉄道」と略す)です。

 成田新高速鉄道は、北総線の印旛日本医大〜成田空港高速鉄道土屋間10.7kmに新線を引くと同時に、北総線京成高砂〜印旛日本医大32.2kmの130km/h運転対応への改良工事と成田空港高速鉄道土屋〜成田空港駅8.4kmの線増工事と新線区間と合わせて160km/h運転が可能なように改良工事を行う事業で、事業費を約1260億円と見込み、開業後は北総線〜成田新高速鉄道線を京成が第二種鉄道事業者として運行する事になっており、現在の日暮里〜空港第二ビル間51分の京成スカイライナーが成田新高速鉄道開業後は36分で結ぶようになるプロジェクトです。
 運行に関しては、1月11日の交通新聞で「成田新高速鉄道プロジェクト空港改良計画等固まる」という記事が出ており、成田新高速鉄道開業後のダイヤは「今後への課題だが、最大で毎時スカイライナー*3・新高速経由一般特急*3・京成経由一般特急*3の"3・3・3ダイヤ"を考えている」という記事が出ていました。今の「スカイライナー毎時1〜2本(40分毎)・一般特急毎時3本」に比べると大幅な輸送力増強になります。
 成田新高速鉄道の事業スキームは、インフラは第三セクターで第三種鉄道事業者の成田高速鉄道アクセス㈱が事業費の3分の2(金額にして461億円・国と地方が半分ずつ負担)公的補助を受けて建設し、事業費の内359億円の借入金部分を第二種鉄道事業者の京成からの賃貸料収入で償還するスキーム(スキームに関しての参考資料: 水野賢一 衆議院議員 HP )で、運行に必要な上物は第二種鉄道事業者の京成が「 グループ会社の北総鉄道による千葉ニュータウン公団線の12.5km区間の買収で150億円、日暮里駅の改修に181億円、新型車両の導入で160億円 」という多額の投資を行う、「京成の社運をかけた一大プロジェクト」です。(参考資料:新社長を直撃! 京成電鉄 その1その2その3 ;日経BP社)

  
本当は成田アクセスの主役だが、ターミナルが貧弱で競争力の弱い京成 左:スカイライナー  右:一般特急

  
左:此処まで成田新高速が来れば大きく変わるか? @JRと成田新高速の分岐点土屋  右:成田新高速受け入れの改良工事が進む京成のターミナル日暮里

 成田空港鉄道アクセスの「大幅な改善を狙う」成田新高速鉄道ですが、私は今までこの鉄道プロジェクトに関して下記の様に考え反対していました。

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 「私が成田新高速建設に反対の理由」
 (1)民間が運営する鉄道に空港アクセスと言う理由だけで3分の2の補助を入れる事は好ましく無い。
 (2)B滑走路が暫定では需要の根本となる成田空港航空利用客が大幅に増えず、成田新高速建設でアクセス鉄道は供給過多になる。
 (3)成田新高速は(投資負担と既存線の空洞化という二重の理由で)京成の経営を悪化させる。
 (4)その様な投資をするのならば(JRを含めた)既存線改良で十分対応でき、投資の費用対効果も良いのでは?
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 確かに上述(1)〜(4)の私の反対意見の根幹の考え方は、今でも「一理は有るかな?」と感じています。特に(3)の京成の経営問題は、成田新高速鉄道関連で491億円の投資を行い、原価で成田高速鉄道アクセス㈱への線路使用料が発生し、今の本線から輸送の太宗を占めていた空港輸送が北総廻りに変わる事で本線の空洞化が進むなど、成田新高速鉄道開業に伴うマイナスの影響は「京成が思っているほど楽観的ではないのでは?」と今でも思っています。
 このマイナスを克服するには、京成が成田新高速線経由の空港輸送で大幅な増収の実現が必要であり、そうでないとグロスで見ると京成の経営にマイナスになり、(少々大げさですが)空港線問題が足を引っ張り極度の経営不振に転落した1970年代後半〜80年代の「暗黒の時代」が再び来るのでは無いか?という危惧すら抱いています。

 過去に成田新高速鉄道・成田空港の問題に関して、この様な考えを持っていました私ですが、今の様な「交通論」について、議論・考察を始めたデビュー戦が正しく「成田新高速鉄道」「成田空港」問題に関してでした。

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 「過去の成田新高速鉄道・成田空港関連の議論 検証:近未来交通地図過去ログより」
 ・成田新高速鉄道は本当に必要なのでしょうか? (1)   (2)
 ・ 成田新高速はまったく違う概念の公共事業としてすすめたい
 ・ 2180m「暫定」滑走路の能力を問う
 ・ 東京駅接着なしの成田新高速は東京と成田を本当に近づけるのか?
 ・都心側ターミナルとしての上野・日暮里の価値をどう上げるか (1)   (2)
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 これらは約5〜6年前の議論で、この記事もシェアさせて頂いているなど、大変お世話になっている「交通総合フォーラム」メンバーの方々と他の掲示板で議論をしていた時期で、今になって読み返すと「自分の考えに欠けてた物が有った」「現在から過去を見返すと当時の考えは先を読めて居なかったな」と改めて感じます。今になって過去の一連の議論を振り返って考えると「私が未熟な議論を皆さんに吹っかけてご迷惑をお掛けしたな・・・」と自己反省しています。

 実際今は前提となるべき空港アクセス客の供給面で状況が変わりつつあります。京成の花田社長がインタビューで「 成田空港の利用客は、1999年時点に比べて、2010年には1.5倍に増加すると言われています。 」と答えて居ますが、この様な成田空港利用客増を見込み成田新高速鉄道プロジェクトに乗り出したのでしょう(後は補助が手厚いから採算性が取り易い理由も有るだろうが・・・)。実際2010年は未だ先ですが99年(2846万人)⇒06年(3534万人)で増加率約24%の状況で、京成花田社長の述べた数値の約半分まで航空旅客が増えて居ます。しかし今の乗客の伸び率では「将来京成はマイナスの負担を抱えてしまうのでは?」と危惧してしまいます。
 けれども昨年末に明らかになった「将来30万回/年まで発着回数を増やす」事が現実化すれば話は別です。発着回数30万回/年が現実化すれば、空港旅客数も5000万人/年が見えてきます。此れが何時実現するか?不透明ですが、実現して航空旅客5000万人/年が達成されれば、増加率で航空旅客は対99年で1.75倍となり京成が想定している乗客の伸び率より大きくなり、成田新高速鉄道への投資は「空港アクセス客全体の増加+速度・利便性向上効果による転移」でグロスでの増収を果たせる可能性が出てきます。こうなると京成の経営的にも「成田新高速鉄道が大化けする可能性」が出てきます。

 加えて今回東アジアの3空港を比較して、特に香港国際空港の空港アクセスを見て「成田の空港アクセスは大幅に劣っている」と痛感しましたが、成田新高速鉄道プロジェクトはその「劣っている」事に対して部分的に改善を果たす効果もあります。
 京成の空港アクセスの都心側ターミナルが今の日暮里・上野のままでは、香港の様に「地上に上がれば香港上海銀行・中国銀行・長江集団と言う英国資本・中国資本・華僑資本のトップの本社ビルが眼の前に見える最高の立地」とはかけ離れた状況です、此れに関して「 日暮里駅総合改善事業 」でJR各線との乗換は便利になっても、日暮里・上野という「ターミナル立地」自体は変わりません。
 しかし所要時間は今の日暮里〜空港第二ビル間51分が36分に縮まると、香港の空港〜香港ターミナル間約23分程では無いですが、一定の所要時間短縮効果を期待出来ます。少なくとも所要時間が15分縮まるのは効果が有りますし、それに「スカイライナー毎時1〜2本(40分毎)・一般特急毎時3本」から「毎時スカイライナー*3・新高速経由一般特急*3・京成経由一般特急*3の"3・3・3ダイヤ"」に変わる事で運行本数が倍になり、実際の所要時間に換算されるべきの「待ち時間」が短縮される事は「15分の所要時間短縮効果」と合わせると、大きな意味を持ちます。

 この様に「B滑走路の北側延伸のよる暫定解消」と、それによる「発着回数30万回/年」時代の到来が現実となるのであれば、増大する航空旅客に対応する形での成田新高速鉄道プロジェクトは必要な物です。又今の段階で東アジアの他の大空港に比べて「周回遅れになりつつ有る?」感じのする成田空港の対応策として、この「B滑走路暫定解消・発着回数30万回/年の実現・成田新高速鉄道建設の3点セット」は「現実に出来るベターな改善策」として、公的セクターが補助を投じてでも何としても早期に実現させる必要があり、その第一歩は「B滑走路暫定解消」と「30万回/年発着回数実現に周辺自治体・住民の理解を得る事」だと改めて考えさせられました。
 今や「衰退しつつ有る」といわれる日本で、経済財政担当相が国会の演説で「 もはや日本は『経済は一流』と呼べない 」と演説するほど、経済の衰退が迫りつつ有る状況です。その中で経済の衰退を止める為に色々な経済活性化策を取らなければなりませんが、此れだけ国際化した社会・経済では、国際間の人的・物的流れをスムーズにしなければ経済の先進国として世界に影響力を発揮する事は出来ません。そこで世界との人的・物的玄関である空港の整備は、日本の国際競争力の確保の為にも必要な事です。だからこそ、日本の首都東京の世界への玄関口で有る成田空港の改善による「世界に通じる玄関のリニューアル」は必須であり、出来る限りの施策を取らなければならないと、今回改めて感じさせられました。




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