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JR四国の置かれている状況を分析して

−苦しい経営環境の下で健気に頑張るJR四国の状況とは?−



TAKA  2007年01月10日


  

左:JR四国2000系振り子式気動車 右:JR四国8000系振り子式特急電車


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 今回年末年始の旅行先に久しぶりに「国内」を選択し、色々検討の結果今まで行ったことの無い「四国」に行って見ようと思い、12月30日〜1月2日の3泊3日(30日の夜行で出発の為)で松山・高松へ「道後温泉に入りながら金比羅宮に初参りに行くツアー」を企画し「1年の垢を落とす為に」出かけてきました。
 しかしその様な大義名分を掲げても実際は「1年の垢落とし」と同じ位「TAKAの交通論のネタ集め」と言う事も目的として存在していて、加えて旅行の日程調整に苦慮していてチケットを取ったのが12月20日過ぎで岡山・広島・松山・高松方面の飛行機がほぼ全滅状態になっていて、結果的に「サンライズで四国入り」「島内はJR特急で移動」「帰りは岡山から新幹線のぞみ喫煙グリーン車(喫煙グリーンだけ取れた)」と言う「完全鉄道移動」の旅行になってしまいました。
 そういう訳で今回の四国旅行に関して、現地で拾ったネタについて幾つかの項目に分けて纏めてみる事にしました。まず第1弾は「JR四国の四国島内・新幹線連絡」の優等列車輸送についてです。今回「岡山⇒松山⇒多度津(特急しおかぜ)・多度津⇒琴平(特急南風)・高松⇒岡山(快速マリンライナー)」と言う経路でJR四国の優等を使いました。年末年始のため此処で見た姿が全ての実情とは思いませんが、その点を踏まえ今回の利用時に感じた事を中心にまとめたいと思います。

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 ☆JR四国優等列車試乗編(12/31〜1/2)

 まずはJR四国優等列車の「試乗記編」を書いて見たいと思います。JR四国の優等列車は「対岡山新幹線連絡」と「四国島内輸送」が主体となっていますが、今回私は本州起終点の移動だった為「本州⇔四国のアクセス」の優等列車利用が主体となってしまいましたが、有る意味JR四国の「輸送の根幹」を見ることが出来たと思います。此処で色々な事を考える基礎として、まずは今回利用したJR四国の列車の試乗記を纏めようと思います。

 ①特急しおかぜ号に乗り本州から松山へ(12/31 しおかぜ9号 岡山11:22⇒今治13:30)

 まず四国特急の第1弾は本州⇒第1の目的地道後温泉までの移動と言う事で、「特急しおかぜ」で四国への乗換の玄関口で有る岡山から四国最大の都市松山へ向かう事になりました。
 今や四国は「本四架橋3ルート時代」であり、車であれば「明石〜鳴門・瀬戸大橋・しまなみ海道」の3ルートが有りますが、鉄道では児島〜宇多津を結ぶ瀬戸大橋線1ルートしかないのが現実です。その為鉄道での本州連絡は必然的に瀬戸大橋線に集約される事になり、瀬戸大橋線の本州側の拠点で新幹線の連絡駅である岡山から四国の松山(しおかぜ)・高知(南風)・高松(マリンライナー)へ結ぶルートが鉄道における「本四連絡の根幹」となっています。今回はその根幹を走る「特急しおかぜ」で一番遠いが一番の大都市である人口約50万の松山を目指す事にしました。
 本来この日は遅くまで本州各地を廻り比較的遅い時間での松山入りを考えていたので、岡山16:22発のしおかぜ19号のグリーン車を押えていましたが、夜行列車の疲れも有ったので本州での予定を早めに切り上げなるべく早く松山に着こうと思い朝早く岡山駅のみどりの窓口に向かい「乗車変更」を行おうと問い合わせると「今日のしおかぜは9号・19号のグリーン車にしか空きは有りません。9号は1席です」と言われました。岡山で新幹線乗り継ぎでは無いので自由席で並べば確実に席は取れますが、折角グリーン券を持っているので「9号に変更して下さい」と言い、昼間のしおかぜで松山入りする事にしました。
 この列車は東京7:50発のぞみ9号を受ける列車なので、大阪発を考えるとチョット遅めですが東京発だと丁度良い時間です。其処から考えると利用率の良い列車なのかな?と思いましたがこの列車だけグリーン車に空席が有るのも不思議です。ホームに降りるともっと驚きです。この列車は宇和島行きで8000系の特急電車ではなく2000系の特急気動車です。1日そんなに本数の無い「気動車しおかぜ」に乗れたのは珍しいと言えますが、車両は何と「アンパンマン列車でドキンちゃん号」です。子連れなら喜ぶでしょうが、大人の男一人旅ではチョット恥ずかしい感じがします。

  
左:2000系振り子式気動車(アンパンマン列車ドキンちゃん号)@宇多津 右:同1号車(グリーン車)車内(今治到着前)

 ドキンちゃん号のしおかぜグリーン車に乗り込むと暫くすると発車します。流石にDCの特急だけ有り「静かに発車」とは行きません。「ブルルル〜ン」と言うディーゼルエンジン特有の唸り音を上げて出発します。音も結構しますし加速も鋭く有りません。この様な点から見るとディーゼル特急と言うのは大きなマイナスなのかもしれません。
 岡山を出ると山陽線を越え山陽新幹線を潜り左に曲がり瀬戸大橋線に入りますが、大本を過ぎると単線になり速度は上がりません。加えて途中で交換の運転停車も有ります。新線区間の茶屋町の先になると速度も上がりますが、乗員交代も有り児島に停まりその先の瀬戸大橋では騒音対策のための速度制限が掛かっています。激しい競争に曝されている瀬戸大橋線を通る特急としては満足できるレベルの速度とは言えません。
 瀬戸大橋線を越え四国に入り最初の駅宇多津で本来は此処でいしづち号と併結ですが、多客期は全車両しおかぜ岡山発着になりいしづち号は「いしづちリレー」として別列車で高松〜宇多津運行で宇多津乗換となります。これは予讃線内で8両以上の連結が出来ない故の措置ですが、流動のメインが本州連絡になる以上仕方ないと言えます。しかし「8両以上の連結も出来ない」「別便運転は線路容量的に厳しい(特急の交換が大幅に増えてしまう)」と言う現実が示すとおり、JR四国のインフラはメインラインの予讃線と言えども「悲しいほど貧弱」と言う事が出来ます。
 予讃線内に入ると流石「振り子式・120km/h対応」の2000系DC特急だけ有り単線の路線を車体を右に左に揺すりながら高速で進んでいきます。「海べりを走る路線」と言えどもトンネルを最小にする為山を右に左に避けて走る為に勾配こそ厳しくはありませんが曲線はかなり厳しい状況です。「何故振り子が導入されたのか?」と言う事もこの線形を見れば分かる気がします。
 しかしこのしおかぜ9号は(松山経由)宇和島行きで有るにも関わらず、愛媛県内に入ると四国中央(96,059人)・新居浜(126,648人)・西条(116,003人)・今治(173,985人)と言う中規模な都市が連なっています。この地域は大王製紙・住友グループ・今治造船等の工場が連なっていて一大工業地帯と化しています。その為かしおかぜは比較的人口集積の有るこの地域で伊予北条・川之江・新居浜・伊予西条・壬生川・今治とこまめに停車していくに従い三々五々客が降車して行き、今治に着いた時には各車とも半分以上の客が降車して居ました。
 岡山〜松山だと2時間半ですが、岡山〜今治だと2時間を切ります。今治の場合しまなみ海道経由ルートが競争相手ですが、その手前の中都市は都市が比較的並んでいる事も有り鉄道が有利なポジションを抑えていると言えます。この状況はしおかぜの需要の策源地は愛媛東部と言う状況が如実に現れていると言えます。今回は気分転換に今治で降りて普通で松山に向いましたが、今治では自由席に10名/両以上の乗車が有ります。この点からもしおかぜは「岡山(山陽新幹線)対愛媛間輸送+愛媛県内輸送+(併結のいしづちで)香川県対愛媛県輸送」と言う複合的な輸送を1本でこなして居ると言えます。その点から考えると「それだけの複合輸送を集めないと1本の列車が成り立たない」と言うのもしおかぜの置かれている厳しい状況を示しています。

 ②特急しおかぜ号で松山から香川へ(1/1 しおかぜ・いしづち20号 松山13:22⇒多度津15:11)

 次は松山で一泊し十分市内観光をした後、正月元旦の内に金比羅さんに初参りをしてしまおうと思い松山から琴平へ移動しようとした時に又特急しおかぜ・いしづちを利用しました。
 この区間距離的にはそんなに遠くは有りませんが、普通は大部分が今治・伊予西条・観音寺で系統分割されており、1本で繋がっている列車が少なく又単線鉄道の宿命として特急優先と言う事も有り、普通列車での中長距離輸送は非常に不便になっています。その様な事も有り長距離輸送だけで無く比較的短中距離輸送で有っても特急が使われます。今回図らずしもその形に嵌りましたがその点比較的リーズナブルであるのに加え営業的にも上手くフォローされているので特急利用にそんなに抵抗を感じないと言えます。

 1月1日元旦でしたが市内観光をした後13時過ぎにJR松山駅に着き特急券を買うとみどりの窓口の女の子が「特急は1番ホームです」と案内してくれます。そういわれて始めて気付きましたが四国の単線区間の駅では可能な大部分の場合特急を上下関係無く1番線に着けます。1番線は駅舎と直結されていますので非常に便利と言えます。まして電化に伴いしおかぜ・宇和海の系統分割が行われた松山では同一ホーム前後で平面接続が行われていて非常に便利と言えます。
 折り返しのしおかぜが入線後出発まで少し時間が有ったので、平面接続のメリットを生かし潮風の先に止まっている宇和海11号の車内を除いて見ることにします。

  
左:しおかぜ号に接して平面接続の宇和海11号@松山 右:宇和海11号車内

 宇和海11号は2000系DCの4両編成でしたが、既に入線前から8両編成予定のしおかぜ・いしづち20号よりかも長い行列が出来ています。松山〜宇和島間は沿線人口は少ない物の「高速道路の脅威」には未だ曝されて居ません。その結果がこの様な2列車の行列の差に現れているのかもしれません。
 岡山・高松からのしおかぜ・いしづちが到着するとホームを足早に移動する人たちも居ましたが絶対量を見ると乗換客より松山からの利用客の方が多い感じです。宇和海11号はモノクラス4両ですが其れでも各車乗車率8割程度と言う感じです。正月元旦ですから流動はかなり少ないはずですが此れだけの利用客が居るとは驚きです。4両編成で運転と言う事から考えてもローカル特急の筈の宇和海も意外に人気の有る列車なのかも知れません。

 宇和海11号を一通り見た後、発車時間も迫ったので乗車予定のしおかぜ・いしづち20号の車内に戻ります。今回は自由席で「喫煙ルーム付」のいしづち号の7号車に乗りました。(8000系はリニューアルで座席を4席潰して喫煙ルームを造った事は素晴らしい事だと思います)松山で見た限りやはり乗車待ちの行列はしおかぜ:いしづちで3:1位の差が有りました。いしづちでは自由席で5〜6名/両と言う寂しい状況であり、しおかぜもそう変る状況では有りません。正月元旦の上りで有る事を考えるとこんな物かも知れません。
 松山を出てから今治までの約30分は最後尾の運転台の脇に立ち後ろから沿線の風景を見てみる事にしました。松山を出ると暫くは市街地が続きそんなに線形が悪い感じは無く110km/h+α程度で進みますが、車窓に瀬戸内の海が見えてくるといきなり右に左に曲がり出し振り子特有の揺れが襲い最高速度も90km/h程度で頭打ちになってしまいます。前日この区間を普通で通った時には何も感じませんでしたが、振り子特急で通ると早いですが足元をすくわれる様な特有の揺れに襲われます。立っているとこれには困らされ、今治到着時点で立っているのにギブアップして自分の座席に戻る事にしました。

  
左:8000系振り子式特急電車@松山 右:いしずち20号普通車(喫煙ルーム付)車内(今治到着前)

 今治到着時点でギブアップして座席に戻りましたが、それでもいすに座っている限りは振り子特有の揺れにもそんなに悩まされず、振り子車両の車両形状の制約による窓側座席の足元の狭さ意外は快適な旅を行う事が出来ます。前日に2000系DCで苦しめられたディーゼルエンジン音が無いのは非常に大きいと言えます。其処は電車特急の大きなメリットでしょう。
 前日のしおかぜ9号でも愛媛県東部での乗降の多さが目立ちましたが、今回乗ったしおかぜ・いしづち20号も似たような傾向に有ると言えます。今回は岡山行きしおかぜ5両+高松行きいしづち3両の併結運転ですが、どの駅でも岡山行きの前5両に圧倒的に多くの人たちが乗って行きます。高松・松山両空港に遠いが人口が30万を越す西条・新居浜・四国中央の3市から対大阪・対東京だと意外にしおかぜの競争力は強いのかもしれません。
 それに対し後ろの3両のいしづちは寂しい状況で進んでいきますが、自由席には意外に短距離利用の人たちが乗ってきます。松山では「如何にも帰省客」と言う人が4〜5人乗っており、伊予西条・壬生川で降りていきました。これらの人は松山空港利用客かも知れません。又今治からは学生が2人乗ってきて壬生川まで乗車していました。正月元旦であるにも関わらず学生が乗ってくるのは驚きですが、特急に学生が乗るのも驚きです。定期券で学生需要もフォローしている様ですし、この様な細かい需要もしおかぜ・いしづちには無視できないレベルで存在しているようです。

 ③特急南風号で香川県内を短距離移動(1/1 南風17号 多度津15:35⇒琴平15:48)

 続いては金毘羅さんへ向かう為に多度津〜琴平間の4駅・11.3kmと言う短距離ですが、高知と他県を結ぶ鉄道の大動脈土讃線に乗る事になりました。土讃線の存在意義「高知と他県を結ぶ」と言う視点で見るとその手前の多度津〜琴平間だけなので不十分ともいえますが、予算特急とは違う土讃線特急の「厳しい現実」を見る事が出来たと思っています。
 しおかぜ・いしづち20号から土讃線に乗り換える為に多度津駅を降りたのは15:11で車内放送の案内では「次の土讃線は特急南風が15:35発・普通は阿波池田行きが15:50です」との事で丁度「普通列車の谷間」に入ってしまったようで、ここは短区間ですが「金で時間を買う」と言う意味で特急に乗る事にします。自由席特急券は310円これで時間が買えたと思えば安いものです。
 多度津駅4番ホームに入ってきた南風17号は130km/h対応のN2000系を先頭に3両編成です。いくら高速開業で土讃線はピンチと言えども人口約33万人の高知市と岡山を結ぶ特急がこの編成数では悲しいものがあります。しかしモノクラスの車内は打って変わって立ち客が出る繁盛振りです。正月元旦と言うことで私と同じ様に「金毘羅参り」の客が出てにぎわっているのか?と思いましたが結構荷物を持っている人も多く高知方面への帰省客も多いようです。

  
左:2000系振り子式気動車(130km/h対応車)@多度津 右:南風17号車内(琴平到着前)

 多度津を出るといきなり次の金蔵寺駅で停車します。「何だろう?」と思うと放送が流れ「上り特急列車と交換待ちをします」との事です。多度津・善通寺・琴平と停車駅が続いてその間の唯一の駅が交換待ちで停車と言うことは各駅停車と殆ど変わりません。単線だから致し方ないにしても停車駅で交換できるように何とかして欲しいものです。
 元々戦前は11師団が置かれていて今も自衛隊の駐屯地があり重要度の高い駅である善通寺に停車すると次は目的地の琴平です。琴平では流石に多くの人が動き立ち客+αの10名以上/両の客が降ります。しかし金毘羅さん参りの帰りの客が同じ程度乗ってきてほぼ変わらない感じで琴平を出発していきます。この先は「市制」の街が(阿波池田を中心に合併で出来た「三好市」土佐山田を中心に合併で出来た「香美市」を除いて)高知市まで無い状況ですから、この混雑振りはかなり遠くまで続く感じです。しかし混んでると言えども1両増結で充分な混雑振りですから予備車が少なく厳しい運用をしている2000系ですがこのような時には何とか1両増結して輸送力を確保して欲しいものです。
 しかしそれでも4両編成で充分な輸送量しかない現実に土讃線の厳しさが如実に現れています。現在岡山を結ぶ南風が14往復に対して高松を結ぶしまんとが5往復と言う本数です。昔から比べると特にしまんとの減少ぶりは目を覆うばかりです。それでこの様な3両編成程度の編成数では土讃線の都市間輸送の輸送量はたかが知れていると言えます。都市圏輸送も無い路線で都市間輸送も大打撃を受けたら一体どうするのでしょうか?

 ④快速マリンライナー48号で瀬戸大橋を渡る(1/2 快速マリンライナー48号 高松16:43⇒岡山17:35)

 最後は帰京時に使ったマリンライナーです。1月2日は 交通総合フォーラム でお馴染みのとも様・KAZ様にご同道いただき高松周辺を見て回っていたのに加えて、帰京の為に取った新幹線が18:06岡山発のぞみ42号だったので本州方面に戻られるKAZ様と一緒にマリンライナーで岡山入りする事になりました。
 高松市内を見学した後市の中心部からちょっと離れたサンポート高松にあるJR四国の高松駅に着いたのは16時半ちょっと前で、のぞみ号の岡山発時間に合わせて16:43発のマリンライナー48号乗車を決めていたので発車の15分位前でした。改札を入り駅の中を色々見ていると丁度マリンライナー48号になる列車が入ってきます。編成はJR四国の5000系3両編成+JR西日本の223系5000番台2両編成で一番後ろが2階建てグリーン・指定車になっているので普通車は4両と言う事になります。
 ドアが開いたら早速席取りをした上で私はタバコを吸いながらとも様・KAZ様と話をしていると三々五々乗客が集まってきます。私とKAZ様の席は一番前の車両でしたが発車前には座席が7〜8割埋まり補助いすが使われ出す程度の程度の集客率でした。高松駅が改札最前部にしかない構造であることを考えると後ろの車両はもっと混んでいた可能性があります。
 列車は定時に出発すると、電車特有の加速性能でグングン速度を上げ讃岐平野を最高速度130km/hで西進します。マリンライナーは香川県内では基点の高松の他には瀬戸大橋の出入り口である坂出にしか停車しません。マリンライナー48号が坂出に着くとすでにホームには行列ができていて待っていた客が乗車を終わると立ち客が出る状況です。この乗客量を見ながらKAZ様と話をしてはいましたが、確かにこの乗客量を見ていると快速マリンライナーの普通車4両編成というのは「ちょっと輸送力不足では?」と言う感じがします。又基本編成はJR四国5000系でも普通車2両の付属編成的な233系5000番台がJR西日本所有というアンバランスな状況が影響しているのかもしれません。

  
左:JR四国5000系+JR西日本223系5000番台@高松 右:快速マリンライナー48号普通車車内

 瀬戸大橋をわたり本州側に入るとJR四国とJR西日本の境界駅になる児島に停車します。児島自体は競艇場や鷲羽山ハイランドなどの施設がある上駅前開発が進み拠点駅としてかなりの利用客がある駅です。しかしマリンライナーはここからJR西日本管轄下での運転になりますが、ここからマリンライナーにもうひとつ新しい役割が加わります。それは「岡山都市圏近郊輸送」という役割です。
 私の乗ったマリンライナー48号は児島〜岡山間で茶屋町(宇野方面接続)・妹尾に停車しましたが、マリンライナーはこの区間で茶屋町・早島or妹尾の2駅に必ず停車させられますし、ほかに備前西市・大元のどちらかもしくは両方と児島〜茶屋町間各駅に停車させられる場合もあります。マリンライナー2号・8号に至っては児島〜茶屋町間各駅+早島・妹尾・備前西市・大元に停車させられ、通過するのは久々原・備中箕島だけという状況です。新幹線接続に大きく影響しない始発や終電車近くの列車であれば致し方ないと思いますが、時間的に良い時間の岡山着8:13のマリンライナー8号がこの扱いでは「マリンライナーは都市間輸送列車なのか?」と言いたくなります。
 実際マリンライナー48号は瀬戸大橋上では立ち客チラホラの状況でしたが、児島・茶屋町・妹尾の3駅からの乗車客で上の写真の様に出入り口に立ち客がたまる状況になってしまいました。実際この日は「帰省帰りの客」と言う特別要素の需要がありましたが、それでもビジネスマンが乗りやすい時間帯であった事を考えると差し引きゼロであったと言えるでしょう。実際話の中でとも様・KAZ様からもこのマリンライナーの混雑振りの話は伺っていました。そう考えると四国⇔岡山間でマリンライナーを使っている人たちはこの混雑を日常的に経験していることになります。これは好ましい話ではありません。マリンライナーは「快速」と言う種別ゆえに強い価格競争力を持っていますが、それがこの混雑で相殺されてしまい「いつも混んでいる」と言うマイナスイメージにより、マリンライナー&新幹線で関西方面という客に高速バスへの逸走の要因を作っていると言えます。この点はしっかりフォローをすべきと言えます。
 唯岡山駅で降車の風景を見ていたら「先を競って新幹線ホームへ」と言う新幹線乗換駅でありがちな風景の感じは強くはありませんでした。実際高松〜大阪で高速バスで約3時間です。瀬戸大橋線の利用客が低調な事・高速バス需要が好調な事・価格が安い事から、すでに高速バスに逸走している利用者も多いのかもしれません。しかしそれでも岡山〜高松の環瀬戸内海経済圏の動脈としてマリンライナーが活躍していると言う現実は今回見たとおりです。そのマリンライナーの活躍ぶりは「鉄道が2つの地域圏を上手く結びつけた好例」の象徴であると言うことができるのではないかと思います。


 ☆JR四国の会社全体・鉄道事業について分析する 〜JR四国の努力と超えられない限界が示す物とは?〜

 今回四国訪問で主に四国島内移動に鉄道を利用した為、JR四国の優等列車を中心に都市間輸送の実態の一端を垣間見ることが出来たと思います。今や四国は高速道路網の根幹が完成し川之江を交差点にして四国4県へ向けての高速道路網が完成すると同時に、孤立していた島四国が自動車道を主体とする3つの本四連絡ルートで本州とガッチリ結ばれている状況です。
 そのような中でJR四国は国鉄から引き渡された「極めて貧弱なインフラ」の元で鉄道事業者として最大限の努力を行い四国の交通の一翼を担おうと努力をしている事は、今回の訪問で利用した範囲からもヒシヒシと感じられました。国鉄時代と比べれば現状は見違えるほど改善されてますが、瀬戸大橋線以外は殆どがJR四国の「設備投資」という名の下で積み重ねた努力で構築されたもので有るというのが実際の現実です。
 しかしその努力も「高速道路網」という巨人の下でいまや極めて厳しい状況に追い込まれています。よくJR四国を例える時に「全社で東京の品川駅の利用者と同じ位しか利用者がいない会社」と言われますがまさしく其の通りで、JR各社の中で其の経営基盤の貧弱ぶりは一番と言えるでしょう。そのような会社の努力が今や一敗地に追い込まれようとしています。今回は其の点についてJR四国の置かれた状況について考えてみたいと思います。

 ①JR四国の優等列車の高速化・利便性向上の努力とは? 〜制御式振り子導入と電化と利便性・人気向上と言う一連の施策とは〜

 まずJR四国が出来てから19年になりますが、其の19年間で一番変わったことと言えば「特急網の充実」と言う事が上げられると思います。JR四国発足時には予讃線特急しおかぜ号と土讃線特急南風号しか走っていませんでしたが、瀬戸大橋線開通に伴う本四連絡ルートの開通等を奇禍として特急網の充実に力を注ぎ、今や全幹線ルートには特急列車が走り其のネットワークは四国4県の隅々まで行き渡る状況になっています。
 加えて限られたインフラの中で最大限の努力を行い、「特急同士の併結運転による線路容量の有効活用」や「特急間のスムーズな乗り換えの実現」等のソフト面での対応を行い、持てる戦力の有効活用で最大の効果を挙げていると言えます。実際多客期のいしづち号の多度津〜松山間運転打ち切り+しおかぜ号との多度津対面接続は8両特急しか運転できずしかも単線のため増発が困難な予讃線で利便性を保ちつつ輸送力を最大限使う例と言えますし、松山でのしおかぜ号と宇和海号の平面接続は「宇和島までの電化は採算が合わないし松山で輸送力に大きな差が付くから松山で系統分割せざる得ない」状況の中で、特急ネットワークの利便性を落とさずに上手く対応している好例であると言えます。
 このような方策に加えて、四国の特急網に革命的変化をもたらしたのは「制御つき振り子」を採用した世界初の気動車2000系の開発であると言えます。元々振り子式気動車はエンジンから台車への動力伝達の反作用から困難とされてきた物でありJR四国の伊東元社長も「開発当初は成功するとは思わなかった。軽量高馬力の気動車特急が開発されれば良いと思った」(鉄道ピクトリアル1993年4月増刊号「四国の鉄道」より)と言われたほど難しい車両を開発しそれに成功したことで、曲線が多いのにインフラ改善が困難な四国の鉄道に、インフラ改善をしなくても高速化を達成し高松〜松山・高知間の所要時間を大幅に縮めたと言うことは極めて大きなエポックメーキングだったと思います。

  
左:松山駅での宇和海・しおかぜの平面接続 右:1線スルーの交換駅を振り子機能を生かし高速で通過する2000系

  
左:直線を走る8000系(車体が傾いていない状況) 右:急曲線を走る8000系(振り子機能で車体が傾いている状況)

 インフラに手を加える事により到達時間短縮を目指すと言う事は極めて巨額の投資を必要とし民間企業としては大変難しい事です。実際四国の場合予讃線・土讃線どちらの場合も在来線の現状の最高速度130km/hの速度フルスピードで運転できる線形に路線を改良するとなると新線建設と同じ位のコストが掛かります。その中でR≧600曲線であれば120km/hで通過可能な制御式振り子機構を採用した気動車特急車両を開発したJR四国は技術的なブレークスルーを果たす事で「自己の持てざる力の中で車両の開発で低コストで可能な限りの高速化を果たした」と言う事が出来ます。
 「制御式振り子機能付き気動車特急車両」はJR四国だけでなく、JR西日本・JR北海道・智頭急行等でも採用され色々な所で高速化をもたらしていますが、もしJR四国に「制御式振り子機能付き気動車特急車両」が無い状況で有った場合、今は一体どうなっていたでしょうか?予讃線こそ電化されたので既存技術の381系のような自然振り子の車両を導入する事が可能だったでしょうが、土讃線の場合今より対岡山・対高松で30分程度所要時間が掛かっていたでしょうから高速道路の開業で「壊滅的打撃」を受けてしまい路線自体の存続の危機に立たされていた可能性も存在します。
 その様な点から考えると、「制御式振り子機能付き気動車特急車両」である2000系の採用はJR四国に取り正しく「利用者の支持を受ける為に必要」で有ったと同時に、「企業存立の為に必要不可欠な物」であったと言う事が出来ます。その高速化の努力こそJR四国に取り必要な事であったと言うことが出来ます。その点から言えば「常識では困難」と言う認識があり失敗も想定しながらリスクを取り「制御式振り子機能付き気動車特急車両」開発にGOをを出したJR四国の伊東社長の決断は素晴らしい物が有ると言えます。これが無かったら今頃JR四国は「存続の危機」に立たされていたと言えます。

 もう一つ大きい「変化をもたらした投資」はJR四国最大の動脈である「予讃線電化」工事で有ったと言えます。元々北海道と並ぶディーゼル王国でありJR化直前まで「電化ゼロ」で有ったJR四国に取り、平成2年〜5年に掛けて149.5kmの距離を電化した予讃線電化工事は正しく企業として「将来の基盤を築く」工事であると同時に、その費用的側面から見れば「技術的に難しい振り子式気動車特急開発」と言う決断以上に「清水の舞台から飛び降りる」経営判断で有ったと言うことが出来ると思います。
 実際問題として予讃線には「制御式振り子機能付き気動車特急車両」と言う高性能気動車を導入していたために、「電化で2000系→8000系への運行車両の変更を行っても殆ど速度向上効果が無かった」と言う状況に有りながら、「高速道対策としての輸送改善策」と言う名目で巨額の費用がかかる電化工事を行ったと言う事は「速度だけでなくトータルとしての鉄道のレベル向上」と言う点で大きな意味が有ったと言えます。

  
左:JR四国8000系特急電車 中:JR北海道281系特急気動車 右:JR四国2000系特急気動車

 上の写真は近年私が乗ったことの有る「振り子式特急車両」です。一般的には「制御式振り子」を導入したので自然振り子の381系に比べ乗り心地が改善されたとは言われますが、それでも「制御付でも曲線通過時には特有の左右の揺れが有り酔い易い」と言う点で普通の特急車両と比べると乗り心地が大きく劣ると言われます。
 その中で近年乗った事が有る振り子車両を比較してみると、乗り心地に明らかに優劣を付ける事が出来ます。この中で2000系だけは「グリーン車」と言うワンランク上の座席に座りましたが、それでも乗り心地の悪い順番で並べると「JR四国2000系→JR北海道281系→JR四国8000系」と言う事になります。走る路線のレベルと言う事になればJR北海道281系の走る函館本線が「ワンランク上」となりますが、実際私の感覚的に「幹線級まで来ると軌道のレベルは乗り心地に大きく影響しない」と言う印象を抱きました。
 私の場合軌道のレベルに起因する「曲線の多さ」以上に乗り心地に影響したのは「ディーゼルエンジンの振動とエンジン音」でした。東京に住んでいるのでディーゼル車に乗りなれていないと言う点が有るのかもしれませんが、特に起動時の特有の振動と音には閉口させられました。その事があり「JR四国2000系→JR北海道281系→JR四国8000系」と言う順序をつけました。
 これは私の感覚だから他の人にも同一だろうとは言えませんが、この乗り心地の感覚から考えると「電化は速度向上に寄与しなくても乗り心地と言う点でトータルの鉄道のレベル向上に寄与した」と言う事が出来ます。その事は松山からの帰り8000系特急電車に乗った時につくづく感じさせられました。
 本来であれば予讃線の場合高性能気動車を使用して高いレベルまでの速度向上を行っていたので、敢て大きなリスクを犯して電化はしなくても良かったのかもしれません。それでも敢て「社運を掛けて電化を行った」と言うJR四国の意気を評価したいと思います。実際予讃線電化では149.5kmの電化+8000系特急車両44両導入+7000系普通用電車36両導入と言う巨額の投資を行っています。
 それだけの投資を行い「速度向上」だけでない総合的なサービス向上に積極的に投資をしたJR四国の姿勢を評価したいと思います。もし未だに予讃特急が2000系で気動車の乗り心地であれば利用者が逸走していた可能性も有りますし、電化によるトータルのレベルアップが無ければ利用者が減少しつつあると言えども今の利用者レベルを維持できなかったかも知れません。その様な点から考えてもJR四国の投資への努力を評価して上げなければならないと思います。

  
左:特急定期「快て〜き」の宣伝 右:2000系アンパンマン列車@松山

 加えて技術的に「制御式振り子機能付き気動車特急車両」開発で新型車両投入・所用時間短縮を果たしましたが、そのハード面での改善に加えて、ハード改善が一段落した現在において「利用しやすい」「親しみの持ちやすい」と言う点についてソフト面での改善も進んでいるのは大きい点で有ると言えます。
 写真に載せているのはJR四国の中で扱っている「アンパンマン列車」ですが、「アンパンマン列車」の親しまれぶりは「交通総合フォーラム」でとも様が「 鉄道を意識させる取り組み JR四国アンパンマン列車のインパクト 」を取り上げられその人気振りを始めて知りましたが、実際に乗ってみると特に子連れへのその人気ぶりは確かに利用に結びつくと同時に「鉄道が存在し輸送を行っている」と言う事を意識させJR四国と言う会社の存在に気付かせると言う点で非常に効果的な利用促進策で有ると言えます。
 それに「地道な販促策」としての「特急定期快て〜き」の販売も大きな意味が有ると言えます。これには「対自動車対策としての販売促進策」と単線鉄道で優等を頻発させる事による「普通列車の不便さを特急への転移で解消させる」と言う2つの意味がありこの様な定期が開発されたと言えますが、特急定期が実用化されれば利便性が上がり利用者のコストも下がると同時に、JR四国にしても「特急の利用促進」と言う点と「普通利用客の客単価向上」と言う側面で効果が有ったと言えます。実際正月に利用した特急でも「1駅だけ特急を利用する学生」も居ましたので利用促進に効果が有ったのは明らかで有ると言えます。

 この様な飛び道具的な「制御式振り子機能付き気動車特急車両」導入による速度向上と、イベント列車導入や特急定期販売等の地道な販売促進策のハードとソフトのコラボレーションによりJR四国の特急列車の今の地位が築かれたと言う事が出来ます。その為JR化後のJR四国の努力に関しては大いに評価できると思います。又この様な改善は国鉄→JRの分割民営化と地域密着経営が無ければ達成できなかった物であると思います。それに関しては「JR四国の努力」として率直に評価すべきで有ると思います。

 ②JR四国の喉に刺さった負の「棘」とは? 〜「経営基盤のの貧弱さ」と「瀬戸大橋線の境界の制約」について〜

 元々JR四国は「JR各社の中で最小の会社」であり、国鉄四国総局時代からすでに「四国全線とも営業係数が100以上」と言う状況の鉄道網を引き継いだ会社の為、上記の様にいくら改善を行っても1人立ちする鉄道会社として生きていくのは非常に困難な状況であったのは間違いありません。
 その様な構造的要因が内在するJR四国ですが、その経営上の問題について全体的側面から見た「マクロ上の問題」と事業の根幹たる鉄道事業が抱える「ミクロ上の問題」について考えてみたいと思います。

 ● 決定的ともいえる「JR四国の経営基盤の弱さ」

 上記の様に「自分の身の丈に合わせながら」設備投資やソフト面での改善等を行い、特急による都市間輸送を中心に国鉄四国総局当事とは比べ物にならないほどの利便性を築き上げたJR四国ですが、実際問題として鉄道事業では「約300億円の売上に対し約400億円の原価( JR四国第19期決算公告 より)」という状況であり「経営安定基金運用収益」が無いと民間会社の経営的には存立しない状況にあるといえます。
 そのような状況の中でJR四国は国鉄分割民営化時の「経営安定化基金」という名の「手切れ金・持参金」により何とか収支均衡に持ち込み企業としての経営を成り立たせていますが、経営安定化基金は金利動向により運用益が左右されるものだという点で「四国の鉄道の将来への存立の保障」という点では裏付けとしては「弱い」物があるといえます。

  
左:高松駅に有る「連絡船」立ち食いうどん店 右:昔は宇高連絡船で売っていて今は高松駅で売っている「うどん」

 加えてJR四国では民営化以後、 グループ企業 の育成等の「グループ総合力強化による鉄道事業以外での収益源確保」を目指しているのは 中期経営計画 に書いて有るとおりですが、実際問題としては四国自体の地域の基盤の弱さから関連事業の育成は「渋い副業」はそれなりに成功しているといえますが、事業の軸になる大物は未だ育っていないと言うのが実情であるといえます。
 実際似たような境遇かにおかれ「経営安定化基金」で保護の上地方の鉄道事業を行っているJR三島会社間で比較してみても、JR四国だけは「沿線に100万都市を持たない(北海道=札幌・九州=福岡と北九州)」と言う都市規模の弱さが鉄道事業の副業としては大きなマイナスになっています。実際JRになってから此れだけの期間が過ぎたので三島会社でも主要駅の新築が実施されたり計画されたりしています。その中でJR北海道は札幌駅改築で「 JRタワースクエア 」と言う大丸をキーテナントとした駅ビル開発を成功させ企業収益に大きな貢献をもたらしていますし、JR九州も現在計画中の「 博多駅開発 」で阪急百貨店をキーテナントとする20万㎡の広さの大型駅ビルを開発しています。
 それに対してJR四国はメイン駅である高松駅のサンポート高松開発に伴う移設の時に今の「 新高松駅 」と「 全日空ホテルクレメント高松 」を建設していますが、百貨店のような「大規模商業施設」を誘致した訳でなく、JR各社の成功パターンとして京都・名古屋・札幌と成功し博多・大阪と続いている「大都市駅での総合駅ビル開発」から完全に取り残されていると言えます。
 JR四国とて徳島・宇和島・高松と駅舎新築+駅ビル+ホテルと言う形態の開発を行ってはいますが、他のJR各社に比べれば明らかに貧弱ですし事業の一翼を担うまでには達していないと言えます。「鉄道事業も根本的には成立困難な環境」であるのに加え「関連事業も地域の基盤の弱さから成立しづらい」と言うきわめて厳しい状況が今のJR四国の現実であると言えます。つまりは全事業にわたる経営基盤の弱さ自体がJR四国の喉に刺さった「第一の棘」と言う事になります。

 ● 鉄道事業の収益源たる「対岡山輸送」で「JR西日本に首根っこを押さえられている」弱さとは?

 JR四国は事業の太宗を占める鉄道事業においても大きな弱点を抱えています。鉄道事業では「都市圏輸送」「都市間輸送」「ローカル輸送」が主体となっていますが、その中で「ローカル輸送」が会社の主軸足り得る筈がなく「都市圏輸送」も都市規模が小さいが故に三百億円の身代を支えるまでには到達していません。その中で結果的に「都市間輸送」がJR四国の身代を支える大黒柱となっていますが、その中でも高速バスに侵食されて苦戦している島内各都市間輸送に対し未だ比較的善戦しているのは対岡山・瀬戸大橋線を使った本州連絡輸送であります。その事は実際今回の訪問記で書いた状況を見ても明らかであると言えます。
 四国島内に「核となる都市」が存在しない以上、四国とつながりの深い都市圏は?と考えれば必然的に関西圏と言う事になりますし、その先には名古屋・東京と言う大都市が控えています。その大都市への高速アクセスとして新幹線が有る以上その新幹線へのアクセスポイントである岡山への連絡輸送は、JRのネットワークを生かすと言う側面でも非常に重要なものであると言えますし、実際対岡山輸送の主力である「マリンライナー・しおかぜ・南風」はJR四国の屋台骨を支える列車となっています。

  
左:岡山駅構内での新幹線乗換状況(1/2 18:00頃) 右:岡山駅自由通路改札前状況(12/31 11:00頃)

 しかしその瀬戸大橋線による「対岡山都市間輸送」に関しては、訪問記で触れている様に大きな足かせがあります。それは瀬戸大橋線児島〜岡山間がJR西日本の管轄下にありJR四国が四国島内で集めてきた両者による収益を根元で吸い上げている構造があるのと同時に、長距離輸送に関して比較的冷遇されていると考えられる状況にあることです。
 実際今の瀬戸大橋線岡山口では平均すると毎時「特急*2(しおかぜ・南風) 快速マリンライナー*2 普通*1〜2」の計5〜6本の列車が運行されているにもかかわらず本州内の輸送力増強が進まず、マリンライナーに岡山都市圏輸送の一部を担わせているような状況です。JR西日本にしてみれば「四国からの客も岡山都市圏の客も運賃収入がそんなに変わらない」と言う考えで四国からの客を冷遇しているのではないか?又「四国のために設備投資をしても自社収入にそんなに跳ね返らない」と考えて設備投資を控えていて今の宇野線岡山〜茶屋町間で複線区間無しの状況で、大元・妹尾駅で駅構内延長による交換設備改善が行われているだけの状況であり、対四国区輸送の大動脈としては貧弱な設備となっています。

 そのような状況に対し改善の方策として、国交省の幹線鉄道等活性化事業を活用しJR西日本・香川県・愛媛県出資による「瀬戸大橋高速鉄道保有」による宇野線備中箕島駅−久々原駅間(3.3km)の複線化、宇野線・本四備讃線茶屋町駅−児島駅間(12.9km)の曲線改良事業(事業費30億円)が計画されていますが、此れでも四国〜岡山間輸送で宇野線岡山〜茶屋町間が足枷になると言う状況には大幅な変化がないといえます。
 そもそも国鉄の分割民営化時にはJR四国の範囲=旧国鉄四国総局と言う区分けで分割された為、本四連絡ルートは宇野線→JR西日本・宇高連絡線→JR四国と言う旧国鉄の区分けに従い分割されたのですが、その後の瀬戸大橋線開業→本四連絡輸送の一体化という流れの中でもその区分けが継承され本州側一つ目の駅児島で境界が設けられる事となり、結果としてJR四国の生命線たる対岡山本四連絡ルートの根元部分を他社に委ねざる得ない状況になってしまったのが現在の状況を生み出したと言えます。
 そのJR西日本とJR四国の関係は、営業政策的には企画切符販売等で協力したりしていたり、「現会長(梅原利之氏)が元JR西日本常務だった関係」からJR西日本と合併するとの噂が有ったりしていますが(個人的には上場会社のJR西日本が採算路線がほとんどないJR四国を合併する事は殆ど無いと見ている)傍目から見ると親密そうに見えますが、対岡山本四連絡ルートの状況を見ていると個人的感覚では必ずしもそうは見えない気がします。
 少なくとも「四国から客が岡山に流れる」と言う事は、JR四国にとって「旅客収入が増える」と言うメリットがあると同時に、JR西日本にとっても「宇野線・本四備讃線の利用客が増えれば増収になる」ことに加えて「山陽新幹線の培養線(瀬戸大橋線)が活性化すれば山陽新幹線の収益になる」と言うメリットもあることを考えれば、瀬戸大橋線の輸送力増強・高速化による利便性の向上は両者にとってメリットのある話であると言えます。
 実際問題として瀬戸大橋線の利用者数は開業時の昭和63年の10,997千人から平成17年度は7,893千人へ3割近く減少しています。(出典:四国運輸局 本州四国間の旅客及び貨物の動向(平成17年度) )この状況の中で瀬戸大橋線開業から打たれた手は「マリンライナー車両置換」程度で四国島内輸送の改善から見ると瀬戸大橋線輸送の改善は大幅には進んでいないと言う事が出来ます。
 このような状況は本来であればJR西日本・JR四国両者に取り良い事ではありません。唯「改善策は?」となると岡山〜茶屋町全線複線化で100億円とも言われていることを考えると困難ですし、差し当たっては部分複線化での運行の円滑化・本四連絡列車の高速化を目指すと同時に、主力列車のマリンライナーの増結による混雑改善・岡山近郊輸送からの開放(=普通の増発)位の方策しかないと言えますが、どちらにしても瀬戸大橋線岡山口の輸送改善と言う問題はJR四国の喉に刺さった「第二の棘」と言う事になります。

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 今回このように四国旅行を奇禍として、今まで利用したことの無いJR四国の鉄道を本当に優等列車を中心にサラリと見てきましたが、改めて感じさせられるのは「JR四国の置かれている厳しさ」です。何回も述べているように旧国鉄時代と比べれば今のJR四国の鉄道網は飛躍的に改善されていると言えます。わずか二十数年前までは電化路線すらなかった四国の国鉄がここまで改善され、車齢が若い車両が中心となっている今の四国の鉄道の状況はまさしくJR四国の努力があったからだと思います。
 しかしその努力をあざ笑うかのように JR四国の輸送実績 は平成13年〜17年の5年間で輸送人員が約5,000千人減少すると言う様に、底の見えない下降線をたどっています。これらには四国全体の衰退・高速道路網の発達・明石海峡大橋開通による流動の変化等々JR四国から見れば外部的要因が主となっているものの現実問題として、この衰退の流れ自体は止まらない状況にあるといえます。
 実際JR発足時のセーフティーネットとして「経営安定化基金」が作られており、この運用益によりJR四国は特殊会社であるものの民間企業として何とか運営できる状況にはなっていますが、ずっと赤黒ギリギリの線で経営を行ってきており今や経営的には「水面からわずかに浮かんでいる」と言う厳しい状況にあることは誰が見ても明らかです。

 その様な鉄道の状況について今回訪問してみたことを元に纏めて見ましたが、見た事を書く事は出来てもその打開策を考えることは非常に難しい状況に置かれていることは改めて感じさせられました。今のままで行けばJR四国に民間企業としての経営の限界が遠からず来ることは残念ながら明らかです。
 その「危機」が来た時に如何にすべきなのか?公共交通の運営者として「採算性」と「公共性」の狭間で、予土線・牟岐線等のローカル線及び予讃線・土讃線の末端ローカル区間をを切り捨てて幹線輸送だけで生きていくのか?公的セクターに助けを求め欠損補助等の補助金を追加投入してもらい補助金漬けの企業として公的輸送の任務を果たしていくのか?ドラスティックな決断を迫られる時期がそう遠くない間に来る可能性があると考えられます。
 残念ながら「今は未だ生きているから大丈夫」と言う考えでこの事象を先送りする時期はすでに過ぎつつあると言えます。此れは地方ローカル鉄道・地方第三セクター鉄道では何処でも抱えている問題ですが、JRと言えども北海道・四国では同じ状況にすでに成っていると言えます。ここまで来ると「一民間企業の努力」ではどうにもならない状況にあることは誰の目で見ても明らかです。その「危機の時」に備えて今から社会全体で考えなければならない時期が来ているのではないかと思うのは私だけでしょうか?我々に残された時間は多くないと考えます。




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