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      Vol.4  イギリス      

 今回は鉄道発祥の国、イギリスの高速列車「HST」を紹介します。Vol.3のユーロスターは、イギリス国内も走りますが、フランスの開発した車両で、今回紹介する「HST」は、イギリス独自の高速列車です。近年、イギリス国鉄は分割民営化され、高速列車の開発も、日本やフランス、ドイツに先行され、新しい動きはあまり聞きませんが、かつては世界最速の蒸気機関車を生み出すなど、スピード競争に大変熱心な国でした。「HST」も、当時のイギリス国鉄が、日本の新幹線や、フランスのTGVに対向して開発された高速列車です。

 

●2種類のHST
 「HST」とは、ハイ・スピード・トレイン(High Speed Train)の頭文字で。文字通り高速列車を意味します。ディーゼル方式の「IC125」と、電気方式の「IC225」の2種類が活躍し、前者は1976年から、後者は1989年から営業運転を開始しています。最高速度は共に200km/hです。ちなみに「IC」は、インターシティー(Inter City)を意味していて、車両の側面にロゴがペイントされています。塗装は前面が警戒色の黄色、側面は白、青、赤のユニオンジャックカラーに塗られていましたが、民営化後は会社ごとに違った色で塗られています。編成は、「IC125」が、両端2両のディーゼル機関車が、7〜8両の客車を挟む編成。「IC225」は、1両の電気機関車と客車7〜8両、それに荷物車の編成で、機関車と反対側に位置する荷物車には、機関車と同じデザインの運転台を備え、折返し運転時に使用しています。

 

電気式のIC225、ロンドン・キングスクロス駅にて

 

●フライング・スコッツマンのルート
 日本にも、「つばめ」や「はと」といった名列車があったように、イギリスにも「フライング・スコッツマン」という、伝統的列車がありました。ロンドン・キングスクロス駅を10時ちょうどにエジンバラに向かって発車する列車で、今では「IC225」が同じルートを走ります。名称が無くなってからも、蒸気機関車の時代から続く、キングスクロス駅10時ちょうど発は、今でも守られています。また、このロンドン・キングスクロス駅は、映画「ハリーポッターと賢者の石」でも登場して、有名になりました。


 私が乗車したのは、「フライング・スコッツマン」より1時間前、9時ちょうど発のエジンバラ行きで、こちらも「IC225」による編成でした。目的地はヨーク。日曜日の9:00発ということで、車内はなかなかの乗車率でした。車内は日本の在来線の普通車と同様の2人掛けの席で、大陸側のヨーロッパの国よりも、車両の幅が意外に狭く、線路の幅が標準軌にしては、日本の在来線と変わらないくらいでした。乗車した2等車の座席は、飛行機のエコノミークラス並で、そんなに広くはありませんでした。

 

 9時ちょうど定刻どおりに、ロンドン、キングスクロス駅を後にして、一路エジンバラに向けて列車は発車。しばらくはロンドンの郊外を走ります。赤レンガの建物や、路地裏の風景といった街の表情を見るのも、車窓の楽しみの一つです。この日は日曜日だったため、工事のための徐行が多く、列車はしばしば減速しました。イギリスの鉄道では、日曜日は保守や工事の日と決まっていて、平日と、列車の所要時間が大きく違うことがあります。この、キングスクロスを9:00に出る列車も、平日だと、ヨークの到着時刻が30分以上も早くなっていました。列車はロンドン近郊の住宅街を抜け、田園地帯に入るとスピードを上げ、高速列車らしいスピードになりました。イギリスは日本と同じ島国なのに、日本のように家々が立ち並ぶ景色が続くことなく、青々とした田園風景が広がっていました。車内は少々狭くても、揺れは少なく、快適な乗り心地でした。

 

 途中の停車駅では、線路工事のためか、長い停車時間がありましたが、ヨークには時刻表どおり、12時11分に到着しました。

 

IC125、ロンドン・セント・パンクラス駅にて

 

●帰りの列車でビックリ!!
 ヨークで観光を終え、同じルートでロンドンへ帰りました。帰りはヨーク発、16:38発のIC225に乗車。ロンドン・キングスクロス駅には19:16着と乗車券に書いてありました。往路の列車の所要時間が3時間11分だったので、帰りの列車の方が速いことになります。乗車して、いくつかの停車駅を過ぎた後、列車の中ほどにあるビュフェでホットドッグと缶ジュースを買いました。カウンターがあるだけのビュフェで、街中のホットドッグ屋の小型版といった感じでした。時間は夕方でしたが、緯度が高いせいで日本より日が長く、帰りの列車でもゆっくりと車窓の眺めを堪能できました。

 

 最後の停車駅を出ると、列車は猛烈にスピードを上げた気がしました。しばらくして車内放送がありましたが、当然、英語の放送なので、聞き取れたのは「ロンドン」という単語だけでした。その後、列車の速度が落ち、目に入ったのは、朝見たロンドン郊外の風景でした。時計を見るとまだ19時前。どう考えても早いと思っていると、列車はさらに速度を落とし、今朝発った、ロンドン・キングスクロスの駅に滑り込みました。再び放送が入り、今度は「25Minute」(25分)と聞き取れました。時計を見ると18:50!! なんと、25分も早くロンドン・キングスクロス駅に着いてしまったのでした。これには驚きました。乗車中、時刻表と対照していたので、最後の停車駅を出た時刻は、間違いなく定時でした。スピードが上がったのは気のせいではなかったのです。最後の停車駅の発車時間さえ守れば、他に困るお客さんはいないでしょうし、早く到着すれば得した気分になる人の方が多いでしょうが…。それにしても、駅の通過時刻まで決められている日本では、考えられないサービス(?)でした。

 

 

■高速列車で行く旅■

〜イギリス国立鉄道博物館〜

 ヨークにあるイギリス国立鉄道博物館は、その規模、内容ともに、間違いなく世界一である。鉄道創世記の機関車、スチーブンソン親子が開発した「ロケット号」、歴代のロイヤルトレイン、プルマン客車など、ターンテーブルを囲んで様々な車両が余生を送っている。

 特筆すべきはその保存状態である。全ての車両は輝くほどに磨き上げられ、多くの機関車は稼動状態にある。実際に、普段はこの博物館に展示されている機関車が、本線上を昔さながらに客車を牽引し、疾走する姿が今でも保存運転で見ることができる。
数々の車両の中でもスター的存在は流線型のボディーが美しい「マラード号」(写真)。1938年に、蒸気機関車の世界最高速度、206km/hを記録した。


 【2002年12月社内誌に掲載】

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