このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

      Vol.5  チザルピーノ      

 最終回は、ドイツ〜スイス〜イタリアを結ぶイタリアの高速列車、「チザルピーノ」を紹介します。イタリアといえば、高級ブランドや、フェラーリに代表される超高級車で有名ですが、鉄道車両のデザインについても世界に誇れる数多くの名列車を生み出しています。実は、名鉄のパノラマカーや、小田急のロマンスカーのパノラマスタイルも、イタリアの「セッテベロ」という特急列車に大きな影響を受けています。その、デザインの良さの秘密に、大物デザイナーを起用していることが挙げられます。このチザルピーノも、自動車で有名な工業デザイナー、ジウジアーロ氏がデザインしたものです。ちなみに車両は、こちらも自動車で有名な、フィアット社が製作しています。

 

ETR470、チザルピーノ。チューリッヒ中央駅にて

 

●「チザルピーノ」の特徴
 白のボディーに紺色の裾、そしてアクセントラインはグリーン。外観は自然な流線型に、さわやかなカラーで身を包む「チザルピーノ」ですが、その外観に負けず劣らず、性能でも大きな特徴を持っています。最高速度は200km/hと少々控えめですが、この車両の最大の特徴は、JRの383系「しなの」などと同じく、車体傾斜機能を備えていることです。イタリア国内では曲線区間が多く、以前から振り子機構の開発を進めていました。実用化までになんと40年も掛けたそうです。また、チザルピーノが走る線区も、スイスアルプスを経由するためカーブが多く、曲線区間でのスピードアップが課題でした。そこで、このイタリア自慢の振り子機構を採用した「チザルピーノ」が登場しました。そしてこの列車は、ヨーロッパではまだまだ少数派の動力分散方式、6M3Tの「電車」です。

 

●国際列車で国際交流?
 雨のドイツ・シュトゥットガルト中央駅。今回の旅の始発駅です。この駅から、スイスのチューリッヒまで向かいます。このルートには、実は6年前に乗車したことがあるのですが、そのときは、客車列車で、スイスの客車を国境までドイツの機関車が牽引し、国境でスイスの機関車に交換していました。「チザルピーノ」は、各国の電気方式と保安装置に対応する機器を備えているので、簡単なスイッチ整備だけで国境を越えられます。

 

 

 

 接続の快速列車を降りると、すでに列車は入線していました。早速乗車し、指定された席に向かいます。車両は日本と同じようなオープン形式で、乗客は1車両2〜3人でガラガラでしたが、指定券の発売順序が悪く、私の向かいの席にはすでに先客が座っていました。チョット気まずい空気の中、列車はシュトゥットガルト中央駅を発車。しばらくして車内改札が始まりました。女性の車掌さんでした。ちなみにこの旅行中に出会った車掌さんは、ローカル・優等の区別無く、男性よりも女性の方が多かったです。ICEに乗車したときも、後ろの席で乗車券のトラブルを一生懸命説明している姿を見かけましたが、非常に熱心で、かつソフトな応対に感心してしまいました。ついでに、「どこの国でも同じだなあ。」という感想も持ちましたが…。このとき、相席になった乗客を空いている席に誘導してくれたので、気まずい空気は解消されました。これで、車窓は独り占めです。このあたりは川沿いを走り、景色が良いのですが、あいにくの天候でした。一息ついてから、気分を変えるべく食堂車に向かいました。


 食堂車では、イタリア人のウェイターが迎えてくれました。まずドリンクを注文しましたが、ここで失敗。ドイツを走っているのでビールを頼んだら、出てきたのは日本でも有名な緑の缶ビール。ドイツ国内のレストランでは、どこでもその街自慢のビールがグラスに注がれて出てくるのですが、この列車はイタリアの列車。ワインが正解でした。テーブルを良く見るとワインリストが置いてありました。気を取り直して食事の注文。もちろんメニューは読めないので、「本日のメニュー」を注文。さて何が出てくるのかお楽しみです。出てきたのは前菜サラダ、メインディッシュはパスタのミートソースあえ、デザートは数種類のチーズでした。正直なところ、味は「まあまあ」でした。車窓は薄曇の中、狭い山間を走っていました。

 

 食事をしていると、黒い制服を着た二人組みがやってきて、前の席に座っていた男性となにやら書類を見せつつやり取りをしていました。やってきた二人組みは国境通過の儀式、入国審査の審査官でした。前の席の男性は通関に時間が掛かっていましたが、私はパスポートを見るだけで終了。記念のスタンプが欲しかったのですが、「チューリッヒでもらってくれ」と言われてしまいました。(チューリッヒのどこでスタンプがもらえるのかは知らないのですが…。)

 

 入国審査もあっさり終わり、そのまま食堂車でコーヒーを飲みながらくつろいでいると、先ほどの前の席の男性が「ドゥー ユー スピーク イングリッシュ」と声を掛けてきました。するとドイツの駅の案内所で発行された乗り継ぎ案内書を見せてきて、「チューリッヒ空港への行き方が分からない。」と言うではありませんか。その案内書を見ると私も知らない駅名での乗換えが記されていて、私にも分かりませんでした。「私もこのルートは知らない、でもチューリッヒ中央駅から空港へは行ける。」と怪しげな英語で言うと納得したようでした。それにしても言葉が通じそうな人が他にもいたのに、なぜ私に聞いたのでしょうか? こんな異国の地でも鉄道マニアだと分かったのでしょうか…? なにはともあれ怪しげな言葉でもコミュニケーションがとれたということはうれしかったです。


 そんなことをやっているうちに、列車はすっかり闇の中を走っていました。通過する駅の看板を見ると、ドイツのものとはデザインが変わり、スイスに入ったことがわかりました。すれ違う列車もスイスらしいかわいらしいスタイルです。街の灯が車窓に見えると、列車は速度を落とし、定刻どおりチューリッヒ中央駅に到着しました。私はここで下車しましたが、チザルピーノは方向を変えてイタリアのミラノまで向かいます。

 

チザルピーノのロゴマークドアの横にジウジアーロ氏のサインが入る

 

 

■ 〜 お わ り に 〜 

 5回にわたる「ヨーロッパ高速列車体験記」も、今回が最後になりました。ヨーロッパの各国がそれぞれの国の特色を出し、個性的な列車が活躍していることがお分かりいただけたでしょうか? すばらしい景色の中を走る列車の姿に魅力は尽きません。今度の連続休暇には、チョットお金を貯めてこんな旅をしてみてはいかがでしょうか? 最後に、連載にご協力いただきました、社内誌編集委員の皆さんに、この場をお借りしてお礼申し上げます。

※尚、HTML化に際して、若干の加筆訂正を施しました。ご了承ください。


 【2003年1月社内誌に掲載】

EURO EXPRESS トップへ

トップページ

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください