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鉄道模型おきらく研究室:レイアウトと列車のページ

カント

はじめに
   実物では,列車が曲線を高速で走行したときに外側に転倒しないようにするためにカント(図1)がついています.模型では,転倒しないこと,高速で走行しても脱線しないなどの機能的効果のほかに,実物同様にカーブで車体が内側に傾くことを再現するために,カントをつけることがあります.
  では,どのぐらいのカントをつければ良いのでしょうか?おきらく研究してみましょう.

実物(JR)のカント
あたりまえのことですが,実物では次の二つの条件を満たすようにカント量を決めているそうです(出典:文末の参考文献).
条件1)曲線上で停車したときに曲線内側に転倒しないようにする.
条件2)最高速で通過したときに外側に転倒しないようにする.

条件1)2)とも,重力(遠心力を含む)ベクトルが線路中心からゲージの1/3(±1/6)におさまるように決めているそうです.

(注)厳密に転倒するのは線路中心からゲージの±1/1になるときですので,(±1/6)という基準は絶対に転倒しないようにするための余裕を含めてあります.なお,重心がゲージの1/6に収まるということは,車輪の接地荷重変化も1/6以下だということになります.したがって,荷重抜けが減るので脱線しにくくなる効果もあると私は考えます.また,模型では,荷重が抜けると集電も不利になるので,接地荷重変化が小さいことはスムーズな走行にも良いとだと私は考えます.

記号の定義
図1 カント

また,上記条件を満たした上で,上限は在来線で105mm(*),新幹線で180mmだそうです.大雑把にいって10%前後,6°ぐらいのカントです.

*実物では内外レール高さの差でカント量を定義しています.


模型のカント

内側に転倒しないための条件
この条件を決めるためには模型重心高を決める必要があります.が,実験的に求めるのは結構やっかいです.そこで,概算することにします.蒸気機関車のボイラー中心高さを重心高の最大値と仮定します(誤差が大きいのは承知のうえでの仮定です).D52の場合,実車のボイラー中心高さが2550mmで,KATOの縮尺を1/140とすると18.2mmになります.ですから模型の最大重心高を18mmと仮定しましょう.一方,Nゲージではゲージ,すなわちG=9mなので,重心高をhとすると

h=2G

です.
一方,内側に転倒しないための条件を(余裕を含めて)満たすためのカント角λは,
hλ=G/6

なので

λ
  =(1/6)(G/h)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
  =1/12
となり,1/12の傾きが最大カント角になります.なお,1/12の傾斜は8.3%≒4.8°に相当します.実物(約10%)の2割減ぐらいが目安でしょうか.

外側に転倒しないための条件
つぎに1/12のカントで許される最高速度を計算してみます.曲線半径をR,最高速度をV,重力加速度をgとすると.

g(G/3)/h=(V^2)/R・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

なる関係があります.これを解くと

V=(Rg/6)^0.5・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

となります.たとえば,R=0.3m,g=10m/s^2とすると

V=0.71(m/s)です.これを実物に換算すると382km/hになります.

また,カント傾斜0で外側に転倒しないための列車の速度は

V=(Rg/12)^0.5・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

V=0.5(m/s)です.これを実物に換算すると270km/hになります.一般に外側に転倒する条件を(余裕をもって)満たす最小のカント角λは

λ=(V^2)/(gR)-G/(6h)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

になります.この計算例を下図にしめします.
転覆限界計算結果
実車換算速度(km/h)

図2 転倒しないためのカント量(%)


上図は,低速側で逆カントになっていますが,これは低速では遠心力が少ないために外側に転倒するためには逆カントが必要だからです.200Rかつカント0%で転倒しない速度は,実車換算300km/hですから最高速度よりも遥かに高いですね.したがって,在来線の模型では外側に転倒する条件よりも,内側に転倒する条件のほうが厳しいことがわかります.

したがって,在来線モデラーの場合

視覚的にカントを楽しみたい方は内側に転倒する条件からカントの傾斜を決める1/12以下の好きな量);
運転性能からカントを設定したい方は外側に転倒する条件からカント傾斜を決める
べきであることがわかります.

新幹線モデラーの場合,300Rでは270km/hが転倒条件になる(余裕をもたせた条件ですが)ので,これ以上の高速走行をする場合にはカントが機能上役に立ちますね




さて,ここから先は,カントを機能的に使うことを考えます.外側に転倒しないために必要なカントは図2に示したとおりですが,もっと積極的にカントをつけて,内外輪の荷重が同じになるような,カント傾斜角を求めると

λ=(V^2)/(gR)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

になります.計算例を下図にしめします.

均衡カント計算結果
横軸:実車換算速度(km/h)

図3 内外輪の荷重が等しくなるためのカント量(%)

在来線の場合,北越急行の最高速度が160km/hと聞いた記憶があります.もし仮に200Rで160km/h運転をしても,内側転倒限界以下です.これよりもRが大きければ,内側転倒限界には達しません.ですから,式(6)または図3の曲線でカント量(カント傾斜)を決めればよいことがわかります.一方,新幹線で350km/h運転をする場合は,内外輪の荷重が同じになるためには,400Rでも10%以上のカントが必要です.ですから,内側転倒限界の8.3%よりも大きくなってしまいます.そこで,内側転倒限界である8.3%にカント量(カント傾斜角)を設定せざるを得ないことがわかります.この場合,内外輪の荷重差が残念ながら生じてしまいます・・・・・・・.





まとめ

1)カント量(カント傾斜角)は8.3%以下にしたほうがよいでしょう
2)270km/h以下で走行させるときは,カントがなくとも構いません
  視覚的に楽しむためにカントを設定するときは,8.3%以下の好きな量にしてください.
  ただし,機能を追及するなら図3からカントを決めてもかまいません.
3)270km/h以上で走行させるにはカントが必要です.必要量は図3から決めてください


なお,念のため再度申し上げます.内側転倒・外側転倒がおこらないように考えてきました.転倒とは,車輪の荷重変を伴いますので,転倒しにくいということは脱線しにくく,走行・集電が安定していることでもあります.このコンテンツでいう「転倒」とは広い意味での「走行安定性」とご理解いただければ幸いです.


参考文献
天野ほか,図説鉄道工学P44,丸善


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カント 補遺

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