このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

対談レポート

「数字でみる鉄道2009」からみえるもの

【ブラン】鉄道ブームが続くなかで、国土交通省鉄道局監修の「数字でみる鉄道2009」(運輸政策研究機構発行700円)がかなり売れているみたいです。
そこで今回は、この本から“みえてくるもの”について、所長と検討したいと思います。
        
 (表は原本のすべてを引用しているものではありません)

【ブラン】
所長、おはようございます。
今日は、「数字でみる鉄道2009」からみえてくることについて、研究したいと思います。
その前に、この本の概要ですが、文庫本サイズで約300ページ、右表のような項目立てになっています。項目ごと、事業者別、あるいは時系列にそって統計がとられています。
統計数字からは様々な背景が想像されて、なかなか興味がつきません。

【富士三六】
確かにコンパクトな統計書だけど、なかなかおもしろいよね。
さて、今日の対談は、キーワードを“格差”ということにして進めてみたいんだがどうだろう。

【ブラン】
なるほど。視点を絞ったほうが話が進めやすいかもしれませんね。

番号目次
1輸送状況
2新幹線輸送
3大都市旅客輸送
4地方旅客輸送
5経営の状況
6運賃
7鉄道整備計画
8鉄道整備状況と投資実績
9税別・事業制度等
10運転及び施設の状況
11安全対策
12鋼索鉄道・索道
13技術開発
14参考

Ⅰ.大都市間格差がみえる

【富士三六】
まずは「最混雑区間における混雑率」(平成20年度)。これをみると、東京圏と大阪圏では随分と差があるな。

【ブラン】
そうですね。東京圏では山手線(上野→御徒町)、京浜東北線(上野→御徒町)、総武緩行線(錦糸町→両国)、埼京線(板橋→池袋)が200%以上の混雑率なのに、大阪圏の混雑率トップは御堂筋線(梅田→淀屋橋)と阪急神戸本線(神崎川→十三)の149%ですもんね。

【富士三六】
このほか、東京圏では混雑率190%台の路線が、東海道線(川崎→品川)、中央快速線(中野→新宿)、高崎線(宮原→大宮)、京浜東北線(大井町→品川)、南武線(武蔵中原→武蔵小杉)、武蔵野線(東浦和→南浦和)、横浜線(小机→新横浜)、東西線(木場→門前仲町)、小田急線(世田谷代田→下北沢)、東急田園都市線(池尻大橋→渋谷)とたくさんある。

【ブラン】
こうしてみると、東京周辺の人口集中はすさまじいですね。

【富士三六】
東京駅から50kmの範囲に3000万人が暮らしているんだ。日本人の4人にひとり、ということになる。しかも東京一極集中はとどまることがない。

【ブラン】
「最混雑区間における平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移」をみると
その傾向はもっとはっきりしますね。

【富士三六】
東京では昭和50年と比較して、輸送力、輸送人員とも増えているのに、
大阪では、輸送人員が減少している。

【ブラン】
昭和50年頃は、大阪の電車も東京と同じくらい混んでいたのに、
平成20年になると随分差がつきましたね。

【富士三六】
東京でも大阪でも、バブル経済崩壊以降輸送人員が落ち込んだんだけど、
とくに大阪での落ち込みが大きかったということだろうね。

地区項目S50H2H20
東京輸送力指数100156162
輸送人員指数100140125
混雑率(%)221197171
大阪輸送力指数100123127
輸送人員指数10010583
混雑率(%)199171130

最混雑区間における平均混雑率・
輸送力・輸送人員の推移

数字でみる鉄道2009

Ⅱ.事業者間格差がみえる

【ブラン】
本書では各事業者の経営状況についても触れていますが、これもかなり特徴的な結果がでていますね。
まず、JR7社に関してですが、平成20年度決算でみると、各社とも営業収益は微減で同じような傾向にあるものの、北海道、四国、貨物の3社は当期利益で数年ぶりに赤字になっています。

【富士三六】
なるほどね。三島会社と貨物会社は、なかなか厳しい状況にあるわけだ。

【ブラン】
次に民鉄です。大手16社は黒字決算(平成20年度)ですが、地方交通は厳しい状況が続いています。
旅客数の低迷で赤字体質から抜け出せない、という会社が多いですね。一方、大都市近郊の新設鉄道は多額の設備投資負担で赤字になっている会社もあります。
地方交通については平成19年度決算の数字が掲載されていますが、注目の銚子電鉄は、鉄道事業については営業収益162百万円に対し営業費用180百万円と赤字ですが、全事業経常損益は71百万円の黒字になっています。

【富士三六】
“濡れ煎餅”恐るべし、だね。この会社も紆余曲折があったけど、いつまでも走り続けてほしいと思うよね。
ところで、富士急行はどうだい?

【ブラン】
鉄道事業は、営業収益1,298百万円に対し営業費用1,273百万円で黒字になっています。もちろん全事業経常損益は1,513百万円と黒字です。富士急行は会社が大きいですからね。
一方、岳南鉄道は、鉄道の営業収益226百万円、営業費用279百万円、全事業経常損益プラス2百万円になっています。

【富士三六】
なるほど。富士急行線も岳南鉄道線も健闘しているわけだ。

【ブラン】
ここでちょっと視点を変えて、運賃についてみたいと思うのですが・・・。

【富士三六】
これも結構格差があるんだよな。

【ブラン】
「JR運賃と大手民鉄運賃の比較」
でおもしろい結果がでています。
とくに定期運賃については、
かなりバラツキがありますね。
通勤定期をみると、JRとの
比較で民鉄の運賃は高い、安い
がありますが、通学定期はすべて
民鉄16社の方が安いんです。

【富士三六】
こうしてみると、通学定期は大手
民鉄の方がかなり安いな。

事業者名区間キロ程普通通勤1か月通学1か月
JR新宿−八王子37.146013,8606,870
京王電鉄新宿−京王八王子37.935013,1904,310
JR東京−小田原83.91,45038,23019,330
小田急電鉄新宿−小田原82.585016,9307,330
JR品川−横浜22.02808,1905,780
京浜急行品川−横浜22.229011,2603,950

JR運賃と民鉄運賃の比較

Ⅲ.そして地域間格差がみえる

【ブラン】
この本をみると、よく言われるように地域間格差が、
統計にも反映していることが分かりますね。
「地方中小鉄道の路線廃止状況」をみると地方の
厳しさが窺われます。

【富士三六】
本当だね。このままでは地方の鉄道はどんどん
なくなってしまう可能性があるな。
なにかうまい手はないかな。

【ブラン】
さきほど通学定期運賃の話がでましたけど、実は地方民鉄の通学定期は大手やJRよりかなり高いので、これが家計の負担になっているんですよ。高校授業料無料化が話題になっていますけど、通学定期の補助を考えてみたらどうかと・・・。

【富士三六】
確かに、当地のような田舎では自家用車で親が送迎している高校生が多いからね。実際、親にしてみれば、授業料の負担もさることながら、交通費の負担が大きいからな。

【ブラン】
通学定期の補助、できれば無料化が実現すれば、高校生の鉄道やバスのの利用が増え、親の送迎のための負担が軽減される、ということで一石二鳥ですね。

【富士三六】
なるほど、これはいいアイデアかもな。

【ブラン】
所長にほめられたところで、今日はここまでということにしましょう。
それでは、そろそろ散歩にでかけましょうか。

【富士三六】
天気もいいし、そうするか。

年度計(キロ)一部廃止全部廃止
事業者数営業キロ事業者数営業キロ
H1779.1161.0118.1
H18159.9002159.9
H1982.0129.1252.9
H2062.8135.3227.5

地方中小鉄道の路線廃止状況

2010.2.1

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください