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いのちのハードル


【著者】 木藤 潮香    【装丁】 幻冬舎文庫 270頁
【価格】 533円+税   【発行】 平成17年2月

中学3年生のとき、脊椎小脳変性症という難病にとりつかれた木藤亜也さんの母の手記である。
この病気は、運動神経を支配している小脳・脊椎が衰えるもので、身体を動かす諸機能に障害がおき次第に重篤になっていく。手足を動かしたり、話したり、食べたりという機能が徐々に消失し、ついには死に至る。
知能が健全なだけに、かえって残酷さは想像を絶する。
亜也さんの闘病の記録は、日記をもとに「1リットルの涙」として刊行され、本ライブラリでも No131 で紹介済みであるが、本書は、亜也さんが発病してから亡くなるまでの間、この病気に接し立ち向かった人々の記録である。
筆者は、愛知県の保健所へ勤める保健婦である。医療に携わっているだけに、内容は単なる感傷にとどまらない。ときには医師と衝突し、病院を変わらざるをえないこともある。
それでなくても亜也さんは手がかかるため家政婦に敬遠され、それを理由に転院を繰り返さざるをえない。人は好意だけのものではないという現実は、やり場のない切なさを訴える。
それでも最後に行き着いた病院は医師に恵まれ、家政婦にも恵まれて安定した入院生活を送ることができた。
「わたしは何のために生きているのだろうか?」
亜也さんの疑問だが、彼女は、「1リットルの涙」を通じて心ある多くの人と知り合うことができた。
十分生きている証となりえたであろう。
それでも旅立ちのとき、母親としての悲しみはあまりにもストレートで、いままでこらえていたものを一気に吐き出したようだ。
読む者の心に浸みわたる一冊である。





2011.12.19

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