Shooting Star
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
86.7 北海道旅行
———宇宙を翔ける流れ星のように、
心に翼つけて、いま羽ばたけ。
●21.旅の準備 【11〜12日目】
郊外にある羊ケ丘や開拓の村に後ろ髪を引かれつつも、一応は札幌の見どころをひと回り終えた。 羊ケ丘、開拓の村と、サッポロビール園、雪印乳業館などはまた今度来た時のお楽しみという 事になる。
大倉山からふたたびIBAの下宿に戻って来たのは午後の3時くらいだったろうか。帰り道の 途中で、たくやが航空部からシュラフを3式借りてくれている。
シュラフを借りるに至った経緯はこうである。これから3人で周る5日間のプランに目を通した IBAが、「この稚内での一泊はどこで泊まるんや?」
と訊くので、ビジネスホテルや、と言った。するとナンボやと訊くので、シングルで一泊4100円 や、と答えた。財政難のIBAは更に訊いてくる。
「そのビジネスホテル、もう予約は取ってあるんか?」
「いいや。向こうに着いてから取るつもりやけど」
「それやったら、キャンプせえへんか」
「何!キャンプか。…それもええなァ」
という話になって、ガイドブックをめくると、稚内公園のはずれにキャンプ場があるではないか。 そういう訳で稚内の夜は急遽、シュラフにくるまりキャンプという事になったのである。
道北については、6月に稚内までバイトに行ってきたばかりだというIBAが詳しく、北見枝幸 という町にキャンプ場があるから、礼文島へ以下編のやったらそこへ行ってオホーツクで海水浴 しようやと言う。どうやら旅行は終盤へ来て、ますますアドベンチャー色を強めてきそうな感じ である。アドベンチャーといえば、明日訪れる知床のカムイワッカの露天風呂も楽しみである。 IBAらも関心が強そうで、石ケンで体洗うたりしたらやっぱりヒンシュクかなァ、などと言って 笑っている。
さて、たくやが仕度してくるわと言って自分の下宿に戻っていった間に、IBAと僕は近くの スーパーへ必要なものを購入しに出掛ける。これから訪れる道東・道北に思いを馳せながら青い 安物のテントを買う。4人用だから、これで充分だろう。「どうせやったら、自炊もしたいなあ」 とIBAが提案して、飯盒も買う。あと懐中電灯と、僕個人用として水中レンズ。北の地での キャンプ生活に、思わず僕も楽しくなってくる。
一式を買って部屋へ戻ると、しばらくして、たくやも戻って来た。最後まで落ち着いていたIBA も、ようやく思い腰を上げて準備に取りかかる。シュラフがあるので、みんな荷物の体積がすごい。 ミスター・エロ本氏がまた部屋にやって来た。仕度を急ぐ僕らを見て、「あれっ、どっかへ行くの?」 と言う。IBAが「ああ、5日ほど留守にしとくからな。部屋のエロ本、みんな持っていっといて もええぞ」と言う。「いや〜、ハハハ」を笑いながらミスターエロ本氏、数冊抱え込んで自室へ 消えていった。全くユニークな奴だ。
用意が整ったところで、まず腹ごしらえに夕食を取りに行く。地下鉄「北34条」駅のさらに 東にある店だ。昨日の「チャン大」から比べるとノーマルなメニューで腹を膨らませておく。
こうして、町が完全に夜の闇に包まれた頃に「安楽荘」を出発して、地下鉄で札幌駅へ。札幌駅 ホームで、こうやって急行「大雪3号」を待っていると、85年3月の戸狩スキー旅行を思い出す。 考えてみれば、この2人とは何度もスキー旅行に出掛けているのだが、今回ちょっと雰囲気が違う のは北海道の中だからだろうか。
やがて6番ホームに「大雪3号」は入線、自由席の3席を確保できた。3日前の夜、シート・ポケット で眠った「大雪3号」であるが、今夜は人並みにまともな一夜を過ごせそうだ。その話をすると、 IBAが「ようあんなとこで寝られるのォ」と言って呆れている。
サッポロビールで乾杯の中、22時02分、札幌を発車する。たくやが買った北海道紀行の雑誌を 中心に、これからの打ち合わせや、「千秋庵」「大公」なども載っていることに感心してみたりと、 北海道の話題で時間をつぶした。
IBAは4月に渡道して以来、結構道内を回っている。春には支笏湖にも行ったらしい。なかなか 雰囲気が良かったそうだ。北大では釣り同好会に入っており、元々は釣りも好きな男なのだ。 6月には何かの調査のバイトで道北の稚内や北見枝幸の町へ行って来たようで、その時に枝幸の キャンプ場の情報も入手したらしい。枝幸のあの家のオバはんは愛想が悪かったとか、宗谷本線は 牛さんが寝転んどってええ景色やったなあとか言っている。
たくやは航空部に入っており、既に何度となく北海道の空を飛んでいるのだ。僕から見れば本当に 羨ましい限りである。初めて飛行機で飛んだ時、恐くなかったかと訊くと、別に恐くなかった、 コーチもついとってくれたからなァと言う。たくやはつい先日まで富良野の近くの白金という所で 合宿に行ってきたばかりだ。白金の最寄り駅の美瑛には、僕は8日目に通っている。その時、僕ら は至近距離まで近づいていた訳だ。
とにかく、この2人とは高校、浪人と長い付き合いだ。そも、僕もよく知っている十代の頃の 雰囲気に北海道のエッセンスを振りかけて、今2人は僕の傍らにいる。とにもかくにも、今回の 旅行の最大の立役者は、文句なくこの2人である。僕の17日間の旅の生活を、根底からがっちりと 支えてくれている。
僕らはいつしか快い睡眠に入っていた。再び目を醒ますと既に列車は終点近くを走っていた。 外はもう明るく、車内には眩しい朝の光が差し込んでいた。
6時40分、「大雪3号」は網走に着いた。
「22.カムイワッカの露天風呂」へ続く
「雑草鉄路」の先頭へ戻る
「北海道旅行」の先頭へ戻る
トップページに戻る
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください