The Promised Land
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

86.7 北海道旅行




     ———The Promised Land。
         我々が目指していた、自由の地。



●3.北海道に到達 【3日目〜4日目】 

 ホームに降りるとほぼ同時に、青森行き急行「八甲田」が入線してきた。14系の、立派な車両。 指定席を、すでに5日前に取ってある。普通車指定席を取ったのが初めてなら、14系列車に 乗車するのも初めてである。道内の3夜行「まりも」「大雪」「利尻」も14系であり、 今回は簡易リクライニングでの睡眠が増えそうだ。
 1号車に入ると、僕が予約しておいた筈の6番D席が埋まっており、初老のおばさんが 眠り込んでいる。高いびきの折にたたき起こすのも可哀そうと思い、少し後ろの空席に身を 沈める。こちらなら前に足を伸ばし、楽な体勢で寝られるので、かえってよかった。指定席 とはいえ、臨機応変の対応は必要だ。

 午前3時13分に仙台駅を発車し、青森に着くまでは殆ど熟睡していた。14系のシートは 座り心地がよく、まずまずの印象だった。よく眠れたのは、体の疲れが頂点に達し始めて いた事だけでもなかったようだ。僕が寝ている間に、連絡船の名簿用紙を配り終えてしまった ようで、慌てて車掌室へ貰いに急ぐ。

 9時08分、青森に到着。船の出発まで1時間以上あり、その間に洗面を待合所で済ませて おく。鉄道旅行に出れば、洗面と入浴は出来る時にしっかり済ませておかねばならず、 時と場所を選ばない。やがて改札時間になり、乗船名簿用紙に一連の筆記事項を書いて渡す。 これは勿論、洞爺丸事件のような、万一の事故に備えるためだ。夏休み、船内は満員。特に若い 旅行者が目立つ。
 座敷席横の棚に荷物を入れてデッキへ出る。既に船は港を出ていた。青森港が、徐々に遠ざかる。 本州が遠くなる。賑わう乗客たちが、カメラのシャッターを押す。海は黒ずみ、航路の跡を 白い波が残る。風が冷たい。そして強い。本州を後に一路北上、遂に北海道の地へ、降り立つのだ …。その時が、刻一刻と近づきつつある。
 船中に戻って、中を散歩してみる。売店があり、北海道の土産を売っている。ゲームコーナー もある。その横には娯楽室があり、麻雀に将棋に碁、何でも置いてある。食堂や、喫茶「海峡サロン」 もあるが、相変わらず食欲が回復しない。自販機の牛乳パックを昼食代わりにする。階段を 上るとグリーン船室だ。ロビーといい、室内といい、かなり豪華。列車のグリーンとは比較に ならないほどだ。
 再びデッキに出ると、下北半島、津軽半島がまだ両横に見える。風は冷たいままだ。その風に 乗って、一羽、二羽と、カモメがどこまでもついて来る。甲板に近づくたび乗客の歓声が 上がる。石川さゆりの歌の「こごえそうな鴎みつめ泣いていました」というような悲惨なイメージは、 ここにはない。短い夏、北の地の最も明るい季節なのだ。

 ここで僕は座敷に戻り、不覚にも 眠り込んでしまった。女の人の「あの、もう着きましたよ」という声で慌てて起き上がった時には、 もう周りのお客は既に出払っていた。
 これはミスった、と思った。初めての北海道到達の 瞬間を、僕はデッキに上り、近づく函館港を眼下に、感激に浸りたかったのだが…。とにかく、 突然現れた無人の函館港に、僕は降り立った。時に7月21日、14時10分…を少々過ぎて いただろう。

 船と列車との連絡橋を渡り、駅に出る。特急「北斗5号」は、既に入線 していた。中は満員、しかも殆どが若い旅行者だ。183系の新車両、デッキと室内間の ドアまでが自動だとは知らなかった。観光客層で賑わう函館駅ホームは明るいムードに包まれている。 出発前に抱いていたイメージとは少し違う。そうだ、これが夏の北海道だ。
 程なく、14時33分に「北斗5号」は出発する。乗客の笑い声が響く。やはりグループ旅行の、 雰囲気はいい。僕も、85年3月の戸狩、86年3月の野沢と、二度のスキーツアーをふと思い出す。 その二度の旅行に同行していたIBA とたくやが、今は札幌で待っている。
 列車はやがて函館市内を離れ、広々とした風景が現れる。 田園風景…と呼びたいところだが、「田んぼ」は眼前の景色には存在していない。少し戸惑いを 覚える。今まで僕が日本中を巡って、そのどこでも見てきた風景とは、明らかに異質である。 二、三、サイロが見える。北海道、…そうだ、これが北海道なのだ。今、俺は確かに、来ているのだ…。
 山を一つ越えると、大沼だ。14時54分、「北斗5号」は大沼公園駅に到着した。ホームが 一本だけの、意外に小さな駅。がムードはいい。小綺麗で、お洒落な駅だ。
 駅前は想像以上に 静かで、売店や土産屋が並んでいるが、けばけばしさは無い。何よりも風景が広々としている。 山中なのにこの印象を与えるのは、人の少ないためか、高い建物がないためか。

 やがて「後楽橋」を起点に、無数に浮かぶ小島を結ぶ遊歩道を歩いて行く。時々島の切れ目から、 秀麗なる駒ケ岳が見え隠れする。雄大だ。そして、美しい。大沼の向こうに突然、そびえている 駒ケ岳。噴火で削れた頂上付近が、ひときわ印象を強くする。そして山麓に広がる、信じられないほどの 緑。
 遊歩道にはほぼ、誰もいなかった。およそ都会にはありえないであろう、静寂。この 無音の波は僕の心を打った。自然、これが自然なのか。僕は丸っきり、緑と青の中に包み込まれて いた。遊歩道にかかる橋のみが、ここが観光地である事を示していた。
 比較して失礼だが、 先日見てきた松島とは、あまりに差があり過ぎたのである。観光の中に自然美が収められている 格好の松島に比べ、ここ大沼は大自然の中に、申し訳程度に観光が同居させてもらっている感じで ある。それが良い。自然のまま、人と自然が同居しようとする世界、人が自然の一部になった世界が 理想だ。だから大沼公園は一見、何か素っ気ない印象がないでもないが、その素っ気なさこそが、 僕の求めていた北海道なのだ。

 雄大な駒ケ岳を充分に堪能した後、特急「おおぞら4号」 で僕は函館に戻った。


「4.函館」へ続く



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