このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

天使は舞い堕りた〜栄転・堕天〜

 

 

 大地を覆い尽くす装甲兵器の群れ。その中を縦横無尽に駆け巡るAC達。それらを遠目に眺めつつ、キースは思索に耽っていた。

 ここは本作戦の最終防衛ラインであり、すぐ背後にはグローバルコーテックスの本陣と共に発電施設『アポルオン』が鎮座している。キースは愛機ケルビムのコクピットハッチを開放し、じっと前線の方を見つめていた。

「………………」

『前線が気になりますか?』

「…………いや」

 彼の様子を見透かしているかのようにエマが通信を入れ、キースはけだるそうに返事をする。彼女はキースが保有しているコンバットリグに乗っており、今は他のオペレーター達と共にコーテックスの本陣に退避している筈だった。

「戦況に興味はない。暇を持て余していただけだ」

『あなたが暇だなんて、随分世俗的になったものですね。十年前は少しでも時間が空けばトレーニングに回していたというのに……』

 キースは滅多に聞けないエマの冗談に苦笑しつつ、ふと十年前のことを思い出してみる。確固とした目標を持って動いていた事は今と変わりないのに、今とは全く違ったパターンの生活を送っていた。

「休むと言う事を覚えただけだ。十年で随分鈍ってしまったようだな……」

『鈍ってしまって尚その実力ですか……時折末恐ろしくなりますよ。十年前、もしあなたが失踪などせずにレイヴンを続けていたら、一体どれほどのものになっていたのか……』

「それはあり得ない……あそこでコーテックスに戻っているようなら、そもそもあそこまで成り上がれはしなかっただろう。俺があの時あの状況にあるという事象を満たした時点で、既にあの未来は確定していた……」

 キースはまるで可能性の樹形図を見ているような口調でそう言う。彼の得意とする行動予測は、彼自身の未来をも予測しているようだった。

『そうですか……でも、それにしては今の戦況に興味がないなんて、ちょっと矛盾していませんか?』

「いや、この戦闘の結果に前線での戦果は影響しない。勝負は…………今、着いたのではないか?」

『…………っ!……』

 エマの声に混じって聞こえてきたメール着信音、そしてエマが息を飲む音に、キースは静かに嘆息する。自分が予想した二つの未来のうち、どうやら悪い方が実現してしまったようだった。

 

………………同時刻、最前線

『全レイヴンへ、緊急連絡です』

 三機一組になって戦闘を続けるセイル達に、不意にオペレーターからの長距離通信が入った。淡々としながらもどこか焦りを帯びたオペレーター・ティリエルの声に、セイルは一抹の不安を隠せない。そして告げられた内容は、セイルの予想通り良いものではなかった。

『熱核ナパームミサイルを発射する予定だった基地がテロリストの襲撃を受け、施設機能が麻痺しました。こちらからの援護射撃はありません。現状の戦力で対応して下さい』

「なっ! 何だって!?

「そんな……これだけの数に私たちだけで勝てって言うの?」

『無茶だわ。今だってどんどん戦線を下げられてるのに……』

 三人の声が同時にティリエルを糾弾する。他のレイヴン達も同様の連絡を受けたのか、急に無線連絡が過密になった。

『現在他企業の基地に連絡を取って別の方法を探しています。それまで耐えてください』

『……その方法で援護が間に合う保証はあるの?』

『…………ありません』

「ふざけないで! そんな不確かな作戦につき合っていられないわ」

 珍しく声を荒げたスキウレがティリエルに怒鳴り散らす。またも密集し始めたディソーダーを思い出したように掃討しつつ、セイルは二人の会話に聞き入っていた。

『ミッションの放棄は自由ですが、その際はこちらから重大なペナルティを与えさせていただきます。今はあなた達が最後の砦なのです』

「っ……卑怯者!!

『罵倒はご自由に。しかしこのミッションには何億人もの市民の生活がかかっているのです。どうか賢明な判断を……』

 そう言ってティリエルは通信を切った。憤るスキウレとそれを宥めるアメリア。二人の声を聞きつつ、セイルは無言で戦場を駆ける。依然数を増しているディソーダーに対し、味方のACはどんどん少なくなってきているように見えた。

(この数……今の通信を聞いて逃げ出したのか……仕方無いと言えばそれまでだけど……)

 セイルは歯がゆく思いながら周囲のアーマイゼを掃討する。なんとかAC三機が集まれるだけのスペースができ、同時にフェアリーテールとグラッジが滑り込んできた。

「スキウレ、大丈夫か?」

「ええ…………でも、この状況は大丈夫からはほど遠いわね……」

 早くも集まり出したアーマイゼをEOで牽制しつつ、スキウレが言う。元々不安定な精神状態で参加した彼女だったが、ここへ来てそれがぶり返してきたらしい。いつもの自信に満ちた彼女はなりを潜め、暗く沈んだ口調になってしまっている。

「私としてはすぐにでも撤退することを勧めるけど……セイル、最終的な判断は貴方に任せるわ」

「…………」

 またも不意に結論を求められ、セイルは一瞬言葉を詰まらせる。しかし、言うべき言葉はすでに決まっていた。

 それはこの戦闘が始まってからか、それともヒーメル・レーヒェを立ち上げた時だったか、もしかしたらレイヴンになろうと思ったときからだったかもしれない。

「撤退はしない。この作戦が失敗すれば、被害はアヴァロンのそれに匹敵する。援護射撃が行われる可能性が残っている限り、それまで戦線を維持し続けるべきだ」

「…………」

「…………」

「ただしこれは俺、セイル・クラウド個人の意志であり、ヒーメル・レーヒェ・リーダー、『セイル』の意志ではない。戦闘の継続、および撤退は各メンバーの判断に任せる…………三つ数えたら動いてくれ」

 セイルはディソーダーの群れに向かってリニアライフルを一発放つ。ライフル弾は僅かに空いた敵の隙間を通り抜け、離れた所にいたリュシオルのグレネード砲に命中した。

「……3」

 巻き起こる爆発に半身を吹き飛ばされ、リュシオルが落下する。同時にその周りにいたディソーダー達の注意が一気にこちらへと向いた。アーマイゼの群れがジャスティスロードへと殺到し、幾本ものラインビームが一斉に放たれる。

「……2」

 セイルは深呼吸すると、自分に送られてくる情報に意識を集中した。

 まず光が、敵弾と敵の群れが接近してくる様子が見える。次に音が、異なる二つのブースト音と金属の擦過音が聞こえてくる。最後に振動が、そして感じる筈の無い火薬の匂いや鉄の味までもが一丸となって脳に流れ込んでくる。

「…………1」

 セイルは口元を歪めるとBISを展開し、HOBの発動トリガーに指をかける。それは状況という問いに対する回答。セイルが知ったあらゆる事象現象から辿り着いた結論。回避ではなく、前に進むための行動だった。

「…………ゼロ!」

 目の前で巻き起こった爆発によってラインビームの雨が遮られ、こちらへ向かっていたアーマイゼ達も次々に撃破されていく。巻き起こる爆風の中を、HOBを発動したジャスティスロードが突き進んでいた。

 いくつもの破片をその身に受け、通り過ぎた後に屍の山を築きながらも、信念の主は己が目的へと疾駆する。

『残ってるオービットをばら撒くわ。周りは任せて!』

『君の背中はわたしが守る。出来る限り最後までついて行くわ』

 遥か後ろからの、しかしすぐ耳元で聞こえる二人の声を受け止め、セイルはHOBの出力を限界まで引き上げた。先ほど撃ち抜いたリュシオルにブレードでとどめを刺し、ジャスティスロードはさらに加速する。

 この疾走を遮るものは何も無い。周囲に拡散したフェアリーテールのオービットがディソーダーの注意をそらし、それでも追いすがる者たちはグラッジのバズーカによって四散させられていく。

 さらには前方から迫りくる敵やその攻撃すら、セイルは僅かに機体を傾けるだけで躱していった。人間の認識能力をはるかに超えている筈のこの状況で、セイルにはまるで周囲の時間がゆっくり流れているように思えていた。

「……っ!」

 ほんの一瞬のマズルフラッシュに反応し、機体をロールさせる。前方から撃ち込まれたプラズマキャノンが機体のすぐ傍を掠めて行った。ACのカメラを限界までズームしてもまだ点にしか見えない目標が、ジャスティスロードの接近に気付いて攻撃してきている。

(まだだ……まだ遅い。こんな所で気付かれてるようじゃ…………)

 再び放たれるプラズマをサイドステップで躱し、セイルは歯を噛み締める。ジャスティスロードの速度とプラズマキャノンのリロードタイムから、このまま前進すれば目標に到達する前に撃ち落とされることが分かった。

 そして同時に、それを解決する方法とそれを実現する手段とが、セイルの脳裏に浮かび上がる。

(先へ……もっと先へ…………俺が今居る場所から、もっと先へ…………っ!)

 セイルは体を固定しているベルトをきつく締めつけると、展開していたBISを収納する。とたんに激しく振動し始める機体を懸命に制御し、大きくぶれる進行方向の軸が目標を捕らえた瞬間、セイルはTOBを発動させていた。

 

 貫かれて消えていく水蒸気の壁と、風を受けてはためくsailのイメージ。

 そしてその先にある、音も光も消え失せた白亜の世界。

 それでもなお鮮明さを保つ自分の感覚に任せ、セイルはアストライアのトリガーを引いた。

 

「っ!!……ああああああっ!」

 全身を襲う猛烈なGと、脳髄を締め付けられるような鈍い頭痛。絞り出した気迫でそれを制したセイルは、ジャスティスロードを減速させて後方へと振り返る。

 そこに立ちつくす一体のディソーダー———HOBとTOBの同方向への同時使用によって、地上兵器でありながら音速を突破したジャスティスロードの一撃を受け、胴体に風穴をあけられたマリーエーケンファー———が力を失ってゆっくりと倒れ伏した。

 一拍置いて巻き起こる爆発に、再び視覚と聴覚が占領される。

 その時、セイルはある事に気がついた。この戦闘が始まってから何度か感じていた違和感の正体に気づいたのだ。

「…………」

『セイル、大丈夫?』

 セイルは、アメリアからの通信を受けて我に帰った。同時にさっきまで冴えわたっていた感覚も波が引くように消えていく。まるで夢から覚めた様な感覚を覚えながら、セイルは通信に応答した。

「ああ、大丈夫……そっちは?」

『わたしたちも大丈夫よ。だけど……ちょっとおかしいわ』

アメリアが怪訝そうな声色でそう言った。セイルは周囲に集まってきたアーマイゼを切り払いつつ問い返す。

「おかしいって、何が?」

『急にディソーダーの動きが変わったの。まったくこっちを意識してないみたいで、どんなに攻撃しても反撃せずに逃げて行ってしまう。今スキウレが調べてるけど……』

 まるで撤退を始めたかのようなディソーダーの動き。しかしそれはセイルの現状とは全くかけ離れたものだった。

 セイルは先ほどから周囲のディソーダーを掃討して空間を作ろうとしているが、一向に敵の数が減っているように思えない。むしろどんどん数を増やしているような気がした。

「っ!……スキウレ、聞こえてるか? これはもしかして……」

『……やっぱりそう。この辺りのディソーダー達、みんな貴方に向かって移動してるわ!』

『なっ!?

セイルは奥歯を噛みしめた。大型の敵を倒せば敵の戦力を大きく削れると踏んでの行動だったが、逆に敵の戦力を自分に集中させる結果となってしまったようだ。

『セイル、急いでそこから脱出して! ものすごい数の敵が集まって来ているわ!』

「駄目だ。さっきの長距離移動でかなりのエネルギーを消費してる。これじゃ逃げきれない!」

 セイルは必死でディソーダーの群れから脱出しようとするが、既に足の踏み場もないほど密集した敵の中を連続したTOBで逃げ回っているせいでエネルギーの回復が追い付いていない。しかも四方八方から放たれるラインビームの槍衾を躱しきることはできず、次第に装甲を削られていった。

「くそっ……っ! うあっ!!

 至近距離で爆発したグレネードの爆風にあおられ、ジャスティスロードは大きく姿勢を崩す。

 慌てて姿勢を立て直したものの、一瞬でも動きを止めてしまったジャスティスロードは、完全にディソーダーに包囲されてしまっていた。アーマイゼやビーネだけではなく、B級以上の大型ディソーダーも集まって来ている。

「っ!……」

 多種多様なディソーダー達がジャスティスロードを取り囲み、無数の砲門を一斉に向けてくる。さらに、より濃密になったディソーダーの気配がセイルの脳を急速に侵し始めた。

「あ、く……っ……」

 視界が次第に狭まってゆき、震えと恐怖心が全身に広がってゆく。必死に名前を叫び続ける二人の声も小さく遠くなり、やがて五感は完全に黒く塗りつぶされた。それでもなお周囲の情報を搾取し続けるセイルの感覚が、今まさに敵のラインビームが放たれようとしていることを告げてくる。

「……う、あ……ぐ……?……ぅ?」

 しかし同時に、セイルの感覚はまた別の情報を告げていた。セイルはその情報に従い、震える指を必死に動かしてコンソールを操作する。今しがた着信した一通のメールと、遥か遠くから聞こえ始めた夥しいまでの風切り音。それらの関係を理解した瞬間、セイルの脳を支配していた黒い闇は一瞬にして払われていた。

「…………は」

 やがて全身の感覚が戻り、セイルは先程まで震えていた唇をニヤリと歪ませる。

 そしてディソーダー達のラインビームがジャスティスロードに向かって撃ち出された瞬間、ジャスティスロードの周囲空間は無数の爆発で埋め尽くされていた。ジャスティスロードめがけて集まっていたディソーダー達は、まるでミキサーの中に放り込まれたかのように粉々になって四散していく。

 しかしそのミキサーの真っただ中にいる筈のジャスティスロードには爆風どころか破片の一つすら降りかからない。まるで台風の目のように、破壊の嵐はジャスティスロードを避けていった。

「ははっ……これはまた……」

 半ば呆れたような、しかし心底嬉しそうな顔でセイルはそう呟く。先ほど着信したメールにはただ一言、『Stay(動くな)』とだけ書かれていた。

 

………………同時刻、グローバルコーテックス本陣、セイル達のコンバットリグ

「こ、これは…………」

 光点に包まれた薄暗い指揮所の中、ティリエルは呆然とディスプレイを見つめている。四面楚歌のセイルを救った爆風の嵐は、遠く離れたコーテックスの本陣からも確認できるほどの規模だった。

『一体何があった? 状況を報告しろ!』

本部からの通信を受け、我に帰ったティリエルは慌てて報告を返す。ディスプレイ越しとはいえ、にわかには信じがたい出来事だった。

「っ……識別番号18、『ジャスティスロード』の周囲に集まっていたディソーダーに向けて、直上から突如大量のミサイルが飛来……全滅を確認しました」

『そんな馬鹿な! こちらの長距離レーダーに機影は映っていない。そんな距離からミサイルを撃てる訳が……』

「いや……撃ったんじゃねぇ」

!?

 ティリエルが振り返ると、そこにはドリンク剤のストローを咥えたケイローンが立っていた。機体を失ったハヤテと共に一時撤退したものの、サジタリウス改も損傷が激しく、未だ前線に戻れないでいたのだ。

 ケイローンはティリエルのシートに近づくと、コンソールを操作してミサイルが飛来した時の映像を再生させた。

「見ろ……」

 ジャスティスロードを取り囲んでいるディソーダーに向けて降り注ぐミサイルの雨。ケイローンはそれらが着弾したところで映像を停止して見せた。地面近くは無数の爆発に覆われ、ミサイルが引いていた推進剤の尾が剣山のように突き刺さっている。

「何か気付かねぇか?」

「…………っ!? もしかして……」

 ティリエルはコンソールを操作し、ディスプレイに十字型のカーソルを出現させた。それをミサイルの着弾地点に重ね合わせてみると、縦のラインが推進済の尾とぴったり一致する。

「そうだ……このミサイルは、全部地面に向けて垂直に飛来してる。おそらく目標を直接ロックしたんじゃなく、目標の直上まで誘導された後自由落下してきたんだろう。それならロック距離や航続距離は無視できる。こいつらは撃たれたんじゃなく、落とされたんだ」

「そんな……長距離レーダーにかからないほどの距離から、ミサイルをただ落とすだけで敵に命中させるなんて……しかも敵の中には友軍が混じっているんですよ。どうやってそんな事を……」

「計算したのさ。ミサイルの落下軌道と、それに影響する大気の流れ。着弾時の爆発規模と爆風の密度。さらにはディソーダー一体一体の耐久力からほんの僅かな動きまで、刻一刻と変化する戦場の状況全てをリアルタイムで数値化してな……」

 ティリエルはまるで幻を見ているかのように呆然とディスプレイを見つめている。ケイローンの言った事は机上の空論に過ぎないが、先程起こった事はその空論でしか説明できない。ケイローンは咥えていたドリンクをゴミ箱に放り込み、ポケットから取り出した煙草に火をつけながら話を続けた。

「あんたの思ってる通り、まともな神経の奴なら想像もつかないだろう。仮にやってみたとしても成功率は1%と無い筈だ。だがな……」

 ケイローンは紫煙を吐き出し、ニヤリと口元を歪ませる。それは親しい友人を誇るような、心底満足そうな微笑みだった。

「その1%を、99.9%にまで高めるのが奴だ!」

 ディスプレイ横のレーダーに一つの光点が灯る。それは作戦領域の上空数千メートルの地点、ジャスティスロードの真上だった。

 

………………同時刻、最前線

 無数のミサイルによって抉られた大地と、その中心に立ち尽くしているジャスティスロード。遥か上空を見つめるその視線は、一つの光を捕らえていた。

 その光はジャスティスロードめがけて真っ逆さまに落下してくると、地面に激突する寸前でブースターを吹かし、倒立していた姿勢を戻す。勢い余って上昇してしまう程一気に減速したソレは、ジャスティスロードの目の前に着地して大量の白砂を撒き散らした。

『周囲環境を測定、機体の最適化を開始します……』

 やがて砂が落ち着くと共に、ソレの全容が露わになってきた。銃身の長い右腕部の銃と、縦に長い三角形をした左腕部の防盾。背部には細長い六本のコンテナを背負い、全身は鈍い銀色に輝いている。

『腰部メインブースター、脚底部ホバリングブースター、大腿部スタビライズブースター、出力調整……』

「セイル……」

 外部スピーカーから流れてくる無機質なアナウンスと、それに混じるわずかな息遣い。

 再び集まり出したディソーダー達も、新たな敵の出現に僅かながら混乱を見せている。やがてソレは屈んでいた体をゆっくりと立ち上がらせた。その左肩には赤い瞳をした鈍色の天使が描かれている。付けていた筈の仮面は粉々に砕かれ、足元に散らばっていた。

『全エネルギー兵器、収束率再設定———各部装甲板活性化成功———全装備の最適化完了を確認、アブソリュート・リプレッサー、System All Green

「待たせたな」

 全身の排熱溝から蒸気を吹き出し、銀色のACはしっかりと地面を踏み締めてジャスティスロードに相対する。数ヶ月振りに聞く戦友の声に、セイルはここが戦場であることも忘れてにこやかな返事を返していた。

「ああ、ありがとう…………クライシス……」

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