このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 ※都合上横書きにしてあります。

 

1.冒頭

2. ラウラと訓練

3.お約束

 

1.冒頭  

世界で唯一のIS操縦者育成機関、IS学園。

将来、国家の防衛に関わる事になるであろう人材や技術を扱う事になるこの学園では、それらを保護するための仕組みにも世界レベルの質が求められる。

例えば、在学している生徒はあらゆる国家、組織、団体に帰属しない、と言う取り決めがある。

これは、優秀な操縦者を獲得しようと躍起になっている各国の思惑から生徒を守るための制度である。

また、これの一環として、生徒は原則的には学園の寮で生活を送る事になっている。

これは前述の理由に加え、世界各国から集まってきている生徒たちに、留学先での住居を提供するという意味もあった。

「それがどうしてこんな事に……」

 外側の壁がまるまる一面吹き飛んだ自分の部屋を見て、シャルロット・デュノアは溜息をついた。

2. ラウラと訓練

甲高い砲撃音とともに放たれた砲弾が地面を抉り、砂煙がもうもうと巻き上がる。その砂煙を吹き飛ばすようにして現れた白い影は、右手に握った剣から光の刃を発生させ、上空を舞う黒い影へと突進した。

「うおおお!」

「くっ!」

 白い影———織斑一夏のIS『白式』の繰り出した斬撃を、黒い影———ラウラ・ボーデヴィッヒの『シュヴァルツェア・レーゲン』は上体を反らして回避する。

眼前を掠めていく光の刃に、ラウラは僅かに苦悶の声を漏らした。

 二学期の始業式を終え、早々と放課後となったIS学園では、多くの生徒達が学園の保有するISを借り受けて訓練に励んでいた。

 この第六アリーナも、同様に多くの生徒達でごった返していたのだが、今は生徒たちの殆どはピット内に退避してしまっている。

 先程から行われている専用機持ち二人の模擬戦が、余りにも苛烈すぎて近くに居られないのだ。

「相変わらず、直線的だが速いな。それでこそ私の嫁だ!」

 上体を反らした姿勢のまま急降下したラウラは、上空の一夏に向かって右肩部のレールキャノン《ブリッツ》を放つ。

 対する一夏は、空を裂いて迫り来る巨大な砲弾を、エネルギーブレード《雪片弐型》で切り払った。

溶断された弾頭がオレンジ色の輝きを残しながら蒸発し、白式のエネルギーシールドに阻まれて周囲に散ってゆく。

「そりゃどうも……っと!」

 ニヤリと口元を吊り上げ、一夏は地表のラウラに向けて白式をダッシュさせる。二機は地上スレスレを縺れ合うようにしながら、激しい接近戦を繰り広げた。 

 

3.お約束

「 せっかくだし、俺が髪洗ってやろうか? 一人じゃ洗うの大変だろ?」

「え? ああ……うん。じゃあ、お願い……」

 シャルロットは一夏にシャンプーの容器とシャワーヘッドを手渡すと、再び鏡の方に向き直った。鏡越しに様子を窺うと、一夏はシャワーの温度を調節している。とりあえず手を動かしていれば気が紛れるのか、先程までの緊張は緩和されているようだった。

(もう……何でそう簡単に落ち着けちゃうのかな……)

「よし……じゃあシャル、シャンプーしていくぞ」

「う、うん……」

 一夏の図太さを恨めしく思いながら待っていると、準備を終えたらしい一夏が声をかけてきた。シャルロットは相槌を打つと、丸めていた背中を心持ち一夏に近づける。

「ん……」

 頭からゆるめのシャワーを掛けられ、シャルロットは小さく声を漏らす。時間がたったせいで、すでに髪は乾きかかっていた。

「うわ、さらさらだな……やっぱり手入れには気を使ってるのか?」

「うん……まあね……」

 軽く髪を梳きながらお湯をかけた一夏は、シャルロットの髪に直接シャンプーをプッシュすると、軽く指を立てながら泡立て始めた。

「…………」

 きめ細やかな泡が髪全体に行き渡り、金色(ブロンド)の髪を柔らかく包み込む。一夏は少し力を込めながら、頭皮をマッサージするように洗い始めた。

「痛かったりしないか?」

「ううん……そのくらいがいいな……」

 少し強めの力加減が心地よく、シャルロットは目を閉じてその感触を堪能する。

 美容院に行った時はいつもシャンプーをしてもらっているが、一夏のそれはまた違った良さがあった。

(なんだろう……親しい誰かに髪を洗ってもらうのって、こんなに気持よかったんだ……)

 シャルロットは夏休み中に、ラウラの髪を洗ってあげた事を思い出した。

 その時のラウラは、思わず抱きしめたくなってしまう程うっとりした表情をしていたが、ひょっとしたら今の自分も似たような顔をしているのかもしれない。

 恥ずかしいと思う反面、このままシャンプーの快感に浸っていたいという思いも強く、シャルロットは結局そのまま一夏に身を任せた。

 

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