このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
※都合上横書きにしてあります。
1. 二人の関係
「じゃあ、とりあえず軽く整えてあげるから、じっとしててね」
「え? お、おいシャルロ……」
「はいはい、動かないの」
シャルロットは振り返ろうとしたラウラの肩を押し留めると、髪にブラシを入れていく。
ろくに手入れのされていない髪は、何度もブラシに引っかかりそうになるが、その度にシャルロットはラウラが痛がらないように優しく絡まった髪を解いてやった。
「よし……眼帯外すよ」
「あ、ああ……」
シャルロットはラウラの眼帯を外すと、髪の根元の方にもブラシをかけていく。その感覚が心地いいのか、初めは所在なさげにもじもじとしていたラウラが、いつの間にか大人しくなっていた。
「ん……」
(そう言えば、前に髪を洗ってあげた時も気持ちよさそうにしてたっけ……)
ラウラの洩らした心地よさそうな声に気を良くしたのか、シャルロットはブラシではなく手櫛で、ラウラの髪をゆっくりと梳いてやる。
ブラッシングされたラウラの髪は、まるでビロードのように美しい銀色に輝いて見えた。
2. 楯無の依頼
「亡国企業の工作員は計二名。二人共、市内に潜伏しながら学園について探っているわ」
照明を落とされた薄暗い部屋の中、明々と輝くディスプレイに、二人の男の顔写真が表示されている。並んで椅子に座ったシャルロットとラウラは、真剣な表情でそれを見つめていた。
「二人は明日、日曜日、亡国企業の本隊から派遣されてくる連絡役と接触することが分かっているわ。そこを抑えて全員を一網打尽にするのが、今回の作戦ってわけ。わかったかしら?」
逆光でシルエットしか見えない楯無に問いかけられ、二人は頷きを返す。楯無は満足そうに微笑むと、ディスプレイの画像を切り替えた。男たちの顔写真に代わり、駅前の地図が表示される。
「問題は、そいつらが何時にどこで合流するのかが分からないことなの。だからあなた達には、二人の工作員のうちどちらかを尾行し、合流場所を突き止めてもらう必要があるわ」
「……肝心の工作員はどうやって見つけるのだ?」
「そこについては抜かりないわ。目標の素性や潜伏先は把握済み。今は泳がせてある状態なの」
楯無の言葉と共に、地図上に二つの光点が表示される。片方は短期契約のアパートで、もう片方はカプセルホテルだった。二つは駅を挟んで正反対の位置にあるが、どちらも駅からはほど近い。
「二人の潜伏先はここ。片方に張り付いて、出てきたら気付かれないように尾行してちょうだい」
「あの……どちらか片方でいいんですか? こっちも二人居るんですから、両方に向かった方が……」
「ううん、向かう所は同じなんだから、どちらか片方でいいわ。何が起こるか分からないし、基本二人一組(ツーマンセル)で行きましょう」
楯無はそう言うと、二人にそれぞれ書類を差し出した。書類にはIS学園の校章が描かれており、シャルロットとラウラ両名の、学外でのIS使用を許可する旨が記されている。
「相手は全員男だから、ISを持っていないのは確実よ。でも武装してない訳が無いでしょうから、明日は必要に応じていつでもISを使用して構わないわ。私のISも常に準起動状態においておくから、いつでも個人間秘匿通信を飛ばして頂戴……以上! 何か質問は?」
「大丈夫です!」
「こちらもだ」
「……よし! ブリーフィングしゅ〜りょ〜!」
パン、と手を叩き、楯無は部屋の照明をつける。
3. Roll Out!
「はあぁっ!」
放たれる弾丸の雨をものともせずに突進したラウラは、目の前の男に向かって右腕部のプラズマブレードを振るう。
人体など容易く焼き切ってしまう光の刃は、しかし男の持っていたマシンガンのみを切り裂き、破壊した。目の前を通り過ぎて行く膨大な熱量に、相手の男は小さく悲鳴をあげる。
その隙を逃すこと無く、ラウラはブレードを展開していない左腕で男を掴みあげると、締めあげて気絶させた。
『一つ!』
白目をむいて昏倒する男の顔を見て、ラウラはニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。脱力した男の体を投げ捨てると、ラウラは次の目標へと向き直った。
「随分好き勝手されちゃったからね。たっぷりお礼をさせてもらうよ!」
シャルロットは駐車場内を高速で移動しつつ、ライフルを連射する。装填されているのは無論ゴム弾だが、彼女は先ほどまでの鬱憤を晴らすかのように、容赦なく男たちを攻撃した。
四肢ではなく、顔面や腹部などの急所めがけて飛んでくる弾丸を、男たちは駐車場内の柱を盾に必死に躱している。
「ほらほら、固まってると危ないよ!」
シャルロットは左手にスタングレネードを実体化させると、男たちへと投げつける。男たちは慌てて退避しようとするが、タイミングを計って投げられたスタングレネードは、即座に爆発して閃光と不快音をまき散らす。
逃げきれずに至近距離で爆発を浴びた二人の男が、力無く膝をついた。
『二つ、三つ…………っ! ラウラ!』
『っ!』
シャルロットの掛け声とともに、二人は再び背中合わせの体勢になる。同時に、シャルロットはシールドを、ラウラはAICを起動すると、二方向から放たれた砲弾を防いでいた。
シールドを打ち据える衝撃をしっかりと受け止め、シャルロットは後ろを振り返る。
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