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 昭和30年代の登山ブームは、あまりの急激さに様々な問題を起こした。地元発展の為に大いに宣伝する一方、自然破壊や入山者を迎える体制の不備が指摘されたりもした。遭難対策もその一つである。遭難者の家族は速やかな救助を要求し、捜索側は無謀な入山を批判する。救助に要する費用負担で軋轢が生ずる場面がよく見られた。救助隊員が二重遭難にあうこともしばしば発生した。ここでは、当時の新聞に救助隊員の補償をどう考えるべきかという記事が登場し、それを自分なりに整理してまとめた文を次にご紹介する。

 実は、昭和35年の正月早々、福島県の吾妻山(あずまやま)で、6人のパーティが遭難した。結果的には自力で下山して無事であったが、内1名は、僕が勤務していた会社の社員であったのだ。他の5人は、名だたるF重工・N銀であった。いずれも各地にネットを持つ大組織である。現地に捜索隊本部がいち早く設置され、福島県のみならず、隣接県の山岳関係者も駆けつけた。これをNHKや、新聞社が刻々と報道するという大変な騒ぎであった。僕も捜索隊に編成されたが、2日後、入山半ばで無事が確認されて下山したのだった。この記事を書く3年前の出来事である。

文中の( )書きは、注釈として追記した。

救助隊員への補償

昭和38年(1963) 3月-記

 今年の冬は北アルプスを始め、各地で大きな遭難が相次いだ。新聞テレビにも大きく報道されて、我々も関心を持たされたし、一般の人達にも少なからずショックを与えたようだ。こう遭難があとを絶たないようでは、もう年中行事みたいになって「あゝまたか」という事にもなりかねない。

 幸い今冬は、福島県下には起きていないが、しかし、いつでも発生しそうな要素を含んでいる。その為に各山岳会では、夏冬の訓練を怠らないし、関係者は遭難対策にはことのほか力を入れている。

 ところで、その救助隊員であるが、彼等といえどもやはり万能ではないから、救助に向かって遭難し逆に自分の命を落とす場合もあり得る。

 いわゆる二重遭難であるが、もう一つ重なれば三重遭難となる。この冬も北アルプスで地元の隊員がアイゼンを引っ掛けてみんなの目の前で滑落し、死亡するという事故があった事はまだ記憶に生々しい。

 最初遭難を起こした者は、自分達の意志で登ったのであるから、せいぜい非難を受けるくらいのもので別に問題はないが、捜索隊員は、要請されて出動するのであるから、当然面倒な問題が起こる。

 遭難の件数があまりなかった頃は、奉仕的に出動していたのであろうが、こう多くなったんでは、そうもいかなくなる。隊員も、もともと自分の仕事を持っていることであり、そうむやみに本業を留守にすることが出来ない。たび重なる出動は、それ自体金のかかることであり、家計にも影響する。そしてなんと言っても大きな問題は生命を危険に曝さなくてはならないのだ。一家の働き手を失えば、その遺族は露頭に迷い、人を助けようとしたばかりに、とんだ馬鹿を見たと言う結果にも成りかねない。

 そんなことで、最近地元の隊員は冬山登山者を毛嫌いしていると言う話を耳にする。それと同時に自分達を守る為の運動を起こしており、補償という意味での具体的な成果を上げてきてもいる。

 次の二つの例は、最も遭難の多い長野県と、谷川岳を控えている群馬県との遭難対策である。これは昨年暮れ、朝日新聞に掲載されものを参考に、改めて当山岳部で考えてみようとまとめたものである。

<長野県の場合>

 長野県下の遭難対策は、県知事を会長とする県遭難対策協議会が中心になって進めている。協議会は県下各地に支部を持ち、北アルプス関係は北部支部(大町署)と、南部支部(豊科署)の二つがある。この両支部に民間人を主体とする通称北ア遭難救助隊がある。南部支部の上高地では、山案内人、山小屋や旅館の従業員ら約60人で4班、北部支部では160人で5班を組織している。

 救助に出動したときの報酬は、山案内料金の、冬山1日1,500円、夏山1,000円である。しかし実際には遭難者の家族や、関係者が支払わないままになっているものもあり、命がけの”奉仕作業”になりがちだという。

<群馬県の場合>

 谷川岳では、33年に遭難防止対策班が発足したが、班員は県観光課の臨時嘱託で常勤7人、非常勤が3人、いずれも地元の山のベテラン達である。これは安全登山の呼びかけや、指導が目的だが、実際には遭難者の救助から死体の運び出しまでやっている。

 報酬は常勤が月15,000円、非常勤が1日500円、時間外も危険手当もない。ただ遭難死体の搬出は業務外なので、これを遺族に頼まれた場合、遺族の負担で、班員に3日間50万円の傷害保険をかけてもらい、出動手当てとして遺族から1日1,500円をもらう建前になっている。この他、沼田署員で構成する谷川岳警備隊と群馬県警備隊とがあるが、これは主に通信連絡や麓での活動を受け持っている。

 その他にも各地で同じような対策を立てているだろうが、一般的な傾向として、救助隊員に日頃相当の資格と権限を持たせておくという事である。たとえば、

  1. 救助隊員を県の臨時職員にする。

  2. 隊員に傷害保険をかける。

  3. 県条例で危険ルートを決め、そのルートの登山者を監視させる。

というものだが、1,2は異議がないとしても、3は行き過ぎではないかという声もある。

 いずれにしても、昨今は遭難件数を極端に減らすことは不可能な状態にあるから、それは憂うべきものとしても、救助隊員への身体的、経済的な補償が確立されることは良いことであると思う。

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