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国 指 定 重 要 文 化 財

旧下野煉化製造会社煉瓦窯

昭和54(1979)年2月3日 指定

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 施設名称 旧下野煉化製造会社煉瓦窯

 設計者名  不詳

 施工者名  不詳

 建 築 年   明治22(1889)年築窯 

 構    造   煉瓦造 及び 木造

 所 在 地   栃木県下都賀郡野木町大字野木字大手箱3324−1

         (渡良瀬北斗乗馬倶楽部 敷地内)

 備    考   屋  根:鉄板葺き

          建築面積:840.0m2

          十六角造、中央煙突付、階段二箇所附属

 

 

  明治維新の文明開化をきっかけに、煉瓦造の建造物が多く建てられた。中央停車場

 (現在のJR東京駅)や碓氷峠鉄道施設第三橋梁(通称めがね橋)など、現存する明

 治時代の代表的な建造物には煉瓦が使用されており、その面影を見ることができる。

 

 明治19(1886)年、明治政府は臨時建設局を設置し、官公庁関連の建造物の近代化(煉瓦造化)に着手した。この計画により、煉瓦の大量生産が必要とされた。こうした時代の要請に伴い、明治21(1888)年10月に三井合名会社の援助を受け、地元の有志によって野木町に下野煉化製造会社(現在の株式会社シモレン)が創立された。

 煉瓦の製造場所として現在地が選ばれたのは、隣接する渡良瀬川から豊富で良質な煉瓦の原料となる粘土や川砂が採取できたことや、製品としての煉瓦の輸送に渡良瀬川の水運を利用できたことによる。

 翌年(明治22・1889年)には焼成用の煉瓦窯(通称ホフマン式輪窯)が東西に2基(※西窯は関東大震災により倒壊)造られた。建設に関しては、小菅集治監の技術指導を受けたといわれている。明治23(1890)年6月15日に窯に火が入れられ、操業開始となった。

 

 この煉瓦窯は、ドイツ人フリードリッヒ・ホフマンが1858(安政5)年に考案した煉瓦製造の焼成窯である。当時の最新鋭連続焼成窯で、蒸気機関に連結した土練機、素地成型機などの新鋭機械を用いた大量生産に適したものであった。 

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      窯上部・レールと400個の投炭孔             焼成窯の内部                中央にある断面八角形の煙突

 

窯全体は、平面16角形をしている。窯上部には400個の投炭孔が設けられており、その上に敷かれたレールの上をトロッコが走り、トロッコから粉炭を補給した。窯の内部は円形環状トンネルで、その中央に断面八角形の煙突が立てられ、地盤高11.5メートルの位置から木造の上屋が放射状に架けられている。周囲は約100メートル、煙突頂点までの高さは約34メートルある。外壁は煉瓦のイギリス積み(一部フランス積み)で、焼成窯16室のそれぞれにアーチ形の出入口が設けられており、東西には燃料運搬用の階段が付設されている。

 

         煉瓦造の外壁と木造の上屋            室番号が記された煉瓦   窯の上に上がる階段下のアーチ

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製造方法は、一定割合に調合した原料を土練機で練り上げ、それを素地成形機で煉瓦状に成形し、自然乾燥させて素地を作る。この素地を煉瓦窯の下部にあるトンネル(焼成窯)の一室に井桁状に積上げ(窯詰めという)、焼成室上部の投炭孔から粉炭を投下して焼成し、焼き上がった製品を冷却し、窯出しして完成となる。この煉瓦窯は輪状の構造になっているが、全体が16室に仕切られている。一室を焼成する際の余熱を、次室の素地を乾燥・加熱に利用していく仕組になっており

 

    第1号焼成室 「窯詰」→「焼成」→「冷却」→「窯出」

                  ↓ 焼成する際の余熱

    第2号焼成室 「窯詰」→「乾燥・加熱」→「焼成」→「冷却」→「窯出」

                          ↓ 焼成する際の余熱

    第3号焼成室         「窯詰」→「乾燥・加熱」→「焼成」→「冷却」→「窯出」

                                  ↓ 焼成する際の余熱

    第4号焼成室                 「窯詰」→「乾燥・加熱」→「焼成」→「冷却」→「窯出」・・・

 

というように、合理的で熱効率の良い方式で、長期にわたる連続操業が可能であった。約1100度で一室の煉瓦を焼成するのに、およそ一昼夜半かかった。火は24時間で焼成室上部の投炭孔3本分を進み、23日間で一周した。一室あたり約1.7万本、全体(16室)で約27.2万本の煉瓦を焼成することができ、月間生産量は約40.8万本に達したこともあるという。優れた焼成施設であったが、連続操業はすべて人手に頼っていたため、厳しい労働条件下にあった。

 当時の工場構内には、運河が引き込まれていた。完成した煉瓦は渡良瀬川・利根川・江戸川等の河川を利用して、船舶により主に東京方面へ運搬されたり、多数の馬車に積込まれ各地に運搬されていった。その後、鉄道や自動車の発達により輸送方法が変わったが、かつては煉瓦窯を背景に多数の馬が往来し、高瀬舟の帆影や、櫓音で賑わいをみせていたと伝えられている。

 

 この煉瓦窯は、創業から製造休止(昭和46・1971年5月)までの82年間煉瓦を造り続け、その後も原形を保ち続けている。煉瓦窯の中でも現存するホフマン式輪窯は、日本国内で4ケ所のみ。旧下野煉化製造会社のほか

 

   旧神崎煉瓦ホフマン式輪窯(京都府舞鶴市)

   旧中川煉瓦製造所ホフマン式輪窯(滋賀県近江八幡市)

    旧日本煉瓦製造会社ホフマン輪窯六号窯 (埼玉県深谷市)

 

のみである。その中でも旧下野煉化製造会社煉瓦窯は「完全な形で残っている・歴史が最も古い・煉瓦造の建造物としても最大規模」と、近代化遺産としての高い評価を受けている。また、建築材料である煉瓦を製造した産業遺跡の一つとしても、極めて価値が高い事から、昭和54(1979)年に国の重要文化財として指定された。

 

img1.simoren7.gif 1997年、この巨大な遺産である煉瓦窯の現状を把握するために東京国立文化財研究所によって精密な調査が行われ、煉瓦自体の「塩類風化」が問題であることが判明した。同研究所 修復技術部 第二修復技術研究室長によると「煉瓦の中に浸透した雨水が乾くと、そこに沈殿した塩類が煉瓦を腐食させていく。緊急の課題は雨水の対策である。」とのこと。しかし最大の問題は「煉瓦窯全体をどのような状態で残すか」である。文化庁にとっても、これだけの規模の煉瓦の建物を保存・修復した例がない。

 

 2002年には、この煉瓦窯を敷地内に持つ乗馬クラブ「ロイヤルホース・ライディングクラブ」を経営していた『株式会社シモレン』が、売り上げ不振や放漫経営の末に経営破綻し、債権者によって民事再生手続きも否決された。国や県、町と共同で進めていた煉瓦窯の修復作業も中断となり、煉瓦窯は引受先が見つからないまま、塩分や風雨によって傷みが進んでしまった。

 

 2006年、施設は丸ごと「渡良瀬北斗乗馬倶楽部」に引き継がれた。また同時に、煉瓦窯は破産管財人を通じて野木町に寄付された。同町は、2006・2007年の2年間で、修理・保存のため調査を進めている。しかし、同町生涯学習課からは「いつから修復が始められるかは分からない。予算の問題もあり、どのように活用するかは白紙の状態」とのコメントがあり、煉瓦窯の未来はまだ見えていない。

 

 

● ピストルオペラ ●

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『ピストルオペラ』(監督:鈴木清順 主演:江角マキコ)には、断面八角形の煙突が「煉瓦造りの炉として使われたようです。

( http://www.tv-tokyo.co.jp/telecine/cinema/pistol_o/index.html )

 

 

 

参考文献一覧

さにぼー@いかんべblog | 『旧下野煉化ホフマン式輪窯』

 (http://1530radio.jugem.cc/?eid=49 )

◆ 現存するホフマン窯

 (http://www.maizuru.net/seizou5.htm )

◆ 国指定文化財等データベース

 (http://www.bunka.go.jp/bsys/index.asp )

◆ 観光ニュース

 (http://www.soon.co.jp/gogo/kanko/0707/0713.html )

◆ S野煉化Hフマン式輪窯 その1

 ( http://www5f.biglobe.ne.jp/~punch-ht/shr001.html )

◆ シモレン煉瓦窯 - MS HOMES -BrickProject-「煉瓦積みの家」- Yahoo!ブログ

 (http://blogs.yahoo.co.jp/brick_project/15165018.html )

旧シモレンホフマン窯

 (http://www2s.biglobe.ne.jp/~stakers/arch/bsimoren.html )

◆ --土木学会関東支部栃木会--

 ( http://www.jsce-tochigi.gotohp.jp/b/H1802/2006_075.htm )

旧下野煉化製造会社煉瓦窯

 (http://www.tochigi-c.ed.jp/bunkazai/bunkazai/list/138.htm )

Yahoo!ブログ - 栃木県内見て歩る記

 (http://blogs.yahoo.co.jp/tennnennkozi/folder/1494615.html )

◆ YOMIURI ONLINE(読売新聞)(6)産業遺産保存へ一歩 

 (http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tochigi/kikaku/085/7.htm )

産業技術遺産探訪〜旧・下野煉化製造会社・ホフマン式輪窯

 (http://www.gijyutu.com/ooki/tanken/tanken2000/simoren/simoren.htm )

◆ 栃木県内見て歩る記 - アルバム[2]

 (http://orangestudio.homeip.net/gallery/public/user/album/list.php?userid=17933&page=2 )

◆ ホフマン式輪窯 - はてなダイアリー

 ( http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DB%A5%D5%A5%DE%A5%F3%BC%B0%CE%D8%CD%D2?kid=179634&mode=edit )

 

 

【 作成:2007(平成19)年9月25日 】

 

 

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