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伊37号踏切立体化への道筋





■伊37号踏切

 東武伊勢崎線竹ノ塚駅の北千住よりに、伊37号踏切はある。もっとも、これは鉄道側の呼称だから一般的ではない。筆者は最初、竹ノ塚付近の旧自治体名「伊興37号」の略だと思っていたが、それにしては数字が大きすぎるので「伊勢崎線37号」の略であろうと目星がついた次第。おそらくは北千住起点時代における通し番号と想像される。地元では道路の名をとり赤山街道踏切(※)と呼ばれることもあるし、「開かずの踏切」として名高いので単に「大踏切」と呼んでも通用する(*)。
 ※ちなみに赤山とは川口市内の地名で、埼玉高速鉄道新井宿−戸塚安行間の中間付近に相当する。昔日の交通流動がうかがえる街道の名である。
 *北千住駅の南側にある常磐線・伊勢崎線並行部の踏切も「大踏切」と呼ばれることがある。


超遠望
伊37号踏切超遠望

 東武鉄道伊勢崎線では、北千住−竹ノ塚間は単独立体交差事業の組み合わせ、竹ノ塚−北越谷間では連続立体交差事業(※)という形で踏切を除却してきた。この過程のなかで、西新井には工場(*)が、竹ノ塚には車両基地が隣接することもあって、西新井−竹ノ塚間は高架ではなく地平区間のまま残った。そのため、同区間では道路側が跨線橋や地下道となって、伊勢崎線と交差している。
 ※竹ノ塚−北越谷間では複々線化を同時に行っており、線増部分は基本的には東武鉄道の自社事業ということになる。
 *現在は南栗橋に移転。跡地は更地となっており、どのように転用されるか注目される。


 西新井側から見てみると、環状7号線(跨線橋)・超低規格区道(地下道)・都市計画道路(地下道)・歩道橋・一般規格区道(跨線橋)・歩道橋と交差箇所が連なっており、自動車・歩行者とも、伊勢崎線を横切るのに不便はあまりない状況だ。

遠望
伊37号踏切遠望

 ところが、竹ノ塚付近にだけは踏切が残ってしまった。南側の伊37号、北側の伊38号。複々線区間でただでさえ列車数が多いところに、車両基地からの出入庫に加え、折返列車は一旦引上線に入らなければならないことから、両踏切とも典型的な「開かずの踏切」となってしまった。





■竹ノ塚事故

 その伊37号踏切で、平成17(2005)年 3月15日に事故は起きた。二名死亡・二名負傷という、なんとも痛ましい踏切事故である。日頃から危険性が指摘されていた箇所だけに、事故原因の根本的解決−−立体交差化−−を求める声が地元から強く湧き起こった。この点については、既に 先行記事 にまとめてある。

全景 全景
左:伊37号踏切全景      右:伊38号踏切全景

 事故の直接原因は警手の人為的ミスと認定されたものの、個人に責任を押っつけて済む話では無論ない。この事故の遠因は、「開かずの踏切」を通らなければならない通行者のストレスを緩和しようとする、まさに「人為」による配慮があった点にある。踏切の開放時間をなるべく長くとろうとする配慮が、警報に対する感度を鈍らせ、事故につながったとはいえまいか。いずれにしても、長年この状態を放置してきた東武鉄道(そして足立区)の社会的責任は大きく、おそらくその自覚があるからであろう、根本的安全確保を目指す取組が始まった。





■踏切自動化

 真っ先に行われたのは、踏切の自動化である。

拡大 近景
伊37号踏切近景

 警手による判断という人為を排し、機械的に警報を発し、道路を遮断するわけで、これで一応の安全は確保できる。しかも常時警備員を配しており、案内も十全だ。いうまでもなく、警備員は「強行突破」に備える構えでもあり、踏切遮断はきわめて厳格になった。逆にいえば踏切開放時間はより短くなるわけで、通行者のストレスは大きくなってしまう。





■歩道橋新設

 通行者ストレスの補償措置として行われたのは、踏切に並行する歩道橋の新設である。歩道橋にはエレベーターも併設され、歩行者だけではなく自転車も容易に利用できることから、補償措置としてはかなり水準が高い(※)。
 ※歩道橋新設の費用負担はどのように設定されたのだろうか。おそらくは足立区(東京都)が相当部分を負担していると思われるが、情報がない。

エレベーター
伊37号踏切併設歩道橋のエレベーター(自転車は二台まで入る)


 ただし、上下移動という抵抗感があるから、全ての歩行者・自転車が歩道橋を利用するわけではない。週末の日中に実見したところ、ざくっと半数程度というところか。下りた遮断機を前にして、歩道橋に迂回する方もいれば、遮断機が上がるまで辛抱強く待つ方もいて、選択行動としては興味深いところだ。

歩道橋     選択行動
左:歩道橋上部通路
(柵のためいささか狭苦しく感じられる)  右:選択行動(警報機直近の自転車は歩道橋から出てきたところ)

 この補償措置は自動車にまで通用するものではないが、自動車には迂回路が数多くあることから、歩行者・自転車の安全をほぼ確保した時点で当面の目的は達したと評価できる。応急的な弥縫策とはいえ、事故当時の状況と比べれば飛躍的な進歩を遂げたことは間違いない。問題はここから先の展望で、弥縫策のまま十年単位で推移するのではないかと危惧していたところ、意外にも早い時点で事業が動き出した。





■連続立体交差化胎動


新交通システム第1374号(平成19(2007)年 1月19日付)記事より

 東京都足立区は 2月、東武伊勢崎線連続立体交差化事業の施工計画などを検討する竹ノ塚駅付近連続立体交差事業協議会を設立する。
 同事業は、同竹ノ塚駅付近約 1.5kmを立体化する。事業費は約 500億円。国の '07年度予算で、新規採択個所となった。
 (後略)




足立区ホームページ (平成19(2007)年 2月 7日付)記事より

  2月 5日(月曜日)、竹ノ塚駅付近鉄道高架化促進連絡協議会会長の鈴木恒年足立区長ほか役員等が東武鉄道株式会社本社と国土交通省を訪れ、「東武伊勢崎線竹ノ塚駅付近の鉄道高架化早期実現に関する要望書」を冬柴鐵三国土交通大臣などへ手渡した。……
 東武鉄道の柴田鉄道事業本部長は「19年度の政府予算案で着工準備採択に内定し、……技術的課題はあると思うが、鉄道立体化に積極的に取り組んでまいりたい」と挨拶した。続いて国土交通省を訪れ、冬柴国土交通大臣に要望書を手渡し、鈴木区長は、「竹ノ塚駅付近の鉄道立体化については、……昨年末には平成19年度の政府予算案の中で、新規着工準備箇所として内示を頂くことが出来た。……」とお礼を述べ、……
 冬柴国土交通大臣は「尊い人命が犠牲になった。皆さんの要望を受け早くしないといけないと考え19年度予算に盛り込んだ。新年度に入れば直ぐに着工の準備にとりかかるための予算が執行される。これで高架化の見通しができた」と話した。
 (後略)



 未だマスメディアが伝えていないのは怪訝千万であるものの、目立たぬ形で報じられているこの消息からすれば、竹ノ塚付近の高架化事業は具体化に向けて動き出したと見ても差し支えあるまい。まだ「着工準備」の段階であるから、中途で頓挫してしまう可能性もなお残るとはいえ、よほどのことがなければ具体化にこぎつけると思われる。

 そうはいっても「技術的課題」は山積している。複雑な配線を整頓しつつ、如何にして高架化を進めるのか。竹ノ塚駅自由通路・踏切並行歩道橋・既存歩道橋の逆立体化手順はどうするのか。費用負担をどのように割り振るのか。ちょっと考えただけでも難問が多く、簡単には進みそうもない。実現に至ったとしても、工事期間は相当な長きに渡ると考えるべきであろう。

 伊37号踏切立体化という、重き荷を負うて遠く長き道を進んでいくにあたっては、国の予算がついたことが大きな助けとなると思われる。千里の道も一歩から。まだほんの数歩が刻まれたにすぎないとはいえ、安全を希求する人々の心が、いつかは完歩につながると信じたい。





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執筆備忘録

調査:平成18(2006)年秋

執筆:平成19(2007)年春





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