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29612解体をめぐる茶番劇
■毎日新聞平成26(2014)年 2月13日付記事より ■参考文献
<初の純国産・蒸気機関車>解体計画に「惜しい」の声が続々
福岡県志免(しめ)町の「中の坪公園」に展示されている約100年前の蒸気機関車(SL)が、公園の整備工事に伴い近く解体、撤去されることになった。町は近くの別の公園への移設を計画したが、移設費、補修費が高額なため、議会が予算案を否決。鉄道ファンらから「数億円使っても、同じものはもう作れないのに」と惜しむ声が上がる中、早ければ今月中にも解体が始まる見通しだ。
(以下略)
■コメント
この記事の中では、保存運動推進者の、
「もうすぐ製造から 100年がたつ立派な遺産。解体は数百万円でできるが、数億円出しても同じ物は二度と作れない」
という発言が紹介されている。この発言だけをとりあげれば一応尤もらしい。しかし、ちょっと透かして見れば、実は説得力などないに等しい。
青梅鉄道公園に保存されている9608
平成13(2001)年撮影
「同じものはもう作れない」との言葉に至っては、まったく正しくない。例えば、JR九州が 58654を動態再復元するにあたっては台枠を新製しているのだから。勿論、高額な費用を要することは間違いないとしても、億円単位の金と手間さえかければ、今でも新製は可能なのだ。
そもそも、保存運動の理念が正しく認識されているならば、 29612が現状の如く露天で荒廃するにまかせる状態になることなどありえないし、誤った記述の説明板が放置される事態は更にありえない(
同車は「C-96型2961号」であると現地の説明板に記載されているとの由
)。詰まるところ、 29612解体が決まった直後に始まったにわか保存運動、と指摘せざるをえないのだ。
もう一つそもそもの話をすれば、前記説明板によれば、 29612は主に長崎本線や唐津線で運用されていた車両だという。志免と縁の(少)ない車両がなぜ来たかといえば、当時の蒸気機関車ブームに乗っただけ、……だからではないのか。保存事業を継続するためには「何故保存するか」の理念が必要不可欠だ。一時の熱気に引き摺られた程度の心掛けで始めたからこそ、 29612はボロボロに朽ち果てているのではないか。
この 29612を修復するためには 1,300万円余の費用を要し、更に数年に一度のペースで 200万円ほどの補修費用を要するという。要するに、現状の 29612の価値はそれだけ毀損されているに等しい。いくら外面だけ取り繕っても、不稼働から更に腐朽した機関車は、現役時代の輝きを取り戻すことはない。保存運動推進者の発言は空虚で白々しく、偽善の香りすら漂う。
かくも地道さに欠ける保存運動の請願を議会が退けたのは、当然すぎるほど当然の帰結と評さなければなるまい。保存運動推進者は正義と道理を語っているつもりでも、あまりに浅薄すぎて簡単に底が割れてしまっている。
理念なく 29612の保存を始め、都合が悪くなると破却する、志免町の無定見と無節操さは確かに批判されるに値する。さりながら、保存運動推進者の考えは未熟かつ安直に過ぎ、志免町と同様、批判対象になりうると評さなければなるまい。
梅小路蒸気機関車館に保存されている9633
平成16(2004)年撮影
この種の「埋め草」記事は、
かつて批判したとおり
、読者・片方の当事者(この記事では保存運動推進者)・もう一方の当事者(この記事に限らず主に行政)の三者全てを愚弄嘲笑しているに等しい。三文芝居の如き記事が濫発されているからこそ、マスメディアが提供する情報は素直に信じられないのだ。
この種の記事は、情に流される空気を醸すという意味において、社会を毒し続けていると感じている。しかも、マスメディアはこのテンプレートにまったく疑問を持っていないと思われ、それどころか自らの社会正義実現と思いこんでいる節もあり、どうにも始末に負えない。よって筆者は、この種の記事を嫌悪し、かつ厳しく批判する。
◆◆ ◆◆
……下書きを温めている間に現実が先に動いてしまった。 29612は豊後森町が引き取ることで決着しそうだという。
扇形機関庫が現存し、かつ長期間キハ0741を抱えていながら(現在は九州鉄道記念館で保存)、今では主となるべき車両を失っていた豊後森町。 29612解体騒ぎで悪者になるのを回避したい志免町。計らずして両者の利害が一致した形だ。
結果良ければめでたしめでたし、と筆者は敢えて記さない。 29612の価値が毀損されている現状を鑑みれば、割り切れなさが残る。少なくとも、志免町と保存運動推進者双方の長期に渡る無為無策ぶりは、批判の素材となりうることは明記しておかなければなるまい。
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