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Jetstarで札幌に行ってみる〜〜番外余禄

TGVはすでにLCCと競合している





 本稿を書きあげてから、TGVとLCC(当時は格安航空と形容)の競合について記事を書いていたことを思い出した。

    ●格安超高速鉄道という意外〜〜
iDTGV

 この記事をアップロードした日付は、平成18(2006)年11月30日。実に 9年近く前までさかのぼることになる。そして、当時からすでに、TGVはLCCとの競合にさらされていた事実には驚きを禁じえない。さらにいえば、その事実を紹介するメディアが日本国内に運輸調査局(「運輸と経済」などを公刊)以外に存在しないという状況は、実に寂しくかつ情けない。

 運輸調査局では iDTGVとは異なる利用客層をターゲット(※)とした、新格安TGVの OUIGO(ウィゴー:平成25(2013)年 4月より営業開始)レビュー記事も提供している。運輸調査局の丹念な調査と継続的な情報発信は、まったくもってありがたい限りだ。

※こどものいるファミリー層、自動車利用の旅行者層まで狙っているとか。 OUIGOの運賃は、TGV正規運賃の約三分の一、iDTGV やLCCの約三割引きと、極端に安い。


 TGVとLCCの競合は、TGVの輸送量停滞や収益率悪化を導いているというから、更に見逃せない(この話題の情報源もまた運輸調査局)。

 TGVには最近、新線開通などの明るい話題が少ないという印象があったが、経営環境が厳しさを増していると知れば合点がいく。新車投入も当面Duplex一車種に絞ったという噂があり、速度向上や輸出促進よりもむしろ、輸送力を増強し地道に競争力強化を図っているらしい。

TGV Duplex
南東線のDuplex編成(パリ・リヨン駅にて 平成12(2000)年撮影)


 TGVネットワークは在来線走行区間が相当な延長にのぼり速達性がいまひとつ、個別ODでの運行本数が少ない(※)などの事情があり、TGVにはビジネス目的の利用者が三分の一程度しかないのだという。時間価値の高い、すなわち支払意志額が高い利用者層の薄さは、経営面でのTGVの弱点といえるだろう。それゆえ、時間価値が相対的に低い、すなわち支払意志額が低い利用者数をも獲得しなければならないというのは、まさに薄利多売で苦しいところ。

※日本の新幹線では少なくとも毎時一本程度、東海道新幹線に至っては「のぞみ」が10分毎に運行されているが、これは世界的に見れば「異常に多い」運行本数である点に留意すべきであろう。TGV各系統では一日数本程度の運行が当たり前である。航空に勝る輸送力があるゆえに、かえって運行本数で劣後するというのは、皮相というか何というか。


 上記まで見てきたとおり、TGVはすでにLCCと厳しく競合しており、低廉価格政策を採らざるをえない状況にある。同じ状況が今後、日本でも生じる可能性は当然存在する。例えば北海道では、より高度なサービスに対する支払意志額が極端に低水準で、運賃要因に鋭敏に反応する利用者が多いという調査結果がある。

   「 速達性にいくら払う?〜〜ナッチャンの蹉跌 」にて紹介(平成20(2008)年9月8日)

 本稿に提示した話題・論点はまぎれもない事実でありながら、ごく限られた少数の専門家(不肖ながらいちおう筆者もその一人)しか興味を持っていない対象といえよう。ここまで記したTGVの苦しい経営を知れば、前章まで記した筆者の「危機感と問題意識」も見えやすくなる、と信じたいところだ。





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参考文献

  「運輸と経済」第74巻第12号より
(01)「格安TGV『OUIGO』の開業後の成果」(萩原隆子)

  「交通新聞」平成27(2015)年1月29日付より
(02)「TGV建設・運行が抱える問題」(萩原隆子)





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