このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





【十周年記念記事】

交通は地図を変える





■まえがき

 平素より拙「以久科鉄道志学館」を御愛読頂き、ありがとうございます。おかげさまで開設以来十周年を迎えることができました。なにしろ個人で切り盛りするホームページで、昨今多忙につき更新が滞っている状況のなかで十周年記念記事を如何にするか、ちょっとした悩みではありました。

 手を着けていない記事(あるいは分野)はまだ山ほどあるわけです。そのいずれもが、書き始めたところで完結させるまで相応の時間を要してしまう。例えば、最新記事として天塩炭礦鉄道を未練がましく載せているのは、あのままでは実は未完なので補強したい、という思いがあるからだったりします。迂闊に着手していつまでも完成しないのでは困りものです。

 なので、ここは思い切って私的な動機づけのまま、近頃感じたことを書いてみることにします。題名だけを見れば、大上段に構えた感じがするのも、面白いところでしょうか。まずは、以下の引用記事を御覧ください。





■進学レーダー第22巻第 5号(平成22年 5月15日)の特集記事より引用

首都圏の公立高校の大学区制

全部一学区。神奈川でも学区はもはや存在していない。

 都立・神奈川県立のなかで復活を遂げた公立高校がいくつかあります。東京では前述したように日比谷、国立、西。神奈川では横浜翠嵐などです。これらの高校には共通点があります。交通の便が比較的良いことです。たとえば、日比谷は東京メトロの「永田町駅」「赤坂見附駅」「溜池山王駅」などから徒歩 5分と非常に便利ですし、横浜翠嵐は横浜駅西口からは徒歩20分ですが、横浜市営地下鉄の「三ツ沢下町駅」からは徒歩12分、東急東横線反町駅からも徒歩16分と、駅から距離はあるものの、神奈川県の中心である横浜駅圏内です。
 このように、伝統ある公立高校でも、交通の便が良い学校の人気が高くなるのには、公立高校に学区がないことが影響しています。現在、東京・神奈川に学区はなく、都内、もしくは県内でどこに住んでいても、どの高校でも受験できるので、当然、交通の便が良かったり、中心地にある高校がより人気が高くなる傾向があるのです。


大きく変化した交通事情

副都心線、湘南新宿ライン…路線の変化が志望校を変える

 日ごろ電車に乗って通勤しているパパにはおわかりになっている方も多いでしょうが、昨今の首都圏の交通事情の変化には目を見張るものがあります。この交通事情の変化によって、交通の便が良くなると人気が上がる学校もあります。
 また学校選びにおいても、交通事情は重要な要素です。平均的な通学時間はおよそ 1時間くらいですが、現在交通事情が発達したため、 1時間あればかなり広域に学校を選ぶことができます。例をあげるとすれば、たとえば、湘南新宿ライン。この開通に伴い、従来はあまりなかったフェリス女学院と豊島岡女子学園の併願などが出てくるようになってます。また、戸塚、大船などの受験生の都心へのアクセスも、ずいぶんと便利になりました。
 湘南新宿ラインに関しては、今春開業したJR横須賀線の武蔵小杉駅がどこまで通学に影響を与えるかが注目されます。また、今後は東京メトロ副都心線が東急東横線との乗り入れを2012年に予定していますが、これまた受験生の流れを大きく変えることは必至でしょう。






■交通インフラが変える学校の勢力圏

 両記事は「進学レーダー第22巻第 5号(平成22年 5月15日)」に掲載された特集の一部である。我が意を得たり、というのが率直な感想である。

 現在、筆者宅では長男坊の志望校を絞りこむため、分析を進めている。そのなかで確信を持ちつつあるのは、より広い範囲から学生が通ってくる学校ほど大学進学実績が良い、という一点である。要するに、遠い距離をものともせずに通ってくる生徒が多い学校には、相応の魅力が備わっている、ということなのであろう。

※これとは逆に、たとえ入学時の偏差値が高くとも、生徒の居住地が近隣に集中している学校の大学進学実績は必ずしもすぐれていなかったりする。学校選択の際には一つの基準となりうると思われる。


 そのような学校の立地は、伝統校・新興校といった属性にかかわりなく、必然的に交通至便である。勿論、「交通至便→良い学校」とまでは言い切れないが、少なくとも「良い学校→交通至便」という相関はかなり高い確度で断定できそうだ。交通至便なればこそ、遠来からの生徒が集まりやすいのが道理である。交通インフラが学校の勢力圏にも影響を及ぼすという、典型的な断面といえる。

※新幹線の影響も無視できない。三島や上田などから通ってくる生徒も散見されるとか。数としては稀少でも、遠隔地から通う生徒の存在は、他の生徒の心理に影響を与えるはずである。


 例えば埼玉の県立高校で、東京大学合格者数を尺度とすると、大宮高校が二番手に躍進しているというのも、同様の断面に相違あるまい(サンデー毎日第89巻第15号(平成22年 3月28日増大号))。大宮高校の場合、新幹線を除いても七方面からの路線が集まる交通の要衝に立地しており、近年では湘南新宿ラインの開業という一大トピックもある。さらにいえば、大宮以北では国鉄分割民営化以後に宅地供給が急速に進んでおり、これに連動してJR東北・高崎線沿線の人口が増えたという社会的状況も効いているはずだ。

………

 顧みれば、交通インフラが地図を変えてきた歴史が積み重なっているのである。鉄道に関してだけ採り上げても、鉄道網の発達、とりわけ私鉄路線の充実、地下鉄ネットワークの拡大及び相互直通運転開始、JRの都市型高速輸送サービス展開、……などなど枚挙に暇がない。歴史の画期が今までに何度も刻まれており、そのぶん地図も変わってきたわけだ。学校の勢力圏もまたその例外ではない。

 いわゆる「良い学校」という存在は、その学校の努力に負うところが大きいとしても、実は社会現象そのものと連動しており、とりわけ交通インフラの影響を受ける傾向にある(受ける時代になった)、という事実が見えてくる。そんなことがわかったというのも、長男坊の中学受験の余録といえようか。









■追補:「2011年入試志望者動向」(全国中学入試センター)より引用

志望者理由から見る学校選択の動向

「教育理念・校風」が実質的に志望理由のトップ!

 男女ともに「交通の便が良いから」が志望理由のトップの座を守っています。もちろん「家から近いから(通学時間が短い)という意味もありますが、最近は「多少通学時間が長くとも、家から通いやすい」ということも重要な理由になっています。鉄道網の新路線運行や延伸など、「交通革命」の影響が大きいといえます。「お子さんにピッタリな学校」を選ぶためには、地域的にも視野をできるだけ広げることが大切です。  






■追加コメント

 「進学レーダー」が公刊されている文献であるのに対し、追補文献は対象者限定資料である。しかしながら、呈示された内容はみごとなまでに普遍的である。筆者は、前述した点だけではない基準をもってどこが「良い学校」であるか分析しているところだが、その「良い学校」にはより広い範囲から学生が通ってくる傾向が見受けられる(ただし統計的に有意とまでは断定できないが)。

 おそらくは、それぞれの受験者とその親たちが「地域的にも視野をできるだけ広げ」た結果、選択肢となる学校の地理的範囲もまた広がっていると思われる。

 特に湘南新宿ライン開業によるインパクトが大きいようだ。まさに「進学レーダー」に例示されているとおり。時刻表での湘南新宿ラインは大宮−新宿−大船間でしかないとはいえ(それでも充分広いが)、列車の直通範囲は、北は宇都宮・前橋、南は逗子・小田原と、実に広域にまたがっている。

 さらに今後は、平成25(2013)年度に 東北縦貫線の開業が予定 されているほか、 相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線も既に事業化 されている。私鉄有料特急なみかそれ以上の高速度を発揮するJRを軸とした「交通革命」の芽は、まだ残されているということだ。

 ただし留意すべきなのは、「交通革命」の恩恵を享受できるのは、専ら郊外の居住者と都心(JR)近傍の学校に限られるであろう、という点である。都心近傍の居住者と郊外の学校にとってメリットがある、とは必ずしもいえない。便利な場所がより便利になる、という事象の相似形になるのではないか。

 「交通革命」はどのように都市の貌を変えていくのか。切実なる当事者の一人として、十年後のすがたを思い描きつつある。





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