このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



検査入院舞台裏

  私、さっきから、電話をかけっぱなし。とんでもないハプニングがあったせいで、検査入院のスケジュールが大幅に狂ってしまって、翌日以降に入院予定の患者のスケジュール調整に追われっぱなしだったの。患者さんに電話して、謝ってってことを繰り返してたらいつの間にかお昼をまわっていた。
「どっちかというと心配しているのは八木橋さんじゃなくてみどりちゃん、貴女なのでーす」
って引継ぎのときに汀主任がおどけて言っていたけれど、全然違います!八木橋さん、あんなことをするなんて問題ありです。許せませんっ!私のお昼休みを返してください。

  ようやく全てのスケジュール調整を終えた私が診察室に戻ると、もう八木橋さんの治療(実際は修理なんですが、義体の検査はあくまでも医療行為ということになっているから治療なんです)は、結構進んでいた。八木橋さん、もう手も足も外されてバラバラにされて胴体だけで診察台に固定されている。サポートコンピューターと脳の接続は切られているから、魂の抜けた眼は虚ろに開いているだけで、もう彼女には何も見えていないだろう。八木橋さんが聞いたらものすごく怒るだろうけれど、義体のこういう姿を見ると壊れた人形みたいだっていつも思ってしまう。八木橋さんは私なんかよりずっと人間らしくて、明るい前向きな人だってことをよく知っているのに、その人のこんな姿も見なきゃいけないなんて、ケアサポーターって本当に因果な商売だと思う。でも、その彼女が、なんであんなことをしちゃったんだろう。

「松原君、戻ってきたね。仮想空間の準備はできたから、これから脳ユニットを外して、メインコンピューターに接続する。モニタリングの準備は?」
「オッケーです」
  吉澤先生は、八木橋さんの頭部を開くと、透明なケースに収納された八木橋さんの脳を慎重に取り外した。そしてメインコンピューターの中にある接続端末にしっかりと固定し、複雑な配線コードを慣れた手つきでつないでいく。
  私はコンピューターのモニタと向かい合って身構える。さあ、いよいよこれから彼女の心とご対面だ。
  八木橋さん、待ってなさいよ。

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