八木橋裕子の住む世界
「八木橋裕子の物語」は永康5年生まれの八木橋さんが高校二年のときに義体化してから義体メーカー、イソジマ電工で活躍するまで、だいたい時代でいうと、永康21年から31年くらいまでの間の出来事をつづったものです。
物語の舞台は近未来の日本。それは間違いありません。でも、永康元年って具体的に西暦でいうと何年になるのか、この物語は、いまから何年後の話になるのか、なんて野暮なことは言いっこなしです。作者自身、そんなこと決めていませんし、また決める必要もないと思っています。
舞台も一応日本ということにはなっていますが、今現在我々の住む日本の歴史の延長線上にある未来の姿とはちょっと考えづらいです。ひょっとして、過去のどこかの時点で枝分かれした、パラレルワールド上の日本の未来の姿なのかな、とも思います。だから、サイボーグやロボットが出てきたかと思えば、街中には府電と呼ばれるチンチン電車が走っていたり、露天市場があったりと、未来的なものと過去的なものが渾然一体となって存在します。
もっと細かい話をすると、この物語は東京府とその近郊、おもに武南電鉄という架空の私鉄路線の沿線で話が進んでいきます。さて、この東京府ですが、名前から分かるように、この世界では東京は日本の首都ではありません。でも、政治機構が日本のどこか別の場所に移っただけで、やっぱりいまだに経済の中心。つまり、現実世界の東京の雰囲気と大差ありません。
しかしながら、武南電鉄なんて私鉄は現実には存在しないし、沿線の地名も、風景もすべて架空のものです。だから、町の醸し出す雰囲気は現在の東京とその近郊なのですが、実際の東京とは地形からして異なっているように思います。だから、東京とはいいながらも、実際には私達の知っている東京とは全く別の町という認識で物語を読んでいただいたほうがいいもしれません。
「八木橋裕子の物語」の舞台は、アバウトに近未来、日本のようでいてなんとなく違うようで、やっぱり日本の、東京府。なんの説明にもなっていないようですが、これが世界設定の全てです。 |