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全身義体とは

  この物語の主人公である八木橋さんの身体は全身義体です。
  作り物の手や足を義肢といいますが、八木橋さんの住む近未来ではサイバネティクス医療の発達により、作り物の、機械の身体、つまり義体をもった人も現れています。分かりやすい言葉でおきかえるとサイボーグですね。
  その中でも、全身義体とは、脳以外を全て機械に置き換えた人のことを指します。分かりやすく言うと、ロボットの身体に人間の脳を組み込んだものと考えればいいと思います。脳以外を全て機械に置き換えてしまうと、外見上年はとらなくなるし、生身の身体(義体に対して常体という言葉を使います)の数倍の能力を持つことができますが、逆に、生身の身体で行っていた当たり前のことができなくなってしまいますし、身体を維持するには高額の費用がかかります。決していいことばかりではなく、むしろ肉体を失った悲しみのほうが大きいかもしれません。


義体化の等級

  八木橋さんの生きている永康の時代は、義肢、義体技術の進歩によって、身体障害者でも見かけは健常者と変わらず、また生活する上でも何一つ不自由しない世の中になっています。それでも、義肢、義体使用者は法律的にはやはり障害者として扱われ、障害者手帳の交付も受けます。
  等級としては義肢化一〜四級、義体化一〜四級に分けられますが、ここでは義体化一〜四級について解説します。

義体化四級
  身体の機械化率は40%未満で、なおかつ生殖能力を維持していますが、毎月の定期検査と三年に一回の入院検査を義務付けられている障害者に適用される等級です。

義体化三級
  身体の機械化率が40%以上70%未満で生殖能力を維持している障害者に適用されます。他の条件は四級と同じです。三級から、世間的にはサイボーグとして扱われ、サイボーグ協会に加入する権利をもちます。

義体化二級
  身体の機械化率が40%以上70%未満で生殖能力を喪失した障害者に適用されます。

義体化一級
  身体の機械化率が70%以上の障害者に適用されます。八木橋さんに適用される等級はこれ。ただ、身体の機械化率が70%以上になると、生体部分を維持することが困難になるため、この等級の障害者は、ほとんどの場合、脳以外を全て機械化しています。この場合、通常の食事をする機能も失われます。脳以外を機械化した義体のことを、他の義体と区別する意味で全身義体と呼ぶことがあります。


義体化の際の本人同意

  病気、怪我などが理由で義体化をする場合には、本人(本人が未成年である場合には保護者)の同意が必要となります。ただし、突発的な事故などで、本人に判断能力が失われ、また緊急に手術を要する場合のみ、医師の独断にて義体化手術を施すことが可能です。


義体化の際のルール

  日本においては、義体化手術は、病気、事故など、やむを得ない場合に本人の生命を救うために行われるためのものであり、健常者が義体化手術を行うことは法により固く禁じられています。但し、例外として、義体化三級、または二級の障害者で、日常生活に著しく支障をきたす場合においては、本人の希望によって全身義体化手術が施されることがあります。
  義体化に際しては、容貌、身長など、なるべく常体の時と同じ姿に復するよう義務付けられていますが体格については常体についても変動するものであるため、義体化の際には本人の希望が優先されます。また、加齢により、義体外観と実年齢の不一致が著しくなった場合には、本人の希望により、義体外観に加齢処置を加えることは有償ながら可能です。
  例外的に、事故などで、緊急に義体化手術を必要とする場合は、暫定的な措置として標準義体(モデル義体)を使う場合があります。ただ、その場合も、本人用の義体が出来上がり次第すみやかに義体の交換手術をする必要があります。
  義体ユーザーは、一度使用した義体を他の義体に交換することは、義体が大破して、使用不可能になるなどの場合を除き、原則認められません。但し男性の場合満18歳、女性の場合は満16歳までに義体化手術を施した場合、常人の身体成長にあわせて一年に一回ずつ義体を交換する義務があります。交換する義体のサイズは義体ユーザーの遺伝子解析により決定されます。
  年少者の義体化手術は身体が成長期に入っていることもあり、身体と機械の接合部分に負担がかかることを防ぐため、なるべく行いませんが、どうしても義体化が必要な場合は全身義体化のみ、認められています。


ケアサポーター

  義体患者の対応は通常の患者とはかなり特別で、病人の看護婦では対応できないことが多いため、一部の義体メーカーは、企業からケアサポーターと呼ばれる義体ユーザー専属の看護婦を派遣しています。ケアサポーターの主な役目として義体ユーザーへのリハビリ補助、義体設定の補助や、義体の使用方法の説明、義体ユーザーへのカウンセリング、義体ユーザーへのセールス活動などがあります。


義体ユーザーの告知義務
  
  義体ユーザーは雇用保険をはじめ、多くの場合、常体とは異なる扱いが適用されるため、入学、または就職決定時に、組織の責任者、または雇用責任者に自身が義体であることを報告しなくてはいけない義務があります。また、責任者は義体ユーザーが希望しなければ、第三者にそのことを漏らしてはいけない守秘義務があります。
  以前は入学や就職試験時にも告知義務がありましたが、事前に先入観を与えないよう、現在はこの条項は撤廃されています。


義体化補助金について

  全身義体化手術の場合には特別に国より義体化補助金が交付されるため、場合によっては義体化三級、二級程度の手術よりも全身義体化のほうが、安価にすむ場合もあります。そのため、中途半端な機械化手術よりは、金銭的な関係で全身義体化を選ぶ患者も少なくありません。
  国として、常体をはるかに越える力を潜在的に有する全身義体者の数を増やしたいという思惑があっての優遇措置です。


全身義体ユーザーの就職先

  全身義体化した場合、定期検査、入院検査など月々のメンテナンスに高額の費用がかかります。このため、好むと好まざるにかかわらず、これらの検査費用が免除になる特殊公務員としての道を選ぶ全身義体化ユーザーがほとんどです。特殊公務員となった場合には、本人の適正に応じて警察、自衛隊の特殊部隊のほか、宇宙開発事業団海洋開発事業団などで宇宙や深海での作業に従事することになります。このため全身義体は、将来的に、上記の特殊公務員の職につくことを前提に、潜在的には常体の数倍の能力を持つように設計されています。
  全身義体ユーザーでも、一般企業に就職している例や、スポーツ選手、タレント活動をしている例もありますが、全体から見ればごく少数です。


主な義体メーカー

  日本のメーカーとしてはギガテックスイソジマ電工の二社が激しくシェア争いをしています。
  ギガテックスは世間的にはロボットメーカーとして有名で、ロボット技術の延長である全身義体を得意としています。このため、自衛隊、警察などの特殊公務員の多くはギガテックス製の義体ユーザーです。ギガテックス製の全身義体は脳も一部機械化することが多くなっています。脳改造は義体への適応が容易で、常体をはるかに凌ぐ感覚も認識可能になるという利点がありますが、感情を失うなどの性格障害を起こすリスクもあります。但し、リスクを補って余りある利点があるとの考えから、国もギガテックス社も、このことを公にはしていません。
   イソジマ電工は義肢メーカーから発達した義体メーカーです。そのため、全身義体よりも、義肢や義体化二級、三級程度の部分義体を得意としています。イソジマ製の義体は、脳は機械かしないでそのまま用いるため、義体への適応には時間がかかり、リハビリも必要となります。そのため、ケアサポーターという専門職を設けて義体ユーザーの社会復帰を助けています。 


 
義体の管轄省庁

  義体は機械製品であり、特に全身義体については、機構上はロボットと何らかわりませんが、あくまでも医療器具という位置づけのため、管轄官庁は厚生労働省となっています。


高度機械化人体協会(サイボーグ協会)

  常体とは大きく異なるサイボーグに対する社会的な差別をなくすことを目的に設立された団体で、就職や入学試験時の告知義務がなくなったというのはサイボーグ協会の大きな成果です。会員には毎月会誌が発行されるほか、全身義体ユーザー同士の親睦を深めるために様々な催しを開催しています。正式な省庁にかわって全身義体ユーザーの渡航許可証の代理受付、発行も行います。
  余談ですが、よくサイボーグ絡みの事件が起こったときは、ここのサイトの掲示板が荒らされます。


義体操縦免許証

 脳以外のすべてを機械化した全身義体者の義体は法的には本人(生体脳)の操縦する車両という位置づけになります。そのため全身義体者は、義体を動かすためには必ず操縦免許証を所得することが必要となり、携帯を義務づけられています。
 通常の車両免許と同じく点数制で、法律に抵触する行為をするたびに減点され、点数がなくなると免許停止、所定の病院にて再教育を受けなくてはなりません。
義体ユーザーの所有する免許証の一例

渡航制限

  全身義体は世界でも一部の地域でしか実用化されていないため、義体ユーザーの身体の安全を守るためにも、多くの国には行けないことになっています。
  また、飛行機で移動する場合も全身義体ユーザーは、事前の許可が必要になります。渡航許可はサイボーグ協会で行います。


パラリンピック
  
  もともと障害者のオリンピックとして開催されていたパラリンピックですが、義体化技術が普及して、障害者の意味が変わりつつある八木橋ワールドでは、個人や国家の名誉をかけて戦うというよりも、世界の義体メーカーの企業宣伝の場としての意味合いが強くなっています。
  パラリンピックと同時に、義体の展示会も開催され、各国の義体メーカーが参加して受注合戦が繰り広げられます。
  常体では出せないような、派手な記録や演技を見ることができるため、オリンピックとは別の意味で注目され、人気が高いイベントですが、義体の技術のない発展途上国は完全に占めだされた感があり、近年批判も高まっています。



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