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クラウンエーテル はみなさんよくご存じだと思いますが、「なわ跳びクラウンエーテル」というのがあります。構造は下に描いたようなもので、 ナフタレン 環の1,5位の間をクラウンエーテル鎖でつないだ分子です。1,5-位( アンチ だったかな、ベンゼンでの オルト、メタ、パラ のように、二置換ナフタレンにもすべて名前があったような)という位置関係がまあ、ミソでして、このナフタレン環が、クラウンエーテル鎖の「なわ」をもって「なわ跳び」をするのです。
「なわ」が十分長ければ、自由にくるくる回ることができます(このあたりが実際のなわ跳びとは違うところで、人間はなわが長すぎるとかえって跳べませんね(^^;)。分子の場合は、たとえば上に描いた22員環をもつ1,5-naohtho-22-crown-6では、スムーズに「なわ跳び」ができます。どうしてそれがわかるかといいますと、左の構造では、Haの水素二個がナフタレン環の内側( エンド 側)、Hbが外側( エキソ 側)に位置しているのに対し、右の コンホーマー では、それが逆転しています(Haが外でHbが内)。これは、「なわ」が半回転するときに、これらの水素の位置も反転するためです。 NMR でみると、エンドの水素とエキソの水素は当然環境が異なりますから、これらは異なるシグナルをあたえるはずですが、上の分子では、この ベンジル位 の水素のシグナルは一本しかあらわれません。すなわち、かなり速いスピードで「なわ跳び」しているために、HaとHbの区別が見かけ上できなくなっているわけです。
それでは、「なわ」を少し短くしてみましょう(^^)。こんどは、1,5-naphtho- 19-crown-5です。
構造式で描くとあまり違わないように見えますが、こうするともはや「なわ跳び」ができなくなってしまいます。鎖が短くなったので、ナフタレン環とぶつかって回れなくなったのですね。たしかに、NMRでみるとHaとHbが別々のシグナルとして現れます。
分子の運動状態は温度によって変化しますから、これまでの話は室温でのことですが、19員環の場合、160℃でもNMRシグナルがやや幅広くなるだけで、ほとんど変化しないことから、「なわ跳び」に必要なエネルギーは22kcal/mol以上であると計算されています。逆に、最初にあげた22員環の分子も、温度を下げていくと、「なわ跳び」が緩慢になっていき、NMRシグナルが、幅広くなっていって、-134℃より低温ではHaとHbが二本に分離します。この温度から、こちらの「なわ跳びエネルギー」は、6.3kcal/molとわかります。
せっかくクラウンエーテルなので、
カチオン
を
キレート
させてやったら「なわ跳び」速度に影響がでるのでは、と考えたくなるところですが、残念ながらそれはまだ成功していないようです。
今回から引用文献もつけますね。
H. S. Brown et al.,J. Org. Chem.,1980,45, 1682-1686.
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