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おもしろ化合物 第12話:「がんじがらめの二重結合」



NIFTY SERVE FCHEMT 13番【有機】会議室 #1000(97/12/19)より

 第12話になります。
 前々回にねじれ オレフィン の話がでてきましたが、今回はいうなれば「からまりオレフィン」(^^;です。

 二環性化合物に 四置換オレフィン を組み込む方法は何通りか考えられますが、 縮環 部に エンド型 にオレフィンがはいった形、たとえば 1,2,3,4,5,6,7,8-octahydronaphthalene(bicyclo[4.4.0]dec-1(6)-ene)みたいなのがすぐ思い浮かびますね。この場合両側の環は二重結合に対して シス の関係に当然あります。ではこれを トランス にしてやったらどうなるか、というのが今回の化合物なのです。頭の中がこんがらがりますから図にしてみましょう(^^;。
 ただし、さすがに 6-6員環 では不自由なので少し環を大きくします。

 10-12員環に拡大したのが図の化合物(bicyclo[10.8.0]eicos-1(12)-ene)で、Aのほうが普通のシス体、Bが問題のトランス体になっているのがおわかりかと思います。こんな化合物、考えつくだけでも大したものですが、しかしどうやったら 立体選択的 につくれるか、と考えると頭がいたくなりますね(^^;。
 実際の合成は、Aのほうをつくっておいてから 光異性化 でBを得ています(なあんだ(笑))。ところが光反応ではうまいこと A:B = 2.4:1 の混合物になるのですが、それを分離するのが難しいのです。 クロマトグラフィー などでは分離できず、結局、 ジクロロカルベン と反応させるとシス体だけが 付加 物を生成することを利用して分離に成功しました。なぜトランス体は反応しないかというと、実際はトランス体はCのような構造をしているのですね。つまり二重結合の上下を アルキル鎖 がマスクしている形のために、反応性が非常に低下しているわけです。実際、トランス体は 接触還元 にも抵抗することが確かめられています。
 この形のトランスからまりオレフィンは、[m,n]betweenanene と命名されています(m,nは二重結合を除いた炭素数)。まさにCの通り、うまいこと名づけたものです。

 さて、この betweenanene ですが、分子全体がねじれているように見えます。このたすきをひとつはずした形に相当するトランス シクロオレフィン では、たとえばE-cyclooctene(安定に存在する最小のトランス環状オレフィン)は 光学異性体 をもつことが知られています。

 同じように、「からまりオレフィン」も 光学分割 できそうですね。原報には合成したのはちゃんと (±)-体 と書かれています(^^)。

 ref.: M.Nakazaki, K.Yamamoto and J.Yanagi,Chem.Commun.,1977, 346.

junk (JAH00636) 川端 潤     

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