このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



デカンの75種の異性体


  アルカン には炭素数が4の ブタン 以上になると 異性体 が存在する。ブタンの異性体はブタンと2-メチルプロパン( イソブタン )の2種だけだが、炭素数が増加するにつれ異性体数も増加し、 ペンタン (3種)、 ヘキサン (5種)、 ヘプタン (9種)、 オクタン (18種)、 ノナン (35種)、 デカン (75種)となる。さらにC20の イコサン では36万種、C30の トリアコンタン では41億種、C40の テトラコンタン では62兆種を超えるというからすごい。もちろんこんなのはいちいち数え上げたわけではなく、コンピュータによる計算でもとめたものである。
 @niftyの会議室でデカンの異性体75種の構造は、という話題が出てきたので、75種くらい手で書いてみても大したことなかろう、とやってみた。異性体をすべて書けみたいな問題はよく試験に出てくるが(まさかデカンは出ないだろうが(笑))、順序だてて考えていけばいいので、落ち着いてやればそう難しくはない。ところが、73種までは簡単だったが残りの2種がなかなかわからなかった。せっかく苦労して書いたのでここに紹介しておこう。

 さて、まず炭素10個を 直鎖 にならべたいわゆる「デカン」。これは問題ない。


 次に炭素鎖をひとつ減らして9個とし、 メチル基 の枝をつけたもの、すなわちメチルノナンの異性体がある。ノナンの9個の炭素のうち両端の1位や9位の炭素に枝をつけると上のデカンになってしまうので、メチル基をつける位置は2位から8位までで、分子は左右対称だから異性体は2(8)、3(7)、4(6)、5の4通りとなる。ノナンの 誘導体 はこれしかない。


 次に炭素鎖をさらに短くして8個のオクタン。これにメチル基の枝を2個つけたもの、すなわちジメチルオクタンの異性体。やはり両端の炭素にはつけられないから、メチル基をつける位置は2位から7位まで。こんどはメチル基が2個あるので、2,2、2,3、2,4、2,5、2,6、2,7、というふうに組み合わせを考えねばならない。2位に1個メチル基がつくパタンは以上の6種、3位からメチル基がはいるものは、3,3、3,4、3,5、3,6、ときて次の3,7はひっくり返すと2,6と同じものなので4種。同様に考えて4位からはいるものは、4,4、4,5の2種。というわけで計12種。


 さて、オクタン+C2のパタンはもうひとつエチルオクタンがある。 エチル基 は炭素2個なので、両端はもちろん1個内側にはいった2位炭素にもつけることはできない(エチル基の枝の方が最長炭素鎖になってメチルノナンになってしまう)。結局、対称性を考慮すると、エチルオクタンは3、4の2種しかない。


 次にC7のヘプタンに炭素3個の枝をつけたもの。まずトリメチルヘプタンから。ジメチルオクタンのように組み合わせで考えていけばよい。2位にメチル基を1個でももつものは、2,2,3、2,2,4、2,2,5、2,2,6、2,3,3、2,3,4、2,3,5、2,3,6、2,4,4、2,4,5、2,4,6、2,5,5までの12種類。調子に乗って2,5,6とやると墓穴を掘る。これはひっくり返すと2,3,6と同じものである。3位からスタートするものは、3,3,4、3,3,5、3,4,4、3,4,5の4種類。同様に3,3,6(=2,5,5)などとはできないのに注意。これで計16種類。


 炭素3個の枝をエチル基とメチル基にわけることもできる。すなわちエチルメチルヘプタンだ。こういう場合は大きいほうのエチル基の位置をまず決めると考えやすい。エチル基はヘプタンの3位と4位にしかつけられないので、まず3−エチルヘプタンにメチル基をつけるパタンを考える。3-エチルヘプタンは左右対称ではないので、メチル基の位置は2〜6位のすべてが可能となり、5種。続く4-エチルヘプタンは対称だからメチル基は2〜4位の3個所のみ。ということでエチルメチルヘプタンは計8種。


 さて、ヘプタンに炭素3個のパタンはもうひとつある。プロピルヘプタンがそれだ。炭素3個の プロピル基 は端の方の炭素にはつけられないので、最長炭素鎖がC7を超えないようにするには4位しか置換位置はない。ただし、プロピル基には イソプロピル基 という異性があるのでこれを忘れないようにしないといけない。あれ、イソプロピル基はエチル基にメチル置換したものだから、3位につけても最長炭素鎖がC7を超えないのでは、と考えると落とし穴にはまる。3-イソプロピルヘプタンはよくみるとすでに数えた3-エチル-2-メチルヘプタンと同じものである。あぶないあぶない。


 ここまでで計45種。あと30種もある。次に炭素6個のヘキサンの誘導体。まずテトラメチルヘキサンから。同じように左右のひっくり返しを念頭において考えると、2,2,3,3、2,2,3,4、2,2,3,5、2,2,4,4、2,2,4,5、2,2,5,5、2,3,3,4、2,3,3,5、2,3,4,4、2,3,4,5、3,3,4,4の11種となる。


 次いでエチルジメチルヘキサン。これもやはりエチルヘキサンをまず決めてメチル基を2個つけてゆく要領だ。エチルヘキサンは3-エチル体しかないが左右非対称なので2,2、2,3、2,4、2,5、3,4、3,5、4,4、4,5、5,5の9種がある。


 ジエチルヘキサンというのも可能で、エチル基の置換可能なのは3,4位しかないから、3,3と3,4の2種がある。


 ヘキサンにプロピル基をつけることはできない(どうやってもC6を超える)ので、次はペンタンの誘導体になる。まずペンタメチルペンタン。たくさんありそうだが、メチル化できる位置は2〜4位しかなく、その6個の水素の5個をメチル置換することになるから、結局水素が2〜4位にそれぞれ残ったものしかなく、おまけに2位と4位は対称だから2種しかない。


 次が、エチルトリメチルペンタン。エチル基の位置は3位しかありえずしかも左右対称なので、メチル基の位置は2,2,3、2,2,4、2,3,4の3種しかない。


 さて大詰めだ。ジエチルメチルペンタンというのはありうるだろうか。ペンタンの3位にエチル基を2個つけることは可能で。そこへさらにメチル基をいれる余地は1種類。


 ここまでで異性体数を数えてみると73種。
 あと二つはどこへ置き忘れたのだろう?(笑)    答えは→ こちら

 これでめでたく75種類すべて出そろった。
 ところで、異性体にはもちろん 立体異性 というのもある。もう疲れたのでそれを書き出すのはやめるが(^^;、 不斉炭素 を探し出し、n個につき2n個の異性体が存在することと、対称分子では メソ体 の可能性を忘れずに数えればいい。ぼくの数えた限りでは ジアステレオマー が88種、 鏡像異性 も考慮すると137135(09.9.2修正:ご指摘いただいた 分子模型美術館 さんに感謝します)となったけど、あってるかな? もし数えてみようという奇特な方がいたら、3,4,5-トリメチルヘプタンにはちょっと注意( 前話 のキシリトールと同じね)。


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