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ただ単に「合併すればいい」では、なにも生まれません
安房合併「論」への疑問
1、 突然出てきた「合併論」。いまだに館山市とどことの合併か不明のまま。
昨年11月に国が主催する「合併問題シンポジウム」が館山で行なわれ、安房市町村の合併論が突然として浮上してきました。この安房合併論は、安房の住民や各市町村の中から自主的な検討がなされ取り組まれてきたというものではありません。小泉内閣は、構造改革の名のもとに市町村の数を3分の1に減らす方針でしたが、市町村の自主的な取り組みがすすまないため、「上から」の取り組みを強化したのです。この「上から」の意向にそって「まず、合併ありき」ではじまったのです。そのため、どことどこの合併なのか、各市町村長の合併についての意向もわからず、具体論のないのがこの合併論議の特徴です。
館山市はどこの町村と合併するのか不明のまま、とにかく合併をということで、市内14地区で住民懇談会まではじめられました。相手がきまらないのに、新婚家庭の生活設計を考えるようなものです。「ただ単に、合併すればいいでは、なにもうまれません」とは館山市広報合併特集のなかの言葉ですが、辻田市長は、なんのためにどこと合併しようとしているのか、肝心なことがわかりません。
2、期限を限った目先の特例で、基本の判断を誤ってはならない。
合併基礎調査の「中間報告」(安房郡市広域市町村圏組合)では、安房11市町村が合併すれば、その効果として、11市町村で年間616億円の歳出は530億円程に86億円削減できると試算しています。86億円とは、三芳村、丸山町、富浦町の歳出合計に匹敵しますので、この二町一村が消滅することに相当する大規模な削減です。
しかし、削減された86億円が、減税など住民負担の軽減にあてられることにはなりません。市町村合併をすすめる国のねらいは、地方財政の歳出を削減し、地方への国の財政負担を軽減することにあります。平成13年度に国から安房の11市町村に配分された普通地方交付税総額は、188億円でした。合併で、財政需要が減少すれば、配分される普通交付税がへることになります。歳出規模の減少額が86億円ということで、減らされる交付税の額は試算されていませんが、それにみあう規模の減額になると考えられます。(地方交付税の説明は、「解説」を参照ください)
安房の市町村は、この地方交付税に依存する割合が大変高く、合併による地方交付税の大幅な減額は、安房地域が全体として存立の基盤を失う深刻な状況におちいるのではないのかと懸念されます。
国は、合併をすすめるために、合併後10年間は、旧市町村に交付されたとみなした地方交付税の合計額を配分する、その後、5年間で徐々に本来の交付額に減らしていくとしています。そんな特例を用意しなければならないということは、その減額は各地域の存立基盤をなくすほど深刻な影響を及ぼす規模だということではないでしょうか。
合併に伴い必要となる新たな公共施設の整備や街づくりなどの資金調達に、「合併特例債」という特別の借金を認めるという合併誘導の「アメ」が示されています。しかし、目先の特例財政措置に目がくらんで安房地域全体がどうすればよくなるのかの基本を忘れてはなりません。
(解説)地方交付税とは、地方財源保障制度の中心で、どの県や市町村も「合理的かつ妥当な水準で自主的に」その事務を遂行できるよう、その経費に収入が不足する場合に、その差額を国が交付する税を言います。財源の豊かな自治体には交付されず、乏しい自治体ほど余計に交付されることになります。国税の法人税、所得税、酒税、消費税、たばこ税の一定割合を財源としています。普通交付税と災害などの特別の財政需用に対応する特別交付税があります。補助金と違って、その使途に制約はありません。
3、 「対立の大混乱」と「理念の共有で自立」。昭和の大合併の教訓に学ぶ
昭和28年〜30年に「昭和の大合併」といわれる全国的な町村合併がありました。新制中学校を経営できる規模の自治体にという国の方針で、小規模町村の合併がすすめられました。
○深刻な対立をうみ、千倉町と丸山町に分村した千歳村
旧千歳村では、千倉町合併派と丸山町合併派の対立が深刻となり議会も住民も大混乱しました。千倉派が村議会で千倉合併を強行採決し、これに対して議決無効を主張する丸山派や住民の反対運動で合併は立ち往生してしまいます。紆余曲折の結果、各集落別にそれぞれの地域が分離して丸山町に合併するかどうかを住民投票で決めることになりました。
この対立の基礎には、漁港整備で漁業中心の町か、農業振興で農業中心の町かの理念や利害の違いが根本にあったといわれます。この対立で、先祖代々からの親戚づきあいも途絶えたといわれる深刻な対立を地域に残しました。旧千歳村は、千倉町になったところと丸山町になったところとが、人口比で55:45と完全に二つに分かれてしまったのです。
○ 館山市と合併せず農業立村の理念で自立した三芳村
三芳村のもととなった国府村、滝田村、稲都村は、共同で新制中学校を経営していました。館山市は、昭和26年に、この三村に合併の申入れをしました。しかし、この三村は館山市への合併よりも、まず三村が合併して三芳村をつくる自立の道をえらびました。三芳村誕生の基礎にあるのは、農業を基礎とした村づくりの理念の共有でした。以来、農業立村をもとに独自の村づくりを進めてきました。
安房郡市11市町村には、それぞれの歴史があり、理念があります。国の意向に迎合し、平成17年までにという期限をかぎるやり方は、それぞれの市町村の自主性を損ない、旧千歳村の大混乱を繰り返すことになりかねません。
現在の「合併ありき」を前提とした安房の合併論議のすすめ方では、もっとも大切な「新しい市のまちづくり」の理念を共有することができるのかどうか、大変疑問です。
4、 財政状況の違う安房の各市町村
安房の各市町村の財政状況は様々です。たとえば、住民ひとりあたりの借金残高は鋸南町63万6千円 に対して千倉町は29万円です。住民ひとりあたりの借金の多い町と少ない町では2倍以上も違います。「なんで他の町の借金まで背負わなければならないんだ」と思うのは当然です。実際、長生郡市の合併論議では、茂原市の巨額の借金の状況が郡内町村の住民にも広がるなど、そのデメリットの大きさから、町村長からも、急速な合併に慎重論が出る事態になっています。
三芳村は住民の税負担が少なく財政力の弱い村ですが、生活に密着した市町村道の改良率では安房郡市一です。三芳からきて道が狭く悪くなったらそこから館山だといわれるほどです。学童保育を直営で実施しているのは安房では三芳村だけです。公共下水道などの都市基盤整備や開発型の大型公共事業がなく、財政力は弱くても住民の生活環境整備や少子化対策に重点的に予算を使うことができたのです。最近の統計では、安房郡市で人口が増えているのは三芳村だけです。
(資料)合併基礎調査「中間報告」より
○住民ひとりあたり地方税負担、館山市12万6千円、三芳村7万7千5百円。
○市町村道の道路改良率 館山市55.7 三芳村86.0 安房郡市11市町村平均33.9
○館山市の開発型の大型公共事業の例(決算書や議会答弁より)
マンガ共和国計画に13億円、館山駅舎に16億円、西口区画整理に30億円を投じてきた。今後、港湾整備開発に数十億規模になることが見込まれる。
合併すれば予算規模が大きくなるので、これまで以上に開発型の大規模公共事業は、やりやすくなります。合併賛成論には、「合併誘導の優遇措置の合併特例債で、大規模公共事業をさらにいっそうやりやすくなるから合併を」というものがあります。しかし、これは、不必要、不相応、不急の公共事業の歯止めをなくすことになり、その結果、借金残高はますますふくらみ、その返済にさらに汲々とすることになりかねません。
10年後には地方交付税が確実に減額となるので、公共料金の値上げや増税、住民サービスの切り捨てなど、住民の福祉は、むしろ後退する危険が充分考えられるのです。住民にとっては、合併特例債は、手放しで喜べる甘い「アメ」ではありません。苦い「アメ」になることもありえるのです。
そもそも、合併は、合併したどこの地域も良くなることでなければなりません。一部の地域がよくなるためだけで、他はその犠牲になる「合併」にしてはなりません。館山市は、安房の中核をになう都市です。安房が全体として衰退すれば、やがて館山市の衰退もまぬがれません。ただ単に「合併すればいい」では、なにも生まれないだけでなく、大きな不幸を将来に残すことになるのではないでしょうか。
○ 合併問題について市議会日本共産党議員団宛て、ご質問・ご意見をお寄せください。
○ この「市政報告」の発行費用について
館山市議会日本共産党議員団には、市費から政務調査費として年額20万円(ひとり10万円×二人)が交付されました。これまでは、市民へ配布する「市政報告」の発行費用などに使うことは認められませんでしたが、本年度から政務調査費としてできることになりました。この政務調査費を活用してこの「市政報告」をつくり、新聞折込でお届けしました。行き届かないところもあると思います。ご連絡いただければお届けします。
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