このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

一方的な宣伝だけの総務省のパンフレット
成り立たないその合併財政「論」

 


合併問題では合併に誘導する目的で不正確であいまいな情報が意図的に流され、合併に不都合なことは知らせないということがまかりとおっています。総務省や県の発行するパンフレットも例外ではないので用心しなければなりません。その実例を総務省のパンフレット「みんなで考えたいな 未来のふるさと。市町村合併」にみてみます。

 同パンフレットでは合併すれば経費が節減できるので、それで「スポーツ施設とか文化施設とか、みんなで一緒に使えるようになるんだわ」と説明。合併で86億円の経費が浮いた例をあげて、「合併で浮いた経費分はどんなことに利用できるか、みんなで考えてみよう」と解説しています。しかし、実際は、合併で経費が浮いても、経費が減る分に見合う交付税分が減額になるので、実際はそれほどの効果があるわけではありません。

パンフレットでは、「福祉保健センターが欲しいわ」「特別養護老人ホームがあれば安心」「消防署を新しくしなくちゃ」とか、これを財源にして住民の要望が実現できると描いていますが、それに見合う交付税が減額になることには全くふれません。これを信用して合併し、あれもこれもやるとしたら、たちどころに財政破綻になりかねません。館山市が昭和29年に合併した途端に財政破綻し、財政再建で大増税したことが思い出されます。


安房の合併で交付税はいくら減るのか?

 安房郡市の11市町村の合併でも86億円の経費が削減されると見込まれています。しかし、合併して安房の市町村に配分される交付税が例えば、70億円減るのならば、実際に使えるのは差し引きの16億円だけとなります。交付税がいくら減額になるのかについてふれないのは、合併誘導のための意図的なもので、総務省と同じです。

 館山市議会でも、私(神田もりたか)が、合併による安房全体の交付税の減額規模がいくらになるのか、辻田市長の見解を質しましたが、答えはありませんでした。合併による経費の削減効果(86億円)はいっても、合併による交付税の減額の規模は計算していないのです。交付税の減額規模は、経費削減効果とセットで議論されるべきことで、その計算もしていないでは、そもそも議論の入口に立つことさえできないことです。再三の追及で、ようやく「今年の夏頃までには計算結果を示せる」との総務部長答弁まででした。

安房11市町村合併の経費削減効果86億円と言うのも机上計算ですから、実際は、広大な地域となるので、それほどの削減はできないことも十分考えられます。交付税の減額規模のほうが影響額が大きくなることも考えられうるのです。

合併に都合のいいことは盛んに宣伝するが、基本的な問題でも不都合なことは調べもしないということでは、こんな合併論は「信用できない」ということになります。



交付税の算定替とは?合併の傷の手当


 合併年度とその後の10年間の普通交付税は、合併しても新市としての計算(一本算定)ではなく、毎年の4月1日現在で、それまでの市町村があったものとみなしてそれぞれについてその年度の交付税額を計算し、その合計額とするという方法で計算することになります。これを「合併算定替」といいます。
合併後の10年間は、合併特例法で交付税は減らないと言う説明がされていますが、それは間違いです。旧市町村があったものとして計算すると言うことですから、旧市町村の交付税額が減ることになれば当然減ることになるのです。

合併したといっても、旧市町村の連合的な性格が強く残り、これまでの市町村毎に使われていた経費が直ちに減るわけではありません。この「合併算定替」は、そうした事実に着目すれば、経過的な措置として当然であり、「恩典」ではありません。合併によって生じるであろう大傷に対する応急手当であり、むしろ、10年や15年間では不十分である場合が多くあるのが経験則です。


合併しないとどんなムチがあるのか?

昭和の大合併の時の新聞記事を以下に紹介します。

・・・ある県の地方事務所長は、自治庁の鈴木次長を囲んでの座談会で「町村合併を推進するためには、町村合併と言う国策にそわなければ、将来非常な不利益をこうむるのだということをにおわせる必要があるが、そうしてもよいかどうか」と切実な質問を発していた。(朝日新聞 昭和29年1月27日付「町村合併の表情」の記事より)・・・。

「アメ」を示しただけでは住民の自発的な意思による合併がすすまず、あせった地方事務所長が、町村を合併に追い込むために、ムチをにおわせて構わないか、それはどこまでなら許されるのか、というわけです。実際には、ありえない架空のムチをあたかも本当にあるかのように見せて、合併へ追い込もうというのがそのねらいでした。

さて、現在の平成の合併論議では、合併しないとどんなムチがあるというのでしょうか?そして、それは、においだけでないのか、どうか、よく見てみる必要があります。


そもそも「地方交付税」とはなにか?

 合併しないと地方交付税が減らされて町村が財政的になりたたなくなると言われますが、本当でしょうか?また、地方交付税とは、そもそもどういうものでしょうか?国が気にいらないからと政策的に減らしたりできるのでしょうか。

  日本国憲法は、「地方自治の本旨」をうたい、地方自治を柱の一つにしています。自分たちの市町村のことは、自分達が選んだ代表(市町村長や議員)を通じて自分たちで決めていくという地方自治の原則は、国民の大事な権利でもあります。
しかし、これを現実に実行するには、一定の経費がかかります。税収などに恵まれない市町村では、これを実施するには財源が不足することになります。地方交付税はこの財源の不足する市町村にその不足分を交付して、日本全国どこの自治体でも地方自治を保障しようとするものです。すなわち地方団体にとっては、地方交付税とは、憲法で認められた「地方自治の本旨」を保障する権利金ということです。

 地方交付税は地方への国からの補助金でも援助金でもありません。地方自治の保障を怠る政府は、憲法に反する行為として、厳しくその責任が問われなければなりません。


合併の決定的な最大のデメリットは自治権の事実上の喪失

 合併の決定的な最大のデメリットは、これまでの市町村それぞれにあった自治権がなくなるということです。これまでの市町村は、合併した大きな市の一部でしかなく、旧市町村の地域のことを決めるのは、もはやその地域の人ではなくなるということです。合併とはこれまでの市町村がその地域の自治権を放棄することで、自分たちの地域のことを自分たちで決められなくなるということになります。

昭和五六年に西岬地区で学校統廃合に反対し、地域住民の過半数を超える人が住民直接請求をしました。しかし館山市議会では西岬住民の願いは通じませんでした。西岬村であればありえないことでしたが、西岬は館山市の一部となった以上、西岬地域のことを地域住民の意思で決めることはできなかったのです。合併によって、それまでの市町村の自治権をがなくなるとはそういうことです。

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