このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

安房地域で発行されている日刊地方紙「 房日新聞 」への投稿です。4月16日に掲載されました。

市町村合併で、一方的な議論のあり方は危険

館山市議会議員 神田守隆


1、合併重点支援地域でも、合併しない選択は可能

安房郡市11市町村が合併重点支援地域に指定されました。これは、合併を当然の前提とするものではありません。合併しないという選択も含めて、合併するならどの市町村との組み合わせですすむのかなど、調査・研究し、協議しようということです。特に広大な安房を一つの市にすることを前提としたものではないことは、繰り返し確認されていることであり、それは選択肢の一つというだけにすぎません。


合併重点支援地域になったことで、あたかも、合併がすでに決まったかのような意見がありますが、それは違います。これから、調査や研究が重要な課題になるということです。合併の是非やさらに合併の枠組みについても調査、研究し、それらをもとに話し合いをしようとするもので、わが市(町・村)は、合併をしないという選択も当然ありえるのです。

2、昭和29年の館山市の六村合併、急速合併で大規模な財政破綻をまねく

館山市は昭和29年5月3日に周辺六村を編入合併して今日の館山市域になりました。
昭和28年9月に県の指導で館山市長と周辺八町村の町村長らで「合併研究会」をつくり、12月には館山市と六村の「合併協議会」に改組、翌年3月の市議会や各村議会で、5月3日付けで館山市に六村を編入合併するとの議決をしました。この館山市と六村の合併は、わずか半年余の短期間で実現したので、「急速合併」と言われました。


館山市や六村の各議会の議事録などの記録では、農村同士でとか、農漁村で合併すべしとかの反対論が一部であったことがわかりますが、急速合併のもとで、それらの反対論は充分に論議されることなく合併の議決が一気にすすめられていきました。

なぜ急いで合併したのか?当時の合併促進法では、合併すれば「予算の範囲内で補助金の優先交付や起債の許可を与える」とされ、国の優先的な財政援助を期待していたのだと思われます。現在も、「合併特例債」の優遇策が強調されますが、当時とよく似ています。


しかし、現実には、国の制度についての充分な理解や六村との協議も不十分なまま、県の指導で合併し、昭和29年度に館山市は「実質3100万円の赤字」となり、財政破綻します。合併で期待した「アメ」は、甘いどころか大変にがいものだったのです。


当時の館山市一般会計の予算規模が2億2千万円ほどでしたから、3100万円の赤字は、現在の予算規模ならどのくらいに相当するかですが、平成14年度が171億円ですので、およそ24億円になります。これは、館山市14年度予算の市民税21億円をうわまわりますから、市民税を現行の二倍に増税してもなお穴埋めできないことになります。昭和29年度の3100万円の赤字がいかに巨額の赤字であったのかがわかります。

3、合併で大幅に減った地方交付税、財政再建のため都市計画税創設の大増税

大赤字の原因はいくつかありますが、最大の原因は、国から配分される地方交付税が大幅に減少したことでした。地方交付税は、合併前の昭和28年度の館山市と六村の合計額よりも1165万円、率で25パーセントも減少しました。合併財政計画では、合併後5年間は、合併前の市・村の交付税の合計額を保証する「算定替」の制度で、地方交付税が減額にはならないと財政計画を立てていました。

しかし、いわゆる「算定替」は、地方交付税の算出方法であって、合併前の市町村の交付税額合計を保証するものではなかったのです。これは現行の合併特例法の10年間の「算定替」でも特に留意すべき点です。合併してもそれまでの交付税額が保証されるということではないのです。

昭和29年11月には合併を強行した吉田市長が辞任し、その後、田村新市長のもとで市財政の大規模な破綻状況があきらかになっていきます。財政再建が新市長の最大の課題になり、このため、「学校の窓ガラスが破れていても直さない」「道路は補修しない」などの極端な経費削減と、都市計画税の創設や市民税、固定資産税の超過課税などの大増税、各種料金の最高額への値上げなどを内容とする財政再建計画がつくられ、昭和31年度から実施されました。

安房郡市で館山市だけが課税し、市民の批判の的となっている都市計画税は、財政再建策としてこのとき創設されたのです。


国や県の合併方針にそって館山市と周辺六村は合併したのですが、財政破綻を招いてしまいました。その失政のツケは、市民が大増税で負担しなければならなかったのです。この拙速な合併の失政の教訓を現在の合併論議の中でしっかりと生かすことが大事です。

4、合併促進の一方的な宣伝でなく、合併の是非を含めて市民に判断の材料を

 私は、安房郡市の現在の合併論にはこれといった目的がハッキリせず、「理念なき合併」と批判的な見解を持っていますが、合併賛成論とも大いに論議を深めたいと考えています。賛成論、反対論の議論の過程が、合併の是非等を含めて住民に判断する材料を提供することになると考えているからです。

合併重点支援地域に安房全域が指定されたために、今後は、市町村合併をめぐるシンポジウムや講演会、勉強会など合併問題「啓発」の様々の催しが取り組まれることになると思います。それらで合併「促進」の立場からの一方的な宣伝だけがされるならば、住民の正しい選択がゆがめられると懸念されます。その結果は、合併で財政破綻し、財政再建のため大増税した館山市の二の舞となりかねません。

 安房広域圏組合や各市町村などが行なう合併をテーマにした討論会や講演会には、講師に賛成、反対双方の識者を招いたり、地域説明会などでは、説明資料に賛成の立場の解説だけでなく、反対の立場の意見を記載し、賛否両論を公平に扱うなど、バランスをとった配慮をする必要があります。それらをもとに、住民のなかで議論を盛んにし、最終的には、この市町村合併の是非は、各市町村の住民全体の判断によるべきだと考えます。

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