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フォークランド海戦に見る機関部の実相

2-2. 補助部隊

フォ海戦では、英国の装甲巡洋艦と軽巡洋艦が協同してドイツの軽巡洋艦と対戦しましたので、これらを補助部隊として扱いたいと思います。
なお、当時のドイツでは、正式には小型巡洋艦と呼称していましたが、ここでは通例に従い、軽巡洋艦と記述します。

2-2-1. 英国装甲巡洋艦


ケント Kent
(マンマス級 または カウンティ級)
 9,800T, 140rpm, 22,000ihp, 23.0kts
 公試結果 不詳、ただし出力、速力とも他の2隻(エセックス、マンマス)とともに計画値に達せずとの報告有り
 4気筒直立型3段膨張レシプロ機関、2基、2軸
 推進器外径: 16ft3in (4.95m)
 ベルヴィール式水管缶31基(石炭専焼)、主缶使用圧力: 250psi (17.6kg/cm2)
合計10隻が建造されたマンマス級の1艦で、缶室は3室有り、艦首寄りから主缶を8基、11基、12基収めています。
なお、本級に先行のドレーク級の缶室は4室で、艦首寄りから主缶を8基、11基、12基、12基収めていますので、本級は前級から1缶室を減じ、小型化したものと判ります。ちなみに、外観が似ていると言われる日本海軍の出雲級はベルヴィール式水管缶24基を3缶室に8基ずつ等配しており、出力も14,500ihpしか有りませんので、機関部としては全く別系列と言えるでしょう。
煙突は3本で、煙路導設は缶室ごとに分けています。


HMS Kent.

なお、本級は就役早々推進器を交換しており、交換前後の公試成績は以下のとおりです(艦名不詳)。

推進器寸法回転数
(rpm)
出力
(ihp)
速力
(kts)
連続30hr
外径
(m)
ピッチ
(m)
投影面積
(m2)
出力
(ihp)
速力
(kts)
原型4.956.105.0214722,50022.716,50020.5
改良型同上5.977.5214022,70023.6同上21.64


コーンウォール Cornwall
(同上)
 9,800T, 140rpm, 22,000ihp, 23.0kts
 公試結果 不詳、ただし他の4隻(ベッドフォード、ベリック、カンバーランド、ドニゴール)との平均値で速力23.6ktsとの報告有り
 4気筒直立型3段膨張レシプロ機関、2基、2軸
 推進器外径: 16ft3in (4.95m)
 バブコック・アンド・ウィルコックス式水管缶31基(石炭専焼)、主缶使用圧力: 250psi (17.6kg/cm2)
マンマス級の1艦で、主缶型式以外、基本的にケントと同一です。



カーナーヴォン Carnarvon
(デヴォンシャー級)
 10,850T, ? rpm, 21,000ihp, 22.25kts
 公試結果 不詳
 4気筒直立型3段膨張レシプロ機関、2基、2軸
 推進器外径: 不明
 円缶6基(石炭専焼)、ニクローズ式水管缶17基(同)、主缶使用圧力: 210psi (14.8kg/cm2)
合計6隻が建造されたデヴォンシャー級の1艦で、主缶はほぼ同時期に建造の戦艦キング・エドワード7世級と同様、円缶と水管缶の混載方式を採用していますが、これは前級まで用いられていたベルヴィール式水管缶がフランス起源のため、これに代わる水管缶を模索していた英国海軍汽缶調査委員会の決定によるものです。
ちなみに本級の他の5隻の主缶は、
 アントリム: 円缶6基(石炭専焼)、ヤーロー式水管缶17基(同)
 アーガイル: 円缶6基(石炭専焼)、バブコック・アンド・ウィルコックス式水管缶16基(同)
 デヴォンシャー: 円缶6基(石炭専焼)、ニクローズ式水管缶15基(同)、
 ハンプシャー: 円缶6基(石炭専焼)、ヤーロー式水管缶17基(同)
 ロックスバラ: 円缶6基(石炭専焼)、デュール式水管缶17基(同)
となっていました。
1900年頃の報告によると、主缶1T当りの出力は、おおむね円缶(自然通風)14ihp、同(強制通風)17ihp、ベルヴィール式水管缶(自然通風)22ihp、同(強制通風)27ihpと査定されていましたので、全数の1/4強とは言え速力が重要な装甲巡洋艦に搭載することは、当を得ない決定であったと言えるでしょう。
なお、円缶と水管缶の混載は、次のデューク・オブ・エディンバラ級とウォーリア級にも行われ、水管缶(バブコック・アンド・ウィルコックス式またはヤーロー式)のみとなったのはマイノトア級以降でした。


HMS Carnarvon. (Auther's Collection)


グラスゴー Glasgow
(ブリストル級 または タウン級)
 4,800T, ? rpm, 22,000shp, 25.0kts
 公試結果 不詳
 パーソンズ式2軸並列タービン、2基、4軸
 推進器外径: 不明
 ヤーロー式水管缶12基(炭油混焼)、主缶使用圧力: 250psi (17.6kg/cm2)
合計6隻が建造されたブリストル級の1艦で、本級ではネームシップ以外、パーソンズ式2軸並列タービン、2基、4軸です。パーソンズ式は段落当りの圧力降下が小さいので、段数が多くなり、通常は2軸並列とされます。
缶室は3室で、主缶を4基ずつ収めています。各缶室は中央が焚火室stoke holdで、これに前後2缶ずつの焚口が向かい合っています。主缶の背面はすぐ横隔壁です。ちなみに、この配置を縦に2つ割りし、主缶を縦1列に並べると、1905年度から計画の大型駆逐艦F(トライバル)級の機関部となります。
煙突は4本で、煙路導設は前から主缶2基、4基、4基、2基に分けています。中央2本の煙突は横隔壁の上にまたがっており、断面積は前後2本のほぼ2倍となっています。
なお、この基本配置は、1904年に発注の偵察巡洋艦アドヴェンチャー級あたりが起源で、本級に続くタウン級(ウェイマス級、チャタム級、バーミンガム級、バークンヘッド級)に継承されており、成功した機関部配置と言えるでしょう。



ブリストル Bristol
(同上)
 4,800T, ? rpm, 22,000shp, 25.0kts
 公試結果 不詳
 ブラウン・カーチス式タービン、2基、2軸
 推進器外径: 不明
 ヤーロー式水管缶12基(炭油混焼)、主缶使用圧力: 250psi (17.6kg/cm2)
ブリストル級のネームシップで、本級では本艦のみ主機がブラウン・カーチス式、2基、2軸でした。カーチス式はよほど大出力でなければ1軸で全圧を吸収できるので、左右2軸で済ませられますが、起源が米国(ゼネラル・エレクトリック社)ですから、英国ではパーソンズ卿の手前も有って、当初は採用がためらわれたかも知れません。本艦は、カーチス式の英国におけるライセンシーで、ブラウン・カーチス式の考案元である、ジョン・ブラウン社の建造でした。


HMS Bristol. (Auther's Collection)



2-2-2. ドイツ軽巡洋艦

一方のドイツ軽巡洋艦は、植民地警護、通商破壊、偵察など多用性を追求するあまり、かえって中途半端となったものが多く、機関に関しても然りのようです。

ライプツィヒ Leipzig
(ブレーメン級)
 3,278T, ? rpm, 10,000ihp, 22.0kts
 3,816T, 135rpm, 11,220ihp, 22.1kts
 3気筒直立型3段膨張レシプロ機関、2基、2軸
 推進器外径: 3.9m
 シュルツ・ソーニクロフト式水管缶10基(石炭専焼)、主缶使用圧力: 15kg/cm2
ちなみに本級の他の6隻の主機は、
 ブレーメン、ハンブルク、ベルリン、ミュンヒェン、ダンツィヒ: 本艦と同様
 リュベック: パーソンズ式2軸並列タービン、2基、4軸、推進器外径: 1.1m(タンデム)
となっていました。
本缶室は3室で、艦尾寄りから主缶をそれぞれ4基、4基、2基収めており、第1・第2缶室は中央が焚火室で、これに前後の焚口が向かい合っており、主缶の背面はすぐ横隔壁です。
煙突は3本で、いずれも横隔壁の上にまたがっており、煙路導設は第3煙突が縦長の小判形断面で、円形断面の第1・第2煙突よりも小断面となっています。


SMS Leipzig. (Auther's Collection)


ニュルンベルク Nuernberg
(ケーニヒスべルク級)
 3,468T, ? rpm, 12,000ihp, 23.0kts
 4,002T, 139rpm, 13,487ihp, 23.4kts
 3気筒直立型3段膨張レシプロ機関、2基、2軸
 推進器外径: 4.0m
 シュルツ・ソーニクロフト式水管缶11基(石炭専焼)、主缶使用圧力: 16kg/cm2
ちなみに本級の他の3隻の主機は、
 ケーニヒスベルク、シュトゥットガルト: 本艦と同様
 シュテッティン: AEGフルカン式2軸並列タービン、2基、4軸、推進器外径: 1.9m
となっていました。
本級の缶室は3室で、艦尾寄りから主缶をそれぞれ4基、4基、3基収めていますが、本艦のみは缶室を4室とし、艦尾寄りから主缶をそれぞれ4基、2基、2基、3基収めています。
煙突は3本で、両端缶室は両端煙突に、また中間の2缶室は第2煙突に煙路を導設し、第2煙突は横隔壁の上にまたがって立てられています。なお、第1・第2缶室間には魚雷発射菅室が有るため、第1・第2煙突の間隔が広くなっています。


SMS Nuernberg. (Auther's Collection)


ドレスデン Dresden
(ドレスデン級)
 3,664T, 540rpm, 15,000shp, 24.0kts
 4,268T, 594rpm, 18,880shp, 25.2kts
 パーソンズ式2軸並列タービン、2基、4軸
 推進器外径: 1.95m
 シュルツ・ソーニクロフト式片面焚水管缶12基(石炭専焼)、主缶使用圧力: 16kg/cm2
本級では本艦のみパーソンズ式2軸並列タービンで、翼軸に高圧タービン、内側軸に低圧タービンを直結していました。ちなみに、他の1隻はインド洋通商破壊戦に勇名を馳せたエムデンで、主機は3気筒直立型3段膨張レシプロ機関、2基、2軸、推進器外径4.3mでした。
缶室は4室で、主缶配置は艦尾寄りからそれぞれ2基、4基、4基、2基(以上片面焚)です。
煙突は3本で、いずれも横隔壁の上にまたがっています。煙路導設は艦尾寄りからそれぞれ主缶4基、4基、4基で、煙突は3本とも太さが等しくなっています。


SMS Dresden. (Auther's Collection)


第一次大戦直前以降のドイツ艦艇は、満載排水量をもって公試排水量としていたようであり、特に巡洋戦艦や軽巡洋艦などは公試において大分過負荷を掛けていたことが、黒煙濛々の公試写真からも窺えます。


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