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フォークランド海戦に見る機関部の実相

2-3. 公試成績の検証

ここでは、計画性能(出力、速力)と公試成績との整合性を検証してみましょう。
簡単にするために、所要出力Pは速力Vの3乗に比例するとします。
これに比例法則(排水量)の項を絡めて、
 P=(V)3乗×(D)2/3乗/Cad, Cadはアドミラル係数、Dは排水量
小文字d、同tをそれぞれ計画値、公試値として、
 Pd=(Vd)3乗×(Dd)2/3乗/Cad
 Pt=(Vt)3乗×(Dt)2/3乗/Cad
 Pt/(A×Pd)={(Vt) 3乗×(Dt)2/3乗}/{(Vd) 3乗×(Dd)2/3乗}
 A={Pd×(Vt) 3乗×(Dt)2/3乗}/{Pt×(Vd) 3乗×(Dd)2/3乗}
上式を簡単にして、
 A={Pd×(Vt) 3乗×(Dt)}/{Pt×(Vd) 3乗×(Dd)}
としたときの予実指数Aを計算すると、興味深い結果が判明しました。


2-3-1. 英国艦艇

まず、英国艦艇について検証してみましょう。
上記の要領で予実指数Aを計算すると、
 インヴィンシブル: 1.08
 インフレキシブル: 1.04
 カーナーヴォン: 不詳
 ケント: 不詳
 コーンウォール: 不詳
 マンマス級(推進器原型): 0.94
 マンマス級(推進器交換): 1.05
 グラスゴー: 不詳
となって、おおむね予実差±10%の範囲に入っているようです。
A=1が計画どおり、A<1が計画未達、A>1が計画クリアですが、測定誤差も含まれますので、この時代としては予実差±10%以内は妥当と思われますが、それを超えたら元データに何らかの疑いが有ります。
なお、マンマス級については、マンマス、エセックス、およびケントの3隻が出力、速力とも計画値に僅かに到達しないまま海軍に受領される一方、ランカスターは24.0ノット、サフォークは24.7ノットを達成し、残りのベッドフォード、ベリック、カンバーランド、ドニゴール、およびコーンウォールの5隻の平均は23.6ノットであったと報告されていますが、それぞれ新旧いずれの推進器を装着していたかは、残念ながら判然としません。


2-3-2. ドイツ艦艇

同様に、ドイツ艦艇を検証してみましょう。
 シャルンホルスト: 1.15
 グナイゼナウ: 1.10
 ライプツィヒ: 1.06
 ニュルンベルク: 1.24
 ドレスデン: 1.08
となって、シャルンホルストとニュルンベルクの元データに何らかの疑いが有ります。
前者については、最大出力を28.783ihpでなく29.783ihpとすれば、A=1.11と妥当な数値に近づきます。
後者についても、最大出力を13.146ihpでなく15.146ihpとすれば、A=1.07と妥当な数値になります。
第1次大戦に近づくにつれて、ドイツ艦は公試排水量が計画値から大きく増大し、機関の最大出力も相応に増大しているため、主缶は相当無理焚きをするようになります。ドレスデンなども機関出力で計画値の1.25倍を出していることから、缶の燃焼率はおそらく1.5倍以上、つまり平常の5割増の石炭を焚いているものと考えられます。


2-3-3. 出力・速力の測定法

レシプロ機関の出力は、シリンダに取り付けられた指圧器indicatorによって、横軸をピストン行程、縦軸をシリンダ内圧とする指圧線図indicator diagramを採録し、平均有効圧力Pe [kg-cm2] を測定して、これにピストン面積A [cm2]、ピストン速度V [m/s] を掛け合わせ、下記のように算出します。単位は、指示(図示)馬力indicated horse power [ihp]です。
 Qi = AVPe/75 = π・D2・2S・N・Pe/4×60×75 = π・D2・S・N・Pe/2×60×75
ちなみに、Dはシリンダ内径 [cm]、Sはピストン行程 [m]、Nは推進軸回転数N [rpm] です。

レシプロ機関の機械効率eは、指示馬力に対する軸馬力の百分率として算出します。通常、80〜90%です。
 e = Qs/Qi [%]

タービン機関の出力は、もっぱら推進軸に取り付けられた捩れ計測器tortion meterによって、トルクT [kg-m] を直接測定し、これに推進軸回転数N [rpm] を掛け合わせ、下記のように算出します。単位は、軸馬力shaft horse power [shp] です。
 Qs = 2・π・T・N/60×75

公試(汽走試験)の要領は、「機関実験参考書」によれば、
「汽走試験ノ一般目的ハ速力及力量決定ノ為或ハ定メラレタル距離又ハ時間内施行セラルルモノニシテ此等ノ試験ヨリ抵抗及推進器等ニ関スル事項ヲモ求ムルニアリ」
「速力試験ハ通例1浬乃至2浬ノ短距離ニテ数回往復施行セラルモノニシテ、試験区域標識ノ為海岸ニ標識ヲ特設ス、而シテ短距離航走ノ場合ニハ標柱間ノ前後ニ艦ノ旋回及旋回後標柱間ニ入ル迄ニ充分ナル場所ヲ要ス」
「標柱間汽走ニ関シテハ特ニ次ノ諸項ニ注意スルヲ要ス、
 1. 艦底ノ浄否ハ成績ニ影響スルコト大ナリ、故ニ艦出渠後ノ日数ハ必ズ成績中ニ記入シ置クヲ要ス、
 2. 吃水モ亦成績ニ影響ス、出入港時ノ吃水ニ比較シ其ノ時刻迄ノ使用炭量及水量等ニ帰因スル修正ヲ行フヲ要ス、
 3. 主機械加減弁ハ標柱間ニ入ル前予定シテ汽走中変更スベカラズ、
 4. 標柱間汽走中ハニ、三度以上ノ転舵ヲ避クルヲ要ス、
 5. 標柱間ノ潮流ハ汽走中方向モ速力モ共ニ一定ノモノニアラザルガ故ニ必ズ偶数回ノ試航ヲ行ヒ潮流風向等ノ影響ヲ除外スルヲ要ス、
通例試航ハニ回ノ往復ヲナシ、次ノ如ク連続平均ヲトルコトト定メラル、
 第一回往航速力 Va
 第一回復航速力 Vb
 第ニ回往航速力 Vc
 第ニ回復航速力 Vd
 第一平均 (Va + Vb)/2, (Va + Vb)/2, (Vc + Vd)/2
 第ニ平均 (Va + 2Vb + Vc)/4, (Vb + 2Vc + Vd)/4
 第三平均 (Va + 3Vb + 3Vc + Vd)/8
公試運転及高速航続力運転等ニ於テハ最小力量ヨリ全力ニ至ル迄ノ航走試験ヲ行ヒ全力以下ノ力量回転数及速力ノ数値ヲ求ムルコトアリ、
汽走試験ニ於テ良結果ヲ得ンニハ尚次ノ諸項ニ留意スベシ、
 1. 缶ハ内外部共ニ充分清浄ナルコト、
 2. 燃料ハ良質ノモノヲ用フルコト、
 3. 機械ハ擦熱ヲ起サザル様各部ノ調整良態ニシテ且注油装置完備シ良好ナルコト、
 4. 推進器面は滑ラカニシテ翼及尖端等ニ損所ナク水中ニ充分没シオルコト」
となっていました。

なお、標柱間3往復の場合は、上記を敷衍すれば、下記のような算定式になると考えられます。
 第一回往航速力 Va
 第一回復航速力 Vb
 第ニ回往航速力 Vc
 第ニ回復航速力 Vd
 第三回往航速力 Ve
 第三回復航速力 Vf
 第一平均 (Va + Vb)/2, (Vb + Vc)/2, (Vc + Vd)/2, (Vd + Ve)/2, (Ve + Vf)/2
 第ニ平均 (Va + 2Vb + Vc)/4, (Vb + 2Vc + Vd)/4, (Vc + 2Vd + Ve)/4, (Vd + 2Ve + Vf)/4
 第三平均 (Va + 3Vb + 3Vc + Vd)/8, (Vb + 3Vc + 3Vd + Ve)/8, (Vc + 3Vd + 3Ve + Vf)/8
 第四平均 (Va + 4Vb + 6Vc + 4Vd + Ve)/16, (Vb + 4Vc + 6Vd + 4Ve + Vf)/16
 第五平均 (Va + 5Vb + 10Vc + 10Vd + 5Ve + Vf)/32


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