このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


フォークランド海戦に見る機関部の実相

3-3. 機関部被害状況

フォ海戦で機関部に重大な被害をこうむったのは、すべてドイツ艦艇で、行き脚を殺がれたのちに止めを刺されています。

3-3-1. シャルンホルストの機関部被害状況

「英国海軍戦史」第1巻は、
「されど斯る間にも味方の一二吋砲着々其の優越を発揮せし結果、(筆注、午後)三時十分には『グナイゼナウ』の船体傾斜し、其の五分後には『シャルンホルスト』の第三煙突(筆注、ドイツ式呼称では第二煙突)射飛ばせしが、其の時同艦は艦内所々の火災に悩まされ、其の射撃も漸く衰退し居たり」(P945)
と述べています。
「日露戦争黄海海戦に見る機関部の実相」の  機関部から見た戦訓  でも述べたように、煙突の損傷は缶の蒸発能力を著しく減殺しますから、同煙突に対応する4缶はほぼ無用となり、残る14基の缶が健全とすると、出力は
 14基÷18基=0.78
速力が出力の3乗根に比例とすると
 3√0.78=0.92
 20ノット×0.92=18.5ノット
と、18ノット前後に低下するため、もはや敵から逃れるすべを失うに至ったものと考えられます。

また、"The Battle of the Falkland Islands" は、
"By 4 P.M. both the Scharnhorst's masts, as well as her (remainder) three funnels, were shot away, and she was listing heavily to port."(P101)
と、全煙突を失い、左舷に大傾斜する同艦の絶望的な状況を記しています。


3-3-2. グナイゼナウの機関部被害状況

「英国海軍戦史」第1巻は、
「(筆注、シャルンホルスト沈没後)同艦は我が両艦より猛射を受け、弾丸の命中続出して第一砲塔は射払われ、且缶室の一には浸水充満せり」(P950)
と記しています。
この被害を受けた缶室は、同書の記事からは特定できませんが、前記"The Battle of the Falkland Islands" によると、
"At 5.8 P.M., however, her foremost funnel went by the board."(P103)
と、艦首寄りの第1缶室(ドイツ式呼称では第4缶室)の煙突破壊を記しています。
もし、同缶室が浸水、あるいは煙突が破壊したとすると、主缶6基が使用不能となり、残る12基の缶が健全とすると、出力は
 12基÷18基=0.67
速力が出力の3乗根に比例とすると
 3√0.67=0.88
 20ノット×0.88=17.5ノット
と、17ノット前後に低下することになります。

また、同書は、
"It was not till 5.15 (P.M.) that the doomed ship, being badly hit between the third and forth funnels, showed real signs of being in extremis." (P103)
と、第3・第4煙突(ドイツ式呼称では第1・第2煙突)中間への被弾による、断末魔の様相を記しています。
上記の被弾個所付近には、第3缶室(ドイツ式呼称では第2缶室)以前からの主蒸気管が2本、中心線寄りに配設されていることより、もし両蒸気管が破損すると、主缶18基中14基からの蒸気供給が断たれることとなります。
"real sign"云々は、おそらく両蒸気管の破損による、蒸気の盛大な噴出のことと考えられます。

※この問題については、 「ドッガーバンク海戦に見る機関部の実相」の  戦訓  の項をご参照ください。

また、「英国海軍戦史」第1巻は、
「新戦期に於ける最初の十分時中、敵艦は既に其煙突を失い、且其被害既に激甚なりしこと明白にして、速力は八節に低下し(後略)」(P952)
と、同艦の最期が近いことを記しています。
上記と同様に、20ノットで走っていたものが8ノットしか出なくなったのですから、出力は
(8÷20)3乗=0.06
18基×0.06=1.1基
この時期に何基の主缶が機能していたたかは不明ですが、煙突をすべて破壊されたため、合計でも約1基分の蒸発能力しか残っていなかったこととなります。


3-3-3. ニュルンベルクの機関部故障状況

これも"The Battle of the Falkland Islands"に拠ると、
"About 5:35 (PM) two boilers of the Nuernburg burst in quick succession, apparently from excess of pressure due to her strenuous efforts to escape. This reduced her speed to 19 knots, (後略)"(P126)とされています。
残る9基の缶が健全とすると、出力は
 9基÷11基=0.82
速力が出力の3乗根に比例とすると
 3√0.82=0.94
 19ノット÷0.94=20.2ノット
と、それまで約20ノットで走っていたことになります。
一般的に、軽巡洋艦以下の主缶は装甲巡洋艦以上の大艦と比べて設計上の余裕が小さく、経年劣化を起こし易い傾向が有ります。


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