このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

自転車で出かけよう!


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 旅において「乗り物」を利用する、ということはある意味で旅のプロセスを省略する手段といえます。
 たとえば、東京に住む人が京都を訪れ、その旅行記を書く場合、東京から京都まで新幹線を利用したのなら、それは書く必要がありません。京都での体験だけを書けばよいのです。海外旅行記であっても、現地までの飛行機の話は余程のことがないかぎり、省略して構いません。
 でも、もし東京から京都まで歩いていきました、という人がいたら、京都に着いたところから書き始めるのはあまりに不親切というものでしょう。読者としては東京から京都までの途中の話の方がずっと気になるし、むしろ京都に着いた後のことは書かなくてもいいぐらいです。
 東京から京都まで新幹線で行くのと歩いていくのでは体験の濃密さが全然違うのは明らかです。新幹線なら旅の経験は誰でも似通ったものになるでしょうが、歩いていけば、それぞれの旅行者の体験はまったく違ったものになるでしょうし、同じ人間でも一度目と二度目では違うはずです。
 速くて便利な移動手段を利用することで、旅という体験の濃密度も個別性も薄れてしまう。乗り物が旅のプロセスを省略する手段、というのはそういうことです。その意味では、歩くことこそが旅の原点なのでしょう。もちろん、乗り物を利用する旅はダメだ、なんてことを言いたいわけではありません。現代のビジネス=多忙社会において、そんな時間的な余裕のある人は少ないでしょう。歩く旅がしたいと思っても大抵は現実が許さないでしょうから、途中を省略するために乗り物を利用せざるをえません。歩いて旅をするというのは現代においては最高の贅沢に類するものと言えると思います。

 もとより、すべての人が歩く旅こそが最高の贅沢だなどと考えるわけではないでしょう。旅の移動手段としては速くて、便利で、快適な乗り物ほど好まれるのが実情ですし、なにより歩く旅なんて、そんな貧乏くさい旅は嫌だ、という人がむしろ多数派かもしれません。旅先でデラックスなホテルに泊まり、ゆったり温泉につかり、美味しいものを味わい、盛大に買い物をすることこそが楽しみで、目的地までの行程なんてどうでもいい、という人がたくさんいることは旅先で観光客の生態を観察していればよくわかります。また、そのような観光地では多額のお金を落としてくれる人たちこそが歓迎されるのも現実です。

 しかしながら、旅においては目的地という「点」ではなく、そこまでの道程、つまり「線」こそを楽しむべし、とは多くの旅行家が力説しているところでもあります。このサイトもその立場です。日常空間から逸脱して見知らぬ世界へ出て行く、そのプロセスこそが旅の楽しみであって、目的地なんてあってもなくてもよい、というぐらいに考えています。
 それは、たとえば、植物をタネから自分で育てることと、きれいに咲いた花をお店で買ってくることの比較に似ているかもしれません。どちらがいい、なんてことを言うつもりはありませんが、僕は断然、自分で花を育てる方が好きです。たとえ、売り物の花ほど立派に咲かなくても、です。
 ということで、このサイトの「旅」に関する基本的立場は目的地より、そこまでの道程が大切である、という思想に基づいています。歩く旅のように、じっくりと道中を味わう旅こそが魅力的だと考えるわけです。

 さて、歩くことが旅の原点だとすると、自転車の旅というのはどうでしょうか。
 京都まで(でなくても、どこでもいいですけど…)自転車で行ったとなれば、やはり着いてからの話よりも、目的地までの道程に人々の関心は向くはずです。自転車の旅は徒歩よりスピードアップできるわりには旅のプロセスの省略の度合が少ないように思います。
 しかも、たとえば自転車で峠を越えるような場合、登りはたぶん歩くよりきつい半面、峠を越えた途端にグングン加速していく快感も味わえます。その劇的な変化は徒歩以上でしょう。その意味で、大地の起伏を最も実感できるのが自転車なのです。
 大地の起伏だけではありません。風や陽射し、道端に咲く草花、野鳥や虫の声、小川のせせらぎ、波の音…。そんな自然が発するメッセージを全身で受け止めながら、程よいスピードで移動できる手段、それが自転車ではないかと思います。

 もちろん、よいことばかりではありません。クルマや列車のような文明の殻で保護されていない分、自然の厳しさに無防備に晒されてしまう、ということもあるでしょう。ちょっとしたサイクリングなら天気のよい日を選べばあまり問題はないけれど、長い旅になれば雨に降られたり、強い風に吹かれたり、ということは当然あります。僕もずいぶん悲惨な経験もしました(たとえば、 こちら )。それでも、自転車旅行に懲りることはない、という自信はあります。むしろ、つらい坂道や雨の中を走った経験のほうがあとで懐かしく思い出されるほどです。でも、まぁ、このあたりについては僕の感性はちょっとヘンである可能性が高いので、あまり強調するのはやめておきましょう。

 

 それよりもなによりも、とにかく自転車で走るというのは単純に気持ちがいいのでありますね。
 たとえば、暑くもなく、寒くもないような、ある一日、潮風に吹かれながら自転車で海辺の道をスイスイ走る。その気持ちのよさは誰でも想像できるでしょう。
 あるいは、爽やかな高原やのどかな田園を自転車で散策する時のなんとも自由な気分。これもわかるのではないでしょうか。
 ほら、あなたも自転車で出かけたくなってきませんか。

(海辺を走るのは誰だって爽快で楽しい)

 もちろん、海や高原が近くにあるという人はそう多くはないでしょう。でも、都会であっても、自転車で颯爽と走ってみれば、知っているはずの風景がいつもと違って見えてくるはずです。クルマや電車では気がつかないような小さな発見もたくさんあるでしょう。

 何も特別な自転車でなくてもいいのです。ふだん乗っている自転車でいつもより少しだけ遠くまで行ってみましょう。都市部なら、あえて知らない町、初めての路地へと迷い込んでみるのも楽しいものです。それだけでも身の回りの日常が自分から剥がれ落ちて、新しい旅が始まるのです。

 さぁ、自転車で出かけましょう。ただし、ルールを守って安全運転で!


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