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 《ドン行自転車最果て行き》 2001年8月

  利尻島

  今日のルート:稚内〜(フェリー)〜利尻島(鴛泊)〜沓形〜姫沼〜オタトマリ沼〜沓形(約85キロ)

 初めての利尻島へ渡り、沓形のキャンプ場を拠点に島を一周サイクリング。北半分にはサイクリングコースも整備され、気分よく走れました。


稚内港をあとに利尻島をめざす。     稚内〜利尻航路

最北の街の朝はどんよりとした曇り空。6時前に出発。稚内フェリーターミナルへ急ぐ。
 東日本海フェリーの窓口で乗船券を購入。利尻島・鴛泊(おしどまり)港まで人間が1,880円で自転車が1,150円だった。
 出航は6時30分。たくさんの観光客を乗せた「フィルイーズ宗谷」は稚内港の岸壁を離れると、鉛色の海面に白い航跡を描きながらぐんぐん加速。利尻島まで1時間40分の航海である。
 防波堤の間を抜けると宗谷湾で、船は針路を北へとる。左舷に丘陵が連なり、その麓にうずくまるように灰色の家並みが続いている。乗客の投げるスナック菓子を目当てにウミネコがずっとついてくる。
 民宿のおばさんが作ってくれたおにぎりを頬張るうちに左舷の丘陵がしだいに高さを失い、ついにその稜線が海と交わるところがノシャップ岬。背の高い稚内灯台が聳え立っている。
利尻島が見えてきた。 船は岬を回って日本海へ出た。もう利尻島が見えていいはずだが、天気が悪くてまだ見えない。利尻の次に渡る予定の礼文島もまったく見えない。
 出航から1時間ほどして、上空を覆っていた雲が切れ、少しずつ青空がのぞいてきた。同時に間近に迫った利尻の島影もくっきりと姿を現わした。ただし、まだ利尻富士は雲をかぶったままで、その全容を見せてはくれない。
 雲間から射す光に島の緑が輝き出し、鴛泊の家並みがはっきりとしてきた。海岸沿いを走る車も見える。昨日は海の彼方に望んだ利尻島が今はもうすぐそこだ。

利尻島に上陸     利尻島に上陸

 8時05分、船は鴛泊港に着岸。相棒とともに初めての利尻島に降り立った。
 今回の旅では初めから利尻島へ渡ると決めていたので、旅立ち前に地図を眺めたりして、島の風景をあれこれ想像していた。その頭の中のイメージと目に映る現実の風景が同じわけはなく、まだ利尻島の地面を踏みしめている実感をもてないまま、あてもなくのろのろと走り出す。ごみ収集車が「エリーゼのために」だったか「乙女の祈り」だったか、そんなメロディを流しながら走っている。

     夕日ヶ丘

 鴛泊港の北側にはペシ岬という岩山があり、白い灯台が立っているが、登ってみようという気持ちにはまだなれず通過。
 さらに進むと、すぐに市街地を抜けて、今度は夕日ヶ丘というペシ岬に似た岩山が海辺に聳えていた。こちらには登ってみようという気になって、麓に自転車を残し、頂上へ続く階段を上っていく。

 丘の上では風に吹かれながら、ハマナス、エゾフウロ、トウゲブキ、ツリガネニンジン、エゾカワラナデシコ、エゾノヨモギギクなど可憐な花々が色とりどりに咲いていた。
 眼下にはポンモシリ島という小島が浮かび、水平線上には初めて目にする礼文島の島影が横たわっている。

 情報をもとに形づくられたイメージは旅を通じたナマの体験によって少しずつ更新されていく。情報でしか知らなかった利尻・礼文という存在がだんだんと新たなイメージで自分の中に浸透していくのを感じる。これこそが旅の財産だろう。
 夕日ヶ丘をあとに島の周回道路を反時計回りに西へ行くと、すぐにサイクリング道路と出会った。これは走ってみるしかない。

     利尻島の概要

 ここでちょっと島の概要。利尻島は周囲60キロの円形の火山島で、人口は8,500人弱。中央に利尻山(利尻富士、1,721m)が聳え、ちょうど海上に富士山が浮かんでいるような姿である。ちなみにリシリとはアイヌ語で高い山の島を意味する。稚内からのフェリーが着く鴛泊は島の北側にあり、ここは利尻富士町の中心集落である。島に来て初めて知ったのだが、利尻島は行政上、東半分が利尻富士町、西半分が利尻町と二分されていて、利尻町の役場は島の西海岸、沓形にあるようだ。島内には周回道路が通じていて、一周53キロだという。あとで一周してみよう。

     沓形

 さて、サイクリング道路は沓形方面へ通じていて、とりあえず沓形をめざす。そこにキャンプ場があるので
、早めにテントを設営して身軽になりたい。それに沓形からは礼文島行きの船が出ていて好都合でもある。

 道は利尻空港の脇を通り、なだらかな起伏とカーブを繰り返しながら草原の中を行く。
 まだ雲をかぶった利尻山の裾野は日本海に洗われ、岩礁が多く、変化に富んで、従って景色もいい。ただ、南西からの強風のせいで快調に走るというわけにはいかない。

 また、このあたりはウミネコの繁殖地なのか、褐色の幼鳥が路上をウロウロしている。無残に轢きつぶされた死骸もあちこちで見かけた。幼鳥といえども一応は飛べるので、そう簡単に自転車に轢かれるとも思えないのだが…。それとも自転車以外の何かがこの道を通ることがあるのだろうか?

 ひどい向かい風に難儀しながら意外に立派な沓形の街に着き、ここにもコンビニ(セイコーマート)や日帰り入浴可能な温泉があることを確認して利尻島最西端・沓形岬のキャンプ場へ。
 波の荒い岩礁に囲まれた草原のキャンプ場で、小高い溶岩の丘に紅白の灯台が立っている。吹きさらしの場所で、非常に風が強い。こんなところでキャンプをして、テントが飛ばされないかと不安になるが、すでにテントがいくつも張ってある。ここで一夜を過ごした人たちだろう。まだ出発する様子もなく、のんびりしている人が多い。あとで分かったことだが、沓形から礼文へ渡る船が昼過ぎに出るので、それを待っているようだった。港はキャンプ場のすぐ隣である。
 誰かがオカリナで「岬めぐり」を吹いている。あまり上手ではなく、何度もつかえながら、繰り返し練習している。なんだか寂寥感が漂っている。
 強風に煽られて苦労したが、なんとかテントを張り終え、ロープも使って、いつもよりしっかりと固定しておいた。
 いつ果てるともなく続く「岬めぐり」を聞きながら、水場でTシャツを洗濯し、テントの張り綱に干した後、あたりを散策。ハマナスやハマヒルガオの咲く海岸に見慣れない黄色のキク科植物が咲いていて、図鑑で調べるとエゾオグルマという花だった。

 (沓形岬にて)

     利尻島一周サイクリング

 さて、11時半に沓形を出発。島内一周に出かけよう。重い荷物がなくなると、なんだかすごい解放感で、自転車で走るのが単純に楽しい。
 フェリー乗り場に寄った後、サイクリング道路経由で鴛泊方面へ戻る。今度は追い風なので、実に快調。道端にオレンジ色のオニユリが咲き、ミヤマカラスアゲハがひらひらと舞っている。
 利尻山を覆っていた雲がいつのまにか強風ではらわれ、その全容が見えてきた。北海道の本土から眺めると利尻富士の名にふさわしく秀麗な姿だが、見る位置によってずいぶん印象が違って、西側からだと、いくつもの岩峰がそそり立ち、山容は荒々しい。

 (路上にウミネコの幼鳥)

 (自転車道はだんだん山に登っていく)

鴛泊港とペシ岬 鴛泊の手前から自転車道は一貫した上りになる。あたりは草原からエゾマツやトドマツの林に変わった。スイッチバックのようなつづら折で標高を稼ぎ、眼下に鴛泊港ペシ岬を見て、やがて峡谷にかかる長い橋を渡る。
 あぁ、これだったのか。朝、船から島を眺めた時、海岸道路よりずっと高い位置に高速道路と見紛うような橋がかかっているのが目にとまり、一体何だろうと思っていたのである。自転車道にしては、ぜいたく過ぎるほど立派な橋だ。自転車旅行者にとってありがたいことだが、「税金の無駄遣い」という言葉も頭に浮かぶ。島にはレンタサイクルもあるらしいが、自転車にはまったく会わない。
 いずれにせよ、橋からの眺めはいい。左手に真っ青な海原を見下ろし、右手には逆光に霞む利尻山を見上げる。峡谷からはコマドリの突き抜けるような金属質の声が響いてきた。

(峡谷にかかる橋の上から利尻山を望む)

     姫沼

 立派な橋を二つ渡って、まもなく舗装道路と交差。これを右折して上っていくと姫沼がある。林の奥で「キョロン、チー、ツリリ」と美しくさえずるのはマミジロだろうか。
 駐車場から少し歩いて針葉樹林に囲まれた沼のほとりに出た。正面に聳える利尻山が水面に逆さまに映り、沼の真ん中あたりにカモメが群れている。利尻島の代表的な景勝地で、観光客も結構多い。一周1キロほどの遊歩道を15分ほどかけて歩いてみた。

 (利尻山を水面に映す姫沼)

     利尻東海岸

 自転車道に復帰してさらに先へ進む。道端に橙色のコウリンタンポポが点々と咲いている。愛らしい花だが、ヨーロッパ原産の帰化植物で、むこうでは「ヴィーナスの絵筆」などと呼ばれ、エフデギクの異名もある。
 坂を下って野塚という土地で海岸道路に合流。自転車道路はここで終点、この先は自動車の走る一般道を行く。もっとも、交通量は少ない。時刻は14時。
 北海道本土と相対する東海岸を南へ向かって走る。このあたりは利尻山が衝立になっているおかげで、風はあまり感じずに走れるが、そのうちまた向かい風になるのだろう。
 ひなびた漁村をめぐるようにのんびりとペダルを踏み続け、島の最東端の石崎灯台を過ぎると、予想通り向かい風が吹き始めた。しかも、灰色の雲が湧いて、不穏な天気になってきた。こんな場所で雨に降られたら困るな、と考えながら、少しスピードを上げる。レンタルのマウンテンバイクに乗った青年とすれ違った。

     オタトマリ沼

 島の南東部に位置して、わりと大きな鬼脇集落を過ぎ、丘陵地帯を越えると、オタトマリ沼に着く。ここも島の代表的な観光地で、観光バスが相次いで到着し、売店や食堂もある。
 このオタトマリ沼一帯は湿地になっていて、沼浦湿原と呼ばれている。沓形のフェリー乗り場で入手した自然観察ガイドブックによれば、はるか遠い昔、爆発的な噴火で生じた爆裂火口の跡に泥炭が堆積して形成されたものだという。
 スイレンが咲く銀色の湖面の向こうには利尻山が聳えているはずだが、もうすっかり雲に包まれてしまった。



 訪れる観光客も風景よりは売店のウニずしに引きつけられるようで、僕もつい誘惑に負けて3カン
900円のウニの軍艦巻きを賞味した。美味かったが、ネギを背負ったカモになった気分でもある。

     メヌウショロ沼

 オタトマリ沼からまた丘を越えると、今度はもっと小さな南浜湿原があり、メヌウショロ沼が小さな水面を広げていた。こちらは売店などもなく、従って観光バスも通過する。静かな沼の周囲にはタチギボウシやオオハンゴン草がたくさん咲いていた。




     仙法志

 雨が落ちてくる様子はないものの、強い風が吹きつける中、島の最南端、仙法志御崎灯台に着いた。自転車を止めて、赤と白に塗り分けられた灯台に歩み寄ろうとしたら、蜘蛛の巣に顔を突っ込んでしまった!
 その灯台の近くに自然水族館があると地図に書いてあるので、寄ってみた。観光客もけっこう来ていて、利尻特産の昆布を商う店もある。時刻は16時を過ぎたところ。
 自然水族館とはどんなところかと思ったら、岩場に囲まれた海の一部を仕切っただけで、その中にゴマフアザラシが1頭泳いでいた。

     再び沓形へ

 仙法志を過ぎると、風はだんだん追い風になり、美しい西海岸を快調に北上して、沓形へ戻ってきた。これで利尻島を一周したことになる。
 キャンプ場に戻った後、近くの利尻ホテルの温泉で入浴。島外者は500円だった(島民は350円)。鏡に映る自分の顔はすっかり日焼けして、鼻の頭の皮がむけ始めていた。
 夕食はセイコーマートの弁当で済ます。
 天気が崩れることもなく、西の空が赤く染まり、夜の闇が訪れると、流れ星も見えた。

 本日の走行距離は86.9キロ。利尻山に登ってみることも考えたが、それはやめて、明日は礼文島へ渡る。



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