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      都民の森「夜行性動物&野鳥観察会」 2000.5.27〜28

 これほど楽しみなイベントはあまりない。そのぐらいワクワクする企画である。先月、自転車で檜原村の都民の森を訪れた際にパンフレットのイベント情報で知ったのだが、都民の森に泊まり込んで夜行性の動物を観察するというのである。これはぜひ参加しなくては、と思い、さっそく申し込んだのだった。

 そして、今日はその当日。6時前に出発し、電車とバスを乗り継ぎ、9時25分に檜原都民の森に到着。ここには宿泊施設はないので、寝袋持参で、食事も自炊でまかなわねばならない。1泊のわりには荷物が重い。

 受付は13時からなので、午前中は都民の森を散策。先月よりだいぶ緑が濃くなった。
 南秋川の源流・三頭沢ではミソサザイがすぐそばの倒木に止まって一節鳴いて飛び去った。スズメよりも小さいこげ茶色の地味な鳥だが、非常に大きな声で長く複雑に美しくさえずる。日本の野鳥の中でも最高の歌い手ではないか、と僕は思っている。負けじとウグイスも森に声を響かせる。茂みの中に姿を見つけることもできた。ほかにキセキレイやカケス、アオバトなどの声が耳に届いた。

 さて、13時になった。都民の森の拠点施設・森林館2階の研修室で受付。参加費として傷害保険料の100円を支払う。小学生から年配の女性まで老若男女が30人ほど来ている。バリバリの動物マニアばかりだったらどうしようと思っていたが、そうでもなさそうだ。

 13時半から観察会開始。講師は都民の森スタッフの浦野守雄さん。ほかにボランティアが4名。観察会スケジュールの説明、スタッフ紹介、仮眠場所の案内、注意事項の確認などの後、資料が配られ、スライドやビデオを使った都民の森の哺乳類についての講義を聴く。
 都民の森にはさまざまな動物が生息していて、この森林館ではふだんから餌付けをしているらしく、夜になると建物の周辺にテンやタヌキ、ハクビシン、ネズミ類などが出没するという。

 夕方になり、食事の準備。アウトドア用の調理用具でレトルト食品を温めるぐらいしかできないが、主催者の方で豚汁を用意してくれたのがありがたかった。夕食の間にも山からコマドリの声が響いてきたり、カケスのジェーイという濁った声が聞こえたりして、ぜいたくな時間ではあった。
 すでに閉園時間を過ぎて一般の観光客は帰途につき、標高1,000メートルの森に残っているのはスタッフと我々参加者だけになった。奥多摩周遊道路も夜間は閉鎖され、この一帯は完全な無人境となる。

 18時を過ぎて、いよいよ野外観察に出かける。夕刻になると、山の鳥たちが一斉に歌い出すのだ。野鳥は明け方と日没前後に特によくさえずるという。運がよければ、ムササビやモモンガにも出会える可能性があるといい、期待が膨らむ。いつしか上空に雲が広がって、一雨来そうな気配なので、防寒も兼ねてレインウェアの上だけ着ていく。
 ウッドチップを敷き詰め、平坦で歩きやすい三頭大滝への散策路を浦野さんを先頭に歩き出すと、さっそくコルリの声がした。コマドリの声に似ているが、「チッチッチッチッ…」という前奏がつくのが特徴。胸から腹にかけて白いほかは全身ブルーの美しい小鳥だが、茂みの中にいることが多いそうで、姿は見えなかった。
 ほかに「キュロン、キュロン、チリリ」というアカハラの声もよく聞こえる。ツグミの仲間である。僕の知識レベルでは識別できない声も浦野さんのおかげで全部正体が分かるのが嬉しい。浦野さんは野鳥の声真似の達人でもあって、アカハラの声を真似ると、すぐに本物のアカハラの声が山から返ってくる。すごい。
 この散策で声が聞けた野鳥はほかにヤブサメ、キクイタダキ、ジュウイチ、ツツドリ、ウグイス、マミジロ、ミソサザイなど。
 途中、ケヤキの大木に直径10センチ足らずの穴が開いており、ムササビが巣穴として利用している可能性があるというので、近くのあずまやで夕闇に目を凝らして出現を待ったが、結局、姿を見せず。ただ、山のほうで「グルルルー」というムササビの奇怪な声だけは聞くことができた。雨が降り始めたが、すぐに止む。
 完全に日が暮れ、周囲を取り巻く山々のシルエットも青い闇に溶け込んでいった。森林館に戻る途中、早くもテンが来ているという連絡が入る。

 1時間半の散策を終えて、19時半に森林館に戻り、そのまま2階の研修室に直行。ここの窓の下にパンくずが撒いてあるのだ。
 テンは姿を消した後だった。あとは次の訪れをひたすら待つばかり。ここからが今回のメインイベントであるが、それは予想以上に忍耐を要する時間でもあった。今夜に限って、なかなか動物たちが出てこないのである。
 何の成果もないまま、観察開始から1時間半が経過。21時を過ぎて、ようやく出てきたのがアカネズミ。小さくて肉眼では分かりにくく、高倍率の望遠鏡でなんとか確認できる程度。これではまだ満足とはいかない。
 21時40分。ついに待望のテンが出てきた。研修室がにわかに活気づく。テンをこの目で見るのは初めてだから感動する。ほかの参加者もみな感激の面持ちで、このイタチ科の小動物を見守る。褐色の体で、胸のあたりと尾の先が黄色。鼻の周囲が黒っぽいところが、なんとも愛嬌があってかわいい。木登りも上手で、非常に活発に動き回っている。2〜3匹が交互に現われたようだった。
 22時25分頃、テンが何かの気配を感じたのか急に逃げていくと、入れ替わりにハクビシンが登場。テンよりひと回り大きなジャコウネコ科の動物で、漢字で白鼻心と書く通り、黒褐色の顔に白い鼻筋が目立つ。これまた愛嬌のある顔つきだ。外国からの移入種と考えられているが、確かなことは分かっていないらしい。近年は里のほうに生息範囲が拡大しつつあるという。
 ハクビシンが山に帰って、22時55分頃にまたテンが戻ってきた。これだけ見られれば、とりあえずは満足だ。
 今夜は徹夜の覚悟だったが、今朝早起きしたせいか、23時半を過ぎると急激に睡魔が襲ってきた。そろそろ寝ようかと思い、森林館内の休憩室(畳敷き)で自分の寝袋にもぐり込む。ロールマットを持ってくればよかったと悔やむ。
 するとまもなく「タヌキが出てきました」の声。急いで研修室に戻る。
 あ、本当だ。最近は東京23区内にも野生のタヌキが進出していると聞くが、僕は初めて見た。入れ替わりで2匹が相次いで出没。ちなみに都民の森にはキツネもいるそうだが、最近数が減っているという。
 すっかり満足して0時20分に就寝。夜中に強い雨が降る。

 3時半に目が覚めて、雑魚寝の休憩室をそっと抜け出て、研修室へ行ってみる。まだ真っ暗だが、雨は止んでいる。遠くでカッコウの仲間のジュウイチが「ジュウイチ」と一声鳴いた。
 もう起きているのか、まだ起きているのか、熱心に窓の外を眺めている若い女性1名。あの後、タヌキが合計4匹くらい出てきたそうだ。
 僕も窓辺の椅子に座って外に目を向けるとタイミングよく3時35分にまたテンが出てきた。
 4時を過ぎると、周囲の山々に朝の兆しが訪れ、山のどこかで一羽のアカハラが「キュロン、キュロン、チリリ」と澄んだ声を出す。その声でまた一羽が目を覚まして一声鳴く。また一羽が目を覚まして一声。そうやってまるでオーケストラの楽器がひとつずつ加わっていくように、さまざまな野鳥たちが目を覚ましては歌をうたい出し、やがて山全体が小鳥の声で満ち溢れていった。こんな経験は初めてで、ちょっと感動してしまった。

 白々と夜が明けた4時50分には夜行性動物にかわって餌場にニホンリスが出てきた。北海道のエゾリスやシマリス、鎌倉のタイワンリスは何度も見たのに、ニホンリスは初めてだ。2〜3匹が次々と出てきて、あたりを駆け回る。ほかにカケスもやってきて、パンくずをくわえて飛び去った。
 森林館にはまだ朝日が届かないが、山の高いところには光があたって、新緑が輝き出した。野鳥は本当に色々な種類が声を聞かせ、姿を見せてくれた。僕のような素人レベルではほとんど識別不可能だが、浦野さんがいるから心強い。テラスから望遠鏡で色々と観察。山のてっぺん付近を飛ぶイカル、稜線に突き出た木の上で「ポポ、ポポ、ポポ、ポポ…」と鳴くツツドリ、それに「アーオ、アーオ、オアーオ」と不思議な鳴き方をするアオバトの緑色の姿もはっきり確認できた。森林館の屋根にはキセキレイやミソサザイがやってきて声と姿で我々を楽しませてくれたし、ほかにオオルリやキビタキ、センダイムシクイ、ビンズイの声も山から降ってきた。
 そして、ついに山のひときわ高い木のてっぺんで高らかに歌う憧れの青い鳥、オオルリの姿も浦野さんが望遠鏡でとらえ、みんなで順番に覗き込んだ。白い胸をこちらに向けているので、背中の美しいコバルトブルーは分かりにくかったが、やっと出会えた喜びは大きい。

 各自で軽い朝食をとった後、6時半から早朝の森に散策に出かける。未明の雨が嘘のように素晴らしい晴天で、下界には秋川の谷を埋める雲海が広がっている。
 ヒガラが「ツピン、ツピン、ツピン…」と早口でさえずり、我々の行く手をリスが跳ねるように駈けていく。
 「チョチョビー」と鳴くセンダイムシクイの愛らしい姿を双眼鏡で観察し、「シシシシ…」と虫のような声で鳴くヤブサメのさえずりも聞いた。散策路上にアカハラが姿を見せ、オオルリも何羽か見ることができたし、三頭大滝付近では黒と黄色と白の、これまた憧れの鳥、キビタキの姿を見ることもできた。
 オオルリもキビタキも東南アジア方面で冬を過ごし、春になるとはるばる日本へ渡ってきて繁殖する夏鳥。その羽色の美しい色彩は熱帯魚に通じるものがある。
 三頭沢に沿って登り、野鳥観察小屋を経て、森の中をぐるっと回って9時15分に森林館に戻ったが、ほかにミソサザイ、コマドリ、シジュウカラ、コガラ、ヤマガラ、ツツドリといった鳥たちの声を耳にし、またエゾハルゼミの声も聞いた。道端にはフモトスミレが可憐な花を咲かせていた。東京の自然のなんと豊かなことか!
 
 森林館に帰りつくと、この楽しかったイベントもおしまい。研修室で閉会式があり、9時半に解散。なんだか名残惜しい。こんな機会があれば何度でも参加したいと思う。
 すぐには帰りたくなくて、また三頭大滝までひとりで往復。オオルリなどの声を聞いてきた。大きな満足感を胸に、11時過ぎのバスで森をあとに山を下る。

  都民の森の公式サイトは こちら 。各種観察会などのイベント情報もあります。

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