このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
風の音楽〜キャンディーズの世界♪Part9
無人島レコード
『無人島レコード』という本をご存知でしょうか。
「あなたが無人島に1枚だけレコードを持っていくとしたら、何を持っていきますか?」というアンケートに音楽を愛する各界の有名人が答えたエッセイをまとめたもので、ミュージック・マガジン社から『レコード・コレクターズ』増刊号という形でこれまでに2冊出ています。
持っていくのは、アナログでもCDでもアルバムでもシングルでも可。ただし、1枚だけ。たとえ2枚組でもどちらか1枚しか持っていけない、というのが条件です。音楽愛好家の間では定番のテーマのようです。もちろん、無人島に電源や再生装置はあるのか、なんていうツッコミはナシです。ちゃんと聴くことができる、という前提で、何を持っていきますか、というわけです。
僕は2冊ともざっと立ち読みしただけなので、誰がどんなレコードを挙げているか、ここで書くことはできないのですが、やっぱり人それぞれいろいろですね。
ビートルズであったり、マイルス・デイビスであったり、ベートーヴェンであったり、ビーチ・ボーイズであったり…。
ただ、この質問には決定的なことが抜けています。“レコードを持って無人島に行く”とは一体どういう状況なのか、ということです。その点はそれぞれの解釈に委ねられているのですが、ここは当然ながら重要なポイントです。
要するに、無人島に行って、また帰ってこられるのか、否か。
無人島に行く、といっても、3日とか1週間とかで帰ってくるのなら、レコードは何を持っていくか、なんて大して重要な問題ではありません。その時のお気に入りを適当に選んで持っていけばいいのであって、たとえ、島に着いてから選択を誤ったと悔やんでも、ちょっと我慢すれば、帰宅して、好きなレコードをいくらでも聴くことができるわけです。
実際、リゾート気分で1週間ぐらい無人島に滞在するという前提で書いている人もいます。あるいは、そうでなくても、いずれは救助される時のことを考えていたり…。
しかし、僕の考える「無人島レコード」はそういう安易なものではありません。無人島に着いたら、もはや二度と誰にも会うことはない。もちろん、電話もメールもできないし、インターネットも使えない。郵便も送れないし届かない。かといって、すぐに飢え死にしてしまう、なんてこともない。死なない程度に食料は手に入って、もしかしたら都会よりも健康的な生活で長生きしてしまいかねない。でも、死ぬまで数十年間、ずーっとひとりぼっち、そういう状況です。
だから、無人島ではなく、ある日、突然、一人乗りの宇宙船に乗せられて、ドッカーンと打ち上げられてしまい、地球からはどんどん遠ざかって宇宙の果てへと飛行していく。引き返すことは不可能で、地球人に再び会うことは絶対にない。もちろん、地球との交信も一切できない、という状況でも話は同じです。
そういう絶対的に孤独な状況に置かれる中で唯一、他者の存在を感じられるのが一枚のレコードだけ、というわけです。
一体何が悲しくて、こんな悲惨な状況を想像しなければいけないのか、とも思いますが、とりあえず、そういうことで、何を持っていくか、を考えましょう。
まぁ、ここはキャンディーズのページなので、予想はつくと思いますが、僕は書店で初めて『無人島レコード』を手にした時から、自分だったら、やっぱりキャンディーズだな、とすぐに考えました。
僕はべつにいつもキャンディーズばかりを聴いているわけではありません。歌謡曲やJ-ポップだけでなく、海外のロックやポップス、ジャズ、クラシック、民族音楽までいろいろ聴きます。海外もイギリス、アメリカだけでなく、フランス・イタリア・ドイツ・オランダ・ベルギー・スペイン、スウェーデン、フィンランドその他のヨーロッパ諸国からブラジル、韓国、中国、台湾、香港あたりまでは手を出していて、最近は数えていませんが、CDやアナログレコードをたぶん1,000枚以上は持っています。あまりにも増えすぎたので、これまでにずいぶん思い切った処分(中古盤店に売却)もしてきて、それでもこの枚数です。だから、現在も所有しているのは本当のお気に入りばかり、と言えます。したがって、ものすごくたくさんのアーティストのレコードを持っている中で、キャンディーズもそのうちの一組に過ぎないのですが、にもかかわらず、自分にとっての“無人島レコード”といえば、真っ先にキャンディーズが思い浮かび、それ以外はまったく考えられないのです。
世の中にはキャンディーズよりすごい音楽はいくらでもあるし、僕のコレクションの中にもあることは認めますが、こういう状況において、音楽性だとか歌唱力だとか演奏技術だとかカッコよさだとか…というのはどうでもいいことです。要するに一番そばにいてほしいのは誰か、これに尽きます。となれば、家族とか友人とかは別にしてレコードから聞こえてくる最も心の支えになりうるであろう存在といえば、キャンディーズしかない、ということです。
無人島に行ったきり、二度と帰ってこれない、というあまりに寂しすぎる状況を考えた時、音楽の内容がどうこうということよりも何よりも、とにかくラン・スー・ミキの3人の声が聴ける、というだけで救われる気がします。それでいて、音楽的にもとても魅力的なのですから、キャンディーズで決まり!となるわけです。
ただ、キャンディーズを持っていく、というところまではすぐに決まっても、何を持っていくか、となると容易には決められません。うーん、これを書いている時点でもまだ迷っています。
聴きたい曲はいろいろあるし、どの作品も捨てがたいのは当然です。そもそも1枚だけというのが無理な話なので、明快な結論は出せません。
でも、とりあえず、一枚を挙げるとしたら、僕が初めて買ったキャンディーズのレコードであるベスト盤『キャンディーズ・ショップ』にしようかな。一番思い出深いアルバムではあります。ジャケットや封入のブックレットの写真もエレガントなキャンディーズからコミカルなキャンディーズまで載っていて、それも魅力です。
えっ? 持っていっていいのはディスクだけで、ジャケットやブックレットはダメ…なんてことは言いませんよね?!
と、ここまで書いて、もう一枚思いついてしまいました。蔵前カーニバルVol.2を収録した『キャンディーズ・ライブ』。ボックス・セット『キャンディーズ・タイムカプセル』に入ったボーナス曲追加の方ですね。
「みなさんも一緒に歌ってください」というキャンディーズの声に合わせて、無人島の浜辺で僕もひとり膝を抱えて歌っている…うーん、なんだかあまりに悲しい光景だなぁ。
やっぱり、最初に選んだ『キャンディーズ・ショップ』ということにしておきます。
しかし、こう書いていると、「私のこと大好きだって言ってたのは嘘だったの?」とか「オレを裏切るのか?」とか「どうして私を連れて行ってくれないの?」とかたくさんのレコードたちの恨めしげな声が聞こえてくるような気がしてきます。
無人島滞在は短期間で、すぐに帰れるのなら、その時の気分次第でキャンディーズ以外のレコードを選ぶ可能性は大いにありますが、もう二度と帰ることはできない、この先はずっとひとりぼっちだ、となれば、そうはいきません。キャンディーズ以外はダメです!
まぁ、ここであれこれ迷うよりも、ひとりで無人島に行かなければならない悲惨な状況には決して陥らないことを考えたほうが早いですね。
さて、あなたの無人島レコード、あるいは一人乗り宇宙船レコード。究極の一枚は何でしょうか?
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